日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「ヌクモリ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:動物、炬燵、運命】


 たとえ先日からしんしんと雪が降り、辺りが白を塗したように積もっていても、喜んで駆
け回れるような庭はないし、結局やれることと言えば炬燵で丸くなることぐらいである。
「ふあ~……」
 その日も鈴(すず)は、外の寒さを言い訳に、ごろごろと家の中で過ごしていた。部屋の
真ん中を占拠している炬燵に、ずっぽりと胸元から下まで潜って、今日も今日とて至福の時
間を過ごす。肩には緩く結わったおさげ髪。黒縁眼鏡の下で緩み切った表情は、完全に彼女
がオフの状態にあることを示している。
「なー?」
「にゃうん……?」
 そこへやって来るのは、飼い猫の「とら」と「ちぃ」だ。ちょっと小太りでやんちゃな性
格の雄の虎猫と、対照的に小柄で大人しい三毛猫。彼らは今日もご主人たる彼女がのんべん
だらりと寛いでいるさまを見て、流れるような歩みで近付いてきた。とらはトンッと胸元の
上に登り、ちぃは甘えるようにその横に潜り込んで、ゴロゴロ……と口をもぐもぐさせる。
「……」
 あともう一匹、この家にはペットもとい家族がいる。
 部分的な黒と灰みがかった白──ハスキーの血が混ざっていると思しき飼い犬の「ギン」
である。この家ではとらやちぃよりも古参で、人間換算でも大分お爺ちゃん。元気なこの猫
二匹とご主人たる彼女をまるで見守るかのように、今日も彼はじっと炬燵のやや端に伏せる
ようにしながら静かな微睡みに身を任せていた。
「あうあ。もう、とら~、重い~……」
 炬燵布団の中から伝わってくる適度な熱が、何とも言えずに心地よくって。
 鈴は言いながらも、この長い付き合いの家族の自由気ままさを直接払い除けようともしな
かった。寧ろくっついてきて、甘えてくるその重みと息遣いに、内心癒されっ放しであった
言っても良い。

 ──福内鈴という人間の半生は、一言でいえば「変わり者」という評に尽きる。少なくと
も周囲からはそう見做されている。彼女自身は決して悪人という訳ではないのだが、見た目
の地味さと生来のマイペース具合から、中々同じ歩みで寄り添ってくれる誰か、という点で
は間違いなく他の同年代女性よりも経験が乏しいと言わざるをえない。
『ちょっと! 鈴、また拾ってきたの!?』
 子供の頃からどうにも鈍くさくって、されど自身それをそこまで気に病んではいない。
 寧ろ当の本人は、母親を含む周りの大人達の心配など何処吹く風と、一人気ままに自分の
世界に遊んでいるような娘(こ)であった。加えて妙に心根が優しく、捨て猫や犬などを見
かければ、放っておくことができないような少女だった。
『……駄目?』
『駄目ってねえ。あんた、これで一体何匹目だと思ってるのよ……』
 それは他でもない実の両親が、呆れるほどのお人好し。
 この時既に、彼女の生家には六匹の犬猫が飼われていた。そこにまた彼女が新しい子猫を
拾ってきたものだから、当然母はよい表情(かお)をしない。
 それでも結局この時も、彼女は新しい家族を迎えることを認めさせることに成功したのだ
った。確かに始めこそ試行錯誤、見様見真似でこの捨て犬・捨て猫らの世話をしていたが、
子供ながらに経験を積めばそこは色々と洗練されてゆくものである。何より懸命に、心優し
く接してくれるこの少女に、命を拾われた彼らが懐かない筈もなく……。
(……はあ。何でこんな変な子に育っちゃったのかしら?)
 尤も、対する両親の心証はいつも宜しくはなかった。いつも不安がっていた。それは結局
彼女自身が社会人になっても続き、終ぞ両者のそうした部分の溝が埋まることはなかったの
だが。
 彼女の母は、ずっと心配していた。動物の世話ばかりに現を抜かして、肝心の同年代の子
供達との付き合いというものが、蔑ろになりはしないかと。
 事実その心配は、程なくして現実のものとなった。元より一人遊びが好きで、内向的な彼
女は、日を追うごとに子供達のコミュニティから逸れていった。一緒に遊びに行こうと誘っ
ても、うじうじと躊躇うばかりで、その癖犬猫達とは仲良く戯れている彼女に、生意気盛り
の彼らがこの少女を見放すのは存外早かった。
 ──それみたことか!
 段々と孤立し始める娘のさまに、両親は何とか彼女を彼らの輪の中に引き摺り出そうとさ
えした。だが彼女は、普段のんびりとしているそのさまからは信じられないほど、そんな両
親からの“強制”を頑なに拒んだという。同年代の、生身の人間と付き合うよりも、言葉の
通じない犬や猫達と触れ合うことを、この少女は選んだのだった。
『いい加減にしろ! 父さん達を困らせるんじゃない!』
『どうして? どうしてなの? 私は何処で、あなたを育て間違ったの……?』
 故にそれ以来、親子としての仲は本格的に決裂した。父は“常識”のない娘に憤り、母は
自らの子育てが“失敗”したのだと絶望した。やはりなし崩し的に、娘が拾ってきた犬猫を
家に上げてしまったことが原因なのか? なまじ段々と、気付けば普段問題なくしつけも何
もやって、大人しかったがために、つい問題の本質を先送りしてきたのだけれど……。
 それからだ。彼女、鈴はなるべく早く家を出ることを考えた。自尊心と依存の狭間を行き
来する年頃の少女ではありながら、一方で本能的にもう自分がこの家に必要とされていない
んだと理解すると、残り数年の学生生活をじっと真面目な優等生として過ごした。元々活字
や数式には強く、デスクワークには向いていたため、探せば仕事を見つからない訳ではなか
った。バイトと動物達の世話、資格の勉強などを掛け持ちし、貯金と技術を蓄えた彼女は、
卒業と同時に長年住み慣れた実家を飛び出した。

「……」
 決して、世渡りが上手な訳ではない。ただ黙々と、がむしゃらに働いてきた。子供の頃と
同じく、職場では地味で印象の薄いOLとしてしか認知されていないが、鈴自身それはそれ
で構わないことだと思っている。仕方ないのだと、ずっと昔から諦めていた。
 もぞり。少し炬燵の中で寝返りを打ち、とらがその上で器用に──水上の丸太渡りよろし
く留まっている。彼にとっては彼女を間近に感じる此処が、定位置のようだ。
 ちぃはいつの間にか小さな寝息を立てて眠ってしまっていた。ギンもつかず離れずの距離
を保ったまま、しかし細めた老練の眼差しから彼女らを見守り続けている。
 年齢を重ねてきて、ようやく理解する(わかる)ことというのは確かにある。あの頃父や
母が口酸っぱく怒鳴ってきた言葉、そこに込められた想いを、今も解らない訳ではない。た
だそれでも未だ、自分にとっては何処か遠い場所の“常識”にある、他人事のように思えて
ならなかったのだ。
『あんた、仕事は上手くいってるの? そろそろ結婚しないと相手がいなくなるわよ?』
 珍しく電話が掛かってきたかと思えば、決まってそんなお説教だ。なので大抵はそれとな
くぼやかして誤魔化し、切ってしまう。向こうにしてみれば、いつまで経っても娘なのであ
って、自分達が年老いて何も分からなくなってしまう前に身を固めて欲しいのだろうが。
「……結婚、かあ」
 思わず誰にともなく、天井の木目を見つめたまま鈴はそう言葉を漏らす。
 胸元の上で、とらが小首を傾げるようにこちらを見下ろしてきていた。ギンもピクピクと
耳を少し立てて、このご主人の呟きに──感情の移ろいに意識を遣っている。ちぃはまだ眠
ったままで、鈴は何だかふいっと可笑しくなって、その三毛の毛並みをそっと撫でた。
 自分の生活と、この子達の面倒を見る為のあれこれで、あまり立ち止まって考えるなんて
ことをしてこなかった。実際毎月の出費は一人と三匹の分でギリギリで、貯金に回せる分が
余れば上出来というくらい。
 この家──アパートではなく小さな平屋型の借家だって、元々はこの子達と一緒に住める
環境を探し回った結果だ。田舎はともかく、街の中でペット可能の物件となると、どうして
もその分割高になってしまいがちなのは否めない。
 それでも……彼女は見捨てることなんて出来なかった。昔っから捨てられて路頭に迷って
いる子達を見つけては、拾ってきた。手を差し伸べて一緒に暮らしてきた。
 多分、子供ながらにシンパシーを感じていたのだろう。私達は、詰まる所“必要とされな
かった者同士”なんだと。
 だから余計に頑なになったし、両親らの言っていた普通(あちらがわ)に移り住もうなん
てできなかった。外見も性格も、こう地味で脱力しているような女を……誰が好き好んでく
れるのだろう? 焦って急かされても、既にハードルが限りなく高くなっていることぐらい
は、自分が一番よく分かっている。或いはもうずっと前から、自分はそういう星の巡り合わ
せでもって生まれてきたのだと、諦めてしまったのか。
(……別れだけなら、もう充分に味わってきたし、ね)
 尤もそうやってやる前から諦めて、妙に悟った気でいるのも、井の中の何とやらなのかも
しれないけれど。
 鈴はちぃを撫でていた手をそっと退け、再びもぞりと炬燵の中に潜り直した。とにかく恋
をしろ、結婚しろと急かされても、こっちはもう何度となくそこに別れがワンセットになっ
ているという現実を突きつけられているのだから。
 種類にもよるけれど、大体十年前後。
 犬猫の寿命はそんなものだ。それでも一匹また一匹、年老いて先に逝ってしまう子達を見
送る度に、彼女は密かに深い悲しみに打ちひしがれてきた。なし崩し的に、本当に偶然のま
まにあなたを拾ってきて、暮らすようになったけれど……その人生は、幸せだったかしら?
 実家にいた間にそうやって何匹も見送ってきて、早々に乾いていったという部分もあるの
かもしれない。十年前後でさえこんなにも“重い”のに、それ以上──もしかしたら一生の
大部分を使ってその人と寄り添っても、私はいつか別れるんだ。或いは私の方が先に、死ん
でしまうかもしれない……。
 別に、綺麗事ではなかった。そんなつもりはなかった。
 ただ早くから目の当たりにして、それでも新しく出会ってきた子達と一緒に年月を暮らす
中で、どんどん怖くなっていったのだと思う。今更、この範囲内から“外”に出るのが恐ろ
しくて堪らなかったんだと思う。
 きっと、耐えられない。この子達に対するそれのように、或いはそれ以上に誰かを愛し、
慈しまずにはいられなくなってしまったら……その最期の後、自分は辛過ぎて悲し過ぎて、
おかしくなってしまいそうだから。
 そんな、星の巡り合わせ。
 そんな早くに“予行演習”をやり過ぎて、結局この子達の命をその実“使い潰し”てきた
のかもしれないけれど。
 やれ付き合い下手とか、変わっているとか、その辺の陰口は知っている。ペットにばかり
愛情を注いでるから、自分を磨くことすら怠けて、未だに彼氏の一つもできないんだと哂わ
れていることだって。
(……おかしいのかなあ? そういうことに必死になって生きることに、あんまり意味を見
いだせない、なんていうのは)
 彼女はそう内心でぼやきつつ、自嘲(わら)う。お世辞にも女としての魅力云々をすっぽ
抜かしてきた人間が、何を言うやら。所詮そんな言説は、この現実社会における負け犬の遠
吠えでしかない──妙に悟った気でいる、井の中の蛙なんだと哂われるのだと。
「おいで」
 だから代わりに、フッと微笑(わら)う。ぽんぽんと自分の傍の炬燵布団を軽く叩いて合
図してやると、胸の上に丸まっていたとらや、うとうと眠っていたちぃがもぞもぞとこの布
団の隙間に入ってくる。それまで反対側から遠巻きでこちらを見ていたギンも──自身が老
犬だという自覚と気後れがあるのか、最初は少し遠慮がちだったが、やがてゆっくりと猫達
とは反対側の布団の隙間に入ってくる。ぴとっと静かに背中へ身を寄せてくる。
『……』
 温かい。単純に外が寒くて、炬燵の中にいるから、というだけじゃなくて。
 鈴はこの、今共に暮らすこの犬猫達ときゅっと抱き寄せ合った。そして思った。
 こうして近くにいれば、すぐ傍で鼓動を感じる。生命(いのち)を感じる。言葉はなくと
も心を感じる。確かな温もりを感じる。
 ──人間のそれと、一体何が違うっていうんだろう?
                                      (了)

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  1. 2018/12/09(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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