日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔40〕

 今思えば、由良が『二手に別れましょう』と言ってきた時、俺はあいつを止めるべきだっ
た。勝手な親心を利かせ、こいつも先ず俺を頼ることから離れて一人前の刑事(デカ)にな
ろうとしているんだなと、その心中を察せなかった事がそもそもの間違いだったんだ。

 一体どういう経緯で、どれほどの事実を知ったのかは分からない。
 だが少なくとも、あの時点であいつは越境種(アウター)や当局について怪しんでいたの
ではないか? その確証を得ようとしていたのではないか?
 つまり、わざわざ一人で調べようとしたのは──俺を巻き込まない為。
 ……馬鹿野郎。要らない所ばかり似やがって。先輩よりも先に逝ってどうする。
 白鳥達に消されたのは、十中八九蝕卓(れんちゅう)と当局の繋がりに、あいつが勘付い
てしまったからなのだろう。或いはもっと踏み込んで、触れようとしたからか。
 ……何てことはない。敵は始めから、すぐ傍にいたんだ。
 もし当局自体がクロ──白鳥や幹部連中が染まっているのなら、これまでの不自然なほど
の隠蔽や性急さにも合点がいく。というより、その為に奴らが組織内に入り込んだと考えた
方が妥当だろう。少なくとも、昨日今日の話ではない筈だ。
(すまねえ、由良。俺のせいで、お前は……)
 悔しくて悔しくて、何度だって唇を噛み締める。
 相棒(あいつ)がいなくなってから、一体何度、俺は自分の不甲斐なさに己をぶちのめし
たくなっただろう? いっそ暴発し、何もかも吐き出してしまいたかった。
 だけども出来なかったのは……ひとえにそれが刑事(デカ)の誇り以上に、あいつの犠牲
を無駄にする事だと、頭の何処かで解っていたからだ。
 あいつが自身の血を使ってでも俺に残そうとした『ASU』──杉浦が連中の仲間だとい
うメッセージ。俺にはその意思を、受け継ぐ義務がある。あいつに代わって白鳥達を、この
街のど真ん中で踏ん反り返っている奴らの鼻っ柱をへし折らなけらばならなかった。
 尤もその為に、そんな事実に俺自身が行き着く為に、対策チームなんていう外野の集まり
に借りを作ってしまうことにはなったが。
「……」
 全くどいつこいつも、他人を馬鹿にしてやがる。
 連中に捕まって、あっちこっちを引っ張り回されて。
 俺自身が表向き容疑者にされちまったことは、正直どうでもいい。それよりも今は、奴ら
をあの場所から引き摺り降ろすのが先だ。
 大よそ身体の傷は癒えた。一体あれから、どれだけ時間が経ったのだろう? 相変わらず
でたらめな技術だが、今は都合が良い。元よりじっとなんざ──大人しく怪我人なんざして
られない。
(……もう少し待ってろよ。由良)
 だから俺は一人歩いてゆく。目指すべき場所ならば決まっている。
 全ては由良(あいぼう)の弔いの為。あいつの信じた、正義の為だ──。


 Episode-40.Assault/今明かされる都市伝説

「皆、気を付けろ! あいつは一度、僕達を倒した、例の二人の片割れだ!」
 飛鳥崎に張り巡らされた、地下水道を進んでいた睦月達は、突如として敵の襲撃に遭って
いた。もう少しで中央署内へと続く梯子が見える──そんな位置に相手は軍勢を、サーヴァ
ント達を率いて待ち伏せていたのだった。
 先制して巻き散らされたM(マッシュ)・ムーンの胞子攻撃をもろに受け、火花を散らし
てあちこちに転がった守護騎士(ヴァンガード)姿の睦月と、めいめいのコンシェルと同期
した仲間達。相手の正体を見た冴島が、そう逸早く驚きと警戒を露わにして叫ぶ。
「例の“合成”アウターか」
「痛つつ……。参ったな、地下(こっち)にも対策されてたのか」
「おい、皆しっかりしろ! 次の攻撃が来るぞ!」
 言わずもがな、急ぎ起き上がって戦闘態勢を取る睦月達。旧電脳研の隊士(なかま)達に
振り向きつつ、仁がグレートデュークの盾を構えて叫んでいた。
 ──やれ。そしてM・ムーンがそう短く、引き連れたサーヴァント達に命じる。くわっと
両手の五指を開いて駆け出す彼らに、クルーエル・ブルー姿の皆人が舌打ちをして面々に指
示を出す。
「一旦逃げろ! こんな狭い場所じゃあ格好の的だ!」
 弾かれたように迎撃から退却に移り、睦月達は一本道の水路──目指していた梯子から遠
ざからざるを得なかった。司令室(コンソール)の萬波達に誘導して貰いながら、一旦十分
な広さのある空間まで後退する。
「早速目論見が崩れたが……やるしかないか。奴らを倒して、先に進むぞ!」
『応ッ!!』
 そこからだ。睦月達の反撃が始まった。場所を足場の広々とした水路に移したその直後、
一斉にサーヴァントらもなだれ込んでくる。クルーエル・ブルーの伸縮自在の刃が彼らの身
体を一絡げに貫き、或いは盾を構えたデュークや隊士達の突進が、この追撃を押し留める。
 それは互いにテリトリを少しで広げようとぶつかり合う、乱戦の様相を呈していた。
 数で勝る相手側、サーヴァント達を、隊士達は数人がかりで一体一体確実に組み伏せては
集中攻撃を加え、破壊してゆく。皆人や仁、海沙や宙がそのサポートに回った。そんな仲間
達が抑えてくれている乱戦の合間を、睦月と冴島、國子の三人が縫うように駆け抜ける。
「おおおおおッ!!」
「どっけぇぇぇーっ!」
「……。ふん」
 剣撃モードのEXリアナイザと、雷の流動化で加速したジークフリートの刃、赤い輝きを
湛えた朧丸渾身の一閃。
 だがそんな睦月達の、正面三方同時からの攻撃を、ムーンは回避することもなく真っ直ぐ
に見据えて受け止めていた。……いや、受け流したのだ。三人の刃はことごとく、その体表
面を覆う寒天質によって滑り、ムーン本人にダメージを与えることなく逸らされる。
「一度負けたのにまだ解らないか……。お前達に、私は倒せない」
 そして軽く身を捩ったの同時、両肩や腕から伸びる触手達による強烈な鞭打。
 ぐがっ?! 激しい火花を散らして、睦月達は吹き飛ばされた。「睦月!」「むー君!」
後ろでサーヴァント達を抑えていた皆人らも、その様子に思わず目を見開いて叫ぶ。
 やはり並のアウターとは比べ物にならないポテンシャルの持ち主だった。再び地面に転が
った睦月達を見ろしつつ、ムーンはカツカツと、ゆっくり触手や茸を揺らしながら近付いて
来る。
「……思えば、お前達とは中々因縁深い関係となったものだな。だがそれもここまで。プラ
イド様のお手を、これ以上煩わせる訳にはいかぬ!」
 しかしそんな睥睨も束の間。ムーンは再びその触手を振るい、睦月達に襲い掛かった。今
度は背後にいる皆人や仁、海沙や宙、隊士達にもその矛先を向けてくる。
「っ!?」
「わ、わわっ!」
「危ねえッ!」
 ある者はそのまま巻き添えを食らって吹っ飛び、またある者は咄嗟に飛び込んだ仲間に抱
えられて地面を転がりつつ、この鞭打の嵐から逃れた。
 だが、そんな中でも尚、命令通りにサーヴァント達はこの攻撃の合間から飛び込んで来て
は睦月達に襲い掛かってくる。反射的にこちらの刃や盾で防がれ、或いはそのまま再びしな
ってきた触手に絡み取られ、地面に叩き付けられゆく。
「ちっ……。敵味方関係なしかよ」
「無駄口を叩いている暇はありませんよ。端から数には、入れていないのでしょうから」
 元より自身の豊富な攻撃手段と、手勢の数で押し潰す作戦。
 事実そう睦月達が必死になってこれを避けつつ、追撃してくるサーヴァント達を一体また
一体と倒してゆく中でも、ムーンはお構いなしといった様子で自身の攻撃の手を緩めようと
はしなかった。手下達を巻き込むことに、まるで迷いなど感じていないようだ。
「チッ……ちょこまかと。広い空間に逃げられたのは、失敗だったな」
 ならばこれならどうだ! するとムーンは、両肩を中心に生える茸達から、無数の胞子を
撒き散らす。薄暗い地下通路でも、その細かな粒子が水気を弾いてキラリと閃くのが睦月達
にも分かった。最初に奇襲された時と同じ、避けようのない範囲攻撃だ。
「っ!? しまっ──」
 咄嗟に面々が身を守ろうとする。直後無数のそれが身体に触れた瞬間、激しい火花と衝撃
から睦月達を襲った。ぐぅっ……!? 面貌の下で、同期の下で、思わずダメージに顔を顰
める。その周りでやはり巻き添えを食らったサーヴァント達も、激しく火花を散らして吹き
飛びながら、或いはそのまま自身の耐久限界を超えては、次から次へと消滅する。
「まだまだだ!」
 そして更に胞子に加え、ムーンは新たに体表面の寒天質を分離させ、小さな自らの分身を
幾つも作り出した。キェーッ! と甲高い声を上げながら、この分身達は一斉に防戦一方に
なっている睦月達へと襲い掛かる。
「だわっ!? な、何だこりゃあ!?」
「き、気持ち悪い~! な、何なのよ~!?」
「べ……べたべたする……」
「こっ、こんな事も出来るのか」
「皆落ち着け! 引き剥がすんだ!」
 いわば“使い潰し”た、サーヴァント達の代用。
 一見すると小さな姿の分身達だが、そのパワーは油断ならないものだった。初見のそれに
動揺する面々の隙を突き、めいめいが触手による一撃を。身体を仰け反らせてくるほどの予
想外の威力に、仲間達が一人また一人とすっ転ぶ。
「ふん。その辺の量産型(ぞうひょう)と一緒にされては困るな。一体一体は小さくとも、
私の分身だ。お前達の動きを封じることくらい、造作もないさ」
 ククク……。そう言って笑い、再びゆっくりとその触手達を持ち上げるムーン。
 そんな相手の姿を、次に取って来ようとしてくる攻撃を、睦月は面貌の下で見ていた。自
らも分身達に貼り付かれ、無数の鞭打を受けていたにも拘わらず、頭の中は奴に追い詰めら
てゆく仲間達のことでいっぱいだった。
「冴島さん!!」
「──っ!?」
「風を! 僕らにくっ付いているこいつらを!」
 だから次の瞬間、睦月が叫んだその一言に、当の冴島──同期したジークフリートはすぐ
に反応できた。言わんとすることを理解していた。
 身体を流動する風に変えて、その風圧で一挙に自他に貼り付く分身達を吹き飛ばす。
 故にムーンはその一瞬、思わず驚きで目を丸くしていた。それと同時、睦月はこの僅かな
隙を逃すまいと、単身彼に向かって走り出す。
『ARMS』
『CLIP THE STAG』
「おおおおおおおおッ!!」
 走り出しながら、雄叫びを上げつつ手元のEXリアナイザを。
 睦月が呼び出したのは、左手をすっぽりと覆う大型の鋏型アーム。慌ててムーンは分身達
を戻し、尚且つ自身の触手でこれを迎撃しようとするが──怒涛の勢いで向かってくる睦月
を止められない。逆に自身の寒天質の防御を兼ねていたこの分身達と、放った触手を次々に
叩き落され、直後肉薄。そのまま鋏型アームにがっしりと掴まれて、背後の壁へと激しく打
ち付けられてしまう。
「ガッ──?!」
 豊富な攻撃手段で押していたことが、却って裏目に出た。
 地下水路のコンクリ壁を大きくヒビ割らせ、ムーンはもろに受けた衝撃に、無理やり肺の
中の空気を押し出されたかのようだった。目を見開いて、信じられないといった風に直後の
硬直に呑まれている。
「睦月!」
「ここは僕が押さえる! 皆は、早く署内へ!」
「えっ!?」
「で、でも、むー君が……!」
「いいから早く! 僕達が間に合わなかったら、筧刑事まで殺される!」
『──っ』
 だが当の睦月、守護騎士(ヴァンガード)にとっては、この反撃はあくまで目的ではなく
手段だった。ムーンの動きを押さえたその直後、やっと無数の攻撃から解放された、皆人以
下仲間達にそう決死の形相で叫ぶ。
「……分かった」
「三条!? お前、何を──」
「いや、睦月君の判断は正しい。このまま僕ら全員が足止めを食らえば、そもそもの作戦自
体が意味をなさなくなる」
 数拍の間。そんな僅かな時間さえ、惜しいほどの圧縮された沈黙。
 しかしそれを破ったのは、他ならぬ親友・皆人だった。仁や宙、海沙らが戸惑う中、更に
冴島も睦月の意を汲み、皆へとそう促す。虚を突いた格好とはいえ、彼もそう長くはムーン
を押さえてはいられないだろう。
「行くぞ。睦月が奴を止めてくれている、今がチャンスだ」
 決死の覚悟。まだ少なからず仁などは躊躇っていたが、結局リーダーである皆人や冴島が
面々を半ば引っ張る形で駆け出した。
 ……死ぬなよ? 去り際、そう皆人(しんゆう)が肩越しに呟き、睦月もムーンをその武
装で押さえたまま、パワードスーツの双眸を静かに向けている。
「ぐうっ! き、貴様ぁ!!」
「──」
 そうして仲間達が再び、通路の向こう──中央署に繋がる梯子へと消えて行ったのを確認
した後、睦月は自身の鋏型アームの中でもがくムーンを睨み返した。

 此処で一旦、時は少し遡る。
 集積都市・東京、国会内。この日健臣は、所属する文教委員会での公聴会を終え、秘書の
中谷や数名のスタッフ、取り巻きの議員らと共に事務所へ戻ろうとしていた。委員会室を出
ながらスタッフ達に現在進行形の種々の報告を受け、この若手を中心とした議員仲間らとも
赤絨毯の上で「じゃあまた」と、一旦別れる。現政権の文教大臣も務める彼のスケジュール
は、日々分刻みの多忙を極めていた。
「……?」
 ちょうど、そんな時だった。ふと彼の懐でデバイスの着信を知らせ、マナーモード中のそ
れが、スーツの内ポケットで静かに振動を始める。
 隣で中谷達が、何者からだろうとそっとこちらに目を遣ってきているのが分かった。健臣
は無言のままデバイスを取り出し、そこに表示されている名前を見て──固まる。
「すまない。少し待っていてくれないか?」
 だからなのだろうか。自分よりも一回りも二回りも年上な、この父の代からの秘書は、こ
ちらの指示に一見唯々諾々と従ってくれたように見えたが、その眼にはただの一ミリも警戒
を怠らないある種の凄みがあった。
 ……参ったな。だけど出ない訳にはいかないし。
 タッと軽く駆け足になり、近くの物陰に移動した後、健臣は周りに他人の姿がないことを
確認してから通話アイコンをタップした。
「はい。小松です」
『──もしもし。健臣? 私だけど』
 すると電話の向こうから聞こえてきたのは、とある女性の声。あくまでクールな、しかし
何処か色気のようなものも混じっている定型句だ。
 香月だった。同じ集積都市の一つ、飛鳥崎に拠点を置く国内きってのコンシェル研究の第
一人者、佐原香月博士その人である。
 尤も……健臣自身にとっては、それは二の次の名声だ。
 かつて同じ大学で学び、その分野こそ違えど真剣にこの国の未来について憂い、変えたい
という強い志と才能に満ち溢れた盟友──生涯で初めて、愛した女性(ひと)。
 健臣は内心、少なからず驚いていた。今はいち研究者と中央の政治家。互いの為にも普段
からみだりに連絡を取り合わないようにしていたのだが……一体どういうことか?
 しかして一方で、彼自身内心“嬉しかった”のもまた事実である。
 もうあの頃とは周りの状況が違い過ぎている。今更彼女達を迎えに行く訳にはいかないこ
とくらいは重々承知しているが、こうして実際に声を聞くと、まだ互いに繋がりは消えてい
ないんだと思い、フッと胸の奥に小さな火が点り直す気がする。
 健臣はなるべくそんな浮付きを気取られぬよう、あくまで冷静に、傍から見ればさも紳士
風に仕事の電話に出たという体を採りながら応えた。
「ああ。何だ、君からかけてくるなんて珍しいじゃないか」
『ええ……。ごめんなさい、仕事中だった?』
「いいや。ちょうど合間だよ」
 我が儘を言うならば──もっと話していたい。積もる話ならば、幾らでもある。
「それで? 俺に何の頼みだい?」
『えっ?』
 だが健臣は、敢えてそう先にこちらから本題を訊き出した。事実向こうで、まだ中谷が他
のスタッフ達と共にじっとこちらの様子を窺っているのもそうだが、何よりずるずると彼女
と話し続けていたら、そのまま戻って来られないような気がしたからだ。
「はは。そう驚くことでもないだろう? 筆不精な君が、わざわざ連絡してくるってことは
何か理由がある筈だからね。俺に出来ることなら、協力するよ?」
 言いながら苦笑する。だって昔から、君は色んなものを背負い込みがちで。
 頼ってくれることが嬉しかった。連絡を寄越してくれることが嬉しかった。自分は結果的
に、君を幸せにはしてあげられなかったのに……こうして今も繋がっていてくれる。
『……ありがとう』
 少し電話の向こうの香月は黙っていたが、やがてそう静かに感謝の言葉を述べた。何とな
く声が震えていたから、もしかしたら泣いていたのかもしれない。
『……近日中、飛鳥崎当局で大きな事件が起きるわ。貴方には、政府としてそれを“追認”
するよう働きかけておいて欲しいの』
 それでも我が愛した人は、気丈なるかな。次の瞬間にはもう、香月はいつもの冷静沈着と
した声色に戻っていた。
 追認? その内容を聞いた時、健臣は思わず怪訝に眉を顰めた。
 何故君が、そんなまだ起こってもいない事について知っている? 大体自分に、水面下で
政府に働きかけて欲しいなど、一体どれだけ大きな出来事が起こるというんだ……?
「分かった」
 だが次の瞬間健臣は、実に二つ返事でこの頼みに答えたのだった。
 敢えて何も訊かない。ただ事の重大さだけを悟って、この盟友からの依頼を引き受ける。
 それはひとえに、此処で自分が狼狽すれば、周りの誰かが異変に勘付いてしまうかもしれ
ないと考えたからだし、何よりも──彼女のことを信じていたからだった。
「ただ俺は、あくまで文教大臣だからなあ。そういうのは梅津さんの管轄になるぞ? まぁ
一応、本人にも伝えておきはするけど……」
『……ううん。十分よ、ありがとう』
「はは、気にするな。他でもない君の頼みだ。無碍には断れないさ」
 少し気恥ずかしかった。声色からして、多分電話の向こうの彼女も似たようなものだった
のだろう。
 フッと物陰に隠れたまま数拍優しい表情(かお)になり、健臣は苦笑(わら)った。向こ
う側の、彼女の息遣いを感じながら束の間の安堵感に浸りつつも、次の瞬間には再び政治家
のそれへと戻っていた。傍目からは威厳のあるようにして、最後に付け加える。
「……じゃあな。君達も、くれぐれも無茶だけはするなよ?」

 司令室(コンソール)の面々に見送られて地下深くのエレベーターを昇り続けた後、筧は
暫くぶりに地上に出ていた。夏の盛りというのもあろうが、日の光がいつにも増して眩しく
感じられる。彼は軽く手で庇を作りながら、一人ぶらぶらと市中の往来に紛れ、暫く心の中
で考え事を繰り返していた。街のあちこちから聞こえてくる雑音も、今ではすっかり遠い昔
のようだった。
(……さて。ようやく出歩けるようになったはいいが、これからどうしたモンか)
 具体的には、どうすれば白鳥の下へと辿り着けるか?
 少なくとも真正面から署内に突っ込むのは無理だろう。今も街角のあちこちで制服姿の警
官達が配置されているのが見えるし、その本丸近辺となれば尚更の筈だ。何より自分は同僚
達に顔が割れ過ぎている。仮に侵入できたとしても、見つかるのは時間の問題だろう。より
にもよって、ある意味一番やり難い相手が“敵”となってしまった訳だ。
(そうなると……。やっぱ何かしら、搦め手が必要になるな)
 暫く歩いてから人ごみの中を抜け出し、筧はそっと人目の少ない路地裏へ路地裏へと入っ
て行った。身を潜めるように息を殺し、周囲の気配を探りながら、出発前に例の対策チーム
の少女から受け取ったデバイスを検める。
 一見すれば、ごく普通の汎用型だ。状態もデフォルトのアプリばかりで、やはり元々自分
の持っていたものではない。まぁそもそも、自分は由良ほどこの手の物について知識が豊富
な訳でもないのだが。
 あいつらがデバイスも取り返してくれていれば、もう少しやりようもあったのだろうが。
 だがそれでも、無いよりはマシだ。これで自分の記憶の限り、今まで作ってきた伝手に連
絡を取って、下準備を整えるとしよう。
(……うん?)
 ちょうど、そんな時だったのだ。何気なくこのデバイスの中を、何か使えるものはないか
と片っ端からフォルダを開けていた時、ふと幾つかの見知らぬファイルが保存されている事
に気付いたのだった。
 筧は思わず眉間に皺を寄せる。どうやら動画と、音声データらしい。彼自身まるで身に覚
えがなかったが、試しに一つ二つと再生してみる。
 するとそこには──収められていたのだった。あの地下秘密基地・司令室(コンソール)
で観た、対策チームの戦いの記録が。
 確かミラージュと額賀だったか。ちょうど自分が、二人とあいつらを狙う銀仮面の化け物
ことプライドの正体が、白鳥だと気付いた切欠になった映像だ。
「……あの野郎」
 故に、筧はすぐに気付く。このデバイスをわざわざ去り際に渡してきた連中の、そのリー
ダー格であるあのいけ好かない餓鬼の意図する所に。
 フォルダには他に、越境種(アウター)の存在を示す証拠となる映像・画像が幾つか保存
されていた。これらを併せれば、今飛鳥崎で起こっている一連の不可解事件について、彼ら
の関与を証明することができるだろう。つまりは十中八九、皆人の仕込みだ。
(ったく、回りくどい真似しやがって……。やっぱ気に食わねえ餓鬼だぜ)
 だがまあ……。しかし筧は、そう内心改めて皆人らのことを吐き捨てたものの、結局その
デバイスを手放すことはなかった。乗ってやるか。元より彼は実際問題として、アウター達
を生身一つで“倒せる”などとは思っていなかったのだから。

「──?! ひょ、兵(ひょう)さん!?」
 そうと決まれば筧の行動は早かった。彼は更に路地裏の奥の奥、飛鳥崎のアングラ区域へ
と潜り、とある小さな店を訪れた。刑事(デカ)をしてきたこれまでの人脈を再び活かし、
目的のブツを調達する為である。
「よう。暫くだな」
 そこは一見すると、いわゆるコスプレ用品のショップのようだった。決して広くはない店
内に所狭しとメイド服やナース服、チャイナドレスといった様々な種類の衣装が飾られ、中
には何処から仕入れたのか怪しい市内外の女子高生の制服まで揃っている。
 カウンターに座っていたのは、半ばスキンヘッドの小太りの男と、やたらけばけばしく髪
を何色にも分けて染めた女だった。二人は一応、夫婦である。かつて筧が違法営業の店舗群
摘発に関わった際、色々と“世話を焼いた”者達だ。
「ど、どうして此処に? うろついてて大丈夫なんですか!?」
「そうですよお。だって旦那、今中央署から指名手配されて──」
「気にするな。というか、あれは俺じゃねえ」
『……はえ?』
 二人の声が、綺麗に重なった。それでも頭に大きな疑問符が浮かんだまま、思考がついて
ゆけずにフリーズしている彼らに、筧は一々説明するのも面倒だとすぐに用件だけを告げて
準備を進めようとする。
「警官の制服あるか? 下っ端の奴でいい。刑事(デカ)だとバレないように恰好を変えた
いんでな。今は持ち合わせが無いが、事が全部済んだら払いに来る」
『……』
 連日の報道に加え、当の本人自身の、淡々としながらも切羽詰まった様子を感じ取ったの
だろう。この店主夫妻は、次の瞬間一旦ゴクリと息を呑むと、急いで店の奥から在庫分の警
官服を出してくれた。加えて重ねた布地の下から、ついっと小さな木箱を一つ、差し出して
くる。
「やっぱ、何かあったんですね? 使ってください。その様子だと、丸腰なんでしょう?」
「ずっとおかしいと思ってたんですよお。他でもない兵(ひょう)さんが、同じ刑事を──
それも由良ちゃんを殺すだなんて……」
 木箱の中身は、拳銃だった。おそらく闇ルートで流れたものだろう。当局標準採用のもの
が一丁と、隠し持つのに都合の良い小型が二丁。弾も予備を含めて十分な数が揃っている。
じっと眉間に皺を寄せて、筧は暫くこれらを見下ろしたまま押し黙っていた。
「……違法だぞ?」
「分かってます。でも今はっ!」
 正直な所、良心の呵責があった。巨悪を暴く為に、自らも違法な代物に手を出すなど。
 だが目的が目的なだけに、筧は結局それ以上咎めの言葉を放つことができなかった。
 ……杉浦の時と重ねていたのかもしれない。だが少なくとも目の前の二人は、あいつみた
いに嘘の巧い人間ではない。何よりこんな街の掃き溜めに追い遣られても尚、自分の潔白を
信じてくれていた。
「今回、だけだぞ?」
 心の中でまだ残っていた一線を、ぎゅうぎゅうと苦しみながら押し切り、筧はこの警官服
と拳銃入りの小箱を抱えて店の隅にある試着室に入った。決して広々とも、小奇麗とも言え
ないそこで手早く着替えを済ませると、その姿はごくありふれた市中の警察官のそれに変わ
っていた。おお……。店主夫妻が流石は本職だと、思わず感嘆の声を漏らす中、当の筧は目
深に帽子を被り、試着室から降りると、慣れた手つきで腰や腿のホルスターに装填した拳銃
を次々に収めてゆく。
「……よし」
 準備完了。
 そして普段の、スーツ姿の刑事(デカ)から没個性な警察官姿になったその眼には、およ
そ本物のそれとは比べ物にならない程の、強い意志の光が宿っていた。


 建物の外が連日物々しい雰囲気に包まれているにも拘わらず、署内自室の白鳥はじっと落
ち着き払ったかのようにデスクに座り続けていた。
 それはひとえに、待っていたからだ。
 表に集る外野どもなどではない。この状況、水面下で確実に仕掛けてくるであろう、自分
達“蝕卓(ファミリー)”の宿敵のことを……。
「プライド様」
「ご報告します」
 ちょうどそんな時だった。部屋の入口をノックして、配下の刑事達が姿を見せる。言わず
もがな、白鳥らの正体を知る“同胞”達である。
 スッと流し目を遣るようにして、後ろ手に扉を閉めた彼らに、次の言葉を促す白鳥。
 そんな彼に、この部下達はとうにこなれた様子で敬礼のポーズを取ると言った。
「守護騎士(ヴァンガード)達が現れました。地下水道です。現在、円谷殿が彼らと交戦し
ている模様です」
「ほう?」
 来たか……。待っていたその報告に、白鳥は静かに目を細める。
 流石に真正面から攻めるのは分が悪いと考えたか。だがそれはこちらも計算の内。奴らの
侵入した地下ルートには円谷を、地上ルートには角野をそれぞれ配置している。
「それで、筧は?」
「はい。報告によると、姿は確認できないとのことです」
「どうやら別行動を取っているようでして……。先刻、別方面から、奴が一人裏町へ入って
ゆく姿が目撃されています」
「ふむ……?」
 白鳥は口元に軽く握り拳を当てて、一旦考えるような仕草をした。それでもそんな思考と
現状への対応は別物だと割り切ったのか、すぐに彼らへ次の指示を飛ばす。
「では、兵力をそちら方面に振り直せ。角野にも一旦戻ってくるように伝えろ。連中はこの
すぐ真下にまで近付いて来ている。決して署内に踏み込ませるな。向こうがわざわざ人目に
付かないルートを選んでくれたんだ。丁重に“歓迎”して──始末しろ」
『はっ!』
 敬礼のポーズのまま了解と応え、足早に出てゆく部下達。その気配と靴音が遠ざかってゆ
くのを聞きながら、部屋にまた一人残された白鳥は内心先程からずっと考え事をしていた。
ある種の違和感を覚えていた。
 ……妙だな。どうにも攻め方が単純過ぎる。
 ただ私と戦って、倒せばいいという状況ではないことは向こうも理解している筈だ。少な
くともそれでは、筧兵悟に貼られた烙印(うたがい)は晴れない。あれだけ戦力を投入して
奴を取り戻したというのに、利用して来ないというのも妙だ。或いは元より彼らにそんな心
算はなく、自分達の身バレも辞さずに私を倒そうと……?
 いや、決め付けるのは早計か。それでも警戒するに越した事はない。状況的には今も尚、
こちらに正当性がある。もし万が一にも私を倒せたとしても、白鳥涼一郎という人間のロス
は、倒した連中の側に罪が掛かる。その辺りも、解っていないとは思えないのだが。
(忌々しい……)
 だからこそ、この正当性の強化の為に、かねてより筧兵悟を“特安”指定にすべく水面下
で動いていたのだが、どうも生身の幹部連中は『まだ直接市民に害が及んでいない』と及び
腰だ。お陰で、肝心の手続きも遅れている。
 猪口才な人間どもめ。身内の──組織としての保身、醜さがここに来て裏目に出たか。
 だが仕方ない。奴らがここまで攻めて来た時点で、もう間に合わないだろう。一連の始末
が終わったら、残りの幹部達も早々に“こちら”と入れ替えてしまわなければ……。
「──?」
 だが、次の瞬間だったのである。ふと白鳥ことプライドの耳に、これまでよりも殊更に騒
がしい声が聞こえてきた。どうやら建物の外、署の前で何かトラブルが起きたらしい。ちょ
うどこの時、伝令を受けた角野とその他部下達も戻って来て、同じく何事だろうと入室して
早々辺りを見渡している。
 静かに顰めた眉。そして白鳥はおもむろに席を立ち、窓際のブラインドを軽く指先で押し
除けると、眼下に広がるその光景を見下ろした。
『か、筧だ!』
『筧兵悟が出たぞー!』
 するとそこでは、繰り広げられていたのだった。
 この建物、中央署の前。そこに現れた白鳥達も見覚えのある姿をした男が、多数の警官達
に包囲されながら、暴れているのを。

「か、筧だ!」
「筧兵悟が出たぞー!」
 同僚・由良殺しの事実が正式に発表されてからというもの、飛鳥崎中央署とその近辺は、
連日厳戒態勢が敷かれていた。そんな中で当の本人──容疑者・筧兵悟が一人ひょっこりと
現れたものだから、現場に居合わせた者達の混乱は必然である。
 故に同署前は、にわかに騒然としていた。慌てて周りを取り囲み、一斉に拳銃を向けてく
る制服姿の警官達に、当の彼もまた興奮した様子で銃口を向け、叫んでいる。
「ぶ、武器を捨てろ!」
「諦めるんだ! お前は完全に包囲されている!」
「うるせえ! それよりも白鳥を出せ! 俺はあいつに用があるんだ!」
 一対数百人という圧倒的劣勢にも拘わらず、筧と思しき人物は一向に退く素振りを見せな
かった。えっ? 誰……? そして彼が口にしたその名前に、期せずして居合わせた外側の
野次馬達が少なからず混乱する。或いはそれでも尚、めいめいにデバイスで事の一部始終を
撮影し続けている。
『──』
 そう、これが目的だったのだ。今まさに現在進行形で、筧兵悟を“演じている”者は。
 筧本人が普段着古しているものと同じ種類のスーツやコート、当人と同じ髪色・髪型を再
現したカツラなどを身に着けて変装しているが、その正体は他でもない対策チームの工作員
だった。わざと本物と同じような恰好をして公衆の面前に、敵の本丸前に現れ、人々の注意
を引きつけるのがその目的だったのだ。
 時間稼ぎ程度でも構わない。ただ、少しでも長く。
 そして人々に知らせる必要があった。まだ彼らが知らない、この事件を裏で操ってきた黒
幕の存在を。白鳥涼一郎ことプライドを。
(……こいつは一体、どういうことだ? 俺が、二人……?)
 だからこそ、当の本物の筧は大いに戸惑う。激しくざわめく人ごみの中に混じり、突如と
して目の前で起こり始めたこの予想外のトラブルに、彼は思わず目を瞬いて立ち尽くすしか
なかった。
 あれは偽物だ。よく似せてはいるが、俺じゃない。まぁ大半の人間はそこまで細かく俺の
ことなんざ知らねえだろうが……。
 しかし問題はそこじゃない。わざわざあんな無茶を、殆ど自殺行為みたいな真似をする必
要性が何処にある? 白鳥の名も叫んでいたし、少なくとも偶然とは思えない。
(……つまりそういうことか。本当、食えねえ野郎だな……)
 おそらくあれは、連中──対策チームの仲間なのだろう。敢えてあんな大立ち回りを演じ
てみせることで、この場の人間達の注意を逸らそうとしているのだ。
 こちらが乗ってくること前提の作戦であることに、正直面白くはなかったが、事実これは
絶好のチャンスだと筧は思った。
 今こちらは制服姿。警備の連中も、ちょうど偽物の方に気を取られている。
 筧は突然の出来事に混乱する人々の合間を縫って、一人密かに署内へ潜入することに成功
した。格好が没個性の警察官ということもあって、混乱する現場へ次々に向かっては戻って
を繰り返す署員達も、こちらの正体に気付いていない。
 ……よし、これならイケる!
 内部に一旦入ってしまえば、後は勝手知りたる元職場だ。
 筧はあくまで混乱する現場の一人を装いつつ、忙しなく行き交う署員達とすれ違う度に内
心冷や冷やとしながらも、標的たる白鳥がいるであろう彼の宛がわれた自室へと急いだ。途
中で何人か、顔見知りの同僚──刑事達とも出くわしたが、幸い向こうはまさか自分が変装
してまで潜入して来ているとは思いもしなかったのか、ことごとくスルーしては何処かへと
行ってしまった。気持ちは急けるが、バレては元も子もない。あくまで慎重に、怪しまれな
いように注意しながら、一課のオフィス前を通り過ぎる。
(……いる。気配で分かる)
 そして遂に筧は、白鳥の潜む自室へと辿り着いたのだった。通り掛かった他の刑事などが
ふいっと怪訝な眼を寄越すが、もう関係ない。閉ざされた扉を乱暴に、力いっぱい蹴破って
吹き飛ばすと、はたして中には白鳥と──その側近が一人、角野以下数名の刑事達が揃い踏
みしていたのだった。
「!? お前──!」
 角野を中心として驚愕の表情が浮かび、一斉にその懐から拳銃が抜き放たれる。
 だが筧は動じない。それが自分たち警察官として当然の反応であると知っていたし、何よ
り今ここで自分を殺してしまっては、後々処理云々に困るのは彼らの方だからだ。
「……」
 そんな諸々の腹が解っていたのだろう。一方で肝心の白鳥は酷く落ち着き払っているよう
に見えた。伊達に幹部の一人ではない。筧が蹴破って外から筒抜けになった室内、何事かと
こちらを覗き込もうとしている署員達の方を、寧ろ気にしているかのようだ。
「……よう。やっと会えたな、白鳥」
 元よりこちらも、その心算ではある。
 騒ぎを聞き付けて目撃する者達が増えるように、自らがやって来たとすぐに判るように、
筧はそっと被っていた帽子を脱ぎ捨てた。普段とは違う制服姿で、この因縁の相手に向かっ
てそう精一杯の不敵な笑みを浮かべてみせる。
『……』
 白鳥はむすっと、射殺すかのような静かな眼差しを向けていた。
 そして筧自身もまた、そんな本来の意図とはあさっての方向に、実際その瞳は猛烈な怒り
で満ちていた。


 飛鳥崎市内、地下水道。
 皆人以下仲間達を逃がし、先に行かせた睦月は、一人この強敵M(マッシュ)・ムーンを
押さえるべく闘っていた。左手の鋏型アームで相手の身体を捉え、万力の如くギリギリと締
め付ける。
「ぐぅぅっ……!? は、離せえ!」
「離すもんか! このまま、捩じ切って──」
 だがそんな壁際の攻防、一瞬の隙を突いて維持していた睦月の優位も、次の瞬間ムーンが
身体中の触手達をこの隙間に捻じ込んだことで遂に崩れた。ぐぐぐっと触手達の質量でもっ
て鋏型アームによる拘束を緩め、同時に睦月に向かって鋭い鞭打を叩き込む。
 対する睦月の方も、そんな反撃に際して敏感だった。鋏型アームの圧が押し返され出した
のと頭上から向かってくる触手達を目の当たりにした瞬間、大きく後ろに跳びながら地面を
転がり、このムーンからの連続攻撃をすんでの所でかわす。左手の武装は、着地の瞬間には
解除されてデジタルの粒子に還った。
「ぜえっ、ぜえっ……!」
「はあ、はあっ……!」
 二人は一旦、互いに大きく距離を取り直していた。互いに激しく肩で息をつき、油断なく
相手の動きを見逃さないよう警戒している。
「やってくれたな、守護騎士(ヴァンガード)。小賢しい真似を……」
 ムーンの方は、彼にその仲間達を逃がされてしまったことに、強い焦りを感じているよう
だった。間違いなく一行はあの先へ、中央署の敷地内へ向かった筈だ。急いで追い付かねば
ならない。だがこのまま、守護騎士(こいつ)を放っておく訳にもいかない。
『……』
 じりじりっと少しずつ互いに間合いを図りながら、円運動のように摺り足で動き、二人は
次の攻撃の為の“溜め”を作った。ムーンは両腕や肩、背中など身体中から触手達を持ち上
げては蠢かせ、睦月も相手への警戒を怠らずに視線を向けたまま、右手のEXリアナイザを
操作して新しく武装を呼び出す。
「──っ、らあッ!!」
『ELEMENT』
『SLASH THE LIZARD』
「おおおおッ!!」
 先程とは比べ物にならない数の触手達が、睦月に襲い掛かった。それを睦月は、サポート
コンシェルで強化された斬撃でもって次々に叩き落とす。
 ぬうっ……?! 自身の触手達が切り刻まれ、地面に転がってゆくのを見ながら、ムーン
はまた少し焦った。その間にも睦月は闘志を剥き出しにしながら懐に飛び込もうとし、堪ら
ずムーンは、大振りに叩き付けられたその高エネルギーの斬撃を大きく横っ飛びしながら避
け、再び間髪入れず触手達を放つ。睦月も睦月で、そんな入れ替わり立ち替わりの激しい攻
撃にしっかりと対応し、多少掠ろうとも身を捌いて避けた。相手が近距離よりも中~遠距離
での戦いに持ち込みたいと見抜いていたからこそ、それでも尚、再度地面を蹴って肉薄しよ
うと試みる。
「ちっ……!」
 それは一対一によって研ぎ澄まされた、ある意味極まった戦いだったのもしれない。無数
の触手と、更に近寄らせまいと振り撒く胞子攻撃に、睦月は中々思い通りに肉薄することが
できなかった。それでも最初の二の轍は踏むまいと、即座にタートル・コンシェルの盾を前
面に構えて突っ込むことで、ある程度この細か過ぎて避け切れない胞子らを防ぐことができ
たのだが。
「……くそっ! 中々近付けない。触手は軌道が読み難いし、胞子は細か過ぎるし……」
『そうですね。相手の火力範囲が広過ぎます。このまま持久戦をやっても、先に参ってしま
うのは私達でしょうし……』
 繰り返し繰り返し胞子攻撃を受け、防いでくれたタートルの盾も、度重なる衝撃と火花で
もう長くは持ちそうになかった。そうでなくとも睦月の全身、パワードスーツには、ムーン
が放つ攻撃で掠ったダメージの痕が至る所に刻まれている。
「もっとあいつの攻撃を避けられればね……。何かいい方法はないかな?」
『攻撃を……? でしたら』
 するとどうだろう。次の瞬間、EXリアナイザ越しにパンドラと話していた睦月が、何や
らまた手元のホログラム画面に目を遣って、ぺいっと盾を投げ捨てると操作し始めた。同じ
く相手を攻めあぐねていたムーンも、この動きに気付き、そうはさせまいと大きくしならせ
た触手の鞭を振り上げる。
『ORCA』『OCTOPUS』『SQUID』
『SHARK』『JELLY』『TUNNY』『PEARL』
『TRACE』
『ACTIVATED』
『TRITON』
 だがその判断は、僅かに数拍遅かったのだ。放った触手が届くまでに、睦月は選択したサ
ポートコンシェル達の力を全て頭上に撃ち上げ、直後七つに分裂して高速回転する水色の光
球がこれを弾き返しながら、彼の身体へと降り注ぐ。
「……」
 はたしてそこに立っていたのは、また一つ新たな力を纏った睦月の姿。
 水の強化換装・トリトンフォーム。水棲系生物をモチーフにしたサポートコンシェル達の
力を纏う、新たな姿である。
 全身のパワードスーツは薄海色(ライトブルー)を基調としたものに。武装も両腿と腕に
それぞれ一本ずつガジェットらしき筒が装着されてはいるが、手にしているのは銛を思わせ
る長槍だけで、全体のシルエットは寧ろ白亜の基本形態よりもスマートになっている。
「……ぬうんッ!」
 だからどうした!? そうとでも言わんばかりに、再びムーンが無数の触手達を操って攻
撃を仕掛けてくる。
 大きくしなり、とてもではないがその全ての軌道を読み切ることなど出来ない──。
 しかし新たな力を纏った睦月は、それが出来てしまったのだ。直前スローモーションのよ
うになったセカイで、彼はたっぷりと余裕を持ったかのようにこれらを見上げると、実に必
要最低限の動きでこれらを全てかわしてしまったのだ。
「何っ?!」
 予想外の事態に、驚愕するムーン。だがそれよりも早く、睦月は槍を一閃するとこちらへ
ゆっくり近付き始めたのだ。動揺しながらもムーンは再び鋭い触手達の鞭打を放ち、或いは
無数の胞子を放って四方八方からこの不届者を取り囲む。
「──」
 だがそんな、普通ならば最早回避不可能なほどにばら撒かれた攻撃を、睦月はあっさりと
全て回避してみせたのだった。まるでこちらの攻撃の一つ一つが、全て正確に分かっている
かのように、流れるような歩みと体捌きで近付くことすら止めずに。
「な、何故だ!? 何故当たらない!?」
『ふふん。トリトンフォームは感応能力に特化した形態──通常よりも大幅に五感が研ぎ澄
まされるの。どれだけそっちが大量の攻撃をばら撒いたって、今の私達には全部手に取るよ
うに視えちゃうんだから』
 何……だと? ホログラム画面の中で、そう得意げに胸を張るパンドラの言葉に、ムーン
は驚愕の様子で硬直していた。
 道理でことごとく避けられている筈だ。この私の、無数の攻撃を見抜いている……?
「くっ、そおおおおおッ!!」
「……無駄だ。やけくそになった攻撃なんて、それこそ止まったように視えるのに」
 負け惜しみのように、そう叫びながら強く触手を叩き付けてくるムーン。
 しかしそんな一撃さえも、今の睦月には文字通り止まって視ていたのだ。トリトンフォー
ムによって極限まで高められた五感が、さもコマ送りの映像を見せられているかのように、
相手の攻撃の一切を映してくれる。タンッと軽く横に動くだけで、この鞭打つ相当な質量の
筈の攻撃は、全く見当違いの方向を叩いていた。同じくスローモーションのセカイの中で驚
愕しているムーンの身体を、一旦脇に引き寄せて放った槍の一突きが、思いっ切り火花を散
らしてこれを吹き飛ばした。
「ギッ──ギャアアアアーッ!! ……ぐうッ!」
 されどムーンも、同じ手が通じないということだけは解ったのだろう。まともに一撃を入
れられて地面に転がるのもそこそこに、彼はそのまま、慌てた様子ですぐ近くの水路へと飛
び込んでしまったのだ。ドボンという音と共に、睦月とパンドラは数拍棒立ちになる。
「……しまった。逃げられた」
『大丈夫ですよお。トリトンフォームは水の力。水中戦ならこっちも望む所です』
 ムーンは水の中に潜ると、慌ててこの場から退散しようとしていた。正直な話水と言って
も下水であり、屈辱でしかなかったが、あのまま戦っていては確実に倒されていた。
(拙い。まさか私の攻撃が全部見切られるとは。ここは一旦、体勢を立て直して──)
 待てぇぇぇ! だがちょうどその時だった。クラゲという水棲系モチーフよろしく、水路
の奥深くまで潜りつつあったムーンを、他ならぬ睦月こと守護騎士(ヴァンガード)が追い
かけて来たのだ。何──?! ボコッと思わず泡を吹くムーンであったが、どうやら相手も
潜水能力があるらしいと悟って覚悟を決める。
「くっ……。どこまでもしつこい奴らだ!」
『逃がしませんよ!』
「ここでお前を、倒す!」
 故に第二ラウンドは、水中へとその舞台を移して。
 激しく水流のジェットを噴射しながら、両者は互いに何度となくぶつかった。槍と触手を
腕に巻いた螺旋状のドリル。或いは雲丹のような機雷や水流弾を撃ち合いながら、二人は再
び水面へと向かって上昇してゆく。
「──だはっ!?」
 しかしその結果は、最後の最後に競り負け、ムーンが先に地上へと打ち揚げられる格好と
なった。どうっとダメージを受けて地下水道の通路に転がり込み、震えるようにして何とか
急いでその身体を起こそうとする。
『マスター!』
「うん。これで、止めだ!」
 そして直後、睦月達もやや遅れて水面から跳び上がり、着地もそこそこにEXリアナイザ
を取り出した。右手にはこの短銃型のツール、左手には持ち替えた主装の槍。ムーンに出来
た隙を逃すまいと、必殺の一撃をコールする。
「チャージ!」
『PUT ON THE ARMS』
 槍の中心部のホルダーにEXリアナイザを取り付け、轟々と蓄積され始めたエネルギーと
共にこれを構える。起き上がったムーンに狙いを定めた、投擲のポーズだ。
 本体のパワードスーツを伝い、EXリアナイザへ。水流を思わせる大量のエネルギーの奔
流が、槍の石突部分へ集まってゆき、さながらジェット噴射のように今か今かとその放たれ
る時を待ちわびる。
「……ぬんッ!!」
 そう、ギリギリまで待って引き付け、放たれた睦月渾身の一投。
 ジェット噴射の要領で加速したトリトンフォームの槍は、真っ直ぐにムーンの下へと襲い
掛かって行った。これを当のムーンは慌てて、すんでの所で転がり回避したのだが……驚く
べきことに、この槍はそれでも尚、自動的に空中で方向転換して彼を追い始めたのだ。
「な、何ぃ?!」
 自動追尾。この必殺の槍は、一度放たれれば、狙った相手を刺し貫くまで何処までも追い
かけ続ける。最初こそムーンはあっちに転び、こっちに転びをして何とか逃れようと抵抗し
ていたが、遂には槍の側にぐるぐるとジェット水流の渦に取り囲まれ、真下からすくい上げ
られるように貫かれたのだった。
「ば、馬鹿な……!? プライド様、申し訳──」
 そんな最期の言葉も言い切れぬまま、身体中にひび割れを起こしてからの爆発四散。
 断末魔の叫びを放ちながら、かくしてムーンはこの地下水道にて消滅した。役目を果たし
た槍は、これも予め決められたかのように睦月に下に戻って来、静かに肩で息をするこの主
によって暫しじっと掴まれたまま見下ろされる。
「……はあ、はあ。し、しんど……」
 そうして次の瞬間、どうっと。
 全力を出し切った睦月は、変身を解除し、その場に大きく倒れ込む。

「か、筧刑事が出たぞー!」
「侵入された! 今、白鳥警視の部屋に!」
「え!? ど、どういう事だ? 彼なら、さっき署の前に……」
 突如として自分達の懐、中央署内部に現れた容疑者・筧兵悟に、居合わせた者達は騒然と
なった。ちょうど白鳥ら幹部組のオフィスに近い場所を通っていた者、異変の報せを聞いて
駆けつける者。その内訳はまちまちだったが、彼らの多くは総じて強い戸惑いでもって流さ
れていた。
「……やれやれ。こうも力押しでやって来るとは。そのドアの修理代も、国民の税金が使わ
れるんだぞ?」
 にも拘わらず、現場に居合わせた当人──部屋の主・白鳥は、たっぷりと数拍の間を置い
たかと思うと、そう悠然とした様子でこの闖入者を迎えたのだった。
 角野以下、周りの部下達がじっと筧へ銃口を向けている。一見すれば彼にとり、絶体絶命
のピンチの筈だ。なのに白鳥同様、彼が微動だにしていないのは、自身がなまじ歴戦の猛者
だからか。或いは周りの人間達さえ目に入っていないのか。
(ど、どうすんだよ?)
(分かんねえよ。少なくとも、許可の一言でも出して貰わないと……)
 事実、駆けつけた署員・刑事達の中には、このままなし崩し的に筧を撃ち殺してしまうこ
とに躊躇いがあった。もっと他の捜査中、明らかに抵抗する凶悪犯などならいざ知らず、彼
は元々自分達の身内だ。詳しい事情──今回の一連の事件の“真実”を知らない者達からす
れば、正直自らがその引き金をひくには、後々のリスクが大き過ぎる。
 何よりも、末端の刑事達の少なからずが、まだ何処かで思っていたのだ。
 あの兵(ひょう)さんが、本当に自分の相棒を……?
「全部、聞いたぜ」
 だがそんな白鳥の小言、内心躊躇っている元同僚達の胸中など意に介す素振りもなく、筧
はあくまでギロッと白鳥を──今回の謀略の黒幕を睨み付けて口を開いていた。
 一瞬、一瞬だけだったが、白鳥が僅かに目を細めた気がした。
 案の定、ギャラリーも随分と集まってきた。ちょうどいい。筧は一度ざっとこちらに銃口
を向けてくる面々、今や本当に“敵”か“味方”か判らない刑事達を見渡してから、予め用
意・整理しておいた情報の全てを語り始める。
「結論から言うと、由良を殺したのは俺じゃねえ。あいつはこの街に巣食っているある連中
の尻尾を掴もうとして、消されたんだ。“越境種(アウター)”──以前から巷でも噂にな
ってる、怪人どもの正体だ。そして奴らの頭目の一人が、この中央署の上層部に潜り込んで
る。由良は、その事に勘付いたせいで殺された。口封じの為にな」
 アウター? それって、例の都市伝説の……?
 最初こそ、やはり面々はにわかには信じられないといった様子だった。
 よりにもよって、そんな不確かな噂話を持ってくるなんて……正気か? それこそ少なか
らぬ者達が、荒唐無稽だと筧の発言を笑い、いよいよ彼もおかしくなったかと呟き合った。
「そうだろう? 白鳥。いや──幹部プライド」
 故に次の瞬間、続いて畳みかけるように筧が言い放ったその言葉に、一同は思わず目を疑
ったのである。まさか……。恐る恐るといった様子で、彼らがそう名指しされたこの部屋の
主・白鳥の横顔を見遣る。
「……。何のことかな」
 ただ当の本人は、あくまでしらばっくれる心算らしかった。
 角野以下彼の取り巻き側が、筧をきつく睨み付けている。部屋を滅茶苦茶にされて、しか
もあらぬ疑いを掛けられたとでも言わんばかりに、その態度はあくまでやれやれと肩を竦め
てみせるほどの余裕さだ。
「ま、そうだろうよ。だからそう来るだろうと思って、こっちも証拠を持って来た」
 すると筧は、懐から一台の汎用型デバイスを取り出した。司令室(コンソール)を去る時
に、皆人達から受け取った物だ。
 白鳥が静かに目を細める。筧はささっと画面をタップし、場に居合わせた皆に件のデータ
を見せたのだった。
 映し出されたのはとある映像。ミラージュとその召喚主・二見が、蝕卓(ファミリー)を
束ねる七席が一人、怪人態のプライドに追い詰められてゆく様子を映したものだ。
 単眼の銀仮面を被った不気味な紳士。その手には同じく銀縁で装飾された法典らしきもの
を開いており、次の瞬間何処からともなく彼らに向かってギロチンの刃が降り注ぐ。
「何だ……ありゃあ?」
「まさか、本当にいたってのか? 例の怪人は」
「そ、そんな訳あるかよ。作り物じゃねえのか? 今日びあんな映像、作ろうと思えば作れ
るだろうが」
「でも、あの仮面の化け物──プライドって呼ばれてる奴の声……警視に似てません?」
 ざわざわっ!? だからこそ、筧の語り始めたその荒唐無稽な疑惑は、徐々に皆の中で確
かなものへと膨らみ始めて。
 最初、そう恐る恐る疑問を口にした若い刑事が、ギロリと角野に睨まれる。それがある意
味で逆効果だった。何よりも同僚殺しとして追われている筧が、こんな嘘八百の物語を訴え
る為に乗り込んできたとは思えない。少しずつ、一つ一つ頭の中のチェック項目を塗り潰す
ように、皆の白鳥らへの視線が明らかな疑義へと変わる。
「……いつからだ? いつからお前らは、入れ替わっていた?」
 これで仕込みは充分だろう。筧はそう判断して、デバイスを持ち替えると、ホルスターに
忍ばせていた拳銃を抜き放った。先に銃口を向け、警戒していた刑事達が動揺する。
 だがそれをサッと制したのは──他ならぬ白鳥自身だった。たとえどれだけ荒唐無稽に思
える話でも、一旦他人に、これだけの人数に知れ渡ってしまえば最早止められない……。
 角野達が歯噛みして、今にも場の面々を“消して”しまおうと疼くのを、白鳥は機先を制
して止めさせた。ふう……と深く静かに息をつき、次の瞬間、酷く冷たい眼をしてこの長年
の好敵手(ライバル)に問い返す。
「それは、そんなに重要な事かな?」
「化け物のお前には分からねえだろうがな……。だが少なくとも、お前らが潜り込んだ時点
で、その元の人間が──俺達の仲間が消されてるんだろうがよ!!」
 ざわわわっ!? つまりはそういう事。駆けつけて来た周りの刑事達が動揺していた。
 彼があそこまで怒っている。彼の語った、この組織に潜り込んでいるという話。
 そういう事なのか?
 では本当に、警視らはずっと前から人間じゃなく、自分達を……?
「……七年くらい前かな。長かったよ。一度にゴロッと変わってしまえば怪しまれるから、
少しずつ少しずつ、取り換えてゆく必要があった」
『──』
 白状。場の面々は、信じられないといった様子だった。
 ざっと見渡してみる限り、誰も彼も皆見知った顔だ。長らくこの中央署で、所属こそ違い
はあれど、ずっとこの街の平和の為に戦ってきた仲間達の筈だった。筈だったのに……。
「本当、舐められたものだよ。複数人に話せば、逆転できるとでも思ったのかい?」
 しかし当の白鳥は、あくまで平静そのものだった。寧ろ自らの正体がばらされたというの
に、口元には不気味な弧さえ描いて、自身も次に瞬間懐に手を入れると、一台のデバイスを
取り出してみせる。
「!? それは……!」
「ああ。元々君が持っていたデバイスだ。紛失したものを、回収しておいた」
 はたしてそれは、筧が冴島達と共に拉致された際に奪われた、彼のデバイスだった。
 場に居合わせた面々が呆然と立ち尽くす中、白鳥はこの画面をタップしてとある情報を表
示させた。ついっとこちらに示されて、筧が思わず、無言のまま目を見開く。
 着信履歴だった。そこには確かに、彼もよく知る人物が、最近自分に電話を掛けてきた事
が記されていたのである。
『──』
 七波由香。
 にいっと邪悪に微笑む白鳥の、その手の中に、筧と今は亡き由良にとって大切な証人でも
ある彼女の名前が、そこには映されていたのだから。
                                  -Episode END-

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  1. 2018/11/13(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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