日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「止マリタイ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:携帯、終末、可能性】


『緊急速報です。現在地球に、巨大隕石が接近しています』
 終わりの始まりが告げられたのは、そんな風に突然で。
 大型パネルに映し出された、地球へと迫る火の玉のような岩塊のイメージCGを背景に、
そう画面の向こうのアナウンサーが努めて淡々と原稿を読み上げている。
『本日未明、ISA──国際宇宙局の発表によりますと、過去最大級の隕石が現在、地球に
向けて接近しており、同局の計算ではおよそ一週間ほどで大気圏を突破、地球に激突すると
して、各国に警戒を呼び掛けています。仮に落下地点が大都市周辺の場合、その被害は甚大
なものになると予想され……』
 曰く、その巨大隕石は計算上、地球の大気圏でさえも燃え尽きさせることが出来ないほど
の大きさと重量らしい。仮に想定以上にこれらが減耗させられたとしても、破片群となった
それらの飛散は避けられないだろう。そうなれば益々落下地点を特定するのは難しく、寧ろ
被害は広範囲に及ぶ可能性がある。
 画面越し、その突然のニュースを目の当たりにして、世界中の人々は思わず自らの目と耳
を疑った。或いは驚愕に固まった後、酷く混乱し、その波紋は急速に各地へと拡がってゆく
ことになる。

「──何でよりによって、今なんだ?」
 イトカワが辞表を出した時、自身のデスクに座る上司は露骨に嫌な表情(かお)をした。
いつもの気だるく無駄に睨み付けるような眼でこちらを見上げ、デスクの上に置かれたそれ
を改めて手に取ろうともしない。
「ニュース、観ませんでしたか? 来週には隕石が落ちてくるそうです」
「知ってるよ。だから今、うちもその皺寄せを受けてるんだろうが」
 尤も、小言の一つや二つ飛んでくることくらいは、イトカワも重々解っていた。その上で
自身の感情を、普段のように表向き殺し、そう淡々と理由を述べるに留める。あからさまに
苛々した様子で、上司はギリッと歯を噛み締めていた。
「お前、一体社会人何年目だ? 世界が滅びますから辞めます、なんて子供みたいな理由が
通用するとでも思ってんのか? 雨が降ろうが槍が降ろうが、世の中はそう簡単に終わりは
しねえんだよ。今だってお偉いさん達が色々頑張ってるんだろう? ただでさえあんな話が
出てきて、あちこち混乱してクソ忙しいってのに、よくもまぁこんなタイミングで辞めるだ
なんて言えるな?」
 ああっ?! 元より理性的な人物ではなかったが、上司はそうここ連日の鬱憤をぶちまけ
るかのように、とうとう怒鳴り散らした。完全に八つ当たりである。しかし彼とイトカワの
やり取りを傍目に見ていたオフィス内の同僚達は、こちらが肩越しに僅かに見返すと、蜘蛛
の子を散らすが如くサッと一斉にその視線を逸らしてくる。
 ──迷惑掛けるんじゃねえよ。
 ──何やってんだよ。空気読めよ。
 言外にそう訴えてきているように思えた。だがイトカワは、もう此処に戻る気はない。少
なくとも彼にとっては、先日のニュースは大きな切欠になったのだと思う。世界が終わる。
文字通りそんな現実が確からしいと聞かされて、それまで何とかギリギリの所でしがない勤
め人を続けていた彼の気持の糸が、プツッと切れてしまったのだ。
「じゃあ、辞めていい時期なんてあったんですか」
 故にたっぷりと間を置いて、イトカワは言う。どうせ最後だから、そんな思いで今日この
瞬間に臨んだからこそ、少しぐらい反発してみせたっていいと自身に言い聞かせた。
 ずっと前から、解っていたことだ。別に自分は……自分だから必要とされていた訳じゃあ
ない。ただこの会社にとって、必要な人手の一つに過ぎたなかった、それだけだ。体よく使
われていると分かっていながら──それが働くってことなんだとその都度自分に言い聞かせ
て宥め、今まで続けてきた。
 でももう限界だ。来週には滅んでしまうのなら、もう此処に留まり続ける理由もない。
「てめえ……」
 そして案の定、上司はこめかみに青筋を立てて静かに震えていた。いつもならその剣幕と
後の事を考えてここまで口答えするなどあり得なかったが、今回に限ってはやけに冷静に、
何処か遠い出来事のようにイトカワには見えていた。
 結局きちんと受け取ってはくれなかったが、まぁ予想はできていた。上司が何とか激情を
ぐっと呑み込んで「じゃ、じゃあせめて、最期まで働いたらどうだ?」などと言い始めてい
たが、イトカワはもう聞く耳を持たなかった。踵を返す前に、最後に軽くお辞儀をしてから
宣言する。
「お世話に……なりました」
 報道の影響からか、やはり街のあちこちで混乱が見られる。銀行の類には人々が押し寄せ
ており、我先にと預金を下ろそうとしている姿があった。そんな終わりの時まで人ごみに塗
れたくはないと、イトカワは少し遠回りをしても、帰りの道すがらコンビニに立ち寄った。
店内のATMで多少の現金を補充し、数日分の食料を買う。どうせあと一週間もせずに世界
が終わってしまうのなら、やたらめったらな額を持っておく必要もなかろう。これ以上稼ぐ
必要も、貯えておく意味もない。
 街は報道を受けて動揺する空気と、尚も楽観的で話半分でいる人々とが混ざり合い、不思
議な猥雑さを湛えていた。
 だが……こんな感じは嫌いじゃない。コンビニの袋を両手に提げながら、イトカワは一人
静かに微笑(わら)う。仕事から解放されたと思っただけで、こんなにも気持ちが安らかに
なるものかと正直驚いた。随分と吹っ切れた行動を取ったぞと思っていたが、どうやら自分
という人間は平素その自覚以上に疲弊してしまっていたらしい。
「……ただいま~」
 のんびりと歩き、アパートの自室に帰って来た。当然迎えてくれる家族も、そんな代わり
となるペットも生憎といない、気ままな一人暮らしだ。買ってきた食料をざっと台所横の冷
蔵庫にしまうと、今夜の弁当と缶ビールを開け、着込んでいたスーツを脱ぎ捨てる。
「さて、と……」
 ずっと長い間、買ったけれど忙しくてまるで手を付けられていなかったゲームを起動し、
小説や漫画、音楽を読み漁っては聴き漁る。積んでいた娯楽品を、次々に時間を忘れるよう
にしてめいっぱい愉しむ。
 その片手間に弁当を頬張り、缶ビールに口を付けて。
 こんな贅沢な時間の使い方は、いつぶりだろう? 人によっては何とつまらな過ごし方だ
と哂われるかもしれないが、これでいい。生来の小市民な自分には、これくらいがちょうど
いいのだ。独りでも心穏やかな時を。……ずっとそんなささやかな願いさえ、いつの間にか
毎日の忙しさの中に忘れてきたのかもしれない。
「……」
 それでも、もっと欲を言うならば、親しい人達と最期を囲みたかった。
 だがそんなのは贅沢というものだろう。全員が全員、自分のような境地にプツッと転がり
落ちている訳もないだろうし、何より今も必死で残された時間を生きているかもしれない。
自分の勝手な都合一つで、彼らのそれを邪魔してしまうべきではないとイトカワは思った。
今この瞬間も、街の各種インフラを維持する為に奮闘している名も知らぬ人々がいる。
(父ちゃんと母ちゃん、元気かなあ……?)
 そして、はたして一体どれだけ時間が経った頃だろう。すっかり夜も更け、テレビと天井
の照明だけが点いている部屋の中で、ふとイトカワは何もない空を仰いだ。辺りには食べ散
らかした弁当の容器と、缶ビールの空き缶、消化したゲームや漫画などが転がっている。
 何となく数拍目を瞬き、次の瞬間イトカワはもぞっと卓袱台の方に手を伸ばした。置かれ
たままになっていたスマホを引き寄せると、彼は遠く離れた実家の両親へと電話をする。
「あ、もしもし? 母ちゃん? 俺。どう? そっちは元気でやってる──?」

(──地球が滅びる? そんなことが、本当に……?)
 若い頃から才媛として鳴らしてきたケニーは、ISAの公式会見を自宅のテレビで観、静
かに動揺していた。
 共同で今の財団を起こした夫とも既に死別し、今や白髪の老婆として余生を過ごしていた
彼女。しかしその日ふと目を疑うようなニュースと相対した時、彼女の中でとある思いがむ
くむくと強く湧き上がってきたのだった。
 自分はこれまで只管、お金を稼いできた。
 他人びとはそんな自分と亡き夫を“成功者”として礼賛したが、一方で自らの内心はいつ
しか拭い切りようのない虚無感に苛まれてきた。どれだけ金を積んでも、才能ある誰かを見
出して出資しても──買っても、歳月を経るにつれ失うものが増えてゆく。何より愛する夫
の病さえ、自分は結局治してあげることができなかった。
「……」
 だから彼女は思った。どうせこのまま自らも死に、蓄えてきた財産が文字通り塵に還って
しまうのならば。
 財団が、祖国を始めとした世界中の貧しい人々に炊き出しという形でその全てを放出し始
めたのは、それから程なくしてからのことである。

 世界が終わるというニュースを見た。正直眉唾ではあったが、いっそあんな話が出て来な
い限り、実際にこうして行動に移すことはなかっただろう。
「──がっ!?」
 薄闇のとある一軒家の中で、男性が腿を撃ち抜かれて倒れた。時折差しては過ぎ去る光に
照らされ、彼が既に何発もの銃弾を身体に受け、頭から血を流していることが分かる。
「逃げんじゃねえよ。もうあとは、お前だけなんだからよ」
 ひっ……! そんな這う這うの体で逃げようとする彼を追って来たのは、学生時代の級友
であるジョージだ。激しい憎悪で濁った瞳でこちらを見下ろし、両手にそれぞれ、返り血で
汚れた鉄梃(バール)とガバメントを握っている。
 隣の部屋では既に、男性の妻子が惨殺されていた。大量の血を流して寸前の恐怖で目を見
開き、暗がりの中で倒れたまま微動だにしない。
「なっ、何でだ? 何で今になって俺達に復讐を……? やっぱりお前だったのか? つい
この前にノーマンとマルコを殺ったのも」
「……ああ」
 この男性・エルヴィンとノーマン、マルコは、かつて高校(ハイスクール)でジョージに
陰湿な苛めを行っていた主犯グループだった。されどそれはもう十数年も前の話。当の本人
らはすっかりそんな過去など意識の外に置き去りにし、社会に出て妻子を儲け、ごく普通の
いち市民として暮らしていたのだが……。
「別に驚くことでもないだろう? 俺はお前達を許したなんて、一言も言った覚えはないん
だがな。ずっと……恨みを晴らせる瞬間を夢見てた。そうしたらどうだ。お偉いさん方が、
あと一週間ほどで地球が滅ぶっていう。今しかないと思ったね。だってそうだろう? この
機会を逃せば、もう俺の復讐は果たせなくなるんだから」
 はははは。自身も返り血でべっとりと赤く汚れ、ジョージは狂ったように笑っていた。そ
んなかつての旧友を、満身創痍のエルヴィンは絶望した表情で見上げている。電気を点ける
暇もない奇襲だったため、その姿を明瞭には確認できないが、少なくとも普通ではない事態
になっていることだけは解る。
「……馬鹿げてる。俺達を殺したとして、そんなの許される訳ないだろうが!」
「はん」
 しかしエルヴィンが最期にそう必死に叫んだ言葉も、彼の心には微塵も響かなかった。寧
ろ所詮は命乞いだと、不快を割り増しに鼻で哂われ、改めてその銃口を顔面に向けられる。
「許す? 誰が? 警察も法律も、地球が吹き飛んじまえばお終いだろうがよ!」
 刹那、連続した銃声。明滅する赤光。
 ジョージは次の瞬間躊躇なく、その引き金を繰り返し繰り返しひいた。

「──え? 地球が滅びるって?」
「あははは。何それー、受ける~!」
 スマホ越しにそんな緊急のニュースが流れているのを見ても、メグ達は何ら切迫した風に
感じられなかった。事実目の前に広がる街の風景は、変わらず忙しなくも賑わいでいるし、
空を仰いだ所でそれらしい落下物など見える筈もない。
 彼女は同じ学校の友人達と、この日も放課後遊びに繰り出していた。年配世代にとっては
騒々しいだけでしかない街の雑踏や猥雑も、彼女ら青春真っ盛りの若者にとっては刺激に溢
れたメインフィールドだ。
「それっぽいの、本当にあるの~?」
「うーん……。何か実際に来るの、一週間ぐらい後らしいよ~?」
 そう友人の一人が自身のスマホをタップし、ニュースが紹介された記事を読むと、メグ達
はまた大いに笑った。何だ、まだ先じゃん──そうした追加の情報が更に彼女らから実感を
奪い、寧ろその後すぐに「だった記念に撮っとこ? 隕石と一緒なんて滅多にできない経験
だろうし」と、まだ見えぬ──おそらくまだ空遥か遠くを飛んで来ている巨大隕石を想定し
て、皆ではいチーズとノリノリで自撮り。
「はははは。いやー、受けるー。お腹痛い~」
「一週間後かあ。そんなの分かるモンなんだねえ」
「でも大丈夫かな? 本当にそんなの降って来たら、マジやばくない?」
 今日は何処に行く? そうして早々に撮影タイムを終え、わらわらと繁華街の只中を歩き
始める友人らに、メグはニッと振り返りながら笑った。
「あはは、大丈夫っしょ~。きっと偉い人達が何とかしてくれるって~」

 そんな地球の命運を、実際に救おうとした者達がいる。
 世界中に巨大隕石接近の緊急ニュースが報じられた数日後、ISAの基地から部下達と共
に宇宙空間へと飛び立った、リチャード以下作戦部隊の面々だ。
「──隊長、駄目です! 隕石の速度が速過ぎます!」
「このままでは予定の距離内に追いつけません!」
「くっ……! 仕方ない、今ここで奴を破壊する!」
 未曾有の大惨事を回避する為、彼らは積み込めるだけのミサイルを積み込み、宇宙船を駆
った。目指すは現在進行形で地球に近付き続けている、件の巨大隕石である。
 しかしここで拙いトラブルが起きた。隕石が当初の軌道計算からずれ、彼らの乗るシャト
ルがこれを十分に引きつけてすれ違うという作戦が失敗してしまったのだ。地上の管制室と
部下達から、次々に警告音と焦り急く声を聞きつつ、リチャードは予定にはなかった状態で
のミサイル発射を決断する。
「ええっ!?」
「む、無茶です! この距離じゃあ当たるかどうかも分からないのに……」
「無茶なのはこの作戦自体がそもそもだろう? 結局何も出来なかったじゃあ、長官達をね
じ伏せて準備を整えさせたこっちの立場がない」
 それに、地球の命運もな──。
 こうして迷っている間にも、巨大隕石との距離はどんどん引き離されているのだ。努めて
不敵に、内心冷や汗を掻きながら、リチャードは言った。ここで自分達が躊躇い、託された
仕事を実行に移すことさえ出来なければ、一体何の為の志願か。まごついていれば、少なく
とも確実に、我々の地球(ほし)は滅ぶ。当たり所が良くても、甚大な被害は免れない。
「至急、発射準備! 直撃しなくたっていい! この際少しでも、奴を削り取って地上にも
たらす被害を抑える!」
『ラ……了解(ラジャ)っ!』
 そしてリチャードの一喝により、作戦に携わるクルー達が動き始めた。宇宙服姿で船内を
浮遊し回りながら、各種機材を大急ぎで操作、ミサイルの照準スコープに遠くなってゆく巨
大隕石の姿を捉えさせる。
(……当たってくれよ。当たらなきゃ皆が、大切な人達が……)
 撃てぇぇッ!! 心の中で祈りながら、リチャード以下面々はその引き金をひく。
 射出されたミサイルは、無重力の中で爆発の推進力を得ながら、一直線に先へと進む巨大
隕石の後を追って飛んで行った。同時対方向に反動抑制の噴射を行ったが、それでも船自体
も大きく揺れる。ぐわんぐわんと船内で掻き回されながら、リチャード達は必死に耐えつつ
その行方を計測する(みまもる)。
 一先ず発射自体は成功した。このまま真っ直ぐ隕石にぶち当たれば──いや、少し照準が
ずれてしまったか。
 最初に気付いた時は僅かな差だったが、事実そのずれは標的への着弾具合を大きく左右す
ることとなった。ひいてはその後の、地上への落下数と規模──被害の如何に関わる。
 レンズ越しに固唾を呑んで見守る管制室と、船内のリチャード達。ミサイルは失速する空
気抵抗の存在しない宇宙空間をぐんぐんと突き進み、はたして巨大隕石にぶち当たった。
 だが……どうやらその芯を捉えることはできなかったようだ。やや右側に逸れて、膨大な
爆発の火花と同時に巨大隕石の形を吹き飛ばす。
 大方、六割ほどを砕けただろうか。ミサイルからの衝撃でごっそりと質量を減らされ、更
にその衝撃で大きく進路を変えた隕石は、ぐらりと揺らぎながらも再び広大な宇宙空間の中
を進み始めた。管制室が大急ぎで軌道の再計算に入る。スタッフ達が歓声を上げながら互い
に抱き合い、作戦の成功を祝った。流石に完全破壊することこそ叶わなかったが、この広大
な宇宙の只中で、ただ一つの標的にミサイルをヒットさせたのは、それだけでも驚くべき成
果だと言える。
「……よっし!」
「やった、やったぞー!」
 船内の部下達も、巨大な火花が霧散してゆくのを目の当たりにしながら、面貌の下でそう
くぐもった歓声を上げていた。互いに抱き合い、他の誰よりも一番呆然として漂う隊長・リ
チャードにも、遠慮なく次々にバシバシとその肩を叩き、惜しみない称賛を浴びせる。
「……」
 安堵。面貌の下で解ける表情(かお)。
 だがそれでもまだ、彼は苦笑のそれを崩せなかった。
 隕石(やつ)はどれくらい破壊できた? ミサイルを撃ち込まれて変わった軌道の先は?
仮に逸れ切れず、地球の引力に引き寄せられてしまった場合、地上へと飛散する破片の数と
その規模は……?

 ***

 かくしてリチャード率いるISAの作戦部隊は、件の落下時期よりも数日遅れて無事地球
に帰還を果たした。彼の懸念の通り、実際に隕石は地上に落下してしまったが、当初よりも
本体が破壊されて小さくなっていたがために、その被害は存外散発的なものに収まってくれ
たらしい。彼らの決死の宇宙飛行は、決して無駄にはならなかったのだ。
「おかえりー!」
「よくぞ、よくぞ戻って来た!」
「君達こそ、まさしく救世の英雄だ!」
 帰還後のリハビリと記者会見、そして街のメインストリートで開かれた凱旋パレード。
 ルートとなったその左右の道端には、辺りを埋め尽くさんとするほどの人々で溢れ返って
いた。彼ら・彼女らは老若男女総じて通行する車両の上のリチャードらを讃え、滅びの運命
を退けれてくれたこの英雄(ヒーロー)達に黄色い声を上げている。
「何か……恥ずかしいッスね」
「だなあ。妙な気分だよ。こっちは下手したら帰っても来れなかった訳だし、帰って来たら
来たで、あの一件はもう過ぎたことになってるし……」
「仕方ないさ。こうして皆が笑っていられる。それだけで、私達がこの身を賭して作戦に臨
んだ甲斐があったというものだ」
 普段は皆、どちらかというと地味な部類の仕事に従事していたため、いざこうして持ち上
げられることには気恥ずかしさやら違和感があるらしい。リチャードも、その点は部下達と
同様だった。それでも、この星に暮らす人々を救えたのならば、満足だ。
「──何が救世主だ。ノーセストの町は、直撃を食らったんだぞ」
「俺の田舎もだ。あちこちが焼け野原になって、誰も住めねえ」
「全部お前らのせいだ! お前らがミサイルなんて撃ち込まなきゃ、こっちにとばっちりな
んか来なかったかもしれねえんだぞ!」
 だがしかし、そんな喜色に浮かれる群衆の中で、このリチャードらを面と向かって糾弾し
てくる者達がいた。それまでの歓迎ムードをぶち壊した彼らを、人々が思わず振り返って睨
み返す中、その眼差しはあくまで強く徹底した敵意に満ちている。
「そんなの……」
「いや。お前達にもその可能性はあった筈だ。自分の住んでいた町が、家族や友人の住んで
いた場所が、あいつらの巻き散らした隕石に吹き飛ばされりゃあ、こんな手放しで英雄気取
りになんぞさせねえ」
 空気を読めよ──そう言いたげに呟きかけた女性に、彼らがそう突っ撥ねるように言い返
した。もしもと思わず身につまされて、思わず場の群衆達が一斉に黙り込む。パレードの車
上に乗っていたリチャード達も、同席していたISAの関係者らも、この突然現れた乱入も
とい抗議の一団に口を噤まずを得ず、直後周囲に展開していた警官隊らによって彼らが拘束
・連行されてゆくさまを只々見守ることしかできなかった。

『──何が英雄だよ。元を正せば、ギリギリまで隕石に気付けなかったISAの責任じゃあ
ねえの?』
 加えて、隕石片落下が一段落ついた頃から、ネット上でもこうしたリチャードら関係者に
対する批判が加速度的に増えていた。
 どれだけ頑張っても、結果的に地上への被害をゼロに出来なかったこと。公式発表や復興
対応の遅れを指摘する粗探し、それらから繋がる政権批判。この星に潜在するニヒリストや
ペシミストが、まるで水を得た魚のように活動を始める。
『糞が。余計なことしやがって』
『あーあ』
『今度こそ本当に、何もかも消えてなくなると思ったのになあ……』
 そして何よりも其処に溢れていたのは、文字通りこの世界の“終わり”を望んでいた、名
も知らぬ無数の人々の心の闇だった。
『ISAのリチャード・クラーク……覚えたぞ』
『個人的にはさ? ぶっちゃけ今回の一件で、まーた人類がつけ上がると思うんよ』
『本当に要らんをことしてくれたよなあ。何で壊したんだよ、あの野郎』
                                      (了)

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  1. 2018/10/01(月) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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