日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「フェスティバル」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:星、裏取引、激しい】


 正直な所、私は幼い頃から騒がしいのが苦手だった。
 今でこそ社会人になって長い──周囲とそれらを摺り合わせて生きることにも慣れたが、
未だ意識する度、内心もやもやとした感触が現れては増幅してしまう。
『がんばれ、ニッポン!』
『一生に一度の感動を、あなたと』
『○○ジャパン快進撃! 目指せ金メダル!』
 現在進行形の話題を挙げるなら、街は至る所でお祭り騒ぎに浮かされている。四年に一度
の世界的なスポーツの祭典が、今年はこの国をホストに開催されているのだ。何でも国内で
開かれるのは実に半世紀ぶりだそうで、一部人々の熱の入りようは尋常ではない。
 テレビや新聞、ラジオ、ないしインターネット上に至るまで。
 満を持して行われた先日の開会式以来、各種メディアでは連日この大会関連のニュースが
次から次へと取り上げられている。画面を点ければ、紙面を捲れば、毎回誰かしらの国内出
身選手の活躍が報じられ、中には既にメダルを獲得した者も何人かいる。彼らは十中八九、
大会後には文字通り“英雄”として祀り上げられるのだろう。そうしてまた暫くは、テレビ
等も流すネタには困らないという寸法だ。
「……」
 だが、そんな世の中の熱気に対して、私個人はと言えば少なからず距離を取っていた。こ
うした諸々の動きを、何処か冷めたように観ては息を潜めていた。
 騒々しい。
 正直な気持ちを言えば、その一言に尽きる。
 それは何も、別にこの大会だけに限った話ではないが……私は平穏な日々が好きだった。
なるべく波風の立たない、無暗やたらに消耗させられるようなイベントの少ない生活を送る
ことが目標だった。何せ実際はそう願っても、他人や周りの環境がそうはさせてくれないの
だから。こちらが望まずとも、トラブルの類はいつも突然やって来る。尤も私自身の周囲に
まつわるそれは、総じて日頃の仕事に関するもの──後輩のやらかしたヘマや、上司からの
無茶振りといった出来事への対応ではあったが。
(……これが少しは、会社(うち)の懐が温まるんならまだマシなんだけども)
 半世紀前にも開かれたというこの祭典の折には、自分は生まれてさえいなかった。ただ聞
きかじる程度の知識の限り、前回その後、この国は急速な発展を遂げたという。
 私は特段何かスポーツを嗜んでいる訳でも、熱心なファンでもない。だからこそ折角世の
中を引っ掻き回して行う一大イベントなのだから、国内のインフラ整備や経済への梃子入れ
といった面で恩恵が無ければ、到底釣り合わない筈だと思う。
 なのに実際はどうだ。開催が決まればお上達は金を出し渋り、エコロジーな大会運営など
というふわっとした言葉を持ち出して言い訳を始める。そもそも誘致の時点で、もう何年も
前からじゃぶじゃぶとお金が使われてきたんじゃないのか? 言ってしまえば“接待”の為
に、自分達が必死になって稼いでは取り上げられてきた税金が注ぎ込まれてきた訳だ。
 今更、何を言ってやがる……?
 だから最初、テレビで首長の会見を見た時は、正直腹が煮えくり返る思いをしたものだ。
その後も情報として流れてくるのはいわゆるキャンペーン的なものばかりで、具体的にどん
な利益が自分達にあるのか、結局彼らは話してくれることはなかった。思えばその時点で既
に、私という人間の中でのこの祭典に対する熱は、冷め切っていたのだろう。

「──いやあ。また勝ちましたね、○○ジャパン!」
「そうだな。これだけ予想外に白星が続くと、後が怖いが」
「ははは。課長はビビり過ぎですよ。せっかくの五輪なんだから、調子のいい時はパーッと
応援してあげなきゃ!」
 勿論、大会に臨む選手や関係者達にとっては世界の大舞台であることには変わりない。仮
にどんなパワーゲームがその背後で繰り広げられていたとしても、彼ら自身に求められるの
は、その本番で最大のパフォーマンスを発揮すること。ただそれだけである。私の感慨は私
の感慨に過ぎないのであって、彼らにまでその矛先を向けるなんてのは筋違いだ。
「……」
 しかし、と私は思う。
 ああいった祭りをぶち上げるにしても、せめて興味のない者達まで巻き込むような真似は
して欲しくなかった。楽しみたい者だけが楽しんで、そうではない者は放っておいて欲しか
った。静かに過ごさせて欲しかった。
「? どうしました、先輩? そんな難しい顔して」
「うん? いや……」
「あ~……。いいんだいいんだ、放っておいてやれ。こいつは昔っからこうだからな。仕事
以外のことは、てんで無関心なんだよ。全員が全員、お前みたいにお祭り騒ぎをしたいとは
限らないんだ」
 夜、飲みに誘われ、上司もいる手前付き合いでやって来たバーの中。先ほどから熱く今回
の大会について語るこの後輩に対し、彼は苦笑いを浮かべながらも、私の思いを代弁してく
れた。内心面倒臭い奴だな等と思われているのだろうが……仕方がない。お互い様だ。私は
酒も静かに飲みたいクチだ。元々口下手というのもあって、雑談を肴にすること自体目的で
はないというのもあるが。
「ふぅ~ん……? そうッスか」
 一見するとそう引いたように見えたこの後輩は、明らかにつまらない様子だった。事実周
りの他の面子も、少なからず私に冷めた眼差しを送ってくる。対する上司も、自分が一旦間
を取り持とうとした気まずさからか、今度は私に小声で注意(フォロー)を寄越す。
「天野。せめてアンテナくらいは張っとけ。お前に興味がなくとも、関連のニーズを見落と
しちまったら、その分の利益は他社(よそ)が食っちまうんだぞ?」
「……ええ。承知しています」
 もう何年も前、今回の祭典を誘致すると発表した当時の首長は『国民の皆さんにもう一度
夢をみて欲しい』と語った。だがそこが、私が冷めているもう一つの理由だ。要するにある
種の、至極個人的な違和感だったのだ。

“何故国民全員が、同じ夢をみることが前提なのだろう──?”

 半世紀前の前回ならいざ知らず、現代の価値観は多様化している。それぞれの「好き」は
明らかに枝分かれして久しいというのに、彼はさも私達に同じ方向を見ていればいいんだと
言っているように思えた。
 ……何だかんだで私が捻くれ者で、素直じゃないからなのかもしれない。
 だがあの時の言葉は、あの頃から続いているこの社会の空気は、そこに与しないような者
は国民ではないと暗に圧力を掛け続けてきたのではないか? ただでさえ不透明極まりない
湯水のような金の使いようで、ホスト国が決まっていると知られるようになったのに、尚も
自分達の思いがその他大勢のそれと一致していると信じて疑わない。そんなあまりの横柄さ
が、無頓着さが、私は気に食わない。
 勝手にやっておいてくれ。私は私で、今まで通りの日常を過ごす。こちらも、そちらの邪
魔はしないから……。
 なのにそんなささやかな願いさえ撥ね退け、喧しく広告を打ち散らかす。感動を、一体化
を押し売って、結局儲けの大半は音頭を取った連中のもの。
 課長の言うように、確かに今回のそれは、多くの企業にとって商機かもしれない。
 だが人の夢と書いて“儚い”と読む。祭りはどうしたって一時のもので、過ぎ去った後に
は虚しさばかりが残るのではないか? 何年もの歳月と莫大な費用、少なからず動員された
個々のヒトをその背後に注ぎ込んだとして、一体何がもたされるのだろう? そもそもそん
な資金があるのなら、もっと着実に私達の賃金に落とし込んでいった方が、長い目でも皆が
幸せになれたんじゃないのか……?

「じゃあ、お疲れッス」
「ご馳走さまでした~!」
 夜もすっかり更けて、バーを出た私達は駅前で解散した。暗くなっても街には明かりが点
き続けており、未だあちこちに行き交う人々を確認することができる。
「……お疲れ様です。帰り道、お気をつけて」
「おう。お前もな。じゃあまた明日」
 一人また一人、課長を含む皆がサアッと人ごみの中に捌けて行ったのを確認してから、私
も独り歩き出した。少し頬が温かく、ぼんやりとする。結局他人とワイワイ騒ぎながら飲む
のは苦手なままだが、それはそれとして、自分なりに気持よく酔う為の飲み方くらいはとう
に確保しているつもりだ。
(うん……?)
 ちょうど、そんな時だったのだ。何やら道向かいの交差点に、騒々しい人だかりが出来て
いたのは。
 私は静かに眉を顰めた。どうやら連日の祭典を、すぐ頭上のパブリックビューで観戦した
後、歩行者天国にされた此処で騒いでいたらしい。
 こんな遅くまで元気だな……。三十路も超え、今やアラフォーに近付きつつある我が身と
比べつつ、そんな人だかりの面々の若さを苦笑(おも)う。
 しかしどうも様子がおかしい。暫く遠巻きから足を止めてこれを眺めていると、その中に
ふと明らかに怒声の混じったやり取りが聞こえてきたのだ。
「──あ~……。清水ちゃん、負けちゃったなあ……」
「はは、そりゃそうだろー。まだ二十歳にもなってねえんだぜ? それに大会前にコーチが
挿げ変わっちまったんだ。実力を出せっていう方が酷だろうよ」
「あ?」
 最初は他愛もない、下手の横好きの批評ごっこだったのだろう。
 だがそれがいけなかった。相方の悔しがる様子に、半分からかい気味にそう吹っ掛けたこ
の一言が、彼の怒りに火を点けてしまったのだ。
「じゃあ何か。清水ちゃんじゃあ勝てなかったって言いたいのか」
「勝てないも何も、結果がそうだったろ? 運も実力の内って云うじゃんか。今回はそうい
う環境を引き寄せられなかったってのも、敗因だって言ってんだよ」
「そういうことじゃねえよ! お前、端っからそういう腹で観てやがったのか!?」
 つい熱が籠って──と表現するには流石に度が過ぎる。次の瞬間、応援していた少女選手
の敗退を惜しんでいた方の男が、それを揶揄した連れのもう一人の男を怒鳴る勢いがままに
押し倒したのだった。
 ダァンと、夜のアスファルトに彼が強かに打ち付けられて倒れる。周りの者達も思わず目
を見開いて振り返ったが、同時にこの当人がカッと眉間に血管を浮き立たせて起き上がった
かと思うと、自分を見下ろしていたこの相方をぶん殴った。
「きゃっ!? な、何……?」
「お? 喧嘩か?」
「ははは……。マジかよ」
「いいぞ、やれやれ~!」
 それから後は、人ごみを観客にした、取っ組み合いの殴り合い。罵声の応酬。
 本来なら誰かが止めに入って然るべきなのだが、祭りの余韻がまだ冷めやらぬのか、殆ど
の通行人は見て見ぬふりをしているか、野次馬に混ざっている。中には二人の喧嘩をその余
興程度にしか捉えていない者も少なくなく、無責任に煽ってみたり、一部始終をスマホで撮
影してニヤニヤと笑っている連中さえいる始末。
「……」
 私は口の中に錆び付いた、酷く苦い味を感じながら、すぐにその場で踵を返した。
 首長。これがあんたの言っていた祭典か? 皆が同じ方を向いて当然だと語った夢か?
 踵を返す際の肩越しに、彼らの拳や唇から赤いものが奔ってゆくのを見た気がした。二人
を止めに入るべきかと一瞬迷ったが、人ごみが多くて距離があり過ぎる。第一あの乱痴気を
取り締まるのは私の仕事じゃない。……あの中の誰かが動いてくれるだろう。或いは騒ぎを
聞きつけて警察が割って入るか。事情を話せば解ってくれるだろうが、一瞬でもあんな連中
と一括りにされた上で取り調べられるなんて冗談じゃない。明日も仕事がある。折角の酔い
が、台無しになる……。

 選手やコーチ、周りの関係者達に罪はない。このスポーツの祭典を楽しむファン達も、そ
の大半が善良ないち市民だと信じている。
 そんな彼らに、ましてや実際に競技に臨む当人らに、私はわざわざ冷や水を浴びせに行こ
うとは思わない。だがああした現場を見て……確信した。再確認する。やはり私は、この手
の、皆一括りにされて騒々しいイベントとは反りが合わないらしい。

 心・技・体を磨き、己の限界に挑戦する姿は素晴らしい。そこへ更に、世界一なり屈指と
いう功績を挙げることが出来れば、まさに彼らは“英雄”と呼ばれるに相応しいのだろう。
 だがそれは……彼ら選手自身が凄いのであって、彼らを応援している、観ている自分達が
凄いのではない。いわばしばしば安直に、彼らの知られざる努力と威を借りて、己がちっぽ
けな自尊心を充たしたいというだけのエゴだ。
 国威発揚。俺達、○○人は最高だ。国家の威信と、それら相互のぶつかり合い。
 そもそも祭典の歴史を辿れば、大昔からそんな目的だったそうだから、当然の成り行きと
言えば当然か。
 競技の美よりも拝金で、平和の理念よりもパワーゲームで。
 だからずっと違和感だったんだ。言っていることとやっていることが違うから、私はいつ
だって冷め切っていたんだ。
 ──不信。
 所詮根っこは、戦争の代用品(かわり)なんだろう? と。
                                      (了)

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  1. 2018/11/11(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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