日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「なりたかったもの」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:正義、最強、最弱】


 活発で明るい真昼間よりも、沈黙して暗がりの夜中の方が、作業それ自体は捗るという日
がままある。世間一般からすれば、あまり宜しくない傾向なのかもしれないが……事実そう
なのだから仕方ない。賑やかよりも、静かな方が良い。
『──思うんですけど、最強ってのは何をもって最強って呼ぶんでしょうね?』
『うん?』
 その夜も、中尾は一人部屋に籠ってパソコンの画面に向かい合っていた。カタカタと手慣
れた風にキーボードを叩き、しかし時折その手は止まる。愛用のテキストエディタに書かれ
た文章は、まだ数ページにも満たない。
 周囲の音を遮断する意味でも、作業時には習慣的に着けているヘッドセット。
 その口元のマイク越しに、中尾はそうふいっと、ボイスチャットの向こう側にいる物書き
仲間に対して疑問を投げ掛けていた。長らく燻っている自問(もんだい)である。
『ほら、最近のタイトルって大抵そういう設定の主人公ばかりじゃないですか。それが今の
流行りなんだって言えば、まぁそうなんですけど……こうも多いとね』
『だったら、そうじゃないものを書けばいいんじゃないのか?』
『書いても受けないから悩んでるんじゃないですか。SUMI.さんだって解ってる癖に』
 すると案の定、如何せんシニカルに返ってくる言葉に、中尾は苦笑していた。即座にそう
茶化し返すが、別に悪意は込めていないつもりだ。少なくとも画面の向こうにいる友──お
互い顔も本名も知らない同業者は、かねてよりこういう性格だから。
『……その手の話、何度目だ? また誰かにポイントでも抜かれたか』
『はは。それはいつもの事ですよ。ただ何となく……ね。こう夜中にずーっと書いてると、
ふと色んなことが頭の中をぐるぐるし始めて……』
 副窓に最小化しているボイスチャットのアイコンから、そんな同好の士の愚痴が聞こえて
くる。発言の度に音もなく点滅するそれを視界の端に捉えつつ、SUMI.こと隅川は、そ
っと自身の作業の手を止めていた。口にはしないが、ちょうどこちらも次の文章が出辛くな
っていた頃だった。
『……最強というか、それに近くなるのは必然だろう? バトル物なら特に。負けた後修行
するイベントでも入れない限り、負け続けていたら主人公としては映えない』
『あ、いや。順序立って強くなってゆく系はまあいいんですよ。昔からあるし、王道なんだ
からそれは分かる。俺が言ってるのは、最初から最強って奴ですよ。或いは底辺だと思わせ
ておいて、実はとんでもない能力の持ち主だった──みたいな奴』
『ああ……。だが別に、成り上がる構成の物語自体は、古今東西あると思うが』
『ええ。それは確かに。ただどうも、最近のはそれが極端でしょう? マイナスからプラス
へどーん、と。勿論、全部が全部とは言いませんがね? ただ俺にはどうも、その辺の加減
が未だについてゆけなくって……。俺、流れに乗れなかったんだなあって』
『……』
 隅川は、自身のテキストエディタが淡々と縦棒を点滅させているのを、ぼうっと瞳に映し
ながら聞いていた。
 正直、うんざりしていた。
 何度も似たような話を彼や他の者達から聞いてきたということもあるが、何より自分自身
のスタンス、小説を書く上での考え方として。
『ウェブ媒体での連載なんだから、そういうものだろう? 大昔に比べて、そもそも本をじ
っくりと読むっていう習慣自体が少数派なんだから。手っ取り早く読み進められる、読むこ
と自体がストレスにならないものが、今は好まれている。それだけだ』
 画面の向こうの友は、しばしば小説というものに期待をし過ぎているきらいがある。確か
に自分も、何処かで小説の──言葉の力を信じているとは思う。だがそれはあくまでこちら
側の、どっぷりとこの営みにのめり込んだ人間の理屈(おもいいれ)であって、間違っても
他人に押し付けるべき類のものじゃあない。
『SUMI.さんは相変わらずクールですねえ』
『テール君より、少し長めに生きているだけだよ。褒められた性分じゃない』
 まあ実際、本当に彼より自分が年上かは、ちゃんと確かめたことはないのだが……。
 やや演技っぽく嘆息をついてみせる画面の向こうの彼に、隅川はあくまでそんな自身を持
ち上げることはせずに付け加えた。所詮こうした自分のスタンスは、臆病な癖に“守る”こ
とには熱心なその自尊心を覆い隠す為の手段でしかない。
『寧ろ僕は、そういった流れに乗らない書き手がいた方が、全体のバランスとしては健全だ
と思うよ。皆が皆同じようなものを世に出すんなら、作家は何人も要らないんだ。僕達みた
いなアマチュアは勿論、プロだってね』
『んー、まあ……。でもそれと実際に受けるかどうかは別でしょう? SUMI.さんだっ
てそうは言っておきながら、しっかりそういうジャンルのもの書いてポイントを稼いでいる
じゃないですか』
『……あの場所(サイト)では、ああいう調理が受けると判ったから、そうしているまでの
ことだよ。分析の通り、ニーズに応じて話を組んでる。それだけだ』
『それが出来るだけ凄いですよ。俺はどうも、プライドが邪魔をして……』
 だからこそ、中尾は正直SUMI.──隅川のことを羨ましく思っている。同時に妬まし
くも思っている。どれだけ理想を語ろうが、結果が全てなのだ。面白いものを書いた方が、
売れた方が正義なのだ。必要なのは個人的な拘りではなく、冷静な分析とそこに自分をもっ
てゆける行動力、思考回路なのだ。こと「娯楽」を書こうとするのなら、それぐらいの奉仕
の精神がなければ一流とは呼べないのかもしれない、とさえ思う。頭では解っていても、未
だもって、自分はそこへの道を実行できていないのだから。
『……』
 しかし一方で、隅川もまた思っていた。この同胞、ミドルテール──中尾のことを内心で
は羨ましく思っていた。自身の語るこの現実論が、冷めたものであると知っていた。
 プライドが邪魔をしている。その自覚があるのなら充分だろう。下手に何年も万能感を引
き摺って、その自尊心に伴わない結果に喧しく当たり散らすような輩よりはずっとマシだ。
 自分も……以前は彼のように真っ直ぐだった。物語を書くことが楽しくて、物語には他人
を感動させる力が宿っているんだと信じて、自らが生み出すそれが、何処かで誰かの喜びや
励みになってくれればと願った。
 だが、そう願えば願うほど、この界隈に長く暮らせば暮らすほど、いざプロの階段を登っ
ていった先に見る地獄のことを知った。古き良き──と言っても、実際に良かったのかどう
かは分からないが──かつての時代のように、自分達作家という生き物は、ただ書いていれ
ばいいという訳にはいかなくなった。自分で分析し、提案し、売り込む。時には先方の要請
に応じて、いわゆるタレント的な露出までしなければならない。たとえ「先生」などと呼ば
れても、数字が悪ければ切り捨てられる。
 自身が書きたいことと、現実として書くべきことは、必ずしも両立しない。
 はたしてそこまでして捧げ続けるのか否か? やがて思考は硬直し──。
『さっきも言っただろ? 同じような文章を書けるなら、作家は何人も要らないんだ。僕の
やっていることは、ただ頼まれた図面を仕上げてくるだけの、替わりの利く書き方だよ』
 だからこそ、次の瞬間そうぽつりと漏らされた言葉に、中尾は数拍黙り込んだ。画面の向
こうに座っているであろう、自分よりもずっと巧いと思っていた友を思った。
『……じゃあSUMI.さんは、自分の今の書き方には納得していないんですか?』
『最適と最善は、それぞれ別の問題だ。気付けば僕は、その境界線さえ分からなくなってし
まった。だからテール君のその悩みは──正直羨ましくあるかな』
『へ、へえ……。じゃあ俺達、お互い足して二で割れば、ちょうどいい具合になってたのか
もしれませんね』
『ああ。そうかも、しれないな……』
 乾いた苦笑(わら)い。画面越しに二人は、暫く何とも言えず押し黙っていた。二人とも
とうにキーボードからは手が離れ、先程から文字数は一向に進んでいない。
 中尾は内心、やっちまったなと思った。……また俺って奴は、こう答えの見つからない問
いなんかを愚痴って逃げようとした。こうやって気まずくなったら、結局悶々とする気持ち
は差し引きゼロどころかプラスにさえなるってのに。
 隅川は内心、言い過ぎたと後悔していた。……彼が悩んでいたのに、こちらが冷笑を投げ
返してどうする? 少なくともこういった言い合いは、やるべきじゃない。ナンセンスだ。
そんな暇があるのなら、もっと自分の文章を磨けばいい。自分の物語を追求すればいい。語
るべき言葉は口にするのではなく、このテキストの上に書き付けるべき筈だ。
『……』
 二人は黙っていた。後悔と羞恥と。今し方自分の放った言葉が何なのか、一体自分の心は
どうしたいのか、その根っこの所がどうにか視えないものかと眉間にトントンと中指を押し
当てている。じっと眉間に皺を寄せて目を瞑っている。
『ただね、テール君。少なくとも一つ、確かなことがある』
 はたして、それから先に口を開いたのは、隅川の方だった。ある程度矢継ぎ早になりがち
だった先程までの思考を整理したのか、いや言わなければならないことに気付いたからか、
画面の向こうの中尾に言う。
『僕がさっき言っていたことと、少し矛盾するかもしれないけどね……。どんな極端な物語
であっても、そこには“ニーズ”が在るんだよ。僕達がどう思うかは別として、事実そうい
った物語を欲する人々がそこには居るんだ。最初から最強? マイナスからプラス? 言い
換えればそれだけ“あり得ないほどの逆転”を、潜在意識として望む人達が、今この現実の
社会にいるってことなんだよ。苦しんでいるんだよ。哂うべきじゃない。どう評価するかは
周りの人間の自由だとしても、僕らはそんな彼らのニーズに、物語という形で応えうる技術
を持っている。精神的に未熟? 現実逃避? 何が悪い。本当にそのまま耐え切れず、壊れ
てしまうよりずっとマシだ。慰みで結構。だから何をもって最強だとか、最弱だとか、そん
なのはあくまで便宜的なものに過ぎないんだ。ゲームのステータスのように可視化されてい
ようが何だろうが、そこは彼らがニーズとして期待している部分ではないのだから』
『──っ。SUMI.さ』
『思うに物語っていうのはね、現実にはたった一回しかない人生の、もしもを体験させてく
れるものなんだ。自分とは別の人生を追体験させてくれるものなんだ。だから──君は君で
いい。君の物語を書けばいい。流行りに乗っては駄目だとは言わないが、もっと違う別の物
語が生まれれば、その分だけもっと違う誰かの助けになるかもしれない。尤も実際は、そん
な深い意味合いで手に取られるものじゃあないんだろうが……。元より娯楽なんてのは消耗
品だ。こっちも勝手に期待して、後は向こうに任せればいい。もし君が書くものが文学寄り
ならば、もっとその度合いは高くなるかもしれない。……理想は持っていていいんだ。ただ
それを読者の側にまで求めるから、苦しくなる。だからテール君。僕のように、不必要な所
まで冷めてしまわないでくれ。元より、どっちも両立できるだなんて代物じゃあないんだ』
『……』
 そう、普段知る彼ではない隅川の言葉に、中尾は再び押し黙っていた。現実(リアル)の
辺りは尚も夜の静寂そのものだったが、二人は暫く、一秒一秒の時間がゆっくりと引き延ば
されてゆくような心地の中に在った。
『SUMI.さん。俺……』
 だから正直、きちんとした言葉にはならなかった。中尾は何度かぱくぱくと口を開け閉め
しては、じっとすぐ目の前の画面を──点滅を終えた隅川のアイコンを見つめている。彼も
またきっと、同じように悩んできたのだ。そしておそらくは、自身が結局成し得なかったそ
の行き着いた景色(さき)を、こちらに託そうとして。
『……テール君。君は、物語が好きかい?』
                                      (了)

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  1. 2018/11/25(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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