日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「クラフターズ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:綺麗、箱、廃人】


 作業机(テーブル)の上に、これでもかと道具を広げる。思い立ったら即制作、思い立た
なくてもしばしば期限に追われて制作。およそ彼らは、消費する側よりも創り出す側として
の営みに没頭する。愉しもうとする。
 組み上げられてゆくのは、彼らそれぞれの“箱庭”だ。
 自分が好きな、興味のある、或いは意図的に正反対なもの達を取り入れては、自分だけの
セカイをそこに組み上げる。
 中には、自らセカイへと入り込み、その住人達と面白可笑しく過ごす者もいる。
 中には、あくまで自らは生みの親として、その住人達の暮らしを見守る者もいる。
 中には、もっと自らとそのセカイを切り離して、あくまで目の前の現実とは違う虚構の中
の生命として他人びとに振る舞う者もいる。或いは──振る舞うことさえも煩わしく、只々
次から次へと組み上げてゆくことに没頭・苦悩する者もいる。
「よ~し、出~来たっ!」
「おお。可愛い~!」
「いいねえ。まあ、一番可愛いのはうちの子だけど」
「はは、言ってくれるじゃない。お互い、親馬鹿ね~」
「だね~。でも、そういうものじゃない? せっかく丹精込めて創った自分の分身なんだか
らさ。愛を注いであげなきゃ可哀想だよ」
 しばしば彼・彼女らは作業机(テーブル)を寄せ合い、お互いの“箱庭”達を見せびらか
せては笑っていた。
 緑溢れる森から、オリエンタルな佇まいの街並み、或いは蒸気仕掛けの機械の都──その
姿形は生みの親達それぞれだ。共通しているのは、そんなセカイの中では確かに小さな、彼
らからしてみれば手元に収まるほどの小さな人々が息づいていること。与えられた大小様々
な役割(ロール)を問わず、その自覚の有無を問わずに精一杯生きている。特にそんな中で
も、自らに宛がわれた役割(ロール)に気付き、意味を再生産することを選んだ住民のこと
を、一般的に“主人公”と呼ぶのである。
「……ちょっと、さっきから騒がしいですよ。手元が狂うので静かにしてください」
「む? 何よ。愉しんじゃいけないっていう訳?」
「まあまあ。そう言ってやるなって。あいつはあいつで芸術家肌だから」
「そうね。お互いのスタンスには口を出さないって方が無難だし」
「でもそうやって、いつも難しい表情(かお)してると……しんどくない?」
「……貴方達にそう横槍を入れられている方、がよっぽどしんどいですよ」
 尤も、全員が全員、自分のセカイを見せびらかすことに悦びを見出しているという訳では
ないとは、言及しておかねばなるまい。中には自らとその“箱庭”を切り離して、あくまで
いち作品として扱うことをその信条としている者もいる。彼らにとって、時々に組み上げた
セカイはあくまで手段であって、目的ではないからだ。セカイに遊ぶよりも、セカイをその
“箱庭”の中に、如何に凝縮できるかに心血の大部分を注ごうとする。
 やいのやいのと愉しみ、かしかましくしている広い意味での仲間達に、そんなスタンスの
内の一人がちらっと横目を遣りながら呟いていた。皮肉だときちんと捉えた者はどれだけい
たのだろう? 少なくとも、彼らの多くはあまり面白くない表情(かお)をしていたが。
「はいはい~。売り言葉に買い言葉はそこまで~! 語りたい人はこっちね~!」
 それでも、彼らとてお互いの愛でるセカイと、創り出す目的が必ずしも同一ではないこと
くらいは知っている。……解っている筈だ。だからこそそうしてしばしば、場を取り持つ者
が出てくる。放っておけば、他ならぬ自分達の手で侵される。めいめいにとって最後の聖地
である自身の作業机(テーブル)自体にも、落ち着いて座れないことを知っている。経験と
して語り継がれてきている。
 ぱんぱんと手を叩き、やがて彼らは捌けていった。それぞれの作業机(テーブル)に戻る
と、また嬉々として或いは黙々と、自身の“箱庭”作りに没頭するのだ。
「──」
 そんな中、この少年は終始ずっと独りだった。いや、敢えて自ら場の片隅に息を殺すよう
に潜み、彼らの騒がしさや自己主張から距離を置いて延々と自身の“箱庭”を作ろうと必死
になっている。
 作業机(テーブル)の上は、とりわけ散乱していた。用意していた道具も、思い描いてい
た青写真も、その住人達になる筈だったモノも、大半が作りかけのままで放置されている。
欠損してそのままになっている。
(違う……こうじゃない。あれも駄目だったから、それも駄目で、じゃあこうすれば良いん
だろうか? どうもイメージが掴めない……)
 ばさついた髪を時折ガシガシと掻きながら黙々と作業に取り組む、暗い眼の少年だ。
 先程は自身の“箱庭”をあくまで作品として扱う青年がいたが、この彼の場合はより一層
不器用だった。技術的にも、精神的にも。
 彼は組み上げたセカイの一つ一つを、堂々と他人にひけらかすことさえ好ましくないとさ
え思っている。もしひけらかすのならば、もっともっと自分自身が納得できるものに仕上げ
てからでなければ怖くって仕方がない。一応出来上がればそっと傍に飾るが、大よそこれを
誰かが観に来た時、既に彼は新たな“箱庭”を作り出す為に悩んでいる。
 ──他の誰かと見せ合い、愛でて笑い合う。
 ──そうではなく、あくまでいち“箱庭”としてのクオリティを追求する。
 どちらからと問われれば、間違いなく彼は後者の部類なのだろう。だが少なくとも、彼に
は決定的に不足している部分があった。それは……そもそもクオリティとは何か? という
自問(とい)に尽きる。
 他人と交わる為の手段としての“箱庭”。
 自己を表現し、伝える目的としての“箱庭”。
 はたして自分は……どちらなのだろう? 手段という認識ではなさそうだから、きっと創
り上げることが目的なのだろうけど、そもそもに自分は一体「何」をこのセカイに込めたい
のだろう? 込めて何を伝えたいのだろう? 伝えて如何しようというのだろう? いや、
先ずもって誰かに伝わるものなのだろうか……?
(これも、違う)
 作業机(テーブル)の上の道具や材料をがばっと一旦手で除けてしまうと、彼は両手で頭
を抱えて突っ伏した。ぶつぶつと、頭の中で靄のように形にならない何かを必死に捉えよう
としながら、結局は上手くいかない。いつもそうだ。大体自分でもよく分かっていないもの
を、何故掴めると思ってしまうのだろう? 会心の出来とは天から降ってくる訳ではなく、
自らの努力の積み重ねでその確率を上げるというものだ。そもそもの前提が間違っている。
「お? ここにも……何じゃこりゃ」
 だから見られたくなかったのに……。ふと近くを通り掛かった別の者が、そう彼の手元に
置いてあった“箱庭”らを興味本位で覗き込んでは、呟いた。明らかに好感の類のそれでは
なく、寧ろ汚物でも見たかのような反応である。
「ねえ、君。何でこんなどす黒いものばっかり創ってるの? 皆苦しそうだよ? 誰が幸せ
になれるっていうの?」
 通り掛かりの彼女は、そう少々眉間に皺を寄せて訊ねてきていた。おそらく彼女自身が持
つ常識からすれば、彼のような“箱庭”に愉しさの意味を見出せなかったのだろう。
「……」
 彼のセカイは、いつだって暗かった。明るく豊かな自然も無いし、風光明媚な街並みも基
本的には例外的な場合だ。彼が込めたがる“箱庭”の中身は、常に重圧と陰鬱と、中途半端
な憂慮で満ちていた。
「……分からない。強いて言えば自分、なのかな。分からないけど」
 知ってる。だから非常に億劫だったが──彼は突っ伏したままそう答えるしかなかった。
 黙ったまま無視を決め込んでも、それはそれで相手を不快にさせるだろう。どうせ自分の
組み上げてしまうセカイが、ことごとく他人に向けられたものではないのなら、せめて直に
相対した時くらいは誠実な態度であろうと思う。
「ふうん……? まあ、頑張って」
 そして彼女も彼女で、何と返せばいいのか分からなかったのだろう。苦虫を噛み潰したよ
うな反応をしつつも、努めて苦笑いを返し、そのままそーっと立ち去ってしまう。
「……」
 ああ、まただ。要するにそういうことだ。
 少年は静かに密かに嘆息をつき、彼女の去って行った方向をぼんやりと眺める。向こう側
では例の和気藹々としたグループが、またお互いの“箱庭”を持ち寄って笑っていた。その
中で息づく住人達を、セカイを愛でて笑っていた。
 どこもかしこも──綺麗だった。多少機械の街とか、一見重苦しい表情をみせるそれもあ
るにはあったけれど、彼・彼女らのセカイは皆それぞれの特徴が出ていて美しい。何よりも
自分のような重暗さというものが殆ど感じられない。いや多分、一個一個をつぶさに訊いて
みれば、彼らのセカイにもそういった要素はあるのだろうけど……少なくとも一見するだけ
では、すぐには判らない。要するに明らかに“皆が苦しそうで、誰も幸せにならなさそう”
なセカイではないのだ。その点だけでも、大よそ他人(だれか)に向けたものとして耐えう
る状態を持っている。
 なのに、自分はといえば……。
 少年はまた例の如く密かに対比していた。逆に自分の組み上げる“箱庭”のセカイ達は、
往々にしてそういった優しさからはかけ離れているように感じる。感じてならない。なのに
いつもふいっと思い描かれるのは、イメージの中から点と点が繋がるのは、重くて暗くて大
上段の、汚さに塗れたセカイだった。他人(だれか)を愉しませる為じゃあなく、他でもな
い自分も、それも一時の鬱積を吐き出して移し替える為だけ、そればかりの為にこのセカイ
達は生み出されてきたのだ。
 そう思うと……やり切れなくなる。どうして自分は、あんな綺麗なものをこの手から創り
出せないのだろう? 自分の中には、こんな汚泥のような黒色ばかりしか埋もれてはいない
んだろうか? 豊かな色彩と、笑っている人達を描きたい。描かなければいけないのに……
どうしても出て来ない。すんなりと絞り出せないばかりで、気付けばいつもこんなセカイば
かりが組み上がってしまう。繰り返してばかりで、止められない。
(くそっ!!)
 思わず少年は、衝動的に手元の“箱庭”を鷲掴みにした。
 綺麗なものを、他人が喜ぶようなセカイを創れないのなら、いっそ始めから手を出さなけ
ればよかった。もう後戻りが出来ないほどにこの営みから離れられなくなる前に、全部無か
ったことにしておけばよかった。
『──ッ! ──!!』
 だが結局、彼には出来なかった。己の手の中で、その“箱庭”の中で自らの運命を弄ばれ
ては試練に晒されては苦しみ、しかし与えられた自身の役割(ロール)を全うしようと必死
になっている住人達を──彼自身が創り出したもの達を、結局切り捨てることが出来なかっ
たのだ。
「畜、生……」
 所詮は身勝手な執着に過ぎないのだろう。哂われても多分、仕方がない。
 作業机(テーブル)に突っ伏して項垂れたまま、しかし一旦強く掴もうとしていた自身の
手を、彼はそっと緩めた。漏れた嗚咽。だがそんなことはつゆも知らぬまま、文字通り握り
潰される運命から逃れた住人(キャラクタ)達は、尚も変わらず茨の道を進み続けている。
 あちらの“箱庭”達は、主らによって綺麗に着飾られている。彩られている。
 一方でこっちはどうだ? 全くもって……毒親じゃないか。
                                      (了)

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  1. 2018/11/19(月) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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