日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「紫苑」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:魔女、禁止、紫】


 僕には帰りを、待ってくれている人がいる。

 この日もすっかり陽が沈むまで働き詰め、僕はアパートに帰って来た。玄関の前でチャイ
ムを押すと、中からぱたぱたと足音が近付いてくる。
「おかえりなさい、育馬♪」
 そう扉を開け、満面の笑みで出迎えてくれたのは、一人の女性──僕の奥さん・紫苑だ。
 小柄だけど中々スタイルの良い身体のラインがエプロン越しに見え、後ろで結わった短め
のポニーテールが、文字通り尻尾のようにぴょこぴょこと揺れている。
 彼女と一緒になって今年で二年目になるが、真っ直ぐ過ぎる眼差しがこっ恥ずかしくて、
未だに僕は慣れられずにいた。でも……嫌じゃない。ホッとするのも事実だ。
「うん、ただい──」
『おかえりなさイ、旦那!』
『ご飯にしますカ? お風呂にしますカ? それとモ……?』
 だけど次の瞬間、彼女の後ろ、家の中で動き回っているある者達を見て、僕は彼女に言い
かけた言葉をそこそこに青褪めた。殆ど反射的に彼女を押して家の中に入り、同時後ろ手で
扉を閉め、鍵を掛ける。当の本人は「ほえ?」と頭に疑問符を浮かべていたが、だからこそ
僕は彼女の分まで頭を抱えざるを得ない。
「……紫苑。あれほど“使い魔(グレ)”達を、外から見えるようにさせちゃあ駄目だって
言っただろ?」
「あ。ごめーん、忘れてた。育馬が帰って来たと思って、つい……」
『そだヨー。許してやってヨー、旦那ァ』
『ご主人は今日モ、旦那の帰りをずっーと待ってたんだヨー』
「わわわっ!? そ、そういうのは話さなくていいから~! というか、さっきの台詞は私
が言うべきものでしょ~!?」
 彼女の後ろで動き回っている──家事やら何やらを手伝っていたのは、絶妙にブサイクな
熊のぬいぐるみ達だった。見た目に反して力持ちだし、それぞれ個別に自我がある。既に用
意されようとしていたらしい料理の盛り付けやら、畳んだ洗濯物やらを運びつつ、帰宅する
僕を迎えてくるのは、今やすっかり日常の光景になってしまった。
「……」
 紫苑は、魔女である。まぁいわゆる魔法を使える一族の出身という奴だ。
 そしてこのぬいぐるみ達は彼女の使い魔──通称・グレ達。彼女が一体一体(美的センス
が残念ながら)縫い上げ、自らの魔力を注いだ意思を持つ人形達だ。普段僕が仕事に出てい
る間、かしかましくも賑やかに彼女と共に留守を守ってくれている。
(でも何というか……全体的にポンコツなんだよなあ)
 少し抜けている所があるものの、それ以外は純粋で可愛らしい。
 実際毎日の料理や家事なんかもちゃんとこなしてくれるし、僕には勿体無いくらいの良い
嫁さんだ。尤も付き合いだすまでは、彼女が魔女だなんて思いもしなかったけど……。
 あと紫苑。さらっと新婚三択(そういうせりふ)を用意して待たないこと。今必死にわた
わたグレ達に言い聞かせてる君もそうだけど、僕も顔が真っ赤だから。
 ……何だかんだで彼女と、彼女が連れて来た“非日常”に慣れてしまったけれど、気を付
けておかなければ。最初正体がバレた時の彼女曰く、魔女の存在というのは基本的に秘匿さ
れなければいけないそうだ。確かに魔法なんて、世の中の大半の人間は空想の中だけの代物
だと思っているだろうし、中世ヨーロッパでは実際魔女狩りなんていうのが流行った。流石
に現在の日本社会で、そんな露骨な迫害は起こらないにしても……愛する妻の身が危険に晒
されるとなれば、協力を惜しむ理由なんてない。
「一応訊いておくけど……昼間もこんな調子?」
「ふえ? あー、今ほどではないよ? 夕方はご飯を作ったりお風呂湧かしたり、やる事が
立て込むから」
「ならいいけど……」
『大丈夫だヨ~、旦那ァ』
『オイラ達も、お仕事が終わったラ一旦“お昼寝”するからネ』
『ご主人が、旦那の帰ってくる頃になると慌ただしくなるのはいつもの事だヨ。そそっかし
さが増すモンだから、オイラ達も手伝うのサ』
「ちょっ、おーい。さらっと私のことディスってない!?」
「まあまあ……。とにかく立ちっ放しも何だからさ、中に入ろう?」
 正直、そうやって待ってくれているのは嬉しいけれど。
 僕は努めて冷静を装い、紫苑達に言った。アイアイサー! 主人がまたツッコミを入れて
いるにも拘わらず、そのまま僕を部屋に通してくれるグレ達。……本人の性格もあるんだろ
うけど、やっぱ自分の使い魔に舐められてないか? 紫苑。
「あ。い、育馬? ご、ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
 と思ったら、言い直してきた。顔を真っ赤にするくらいなら止めればいいのに。二人っき
りならともかく、僕だって滅茶苦茶恥ずかしい。
「あ、えっと……。じゃあ、お風呂先に貰える? とりあえず汗を流しておきたいし」
「う……うん。分かった。じゃあ鞄預かるね? すぐ着替え持っていくから……」
『ヒューヒュー!』
『いいんですかい、旦那? 入ったって、どうせまたご主人と汗だく──』
「ちょっ!?」
「……あんまり紫苑を困らせないでやってくれよ。一応、お前達のご主人様だろ?」
 だから僕も彼女も、揃いも揃ってボンッと顔が赤くなる。エロ親父か、お前らは。
 やっぱ見られてるのかなあ? 流石に空気を読んで、大人しくしてくれていると思ってい
たんだが。ただでさえこっちも、嫁の前で理性を繋ぎ止めるのに必死だっていうのに……。

「お? 今日も愛妻弁当か? 憎いねえ~」
 そうして別の日、僕は会社のバルコニーで昼飯を食べていた。隣には例の如く、同期で妙
な腐れ縁となって久しい矢田野が座っている。
 僕達はいつものように、手狭ながら外の空気を吸えるこのスペースで、小さな踏み台を椅
子代わりにして飯を食っていた。この独り身の同期は、紫苑が作ってくれている僕の昼飯を
見る度に、そうやっかみを込めてからかってくる。今やこれもすっかり恒例行事だ。
「……だったお前も、嫁さん貰えばいいだろ」
「出た! 既婚者の余裕! ……いたら苦労しねえよ」
「前に言ってた彼女さんはどうしたんだよ。中々いい所まで行ってたんじゃないのか?」
「あー、いや。恋愛と結婚はまた別じゃん? 確かに気の置けない仲ではあったけど、向こ
うも向こうで色々とな……?」
「ああ……。また遊ばれてたのか」
 皆まで言うなー!? 矢田野はすかさず突っ込んできたが、僕は軽く聞き流しながら口の
中に玉子焼きを放り込み、もきゅもきゅと咀嚼した。
 うん、美味い。薄めの方がいいっていう僕の好みを、ばっちり把握してくれている。
 よよよ、とこの友人は改めて哀しみに暮れていたようだが、正直半分は自業自得だと思っ
ている。自分とは違って社交向けで、営業の成績も上なこいつは、異性関係も割合とっかえ
ひっかえだ。本人はもっと深い仲に……あわよくば結婚までと考えているようだが、如何せ
ん生来のチャラさが災いしてか、結局今回のように遊びの仲で終わるというパターンに陥り
がちであるらしい。
「いいよなあ。お前は紫苑ちゃんみたいな、可愛い子を嫁に貰えて」
「……お前が色々と背中を押してくれたからだよ。僕一人じゃあ、あそこまで覚悟を決める
なんてできなかった」
 だから、フォローという訳ではないが、僕は正直に言う。出会った頃の僕と紫苑の仲を、
こいつは何だかんだと言って取り持ってくれた。根は良い奴なんだ。ただどうにも、いざ自
分の番になると、いまいち運が悪いというか……。
「ははっ、今更何言ってんだよ。照れるじゃねえか」
 ああ、そうだな。だから隣で素直に顔を赤らめるな。気持ち悪い。
 くいっと水筒からお茶を淹れて一口。紫苑の手料理は一品一品、ちゃんと味わいたい。そ
の為にはこまめに、水分で舌の感覚をリセットしてやる必要がある。……こんなことを実際
にこいつに話してしまえば、間違いなくからかわれるんだろうけど。
「……本当、僕には勿体無いくらいの嫁さんだ」
 そりゃあ少々抜けている所はあるけれど、よくこれまでOLやってこれたなというくらい
に勤め人としてはへっぽこだったけど。
 ぽつりと呟き、僕は正直に思う。
 出会いは本当に偶然で、まさかこいつよりも先に結婚するだなんて予想だにしていなかっ
たけれど、今僕は幸せな部類に入るんだろう。決して特段他人に注目されるような派手さは
ないが、そんな慎ましやかな生活が、自分には似合っている。
(ただ……)
 それでもずっと感じているこの不安の正体は、何なのか。
 結婚して以来、何度も自分に問い掛けているが、これといって明確な答えは出ていない。
強いて言えば紫苑の夫としての自信──といった所なのだろうが、何分彼女らの世界に片足
を突っ込んだせいでその辺りも怪しい。
 紫苑は魔女だ。魔法なんていう“非日常”な力を自在に操る、現代社会に紛れた存在だ。
 そもそも僕が彼女とトントン拍子で結婚するまでになったのは……その秘密を知ってしま
ったからというのも大きい。何でも外部に魔女だとバレた者、バラした者には厳しい報復が
待っているとかいないとか。紫苑曰く『消されるねー。そりゃあ皆、魔法が使えるから』と
のこと。大いに慌てふためいた僕だったが、そんな魔女界の中にも『但し身内であればこの
限りではない』というルールが在るのを知り、彼女と結婚することにしたのだ。尤も当の本
人は、そんな報復逃れという理由よりも、ただ単純に僕と一緒になれるということに喜んで
くれたのだけど。
 ……あんな切欠でよかったのか? 突き詰めると多分、不安の正体はそこだ。魔女のあれ
これを僕は未だよく知らないし、もしかしなくても他の魔女達には、僕が報復から逃れる為
に紫苑を嫁に取ったと思われているだろう。だから僕が、というより、彼女の立場ってもの
が心配で申し訳なくなる。何より僕はしがない一介のサラリーマンに過ぎないのだ。もっと
頑張って稼がないと、家族を養ってゆくことは難しい。本当に僕は、彼女を幸せにできるの
だろうか? こんななし崩し的に、結婚してよかったのだろうか……?
「んだよ。辛気臭ぇ表情(かお)してんなあ」
 そんな思案が表に出ていたのか、矢田野が顰めっ面で横目を遣って来ていた。ちゅーっと
パックの野菜ジュースを飲み干すと、食い終わった総菜パンのゴミと共々、手提げのポリ袋
にこれを押し込んで言う。
「一体何を悩むことがあんだよ。実際紫苑ちゃんは、望んで一緒になってくれたんだろう?
充分じゃねえか。度胸なんざ、後からついてくるモンだ。俺みたいないい加減な男だって、
契約取って来たらそれなりに責任感あるからな。折角夫婦になったんだから、お前の不安も
彼女の不安も、一緒に分け合っていきゃあいい」
「……。何でお前は、それで自分が結婚できないのか、僕は時々疑問でしょうがないよ」 
 おまっ、言うに事欠いてそれ──!? 幸いにもこんなナイーブな気分であってもノリが
よい友に内心感謝しつつ、僕は小さく苦笑(わら)った。確かにそうなのかもしれない。な
まじ彼女がぼんやりとしている分、性分としても、僕がしっかりしなきゃと気負い過ぎてい
るという側面は否定できないだろうから。
「うん?」
 ちょうど、そんな時だった。僕のスマホに着信が入った。ピロンと小気味良い効果音が鳴
ったのに反応して懐から取り出し、サッと画面をタップして確認する。妻の──紫苑からの
メッセージが新しく来ていた。
『ごめんねー、育馬。今日サバトがあるの忘れてたー。夜遅くなるから、作り置きしてある
分でご飯食べてね?』

 おい、こら。正体隠せって言ってるだろ。他人の通信だって、暴こうと思えば暴ける時代
なんだぞ……?
 届いたメッセージに目を通して早速、僕は密かに頭を抱えた。もろに専門用語をログに残
したら拙いだろう。まったく、僕が相手だからって油断し過ぎなんだよ……。
 矢田野が「おん? どうした?」と訊ねてくる傍からスマホをしまい、紫苑が今日友人達
と出掛けるので遅くなる、という旨の返事をしておいた。本人は「ふーん?」と、特にそれ
以上追及してくることはなかったが、正直こちらは冷や汗ものだ。僕らの仲を後押ししてく
れたとはいえ、彼も勿論紫苑達の正体を知らない。こちらの不注意で巻き込んでしまう訳に
はいかないのだ。……嘘は、言っていない。
「──だからさ? お前達の口からも、ご主人様にもうちょっと厳しく言ってやって欲しい
んだ。お前達自身は勿論、紫苑の為でもあるんだ」
 だからその日、いつものように家に帰って来た後、僕はそう留守番をしてくれていた彼女
の使い魔(グレ)達に改めて言い聞かせつつ。
 今夜はシチューだった。とろりとホワイトソースがいい味を出している。男は胃袋を掴ま
れれば弱いとはよく云うけども、紫苑は何気に主婦スキル自体は高い。もきゅもきゅと口に
運んでいる僕の周りを、テーブルを、グレ達が囲んでいる。元々がぬいぐるみだけに食事は
必要ではなく、定期的に主たる紫苑から魔力を供給して貰えれば、こうして単独(?)での
留守番も可能なのだと以前に聞いた記憶がある。
『分かっているつもりなんですけどネー』
『何せご主人、ああだかラ……』
『旦那と結婚してからはすっかり、頼っちゃってますからネエ……』
 他の魔女達がどういう暮らしをしているのかは知らないが、本当このブサイク人形達って
のは妙に人間臭い。当の紫苑が敢えてそういう作りにしたのかもしれないが、多分素だと僕
はみている。彼女のことをよく知り、且つ第三者ということもあって、久しぶりに僕は当人
不在の中で言葉を零し始めていた。
「……頼ってくれるのは嬉しいんだけどね。でもそもそもは、僕が紫苑の正体を知っちゃっ
たのが原因だから……」
 改めて、この使い魔達に結婚に至るまでの経緯を離す。尤も彼女との付き合い自体は彼ら
の方が長いので、今更逐一説明する必要まではなかったのかもしれないが。
 言い換えれば、それだけ僕がこの時、精神的に参っていたからだ。自分一人で背負い込ん
で、追い詰められていたからだ。矢田野の言う通り、紫苑と二人でお互いに分け合って進む
ことができれば、僕らは本当の意味で夫婦になれるのだろうか……? ぼんやりと、そんな
ことを、またネガティブな不安ばかりを抱く。
「今日だってそうさ。集会(サバト)があるからって出掛けているけど、実際に僕はそれが
どんなものか知らない。もしかしたら、紫苑も僕には黙ったまま、向こうの仲間内で浮いて
いるのかもしれない。少なくとも僕は、彼女ら魔女の存在を知ってしまっている。皆が皆、
僕のことを歓迎してくれているとは思えないんだよな……」
『……なるほド』
『相変わらず神経質ですねえ、旦那ハ』
『じゃあ旦那ハ、成り行きでご主人と結婚なさったのデ? ご主人の事、愛してはおられな
いのデ?』
「そ、そんなことはない!」
 故に──グレ達にそんな問いを投げ掛けられて、僕は思わず声を荒げてしまった。バンッ
と食卓を叩いて立ち上がり、しかし次の瞬間自分が何を口走ったのかと理解して、顔が全身
がカッカと熱くなる。
「……紫苑と付き合い始めた、好きになったのは本当だよ。ただ彼女が魔女だなんて知らな
かったし、考えもしなかったから。ただでさえ僕はパッとしないサラリーマンだし、夫とし
て、それも魔女のパートナーとして胸を張れるんだろうか? って……」
 段々と声のトーンが落ちてきて、恥ずかしさも手伝い、僕は再びずるずると元の席に崩れ
落ちる。自分で言っていてまた弱気になってしまい、どんどん不安になってきた。彼女を守
らなければと思った。彼女のあの、自分に向けてくれる屈託のない笑顔を守らなければとい
う焦りが間違いなく何処かに在った。
『なるほどねェ』
『だ、そうですヨ? ご主人?』
「え……?」
 だからこそ次の瞬間、僕はそんな使い魔(グレ)達の言葉に思わず顔を上げて。
「──っ」
 気が付けば紫苑がいた。魔女服、とでも言うのだろうか。黒や紫を基調としたローブと尖
がり帽子に身を包んだ僕の妻と、彼女の同胞と思しき他の魔女達が、僕のすぐ横の空間から
まるでどこ○もドアよろしく扉を開け、こちらを見ていたのだ。普段はのんびりニッコリと
している妻がきゅっと唇を結んで瞳を潤ませ、周りの彼女達が「ほらね?」とポンと優しく
肩を叩いてやっている。
「!? しっ、紫お──」
「うわああああああん! 育馬ああああああああー!!」
 わぶっ!? だからその次の瞬間には、彼女が扉の向こうからこちらに向かって飛び出し
て来ていて。思わず反射的に受け止めた、その小柄なのに豊かな胸が、ちょうど座っていた
僕の顔面を覆い隠す。
「ごめんね、ごめんね? そんなに心配掛けているなんて……。大丈夫だよ? 確かに育馬
は私達の正体を知っちゃったけど、今は私の旦那様だもん。身内ならオッケーってルールの
こと、前にも話したでしょ?」
「むぐ……。むぐぐ……?」
 嗚呼、そうか。
 そもそもグレ達は彼女の使い魔なのだ。やろうと思えば、彼らを経由してこちらの会話を
聞くことだって出来た訳か。要するに筒抜けだった訳だ。
 加えて他の魔女仲間達と一緒にこっちに転移して(でて)きた、その様子からして、もし
かしなくても今回の集会(サバト)という話自体、この為の……?
「うわああああん! ごめんね、ごめんねー!」
「……」
 そうやって思考がぐるぐる回っている間も、紫苑はむぎゅむぎゅと僕の顔に胸を押し付け
続けていて。
 正直、滅茶苦茶恥ずかしい。お互い感涙と羞恥という別種なものの、顔が真っ赤になって
いる──何より傍からみればイチャついていると言われても仕方ないこの構図を、グレ達は
勿論、この魔女仲間の皆さんにも見られてしまっている訳だ。彼女の身体越しにちらちらっ
と、それを止めてやるでもなくこの面々がニヤニヤと、僕らを生温かい目で見守っているさ
まが否応なく見えてしまう。
(これは、してやられたな……)
 はは、と心の中で盛大に苦笑いを零す。どうも僕の心配は、全くの杞憂だったようだ。
 強いて言えば、こうして妻の方にもその実一抹の不安を抱かせてしまっていたのだなあと
いう点か。そうでもなければ、この魔女仲間達と、今日のような一計を案じて僕の本音を聞
き出そうとはしなかっただろう。僕があまり、普段から“自分”を出して喋ろうとしなかっ
た所為、なのかなあ?
「……はは」
 思わず苦笑が盛れる。それでも僕は、この騒がしくも楽しい日々を生きていくのだろう。
 最愛の妻にして現代に生きる魔女が一人、紫苑と共に。
                                      (了)

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  1. 2018/12/02(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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