日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅱ〔14〕

 記憶はすっかりおぼろげになっているが、それでも確かに焼き付いているものがある。
 それは家族の光景だ。いや……争い合う男女の、両親の姿だ。
 私が物心つくかどうかという頃、両親は毎日のように激しい口論を繰り返していた。時に
は取っ組み合いになる事も珍しくなかった。
 理由は、もう今となっては分からない。
 俗によく言う性格の不一致か、或いは私たち姉妹(きょうだい)の養育を巡る意見の対立
だったのかもしれない。
 結局、両親は離婚することになった。
 私は妹や弟とも引き離され、クリシェンヌ教団傘下の孤児院に放り込まれた。
 その後の妹と弟の行方は分からずじまいだった。私自身は理解ある、慈悲深い院長先生の
おかげで充分な食事とベッド、そして魔導を始めとした学問を修めることができた。
 伴霊族(ルソナ)として生まれてきた一人として、自身の持ち霊──ブルートを知覚する
ことができるようになったのもその頃であったと思う。
 独りぼっちではなかった。それが分かっただけでもどれだけ救われたことか。
 それでも……私はずっと気掛かりだった。
 妹や弟は今何処で何をしているのだろう? 或いは……もう路頭に迷ってこの世の人では
なくなっているのかもしれない。
 それでも構わないと思った。私は……確かめたかったから。
「──っらぁッ!!」
「くっ……!」
 そうして身軽でいられる冒険者に身を投じて、どれくらいの月日が経っただろう。
 私は日々の食い扶持の為に色んな依頼をこなす毎日を送っていた。
 その中は時に誰かを傷付ける、殺さないといけないような類のものもあって……。
「はん……。やるな、お前。ここまで俺を苦戦させた相手は久しぶりだぜ」
 あの時もそうだったけ。
 依頼内容は賊に占拠された小村の奪還。
 本来は守備隊の負うべき役目だが、権力者の威光が届き難い──言ってしまえば辺境の地
においては彼らに騎士道のような崇高な精神を期待するのは、概して無駄であると断言して
しまってよい。
 何時もの、尻拭い。
 そう私は自分に言い聞かせつつ他の冒険者達と共に向かったのだが、その時ばかりは少々
勝手が違っていた。
「……そう。なら早く倒れて欲しいのだけど」
 賊側に用心棒がいたのだ。
 巨大な戦斧を振るう、猫系獣人の男。間違いなくそれまでの中で屈指の実力者だった。
 同行していたメンバー達が次々と戦闘不能にさせられ、私もじりじりとそのパワーに追い
詰められていく。スピードと手数なら勝っているが、それも長丁場になれば元々身体能力が
高い彼ら獣人族(ビースト・レイス)の方が有利になるのは明らかだった。
 ブルートの冷気も、彼のマナを噴出させた排熱によって思うように通じない。
 私は剣を構えつつも、そう静かに呟きながら隙を見つけようと時間を稼ぐしかなかった。
「そうはいかねぇよ。諦めな。……さもなきゃ」
 男がじりっとまた一歩動いた。
 その眼には明確な戦意が見て取れる。
(……でも、何かしら?)
 でも、そこには何故か依頼への義務感とは違う“必死さ”があるように思えて……。
「おとうさん!」
 その時だった。
 私達の戦っていた村の敷地、その一角の路地裏から一人の少女が飛び出してきたのだ。
「ミア!?」
 男は驚いてその娘を抱き止めていた。
 見てみれば、同じ猫系獣人の女の子であるらしい。
「まさか……貴方は」
「……。ああ、俺の娘だ」
 手に下げたままとはいえ、私がまだ剣を持っている事に警戒してか、彼は私を一瞥するだ
けで短くそう答えていた。
 大柄な彼(ちちおや)の胸の中で不安そうな少女の瞳が揺れている。
 それでも戦斧だけは手放さず──いや、切っ先が私の方から外れて。
「お前、ボロボロじゃねぇか……。あいつらか逃げてきたのか?」
「ん……。鎖、千切ってきた」
「千切……っ!? ぬぅ。流石は俺の娘、か……」
 彼の問い掛けに女の子、ミアちゃんはこくんと頷いていた。
 私とブルートはそっと二人に近付いてみる。
 状況から察するに、いやもしかしてなくても……。
「!? 伏せろ!」
 そんな時、不意に何かに気付いてブルートが一人前に出て障壁を張った。
 刹那、撃ち込まれた銃弾の雨。
 私も彼も、彼に庇われるようにぎゅっと抱き締められたミアちゃんも、一瞬その強襲に身
動きを止めてしまう。
「くそっ! 仕留め損なった……!」
 そして、次いで出て来たのは──私の予想通り──如何にもといった賊達の姿。
 銃を構えたのが五名、剣や手斧を持った者が十名程度。
 そこで、私は確信を持った。
「……その子を人質を取られていたのね」
 男は暫し黙っていた。面子もあるのだろう。そうすぐに頷けなかったのかもしれない。
 でも否定する材料も理由も既になかった。彼の胸の中には、既に守りたいと願った娘が、
家族が戻ってきているのだから。
 ブルートに障壁を維持させつつ、私は剣を賊達に向けて構え直すと言った。
「ならもう、貴方とは戦う必要はないわよね? 待っていて。すぐに片付けるから」
「……何でだ。さっきまで俺はお前を」
「何でって。その子が理由なのは明白じゃない。戻ってきたんでしょう? 私が依頼された
のはこの賊達の討伐、仲間達を倒された恨みを晴らすという私情じゃないわ」
「……」
「それに」
「? 何だよ」
「……“家族”の為に戦うって人を、失わせたくはないもの」
 男は最初、戸惑いのような驚きのような目を瞬かせ、私を見ていた。
 それでもややあって、彼はおもむろに立ち上がると私の隣で戦斧を同じく賊達へと向けた
のだ。ミアちゃんも幼いながらも父親のことはよく分かっているらしく、とたとたと私達の
後ろへと走っていくとしっかり物陰に隠れてこちらを見つめている。
「女一人に任せてられっかよ。けじめはつける」
「あら? あれだけ私に苦戦しておいて女の癖にって言うつもり?」
 賊達が障壁に突っ込んでくる。
 だがブルート謹製の防御を、力押しの野盗が破れる筈もなく。
「そういう意味じゃねぇよ。……まぁいい。足を引っ張ってくれるな。えっと……?」
「イセルナ・カートンよ。貴方は?」
「……ダン・マーフィ。傭兵くずれさ」
 私達はそこでやっとお互いの名を名乗り合って向き直ると、同時に地面を蹴って──。

「──ナ。イセルナ」
 ブルートの声が、はたとイセルナの意識を現実に引き戻していた。
 目の前を音もなく漂っている、蒼いオーラを纏う梟型の持ち霊。彼は一瞬だけ怪訝な様子
を見せつつも、やっと我に返った相棒に報告をする。
「精霊達が情報を持ってきたようだ。……あまり、いい報せではないらしいが」
 その言葉にイセルナは僅かに表情を硬くし、意識を集中させていた。
 ほぼ同時に、ふわっと二人の周りに漂う曖昧な光──下級精霊の顕現はこれくらいが限界
であることが多いのだ──が見聞きした言の葉を届けてくれる。
「ああ。いつもの伝令か」
「それで……彼らは何と?」
 そんな彼女の傍らで、ダンとリンファが片眉を上げつつ目を細めつつ訊ねていた。
 ふわり。報告を済ませて再びセカイの一部に還って姿を消していく精霊たちに礼を述べて
送り出してから、イセルナとブルートは言う。
「ええ。どうやら思ったより事態が早く進んでいるみたい」
「アウルベ伯が動き出しているようだ。ジークとアルスの確保を命じたらしい」
「領主がか? 何でまた……」
 ポリポリと顎を掻きつつ、ダンは眉根を寄せる。リンファも僅かに視線を落とし、何事か
憂慮の念を抱いているようだった。
 この梟響の街(アウルベルツ)を治める領主がレノヴィン兄弟を捜している。それが意味
することは、自分達が歩んできたこの状況を考えれば……。
「……“結社”絡みか」
「ええ」「ほぼそう見て間違いないだろう」
「チッ……。帰って来て早々かよ。ご苦労なこった」
 四人は互いの予測を擦り合わせてから、口の中で嘆息を漏らした。
 もうというべきか、やはりというべきか。
 少なくとも早々に同業者達への引き込みを済ませておいて正解であったらしい。
「ならば一旦ホームに戻るべきか。動こうにも先に押さえられては拙い」
「そうだな。皆にも召集を掛けねぇといけねぇし」
「ええ。急ぎましょう」
 イセルナ達は、その足で急ぎ自分達の拠点へと向かう。
「……私の“家族”に、手出しをされて堪るものですか」
 小さな、彼女のそんな呟きを残しながら。


 Tale-14.治むる者の条件

「……学院長が?」
 その言葉の文面や声色といった聴覚と、黒スーツ一色のいでたちという視覚と。
 アルスが最初に覚えたのは違和感だった。
 何と言えばいいのだろう。ただ、彼らを学院の職員と認識するにはどうにも抵抗があった
のだ。怪訝──ざっくりと片付けてしまえばそんな印象が先に立っていた。
「何だよ、お前ら?」
「……食事中に踏み込んでくるとは、行儀が悪いように思いますね」
 そして学友らもそんな怪訝を同じくしてくれていたらしい。
 付けていた料理を脇にやり、二人してアルスを庇うように間に割って入る。
『…………』
 黒服と学友達の睨み合いが始まっていた。
 そうなると当然、周囲の眼は自然とアルス達に集まる。
 それまでは互いに知らぬ存ぜずな態度を貫こうとしていたが、はたと醸し出された険しい
不穏な空気に流石に堪えかねたようでもあった。言葉こそ少ないが、好奇と傍迷惑が五分五
分に混じった視線が一挙に注がれ始める。
「そ、そんなに喧嘩腰にならなくても……」
 そうした状況の変化に、名指しされた当のアルスは戸惑い二人を止めようとしたのだが。
「──邪魔だ」
 次の瞬間、業を煮やしたとみえる黒服の一人が突然二人を突き飛ばしていた。
 かなりぞんざいに、しかし確実に悪意のある一発。フィデロはその場でよろけ、ルイスは
更に押し出されて背後のアルス達のテーブルに直撃する。
「この……ッ!」
 フィデロが顔をしかめて叫びかけたと同時に、周囲が大きくざわついた。
 乱闘か。椅子を倒して場から尻餅をついたルイスも、表情こそ変えていないが、この彼ら
の態度が流石に頭に来たらしい。上着の内ポケットから魔導具の指輪を取り出そうとしてい
るのが見える。
「……。部外者は引っ込んでいて貰おう」
「さっさと来い!」
「ッ!?」
 それでも──少なくとも学院の職員ではない事が明らかになった──黒服達は強硬策で早
急に事を片付けてしまおうと方針を決したらしかった。
 何かしら余計な真似をするものならば。
 数人がサングラス越しに眼を光らせて周囲の人間を制止する中で、残りの黒服達がずいと
進み出て無理やりアルスの手を引っ張る。
 何故これほど自分を連行する事に拘るのか。
「は、離──」
 これではまるで彼らが“何かに迫られている”かのようでは……。
「お待ちなさい」
 その時だった。
 ビシリと、周囲に毅然とした、力強い声色が響いた。
 続いて刹那、黒服達のアルスを捕る手を弾いたのはゲドとキース、二人の従者。
 それぞれに立ち上がり今にも友(アルス)の為に飛び勇もうとしたフィデロとルイスを、
彼らはサッと間に入って制止する。
 代わりに、キースは目にも留まらぬ速さで黒服の一人の喉元へとバタフライナイフの切っ
先を突きつけ、ゲドは腕輪型の魔導具を展開して巨大な大槌を出現させる。
 ゲドの得物・震撃の鎚(グライドハンマー)がズドンと地面を叩き、周りが強い揺れに見
舞われた。
 この間、ほんの数秒。
 何もできずに立ち尽くしていた黒服達に向けて、二人の主・シンシアは言い放つ。
「貴方達は学院の者ではありませんわね? 事情は知った事ではありませんけど、生徒に対
する態度として最悪ですわ。それに何より」
 すると、今度は黒服達の背後、その中空からカルヴィンが姿を見せた。
 隆々とした身体に鎧を纏った人馬型の精霊であり、彼女の持ち霊。
「……先程からずっとカルヴィンが貴方達の首を狙っていたのにまるで気付く様子もない。
ここは魔導学司校(アカデミー)、魔導の卵が集まる場所ですわ。たとえ職員とはいえその
最低限の知識・技術を持ち合わせていない訳がありませんもの」
 身動きの取れる黒服の何人かが、おずおずと背後を振り返っていた。
 そんな彼らに、カルヴィンは「ヤるか?」と言わんばかりにパキポキと拳を鳴らして白い
歯をむき出しにしている。
 更にその隣にはむすっと同じく戦闘準備バッチリといった感じでエトナが、その背後の木
の陰には弓を番えているシフォンの姿も確認できる。
(さっきから姿が見えないと思ったら……)
 助けて貰っているのに、何だかアルスは黒服達に申し訳ないとさえ思えた。
 間違いなく……今ここの面子が実際に襲い掛かれば、彼らは無事では済まないだろう。
 流石にこれは止めないと。
 そうアルスが思っていた最中で、シンシアは更に言った。
「私の学友に狼藉を働こうというのなら、我が家(いえ)に対する反抗と解釈致します」
 そして懐から取り出したのは、一枚の紋章(エムブレム)。
 その六角形の枠の中には、鍛治用の鎚とフラスコ瓶と思われる絵柄が複雑な文様に巻き付
かれるようにして斜めに触れ合っている。
「私の名はシンシア・エイルフィード。アトス連邦朝エイルフィード伯爵家の嫡子ですわ」
「エイル、フィード!?」
「ま、まさか“灼雷”の……?」
 おそらく掲げてみせたのは彼女の家の家紋──爵位章なのだろう。
 そして彼女が自ら堂々と名乗りを上げると、黒服達は明らかな狼狽を見せた。
 相手が貴族の令嬢ともなれば手荒な真似はできない、そんな思案だったのだろうか。
 彼らは暫し互いの顔を見合わせると、小さく舌打ちをし、左右から散開してそのまま逃げ
去っていってしまう。
 やがて、黒服達の姿は見えなくなった。
 キースもゲドも得物を収め、持ち霊達もシフォンも臨戦体勢を解いてゆく。
「……助かった、のかな?」
「ふむ? どうやらそうみたいだね」
「チッ、やりたい放題しやがって……。一体何なんだよ? あいつら」
 一先ず安堵の一息を。
 アルスがふよふよと「大丈夫?」と声を掛けて傍らに戻ってくるエトナを迎えながら呟く
と、学友二人は各々に怪訝の思いを濃くしているようだった。
「あ、あの。シンシアさん。キースさん、ゲドさん」
 だがそれよりも。アルスはまだ少々ざわついている周囲の中で向き直る。
「助けてくれて、ありがとうございました」
「……れ、礼など必要ありません。この学び舎に狼藉者が踏み入るのが許せなかった。それ
だけの事ですわ」
「そ、そうですか」
「……。ったく、素直じゃねぇんだから……」
「ガハハ! 然り。シンシア様もよくぞ立ち向かわれた。それでこそ我らが主!」
「我は別に倒してしまってもよかったのだがな」
 ペコリと頭を下げて謝意を。
 それはアルス当人にしては当然の、自然な所作と反応だったのだが、対するシンシアには
何故かちょっとばかり捲し立てられるように突っ撥ねられた気がした。
 そう言うのなら。アルスは目を瞬かせて一応頷いておく。
 ぼそっと微笑ましげな嘆息を、主の豪胆さを讃える彼女従者二人と、持ち霊の三者。
 ──とりあえず、妙な闖入者は去ったらしい。
 まだ少々ざわつき、少なからぬ人数の視線が集まっている中、アルス達はさてこの場をど
うしようかと思案し始める。
「うーむ、ギリギリセーフって所か」
 ちょうど、そんな時だった。
 黒服達が逃げ去って行ったのとは別の方向、学院の敷地の奥の方からブレアが小走りでこ
ちらに向かって駆け寄ってきたのである。
「あ。ブレアだ」
「どうしたんですか、先生? それにセーフって何が……」
 エトナとアルスを始めとして、今度は皆の視線が彼へと集まる。
 何だ落ち着いて食事も摂れないなと困り顔なテラスの面々、互いに顔を見合わせたり事態
を見守ろうかと黙する学友らやその従者達。
 思った以上に騒ぎになっていたのに少々面食らったのか、ポリポリと頬を掻いて数秒。
 ブレアは、自分の教え子とその持ち霊に向かって言った。
「それなんだがな。アルス、エトナ、すぐに一緒に来てくれ。学院長達が待ってる」

 結局、その場の収拾はシンシア達に丸投げする格好となってしまった。
 ブレアに請われるまま、今度こそアルスとエトナ──そして何かあるなと自然と合流して
きたシフォンはその呼び出しに応じて彼の後をついてゆく。
 歩みを進める度に学友(とも)らや周囲のざわつきは遠くなっていった。
 代わりに周囲を彩るのはいつも通りのキャンパス内の風景。解放感と緑がちりばめられた
構内には様々な出身、種族の学生──魔導師の卵らが行き交い、今日も同じく旺盛に学び、
学生生活を満喫しているかのように見える。
(何なんだろう……)
 少し後ろを、静かに注意を配りながらついて来るシフォンを肩越しに見遣りつつ、アルス
はもやもやとした不安が増していくのを感じざるを得なかった。
「レイハウンドです。アルス・レノヴィンを連れて来ました」
「ご苦労様です。入って下さい」
 やがて、アルス達は学院長室へと到着した。
 扉の前でブレアがノックをし、来訪を告げると中から学院長──ミレーユの返事が聞こえ
てくる。
 心なしか彼女の声がピリピリとしていたような……?
 アルスはふとそんな印象を受けていたが、そんな合間も構わずにブレアは「失礼します」
と一声を残すと、そのまま扉を開けて面々を中へと促す。
「よぅ。やっぱお前も呼ばれてたか」
「……あれ? 兄さん? それに先生、サフレさんにマルタさんも……」
「ええ。そっちは大丈夫だった?」
 すると室内にいたのは、ずらりと並んだ席に着いた険しい表情の大人達。エマやバウロも
その中にいる。おそらくは学院の職員や役員などなのだろう。
 だがそれよりも、アルスが目を遣って驚いたのはその場に兄達がいたことだった。
「? はい……。黒服の人達に連れて行かれそうになりましたけど、そこはシンシアさん達
のおかげで何とも」
「……らしいですよ。やっぱり、もうあっちも動き出しているみたいです」
 ぐるりと学院の要人らに囲まれる形で、兄や師から掛けられる声。
 しかしアルスはまだ事態が掴み切れずに、そうもごもごと答えながら小首を傾げる。一方
でその隣に立ったシフォンは、既に状況の把握に努めようと無言ながらしきりに面々の様子
を観察していた。
 ブレアがポリポリと髪を掻きつつ、少々面倒臭そうに、しかし神妙な様子で相槌のような
言葉をミレーユに返す。
 席上の面々が互いの顔を見合わせて少しばかりざわつき出した。
 そして上座の学院長席に着いていたミレーユが目の前で両手を組んだまま、ようやく本題
に入るようにして言う。
「いきなり呼び出してごめんなさいね。ですが、事態は少々厄介な事になっているのです。
その為、貴方たち兄弟に急遽使いを出させてもらいました」
「い、いいえ。それはいいんですが……。その、厄介な事というのは?」
「……それについては順を追って話します。レノヴィン君、そしてお兄さん方。つい先日ま
で貴方達は里帰りをしていましたね? 先ずはその際に何があったのか──いえ、何が明ら
かになったのかを私達に話して下さい。お兄さんの持つ剣、その出自について……ね」
 アルスがエトナが、何よりもジークが半ば反射的に眉根を寄せていた。
 ちらと兄が自分を見てくる。だがアルスもその「何故?」を聞きたい思いは同じだった。
 確かに兄が自身の剣──護皇六華についての調査をマグダレン教諭に依頼したのだから、
そしてそこで初めてかの剣が聖浄器だと判明したのだから、ミレーユら学院側に自分達のこ
れまでの行動とその動機を把握されているのは分かっている。だが……。
(ど、どうしよう……。話しちゃっていいものなのかな?)
 少なくともアルスの一存で打ち明けられる訳がなかった。
 兄の剣が護皇六華という皇国(トナン)の王器であり、自分達兄弟はその皇族、皇子であ
るなど──仮に話した所でどれほど信用されるものなのか。
 案の定、ジーク達も難しい顔をして黙り込んでいるようだった。
 兄は弟を、弟は兄を気にして口にするのを憚っている。
 当事者順でいえば彼ら二人の意思が一番最初に来るべきものなのだが、その当人らが戸惑
いを濃くしているがために、仲間達も迂闊に口を開けずにいたのだ。
「……訊いてくるのであれば、こちらからも聞かせてはくれませんか? 僕らの友人の帰省
の件が先の厄介な事とどう繋がっているのか。何も分からないまま饒舌になるつもりはあり
ませんよ?」
 暫しの沈黙。それを破って最初に駆け引きを始めたのは、それまでじっと場の様子を窺っ
ていたシフォンだった。
 出席者の内の数名が不快気味に眉根を寄せるのが見えた。
 それでも彼は肝が据わっているのか、冷静な表情(かお)で学院側のレスポンスを待つ。
 ちらと視線を向けたリュカやサフレもどうやら同じことを考えていたらしく、彼に小さく
頷いてみせると「どうなのですか?」と無言の催促をミレーユ達に送っている。
「……伯爵が、貴方たち兄弟の捕獲に躍起になっているのですよ」
 反抗的な。立場を弁えろ。
 そんな印象を多くの出席者が抱いたようだったが、そんな彼らを視線でそれとなく制する
と、ミレーユは数拍の後にそう言った。
「伯爵、というのはこの街の領主の、アウルベ伯の事ですか?」
「そうです。どうやら何者かにレノヴィン兄弟を差し出すよう圧力を掛けられているような
のですよ」
 シフォンの確認に彼女が頷いて言うと、ジークとアルスは顔を見合わせていた。
 領主に自分達が狙われている? それに圧力というのは……。
「……なるほど。つまり先にこの子達を確保して優位に立とうと」
 次いで静かに状況を理解したらしいリュカが呟いた。
 しかしその声色こそ落ち着いていたものの、その眼は全く笑っていない。
「或いは──二人を身代わりにして学院としての安全を図りたい、そんな所でしょうね」
 そう、憤っていたのだ。
 愛弟子にして姉弟同然の仲のアルスとジークをそんな大人達の取引材料に使われて堪るか
といった、親心のような感情。しかし、この場に集まった学院の要人らはその意図を看破さ
れても尚、心積もりを変えるつもりはないらしい。むしろ「だから何だ?」と言わんばかり
に片眉を上げて見下ろしたり、目を細めて睨み返してきたりしている。
 アルスとジーク、そして仲間達はそこでようやく自分達が連れて来られた意味を把握する
ことになった。
 自分達が狙われる理由──十中八九、伯爵に圧力を掛けている相手というのは“結社”だ
ろう──の如何によっては、このまま伯爵側への「生贄」にされかねないという事を。
「そういう事だ。私の所に持ってきた時点で問われることは予見できたろうに」
 腕を組んだまま、バウロが言った。
 他の面々に比べればまだ刺々しくはない。それでも疑問を解決したいという要求が声色の
中に透けて見える。エマも同感だったのか微かに頷き、眼鏡のレンズの奥から怜悧な眼を向
けてくる。
「で、でも……」
「……」
 それでも、アルス達は躊躇した。
 言った所でどれだけ信じて貰えるだろう。むしろ事態が深刻だと懸念が現実になってしま
いかねない。指導教官のブレアや見立ててくれたバウロは多少擁護してくれるかもしれない
が、二人ともあくまで学院の教員、組織側の人間だ。あまり期待し過ぎる訳にもいかない。
 兄弟は逡巡と無言の後、横目で互いを見遣るとぐらりと大きな迷いの中に落ちる。
「……分かりました。お話しましょう」
 しかし、決断は他ならぬ仲間から下されていた。
「その代わり、皆さんも覚悟して頂きますよ?」
 そう告げたのは、二人にとって姉のような存在・リュカであって。
「お、おいリュカ姉……。いいのかよ、話しちまって?」
「そうだよぉ。この堅物連中が靡いてくれるなんて保障はどこにも……」
「そうね。だけど、このまま睨み合っていても事態は好転しないわ」
 咄嗟にジークとエトナが慌てて押し止めにかかる。
 何気にエトナに悪口を言われて顔をしかめる要人らだったが、
「……それに、ここでなら学院の皆さんを“共犯”にできるじゃない? 少なくも奴らから
すれば同じように映るでしょうし」
 次の瞬間、微かに口角を吊り上げて目を光らせるように答えた彼女に思わず凍りつく。
 アルスが何とも言えず苦笑する。
 これは先生が本気になった時の眼だと知っていた。下手に反論しない方がいい。
 そんな中でリュカが「いいかしら?」と兄弟と仲間達に同意を求めてくる。
 ジークとアルス、仲間達は躊躇いつつも頷いた。
 できれば巻き込みたくないが……仕方ない。できればシノブにも了解を取れる状況があれ
ば尚良かったのだが、そうもいかない。代わりに村の代表として同行してきたリュカをその
役に宛がっておくことにする。
「それでは、お話致しましょう──」

 予想通り、場の面々は分かり易いほどに驚愕していた。そして──。
「何て事だ! よりにもよって“結社”を敵に回すなど!」
「トナンの皇子、か……。予想以上に厄介な事になっているらしいな」
「しかしどうするのです? このままでは学院の存続が……!」
 出席者達の保身の弁は一層苛烈になっていた。
 口々に飛ぶのは後悔、或いはジーク達への叱責。
 ジークやエトナはあからさまにその反応に不快感を示していたが、リュカやアルスといっ
た他の面子は予想のままだと冷静に、しかし興醒めしつつそんな光景を目に映している。
 飛び交う罵声、もとい保身の叫び。
 事態の好転の為とリュカが正当化した告白もそんなざま。
「……落ち着きなさい」
 だが、そんなうねりを持った彼らのざわつきは、はたとミレーユの発した一声によって霧
散していた。
 途端にしんとなる場。
 傍らでエマが静かに眼鏡のブリッジを押さえ直し、ミレーユが小さく息を一つ。ざっと場
の面々を見渡してから言う。
「皆さんはそれでも組織を治める人間ですか? みっともありませんよ」
 面々は息を合わせたかのように黙り込んでしまった。
 彼女は声色こそ穏やかだったが、それだけ一切の温情もないストレートな戒めだった。
 ようやく抑えられ、静かになった場を確認してから、
「レノヴィン君。一つ貴方に今一度確認したいことがあります」
「は、はい……。何でしょう」
「……貴方は、学びたいですか?」
 彼女はついっとアルスへと視線を向けるとそう問い掛ける。
 ぱちくりと。アルスは思いもかけない質問に目を瞬かせていた。
 どういうつもりなのだろう? エトナも同じく一抹の怪訝と共にこの相棒と顔を見合わせ
てくる。
 だが幸い思考はすぐに戻ってきてくれた。
 アルスは居住いを正して表情を引き締めると、
「……はい。僕は、一人前の魔導師になりたいと思っています。少しでも皆の力になれるよ
うな、皆を救うことができるような魔導師に」
 真っ直ぐにミレーユに向かってそう包み隠さぬ正直な答えを述べる。
「そうですか」
 フッと。学院長席に着いたままのミレーユは静かに微笑んでいた。
 目の前で両手を組んだまま、少し落とした視線で数秒の思案を。
「……分かりました。ならば貴方はどうあろうとも当学院の生徒です。この学院に在籍して
いる以上は、学院長たるこの私が、責任を持ってアウルベ伯や“結社”の圧力を跳ね除ける
と約束しましょう」
 そしてそう、生贄ではなく、庇護と協力を誓ってくれる。
「が、学院長!?」
「何を仰っているのです!」
 一方で他の要人達は違っていた。
 独断を諫める声、つまりは保身。彼らはそれでも中々アルスを庇い立てすることをよしと
はしなかった。
「貴方達こそいい加減目を覚ましなさい。我々にとって大切なことは何ですか? 本部から
の資金ですか、利権ですか? 違うでしょう。何よりも生徒達を育てる、その一点にあるの
ではありませんか?」
 しかし、ミレーユもまた譲らない。
 むしろ彼女は保身に走って止まない経営陣らを詰った。
 今まで以上に強い声で。威厳に満ち溢れた正論を。
 面々はまたしても黙り込んでいた。痛い所を突かれたというのもあるのだろう。だがそれ
よりも彼女自身の強い眼差しが抵抗──利己的な足掻きの一切を許さなかったのだ。
 もう一度アルス達を見遣って、表情を優しく戻して、ミレーユは言った。
「私達アカデミーはその出自を──性別種族、或いは王侯貴族や庶民の如何を問わず、魔導
を学びたいと欲する者に門戸を開いています。その学びたいと思う志を、私達は摘みはしま
せん。貴方が望むのなら、その学びを私達は全力で保障しましょう。……それにレノヴィン
君。貴方は今年の新入生の中でも屈指の逸材ですから。このまま組織の都合で弾き出してし
まうというのは、あまりにも惜しいですしね」
 そう茶目っ気を交えてのウィンク。
 アルスもエトナも、ジークも、仲間達も場の皆が呆気に取られていた。
 だがしかし彼女のその言葉が意味するものを、皆はややあって理解し始め、
「……それが学院長のご判断であれば、私達教職員一同は従うまでです」
「ふむ。よかろう。魔導工学を究める者としても、彼らの件は見過ごせぬしな」
「やれやれ……。ま、よかったなアルス。学院長からのお墨付きだぜ?」
 同席した既知の教員らもフッと硬くなっていた表情を解いて笑い掛けてくれる。
 そしてジーク達も、その反応につられるように程なくしてホッと胸を撫で下ろしていた。
 互いに顔を見合わせ、何とか事態の悪化を防げたと安堵する。
 とはいえ、まだアウルベ伯からの外圧が消えた訳ではないが……。
「は、ははっ。……何つーか、助かったみたいだな」
「そう、みたいだね……」
 兄と師と仲間達と相棒と。
(……ここに入学できて(はいれて)、本当に良かった……)
 アルス達は互いに顔を見合わせて苦笑いに近い笑みを遣り合って──。

「弟の方を捕り逃した!?」
 時を前後して、場所は梟響の街(アウツベルツ)を眼下に臨む丘の上の屋敷。
 その執務室で報告を受けて叫んだのは、灰色の正装に身を包んだ貴族の青年だった。
 学院へ確保要員を送ったのに、退散させられたのだという。
「何をしてるんだ! 早くしないと……早くしないと……ッ!」
 青年は頭を掻き毟りながらその場をぐるぐると歩き始めた。
 落ち着かない、切羽詰った強い焦りの現れ。そんな彼の反応に部下たる黒スーツの男──
伯爵家の役人達は互いに顔を見合わせ、戸惑っている。
「お、落ち着いて下さい。伯爵」
「現在、レノヴィン兄弟の所属するクランへ人員を向かわせています。ですのですぐにでも
包囲の後、確保を──」
「だったらもっと人員を割くんだ! 一刻も早くレノヴィン兄弟を確保しろ!」
 役人達が何とかこの主を取り成そうとするが、それでも彼──アウルベ伯の焦燥感は癒え
なかった。
 再び、一見気弱な外見だが爵位の権限で以って命じる彼に、役人達はおろおろとして部屋
を飛び出していく。
「……」
 室内には年若い領主一人だけになった。
 ふらふらとデスクに近寄ると手をつき、胸を苛む焦燥感と必死に戦おうとする。
「……捜さなければ」
 伯爵は誰にともなくぽつりと言った。
 ギンと焦点の合わない目を見開き、ついた手を机上をじっと見つめる。
「私の街が、危ない……」
 そんな彼の手元には、彼宛に届いていた解封済みな一通の手紙。
 そして彼が呟いた次の瞬間、その手紙はひとりでに黒い炎に包まれていたのだった。


 学院は、アルス達の味方になってくれた。
 しかしそれでもまだレノヴィン兄弟へと迫る魔の手は止んだ訳ではない。
(う~む……)
 街の路地裏の一角からこっそりと表通りを覗いてみる。
 学院長室にて話を聞いていたので予想はしていたが、やはりそこには領主の配下と思われ
る準正装姿の役人や更に軽い武装を携えた兵士までが辺りをうろついていた。間違いなく、
自分達を捕らえる為に寄越された者達なのだろう。
「どう……? 兄さん?」
「ああ。案の定、わんさかいやがる。こいつは早くしないとマズいかもな」
 ジークは後ろに控えるアルス達五人に振り返ると、厄介だなと片眉を上げつつぼやいた。
 実はというと、ミレーユからあのまま学院内に匿って貰える提案も受けていた。
 しかし、その好意は他ならぬアルス自身が丁重に断わっていた。
『すみません……。そのお気持ちだけ、ありがたく受け取らせて頂きます』
 その言葉に甘えていては、本当に学院側と領主側が自分の所為で衝突しかねない。
 だからこそ弟は受け入れの言葉を辞退し、表向きは早退という形でこうして一先ず学院を
後にしたのである。
 だがこの自分達への包囲網。
 一旦ホームに戻ろうという話になったジーク達だったが、どうやら相手はそう簡単に目的
地へと行かせてくれるつもりはないらしい。
「にしたって領主ともあろう奴がホイホイと脅迫なんかに屈するものなのか? 仮に俺達を
引き渡した所で、相手が素直に引き下がる保障なんてねぇだろうに」
「それはそうだろうけど……。保身、なのかのかなぁ」
「だとしたら最低じゃない。アルスとジークを生贄にしようって事でしょ?」
 ジークが、そしてアルスとエトナがそれぞれに自分達の置かれた状況──その切欠となっ
たこの街の領主についての思いを漏らした。
 それは嘆きであったり苦笑であったり、或いは憤りで。
「ああ……。そうか、ジーク達は知らないのか」
「? 何がだよ」
 するとそんな兄弟達の様子を見ていたシフォンが呟いた。
 サフレらも小さな疑問符を浮かべて見遣ってくる。友(ジーク)も同じような反応で促し
てくるのを見て、彼は表通りの追っ手達の挙動に引き続き注意を配りつつ話してくれた。
「アウルベ伯は七年前に代替わりをしているんだ。先代から家督を引き継いでね。先代はあ
の頃既に結構な老齢だったし、隠居という形のようだけど」
「それじゃあ、今の領主さんは……?」
「ええ。現アウルベ伯は、その息子になるんです」
 つまり自分がアウルベルツに来るよりも少し前に首が挿げ変わっていたことになる。
 それでは知らないのも無理もないか。ジークはなるほどと小さくと頷く。
「一応、現伯爵は政治経済などの学問は一通り修めているんですが……何分、若輩者と言っ
てしまっていい。座学では優秀でも、現実の政務となるとどうしても経験不足が目立ってし
まうんですよ。実際、今のアウツベルツの実権は伯爵ではなく、その周りの有力商人や近隣
諸侯にあると言われて久しいですからね」
「そうなんですか……」
「何だか、釈然としませんね」
「……。そう驚くことじゃない。リーダーが“飾り”になっているなんてケースは別にこの
街に限った事じゃないさ。元より権力なんてものは魑魅魍魎の巣窟だからな」
 街の暮らしが長いシフォンの説明を聞いて、リュカとマルタが納得と一抹の後味の悪さを
覚えていた。だがその一方で、サフレは何処か冷めた眼をしてあらぬ方向を仰ぎながら、そ
う誰にともなく呟いている。
「まぁその側面はあるだろうね。これは僕の推測だけど、向こうがここまで荒っぽい手に出
てきているという事は、伯爵自身というよりも彼の側近達が保身に走って焦っている証では
ないかと思う」
「その為に俺達は捨て石ってか? チッ……。これだから貴族ってのは」
「……兄さん。僕らも一応同じなんだけど」
 あからさまに舌打ちをして一言。しかしそんな悪態を、アルスが苦笑混じりにやんわりと
諫めてツッコミを入れる。
 そういえばそうだった……。弟に言われて思い出したのか、ジークは頬を掻きつつ出しか
けた言葉を引っ込めると暫し黙り込んだ。そしてコホンとわざとらしく咳払いをしてから、
話題を本来の方向へと引っ張り直そうとする。
「なぁリュカ姉。ホームまで魔導でひとっ飛びとかできねぇのか?」
「そうだな。どうでしょう? 空間結界が張れるのなら空間転移の術式も扱えませんか?」
「そうねぇ……。向こうに終点指定の陣を描いてあればできるけど、まさかこんな事になる
なんて思っていなかったから……」
「ま、空門は光門や闇門以上に制御が難しいからねぇ。余程の手練じゃないと補助機構なし
での転移は危な過ぎるよ。下手したら狭間に呑み込まれて永遠に出て来れなくなるし」
「かといって飛行の魔導で飛んだら、下から狙い撃ちに遭っちゃうよね……」
「……。そっか」
 リュカにエトナにアルス。魔導に詳しい三人の言葉からそのリスクを取った先の末路を想
像してジークは心なしか青ざめていた。
 身を隠しながらがそのまま出られないなんて冗談じゃ済まない。
「仕方ねぇ。時間は掛かるが回り道だな」
 そして言葉少なげに髪を掻いた後、仲間達を肩越しに見遣って言う。
「大丈夫? あれだけ兵隊さんがいるけれど」
「なぁに。その辺は何とかなるって」
 リュカの懸念にジークはニッと不敵に笑ってみせた。
 思う所は同じなのか、シフォンもまた静かに微笑を浮かべて余裕の面持ちを見せている。
「何せ僕達はこの街を拠点に活動してる冒険者ですから」
「綺麗所ばっかり浚う貴族連中よりかはずっと、街の裏の裏まで知ってる。地の利ってやつ
はこっちにある」

 二人の言葉と案内の通り、一行はアウルベルツの裏路地の中をぐるぐると通り抜け領主の
手の者たちからの追跡を逃れることができた。ジークとシフォンを先頭にこっそりと物陰か
ら覗き込み、黒服や兵の姿があるとそっと引き返して頭の中の地図から新たにルートを組み
立て直す。
 そうしてジーク達は、少なからず遠回りになってしまってこそいたが、何とか無闇な衝突
を避けてホームに戻ることができていた。
「早く出すんだ。伯爵様からの直々の命であるのだぞ」
 しかし──辿り着くのが少々遅かったのかもしれない。
 ホームの入口、酒場『蒼染の鳥』の前には既にアウルベ伯の部下達が徒党を組んで押し掛
けていたのだ。そんな彼らに、ハロルドと他数名の団員らが対応しているのが見える。
「そう言われましてもね。不在の者を寄越せといわれても無理な話ですよ」
「大体、ジークやアルスが何をしたって言うんだよ?」
「そうだぜ。俺達が伯爵家(そっち)に何か手を上げた覚えはないぞ?」
 ジーク達は咄嗟に物陰に隠れると、その様子を見遣った。
 手の者達はざっと二十人程。内十人弱が兵士といった所だろうか。しかしジーク達が対応
に戸惑っている間にも、一人また一人と黒服や兵士が合流して状況は徐々にきな臭い方向に
向かっているように見える。
「これは、マズいな」
「うん……。ハロルドさん達もあのままじゃあ」
 このままこっそりと裏口へと駆けていけばホームに入る事はできなくないだろう。しかし
その事を優先して、クランの仲間達を囮にしてしまう格好になるのは気が進まなくもある。
(どうするか。ここまで乗り込んできたなら一度ボコって追い払った方が……)
 そう、ジークは迷いという天秤の上で揺れる心理の中、腰の刀に手を掛けつつ思案する。
 ちょうど、そんな時だった。
「あら? 随分と騒がしいわね」
 ハロルド達、そして物陰からジーク達が向けた視線の先には、肩にブルートを乗せたイセ
ルナとダン、そして兵士らを見据えて腰の長太刀に軽く手を掛けているリンファら四人の姿
があった。
「団長……! ダンさん、リンさん!」
「ちょうどいい所に。さっきから領主の手下達が」
「ええ。分かってるわ」
 救いが来た。そう言わんばかりに団員らがにわかにざわめき立った。
 そんな皆の声を静かな首肯で受け止めて進み出てゆくと、手の者達の矛先は自然と彼女達
へと向いてゆく。
「団長──お前がブルートバード代表のイセルナ・カートンか?」
「ええ。私達のクランに何か御用でも?」
 あくまで冷静に沈着に。だが彼女のそんな振る舞い方すら、彼ら役人連中には反抗的な態
度の類と映っていたらしい。
「とぼけるなよ。お前達が楽園(エデン)の眼と騒動を起こしていることは把握している。
此処所属のジーク・レノヴィンとアルス・レノヴィンをこちらに引き渡して貰おう」
「……あら? どうしてでしょう?」
「二度も言わせる気か? その兄弟は今回の件の重要参考人だそうだ。もしお前達が拒むと
いうのならば……」
 黒服らの合図で、傍らに控えていた兵士らが脇に抱えていた長銃──軍用ライフルを無言
のまま構える。
 抵抗すれば撃つ用意があると言いたいのだろう。
 ダンがあからさまに彼らを睨み付けている。だがそれでもイセルナの態度は冷静で、そし
て何よりも堂々としたものだった。
「令状は?」
「え?」
「令状は、持参していますか?」
 短く二度。彼女はそう役人達に訊ねていた。
 まさか“庶民”がそこまで理論武装してくるとは思っていなかったのか、完全に虚を衝か
れたような格好になる。彼らがお互いに「ないのか?」と眼で確認し合っているのを細めた
目で見つめながら、イセルナは言った。
「王貴統務院第六〇六号令──通称『冒険者条約』には、冒険者はその職務の遂行の為、本
籍国政府からの執行令状を始めとした規定手続きを経ない如何なる介入にも従う法的義務は
ないといった条文があります。お持ちでないというなら、貴方たちの行為は冒険者条約違反
となりますよ。それでも……権力者の論理で私達の“家族”を弾圧しようとしますか?」
 黒服達は小さく唸りつつ、心持ちたじろいでいた。
 この女、知恵が回りやがる。大方そんな自分達の優越感を傷付けられた不快感も同居して
いたのだろう。そんな彼らの様子を見て、兵士らもすぐに引き金を引けずにいる。
「何だ何だ?」
「おいおい、今度は役人どもがやりたい放題かよ?」
 するとどうだろう。
 ふとそれまで時折通り過ぎていた往来の中から、如何にも冒険者(どうぎょうしゃ)とい
った風体の男達が一人また一人とこちらに向かって集まり始めたのである。
 戸惑う役人達。しかしその間にもぞろぞろとその人数は増え、あっという間にホームの前
には大勢の冒険者の大群が役人らを取り囲むという構図が出来上がっていた。
「な……何だお前らは!?」
「み、見世物じゃないぞ。ほら、さっさと失せるんだ!」
「はん。そうあっさりと言う事を聞くかと思ってんのか?」
「俺達は冒険者だぜ? お前さん達が“荒くれ者”と見下してる人種だぜ? なあ?」
「おうよ。聞いてたぜ。おめぇら“蒼鳥”のクランにいちゃもんつける気なんだって?」
「どういう了見だよ? いつからこの街の領主さまはそんなに横暴になったのかねぇ……」
 じりじりと。突如として集まってきた冒険者による「徒党」のやり返し。
 役人達、そして物陰からそんな一部始終を見ていたジーク達も思わず目を見張って困惑の
表情を見せている。
「……」
 そうしていると、ジーク達の方をふとリンファがそれとなく装って見遣ってきた。そして
送ってきたのは小さな頷きを伴ったアイコンタンクト。
(リンさん? え。じゃあこれは……)
 よく見てみれば他の冒険者やイセルナらもこっそりと肩越しなどでこちらに眼をやってい
るのに気付いた。
 つまり、これは彼女達が仕掛けてくれた作戦だったのだ。
 何処でこんな準備をしてきてくれたのかは知らないが、これなら……。
「ジーク」
「ああ。どうやら上手い具合に助けられてるらしいな」
 シフォンと、面々も彼女達の意図に気付いて促してくる。
「だったら躊躇うこたぁねぇ。今の内にホームに戻ろう」
 ジークはそう皆に頷いて言うと、こっそりと忍び足でその騒ぎの裏をかいて、早速裏口か
らホームの中に滑り込んでゆく。

「──そう。学院側はアルス君を護ってくれると約束してくれたのね」
 宿舎に戻って、ジーク達は残りの全団員らと合流していた。
 既に精霊を介した伝令でホームに戻ってくるようイセルナが計らってくれていたようで、
暫くは宿舎の談話室に集まって一同は表の騒動が収まるのを待っていた。
「しかし、それもあくまで現状での判断で口約束だろ? そこで安心はできねぇぜ?」
「だが、今の内に事情を打ち明けておくのは英断だったと私は思う。不用意に巻き込むのは
後ろめたくはあるが、私達クラン単体だけでは“敵”になりうる勢力が多過ぎる」
 そして何とか役人達を追い払ったらしいイセルナ達が戻って来た今、ジーク達クランの皆
はこれからの対応を話し合っていた。
 ジーク達が学院側に呼び出された一件も報告し、皆はそれぞれに頭を抱える。
 現在、自分達の「味方」は学院側(というよりもミレーユ)とイセルナ達が取り付けてき
たというこの街の主立った冒険者クランら。
 しかし、ダンが言ったように共に状況次第では同盟関係を切られる可能性は充分にある。
「当面の問題はアウルベ伯だね。イセルナ、念の為だけどさっきの話は」
「ええ。見てきたというのは精霊達だけど間違いないと思うわ」
「……案の定“結社”からの脅迫、か。実際うちは僕の件で彼らとやり合ってるからね。当
然この街一帯を治めている伯爵にも情報は届いている。不安材料としては充分過ぎるという
ことか」
 イセルナ達が持ち帰ってきた情報曰く、アウルベ伯の下に“結社”からの脅迫状が届いて
いたらしい。
 その内容は『我らに逆らう者、レノヴィン兄弟を差し出せ。さもなくば彼の者が住むこの
梟響の街(アウツベルツ)自体を我らが敵とみなす』といったもの。
「それだけはと思ってたけど、やっぱり狙いをそう向けてきたんだな……。でも変じゃない
か? 俺やアルスが狙いだってわざわざ領主を脅さなくても、直接ここに攻めてくる事くら
いあいつらならできるだろうに」
「そうでしょうね。でもねジーク、相手はその選択はしなかった。つまり奴らは……力押し
で“外側”から攻めるよりも街全体を標的にして“内側”から崩していく、貴方達の居場所
を奪って炙り出すという手を打とうとしているって事なのよ」
「だろうな。悪質極まりない。まさに外道の所業だ」
「…………」
 そうした整理された事実の言の葉を聞き、思わずジークは唇を噛んだ。
 “結社”の悪意ある戦法にという面もある。だがそれ以上にとことん自分の所為で周りの
皆を巻き込んでいるという事実が何よりも胸を痛め、心苦しくて堪らなかった。
 そんな兄の横顔を心情を、弟(アルス)も同じ思いで察しているらしく、安易な言葉すら
掛けることもできずに、ただ心配そうに目を遣って優しさ故の困惑を滲ませている。
「しかしこれじゃあ、早く出発すれば巻き添えもっていう目論みは完全に潰れちまった訳だ
よなぁ……。かといって長居しててもどうにもならねぇし」
「だね。こうなった以上、先ずはアウルベ伯からの敵意──保身の念をどうにかして取り除
かせないといけないのは間違いない」
「……何つーか、面倒臭ぇな」
 とはいえ、自分達のできることから事態を収拾していく他ない。
 もどかしく片手で髪を掻き毟るジークに、隠せぬ不安で心持ち俯き加減になるアルス。
 それでも、一先ずの対処すべき相手は見定められた。
 そう、皆が言葉少なげな中で合意を成そうとしていた──そんな時だった。
「? なぁ、何だか外が騒がしくないか?」
「……そういえば。何だろ?」
「じゃあ、ちょっと見てくるよ」
 ふと遠くから聞こえる騒音。しかし普段の喧騒ともまた違う。
 怪訝な表情(かお)をし始める皆を代表して、団員らが何人か談話室を出て行く。
 しかし……ややあって戻ってきた彼らは、まるで地獄でも見てきたかのように酷く慌てた
様子でジーク達に叫んできたのである。
「た、たたた、大変だ!」
「ま……魔獣が、魔獣の大群が街(こっち)に向かって来てる!」


 ジークは半ば反射的に部屋を飛び出していた。
 激しく脈打ち始める心臓。後からざわめきつつ付いて出てくる仲間達と共に、ジーク達は
宿舎の廊下窓から街の様子に目を凝らす。
 既に同じように情報が伝わりつつあるのか、街の人々も混乱の中にあるようだった。
 領主の私兵の隊伍が通りを駆けてゆく。そんな中で人々は互いに戸惑いの顔で口伝えの情
報収集に奔ったり、或いは既に家財をまとめて逃げ出す準備を始めている者も幾人か見受け
られた。
「……その話、間違いないんだな?」
「ああ。今さっき、見張り部屋からも確認してきた。凄ぇ数だ、ありゃあ自然に集まったよ
うな群れなんかじゃない」
 ということは、やはり“結社”の……。
 ジークは小さく舌打ちをして眉間に皺を寄せると、一人そのまま廊下を駆けていった。
 向かったのは宿舎の階段、その普段自分達が寝泊りしているスペースよりも更に上階にあ
る屋根裏部屋だった。
「ん? おう、ジークか」
「魔獣の大群が出たって聞いたんだが」
「ああ。そうなんだ。お前も見てみろよ」
 そこは備品の倉庫も兼ねた見張り部屋。
 横長の窓際には複数の望遠鏡がセットされており、先程様子を見に行った団員の何人かが
レンズ越しに街の外を覗いている。
 こちらの姿を認め、振り返ってきた彼らがどいてくれる。
 ジークは頷くと早足で飛び付き、レンズ越しにその光景を目に焼き付ける。
 ──その様は、一言でいうと大地を覆う一面の黒だった。
 緩やかな丘陵やその上に延びている街道を踏み倒して進む魔獣の群れ。ここからでは距離
があるので詳細な姿形までははっきりとしないが、相当数の魔獣らが一つの巨大なうねりと
なって群れを成しているのが分かる。
 そしてレンズの向ける先を何度か往復させてその大群の進行方向を確認すれば、この魔性
の大群がアウルベルツの正面門へと進軍を続けているのは明らかだった。
「兄さん!」「ジーク」
 すると梯子越しにアルスとリンファが顔を出してきた。
 階下では団員らが走り回る足音と気配がしている。
「イセルナが指示を出した。三班に分かれる。イセルナとダンの班は他のクランと一緒に魔
獣達を食い止めに。シフォンたち遊撃隊の班は街の皆の避難誘導を、ハロルドたち支援隊の
班は万一に備えてホームの家財をまとめる作業を担当する。私達も動くぞ」
「ああ……分かった!」
 見張り部屋にいた団員らとも頷き合い、ジーク達は梯子を降りた。
 イセルナの判断もあるが、伊達に一個の軍勢でもあるクランの面々の対応は早かった。
 既に皆は三班に分かれて行動を開始しており、外のざわめきと併せてその物音は戸惑いや
思案から決断の下のそれに変わっている。
「に、兄さん。僕も──」
 そしてジークもその中に加わろうと足を進めようとすると、アルスが皆の立ち回りに少々
ついていきかねながら言葉を漏らそうとする。
「駄目だ。お前はリュカ姉と避難してろ」
「でも……」
 ジークは当然ながらその申し出を諫めたが、弟が唇を結んで見上げてくるのを見てつい先
刻の特訓の中でリュカが言っていた言葉を思い出してしまっていた。
 ──貴方はあの子の意思を認めないの? それは、エゴよ……。
 思わず、数拍黙り込む。
 こいつだって皆を救いたいと力を求めている。自分と同じように。
「……。何も俺と同じことをしなきゃいけねぇって訳じゃあないだろ」
「えっ?」
「お前まで表立って魔獣とドンパチしなくてもいいだろって言ってんだよ。お前の魔導は誰
かをボコる為のものなのか? 剣を振り回すだけじゃ救えないものも、お前だったら救える
んじゃないのかよ?」
 だからこそ、ジークは声色を落とし気味に言った。
 アルスが少し驚いたように目を見開いている。傍らで浮いているエトナも似たような反応
をしている。
「怪我を治したり、安全な場所に連れて行ったり作ったり……そういう裏方もれっきとした
人助けだと思うぜ? お前は、お前ができることで皆の力になってやればいい」
 それでもアルスは兄の言葉を、想いをちゃんと受け取ってくれたようだった。
 少しばかり目を瞬いた後で「……うん!」と力強く首肯を一つ。エトナが何だか生温かい
眼でこちらを見てきているが今はざっくり無視しておくことにする。

「気を付けてね、兄さん」
「ああ。お前もな。リュカ姉や皆とはぐれんじゃねぇぞ」
 走り回る皆の中を駆け抜け、ジークはリンファを伴って外に飛び出ていった。
 見渡す限り、他のクランも同じように対応を始めているらしい。
 そんな彼らと逃げ惑う人々、或いは警戒態勢を整えようと奔走する伯爵家の兵らの間をく
ぐり抜けて、二人は急ぎ街の正面門へと向かおうとする。だが……。
「ひゃあぁ~ッ!」
「ま、魔獣だー!!」
 ジーク達の目の前に、それらは姿を見せた。
 人の頭ほどはあろう大きな眼球に無数の触手が生えた、いかにも気味が悪い外見。そんな
目玉型の魔獣が十数体単位でふよふよと街中に浮かんでいたのである。
「あいつは……」
「ヴィグルだな。触手と目からの魔導に注意しろ」
 ジークとリンファは同時に得物を抜き放った。その交戦の意思を感じ取ったのか、この目
玉達・ヴィグルらは一斉にこちらに視線を注いでくる。
「どど、どうして街の中にまで魔獣が来てるんだよ! あんたらの仕事じゃないのか!?」
「は、早く片付けてくれ!」
「……分かってんよ。いいからさっさと逃げな」
 魔獣などとうに見慣れている。
 だがそれでも、一般人達の動揺は更に拍車が掛かってしまったらしい。
 背後に隠れ、或いは走り去りながらそんな言葉を投げてくる街の人々。
 所詮は魔獣や冒険者というのはこういう反応かと内心嘆息をつきつつも、ジークは二刀を
構えて彼らを逃がした。隣でリンファも長太刀を正眼に構えてヴィグル達を見据えている。
『──!!』
 数秒の沈黙。そして一斉にヴィグルらが目を見開いた。
 飛んできたのは、リング状の黒い光。魔導に近い力、波動の類と思われる。ジークはそれ
らを駆け抜け身を捻りながらかわし、リンファは錬氣の一閃で打ち消すと、
『せいっ!』
 ほぼ同時に地面を蹴って、彼らを中空にて斬り伏せる。
 それでも仲間(?)のピンチに気付いたのか、或いはジークがいるからなのか、二人が斬
り捨てて屍骸となって地面に散ってゆくヴィグル達を補完するようにゆらゆらと新たなヴィ
グル達が姿を見せた。
 暫く寄って来るこの不気味な魔獣の群れを、ジークとリンファは斬り捨て捌いてゆく。
「チッ……。何かわらわら湧いてきやがったな」
「早く前線に合流したいが……。しかし放置して街の者に被害が出るのは見過ごせない」
 だが徐々に淡々とした数の力と、魔獣の亡骸から漂い始める瘴気に、二人は思わず顔をし
かめ始める。
 そんなヴィグルの群れを矢と銃弾の乱打が薙ぎ払ったのは、ちょうどそんな時だった。
「ジーク、リンファ。無事か?」
「シフォンか。サンキュ……助かった」
 姿を見せたのはシフォンら遊撃隊の一団だった。
 銃器を構えた団員らを従え、錬氣の余韻を残して長弓を握る彼に、ジーク達は助力の礼を
述べるとヴィグルが一通り一掃できたのを確認する。
「街の者達の避難は?」
「今の所順調だよ。こうして魔獣も入り込んで来て危機意識を煽られてるんだろうね……。
ここは僕らが引き受ける。二人とも早くイセルナ達と合流するといい」
「おう!」「ああ。任せたぞ」
 どうやら後方は思う以上にしっかりとフォローが回っているようだ。確かに耳を澄ませて
みれば、方々で交戦の音がする。自分達以外にも先遣的に入り込んで来た魔獣に対応してく
れている冒険者達がいるのだろう。
 だが、本命は今まさに押し寄せてきている最中。
 ジークとリンファはシフォン達にその場を任せると再び駆け出してゆく。
「──団長!」
 全速力で駆け抜けた先、アウルベルツの正面門の前。そこに出来た物々しい雰囲気の人だ
かり。その中にジークとリンファはイセルナ達の姿を認めた。
「良かった。二人とも無事ね? 途中で魔獣が何度か空から入り込んでいたから……」
「まぁその様子だと大丈夫そうだがな」
「ええ。シフォン達が引き受けてくれました」
「こっちに来ていない面々はあのヴィグルなどの迎撃にも当たっているみたいだ」
 彼女達もまた、二人が合流してきてくれたことで安堵の表情を見せる。
「……アルスは? レナとステラも、無事?」
「ん? ああ。俺は見張り部屋に顔を出してたから見てないんだが……」
「レナとステラならハロルドの傍にいる。大丈夫だ。アルスはリュカさんと一緒に怪我人の
救護に回っていたよ」
 すると父(ダン)の横に控えていたミアが淡々と、しかし心配そうに訊ねてきた。
 ジークは皆を把握していた訳ではないので言葉を濁しかけたが、代わりにリンファが彼女
の不安を払拭するように答えてくれる。
「……そう」
 感情の起伏が乏しいようなミアの反応。
 それでも長年の付き合いはしたもので、ジーク達には彼女がホッと胸を撫で下ろしている
のが分かるように思えた。
 仲間達なら、大丈夫。
 あとは迫ってくる魔獣の大群をどうにかする。そう思って集まってきたのだが……。
「おい、一体何してるんだ!?」
「いい加減ここを通せ。魔獣がそこまで迫ってるんだぞ!」
 何故か、街の門を固める兵士らは集まったジークら冒険者達が街の外壁へと陣を敷こうと
するのに非協力的なようだった。
「そう言われてもな……」
「う、上から門は開けるなと言われてるんだよ……」
 何度も武装も整えた面々が詰め寄っているが、対する兵士らは何だか困惑しているように
曖昧な返事を返すばかり。
「……? 何やってんだよ、兵士達(あいつら)は?」
 ジークはあからさまな怪訝と苛立ちの表情を浮かべ、イセルナ達を見た。
 すると彼女達は自分達も同じ思いだと言わんばかりに肩をすくめてみせる。
「これは推測だけど……。伯爵側はまだ貴方達兄弟を捜しているんじゃないかしら」
「脅迫の内容はお前達を差し出せ、だそうだからな」
「……何つー阿呆な。結社(あいつら)が約束通りに済ませると本気で思ってるのかよ」
「ま、うちの領主さまはまだまだ青いからな。大方、周りの保身に走ってる側近連中が何と
か自分達の所に被害を出さないように言い寄ってるんだろう」
「だから今、他の門から回り込めないか、何人か人を遣っているんだけど……」
「……」
 ジークは眉間に皺を寄せると、ガシガシと髪を掻いて頭を抱えた。
 領主とやらがどんな人物かは知らないが、とんだ大馬鹿者だ。街の皆が今まさにどんな思
いをして逃げ惑い、怯えているのか想像すらできないのか。
『──もしもし~? 領主さん、聞こえてる~?』
 そして突然、街全体に幼い少女の声が響いたのは、ちょうどそんな時だった。
 ジーク達、そして街中の人々がその声にハッと思わず声の方向──空を仰ぐ。
『お手紙通り皆を連れてきたよー。まだ連れて来ないのかなぁ?』
 よく見てみると、声がするのは中空に浮かんでいるヴィグル達だった。
 しかし魔獣は基本的に獣だ。人語を操る種は稀である。
「……この声」
「まさか。あん時の魔獣使いのガキんちょか!?」
 ややってジーク達は思い出す。
 この声の主があの時、サンフェルノを襲った“結社”の刺客の一人だという事を。

「お手紙で書いたよね~? この街に隠れてる悪いお兄ちゃん達を連れて来ないと皆で全部
壊しちゃうよって」
 大地を覆うほどの魔獣の大群。
 その軍勢を率いていたのは、継ぎ接ぎだらけのパペットを抱いた一人の少女だった。
 間違いなく、その人物はサンフェルノでフェイアン、バトナスと共にジーク達と対峙した
魔人(メア)──結社の「使徒」の一人・エクリレーヌで。
「えっと……」
 そんな彼女の周りに浮かんでいるのは、ヴィグル達。そして今にも人間など軽々と蹂躙し
てみせようと荒い吐息を漏らしている様々な姿の異形──魔獣達。
 自分と街に這わせたヴィグルを媒介として自身の声を届けるエクリレーヌは、更に纏って
いるワンピースのポケットからメモらしき紙切れを取り出すと、
「うぉっほん。ええと『我らに歯向かう信仰の敵を差し出せ。さもなくばこれより汝らに無
慈悲な罰が下るであろう』……だよ?」
 拙い棒読みでそんな台詞を唱えてから小首を傾げ、無邪気に笑う。
「──何という事だ」
 勿論、その声は街の領主・アウルベ伯にも届いていた。
 周りには難しい顔をした側近──先代より仕える街の有力者(その多くが議員経験者や有
力商人である)が控え、ちらと互いに顔を見合わせつつも絶望的な現状に言葉も出ない。
「一体、何処にいるんだ。レノヴィン兄弟は何処に……!」
 若き領主は慌て、苛立っていた。
 私の街を守らなければ。その為には奴らの要求を呑む他ない……。
 それは実際には私財を壊されたくない側近達の「生贄的戦略」を採用した形であったのだ
が、既に彼にそんな思考は残っていなかった。
 ただ、悪名高い“楽園(エデン)の眼”が直接牙を向こうとしている。
 その事実が何よりもこの年若い統治者をパニック状態に陥られせていたのだった。
「捜せ! 早く差し出すんだ! この街をこんな目に遭わせようとしている元凶を!」
 最早それは命令というよりは感情的な叫びに近くて。
 アウルベ伯は片腕を振り払い、まごついている衛兵らを無理やり動かそうとする。

「…………」
 ジークは静かに息を吐いていた。
 俯き加減な前髪に隠したその表情。一度収めた刀を一本、ざらりと抜く。
 このままじゃあ、埒が明かない。奴らが攻め込んでくるのを受け入れちまうだけだ……。
「ジーク?」
 イセルナ達がその様子の気付いて僅かに眉間に皺を寄せた。
 まさか。はたと思ったが、もう一同は彼を止める術などなかった。
「……どいてくれ」
 ポツリと、しかし異様なまでに殺気立った声色で。
 イセルナ達も、そして集まっていた冒険者や兵士らも思わず身じろいでいた。
 自然とジークを通すべく人だかりが左右に割れる。その中をゆっくりと踏み締めて進み、
ジークは顔を引き攣らせた兵士らの封鎖する街の門の前に立った。
「お、おい」
「待て。何をす──」
「ぶっ壊せ。紅梅」
 瞬間、ジークの刀から紅い光が迸った。
 護皇六華の一つ・紅梅。増幅する斬撃の太刀。
 それをゆっくりと振り上げ、殆ど本能的に慌てて逃げる兵士達、その背後の街の出入りを
守る閉ざされた巨大な門に──。
『……!?』
 勢いよく振り下ろされたのは、大上段からの紅い一閃。
 そして真っ二つに斬り裂かれ、ズドンと大きな音を立てて地面に倒れた金属製の門。
 面々が、驚愕で目を丸くしていた。
 しかしそれでもジークが一人、まるで何事もなかったかのように歩き出すのを見て、よう
やく我に返ると彼らは一斉に開けた視界の先に目を凝らす。
「あ……。来た来た♪」
 視界一杯に広がるのは、大地を覆う魔獣の群れ。
 その中にちょこんと座して無邪気に笑いかけてくるのは、使徒・エクリレーヌ。
「……。いい加減にしろよ、ガキんちょ」
 紅い光の刀を手にしたままで、ジークはゆらりとその切っ先を魔獣の大群に、彼女に向け
て殺気の籠った眼を向ける。
「ジーク・レノヴィンたぁ俺の事だ!」
 キッと怒りに満ちた顔を上げて怒号の名乗り口上を。
「覚悟しやがれ。てめぇら全部まとめて……ぶった斬るッ!」
 しかしその叫びは、蛮勇というよりも皆の心を捉える作用を果たしていた。
 イセルナ達が呆れ顔の後、フッと苦笑いで得物を手に彼へと歩み寄っていく。
 ──そうだ。このまま奴らに蹂躙されてなるものか。
 瞬間、冒険者達の重なった叫びがジークに応えるように大きく響き渡っていた。

「何だって? 兄の方が魔獣の前に!?」
「は、はい……。先程、閉鎖した正門を破ってきまして」
「う……。つ、詰め所と回線を繋いでくれ」
 報告はすぐさま側近らと共に執務室に集まっていたアウルベ伯に下に届いた。
 よりによって、こんなタイミングで。しかもまた“結社”に喧嘩を売ろうとしている。
(何を考えているんだ。相手はあの“結社”だぞ? この街を自分達の手で廃墟にするつも
りなのか……!? 父上から受け継いだ、この街を……)
 彼は役人らが繋いでくれた導話回線、受話筒からその現場間近の詰め所へと自ら言葉を掛
けて詳細を確認しようとした。
「私だ。一体どうなっているんだ? 冒険者達が門を突き破ったというが」
『は、伯爵殿ですか!? そ、そうなんです。先程レノヴィンを名乗る青年が閉鎖中の門を
バッサリと斬ってしまい……』
「も、門を斬った? 馬鹿な。確かあれは砲撃にも耐えうる強度の筈──」
 だが、そんな時だった。
『おっ? お前今領主と話してんのか?』
『ちょうどいい、ちょっくら貸せ』
『な。こ、こら! お前達勝手に入って来──』
 突如導話の向こうで割り込んで来たのは荒っぽい複数人の声、そして足音。
 どうやら詰め所にも冒険者達が入り込んで来たらしい。アウルベ伯が眉根を寄せていると
彼らは話していた兵士から受話筒をもぎ取り、言い放ってくる。
『おい、一体お前らどういうつもりだ? この一大事に何で兵を動かさない?』
「お前達こそ何のつもりだ? 直接“結社”とぶつかって無事で済む筈がないんだぞ!?」
 アウルベ伯は少しムッとなって言い返していた。
 常識的に考えて“結社”と表立って対立関係になることがどれだけ後々この街に不利益を
もたらすか。それを思うと彼らの行動は蛮勇に思えてならなかったのだ。
 しかし、対する冒険者達の反応は。
『……チッ。所詮は貴族のボンボンか。だったら大人しく屋敷の隅っこで震えてな』
『門を閉じた程度であの大群を止められるかよ。この街は、俺達で守ってやらぁ』
 間違いなく嘲笑、侮蔑のそれで。
『お、お前達! 伯爵殿になんて暴言を……!』
『やかましい。図体だけで何もしないってなら自分達でやるしかねぇだろうが!』
『おら、どけどけ。位置的にもここに陣を敷くのが一番いいんだよ』
『何を勝手な……おわっ、よせ、やめ──』
 導話は、そこで無理やり中断された。
 執務室に残ったのは、嫌な感じが漂う空気と伯爵自身の胸中に突き刺さった衝撃の念。
「……」
 アウルベ伯は、ゆっくりと受話筒を置いてから黙している側近らを見渡した。
 自分が責められる。何故だ? 私はこの街を守ろうと……。
「……近隣の守備隊への応援要請はどうなっている?」
「はっ。既に要請は出しているのですが、如何せん相手が相手ですので」
「……そうか」
 怖気づいているのか、或いは対抗できるだけの戦力を整えられていないのか。
 アウルベ伯は口元に手を当てて暫し考え込んだ。
 名士・有力商人などを中心とした側近達はこそこそと互いに何やら相談し始めている。
 先代からの部下達。自分よりもずっとこの街の事を考えてくれている。そう思っていた。
 だけど……果たしてそうなのか?
 彼の中にふつっと疑問が過ぎり始めていた。
 冒険者達に感化されたのか? 密かに自嘲しつつも、それでも否めない自分がいる。
 自分が街の為にと思い、守りを固め衝突を回避するよりも、その住人らはむしろ迎え撃つ
という選択を採ろうとしている。
 勿論、彼ら冒険者達がこの街の住人とイコールではない。ある意味特殊で好戦的な層であ
るのだから。そう自分に言い聞かせてみる。
 それでも……この胸をざわめかせる違和感は何なのだろう?
「お前達」
 しかし、彼らの有り様を放置しておいていいとも思わない。
「引き続き各所に援軍要請を。それにレノヴィン兄弟の確保も急ぐんだ。まだ何とかなる。
いや……しなくっちゃならない」
 苦渋の面持ちで振り返ると、アウルベ伯はそう部下達に追加の指示を飛ばす。

「遊撃部門は背後に続け! 支援部門は援護射撃と障壁の用意を!」
「急げ! 奴らが迫ってる!」
 魔獣の大群が迫っていた。
 紅い刀身──紅梅を手に下げたまま立つジークの傍で、あっという間に仲間達や他の冒険
者らの隊伍が整えられていく。伊達に対魔獣戦のプロ達ではない。イセルナが、ダンが、皆
が一斉に得物を抜き放ち、錬氣を込める多重奏のオーラが大地を覆う。
 大地を覆う黒が迫ってくる。
 ギチッと構えて金属音を鳴らす皆の武器。
 背後で術の使い手、支援部隊な面子の張り巡らせる障壁の列。
「──!」
 そして、逸早く地面を蹴ったジークが、両者の衝突の合図となった。
 勢いを緩めず迫ってくる黒い群れを、ジーク達冒険者らの軍勢が受け止めるように飛び出
してぶつかっていく。
 魔が人を呑み込むように、或いは人が魔を薙ぎ倒すように。
 冒険者らの第一撃、続く第二撃から三撃への連打。
「どっせぃ!」
 ダンの斧の一閃が双頭の犬型魔獣の首を跳ねていた。その横で、ミアの拳が荒削りの棍棒
を振り下ろしかけた肉ダルマ風な魔獣の顔面を捉え、周りの魔獣らを巻き込んで殴り飛ばし
ている。
「ジーク、前に出過ぎちゃ駄目!」
「数が多過ぎる! 単騎は危険だ!」
 イセルナもリンファも刀剣を振るい次々と襲ってくる魔獣らを迎え撃つが、ジークは紅梅
を片手に更にその先を行っていた。
「分かって……るっ!」
 紅い軌跡が縦横無尽に宙に描かれる。
 その斬撃の動作が一つ加わる毎に、数体の魔獣が真っ二つになって倒れていく。
 護皇六華──聖浄器の効果は絶大だった。あれだけ不死性の高い魔獣達が次々に致命傷を
負って倒れ伏し、動かなくなっていく。
(でもやっぱ、コイツは相当身体にクるな……)
 だが同時にジークに掛かる負担、マナの消費による身体の疲労は普段の戦い方よりもずっ
と激しく思えた。
(それでも……ッ!)
 もう一度紅梅の斬撃で魔獣らを薙ぎ倒して、その場で一回転。
 同時にその解放を解くと、今度はもう一本の太刀を抜く。
 俺は、戦わなきゃならないんだ……!
 自分の所為でこんな事になっている。こんな時に使わなくて、一体いつ使うというのか。
 今までの歩みを“結社”の魔手で否定する気は毛頭ない。
 そんな不条理も、全部この手でぶっ飛ばす。
 その為に欲した筈の力。だから──。
「──撃ち掃え、蒼桜(あおざくら)ッ!」
 今度はその太刀にマナを込めて力を解放する。刀身が纏った光は、蒼色だった。
 身を捻って再び正面へ。飛び掛かり襲い掛かろうとするのは、波状攻撃の如く止む様子の
ない魔獣の群れ。
 ジークは叫びながらその刀身を水平に振り払った。
 するとどうだろう。次の瞬間、刀身から蒼い軌跡が魔獣達に向かって飛んでいく。
 それは紅梅が「増幅する斬撃」ならば「射出する斬撃」だった。
 これが六華の一本・蒼桜の持つ特性。
 その飛ぶ斬撃に、先程よりも多くの魔獣達が巻き込まれ、薙ぎ払われていた。殆ど同時に
魔獣達のけたたましい断末魔の叫びが重なりこだまする。
「おぉっ!」
「何だ……ありゃあ?」
 一撃の威力こそは紅梅に劣る。しかし蒼桜にはそれを補って余りある間合いの広さという
利点が備わっているのだ。
「ははっ、こいつは心強いや!」
「でもあれって……ブルートバードの坊主だよな? あいつ、魔導具使えたっけ?」
「さあ? でもいいじゃねぇか。戦力になるに越したこたぁねぇ!」
「よっしゃぁ! どんどん斬り込めぇ!」
 冒険者(どうぎょうしゃ)達はその奮戦ぶりに、六華の威力に驚いていたが、それよりも
彼らが奮起する材料になってくれたようだ。彼らは口々に雄叫びを伴うと、一層勢い付いて
背後からの援護と共に次々と魔獣の群れを突き崩しに掛かる。
「……ッ!?」
 だがしかし、当のジークはここに来て限界を感じ始めていた。
 元より一介の剣士である自分では──いやこの聖浄器自体、ピーキーな代物ではある。身
体に訴え掛けてくる消耗の感覚は次第に大きくなっていた。
(飛ばし、過ぎかよ……)
 まだ自分には、扱いあぐねる得物なのだろうか。
 キッと睨み付ける視線の先、魔獣の群れの向こうにあの“使徒”がいる。
 なのに……届かない。今の自分では、まだ──。
「一繋ぎの槍(パイルドランス)!」
 すると、容赦なく襲い掛かろうとしていた魔獣らを、急速に伸びた槍が薙ぎ払っていた。
 こいつは……。ジークは片方に蒼いオーラを残した二刀を手に振り返る。
「やれやれ。やはり配分ミスをしていたか」
 案の定、そこに立っていたのはサフレだった。
 手元に引き寄せ戻した槍を握り直し、すぐさま次の魔獣らを貫き地に伏せさせる。
「……皆は?」
「心配要らない。大方避難はできつつある。すぐに誘導に回っていた戦力も集まってくる。
まぁ僕はイセルナさんに頼まれて皆と他の門の方をチェックしていたんだが……」
 振り返ってみれば、確かに門の方から増援が来ているようだった。
 目を凝らしてみれば遊撃隊を率いたシフォンの姿も見える。
 彼ら中衛集団は中空を飛び交って襲ってくる魔獣や、遠距離攻撃を撃ち落していた。
 その中にあってシフォンの得物は弓でありながら、その精度の高さは相変わらず外れとい
うものを知らないレベルであり、一際目を引いている。
「それにしても……。この数は予想以上だな」
 サフレと共に、冒険者らに混じって魔獣の群れを一体また一体と屠り続ける。
 だがその数は一向に減っているように思えなかった。それだけ相手の数の力が膨大である
という証でもあるのだろう。
「ああ……。正直、多少こっちが増えた所でどうにかなるって感じじゃねえな」
 自身の消耗だけではない。
 だがようやく頭がクールダウンしてきて周りの状況にも目を遣れるようになる。今は何と
か前衛集団が奮闘しているが、このままではいつ押し合い圧し合いの勢力図が相手側に傾く
か分かったものではない。
(このままじゃ、呑まれる……)
 開戦の端緒は自分だとはいえ、改めて敵の物量を知らしめされる。
 身体はそうしている間も消耗を訴え、重い疲労で自分を奥底に沈めてくるかのような錯覚
を与えてくる。
「……ッ」
 それでも──自分じゃなきゃ、六華がなきゃ、どうするんだ。
 ジークはそんな限界を訴え続ける身体に鞭を打ってもう一度六華を解放しようとする。
「──無茶しないで。兄さん」
 だが、ちょうどそんな時だった。
 戦いの喧騒の中で、ふと風に乗って耳に届いたのは……間違う筈のない弟の声で。
「盟約の下、我に示せ──咆哮の地礫(グランドロアー)!」
「盟約の下、我に示せ──威神の旋風(エアリアル)!」
 少年と女性。二人の呪文の声が重なり、そして完成した。
 すると巻き起こったのは、咆哮の如く広大な範囲を巻き込んで爆ぜる地面、そして視界す
ら遮るほどの空色の巨大な竜巻だった。
 黒と白、墳と天魔導の魔法陣。それらが魔獣らの蠢く地面に展開され、その大群を一気に
巻き込んで吹き飛ばし、薙ぎ払ってゆく。
「アルス……。リュカ姉……」
 ジーク達は声のした後方上空を振り返った。
 そこにあったは、街を囲む城壁の上に立つアルスとエトナ、そしてリュカの姿だった。
 魔導師の加勢か? 面々は「おぉ!」と嬉々の声を漏らしていた。先程まで徐々に押され
始めていた魔獣の大群。その多くが、見た目にも大きく崩されているのが確認できる。
「ふむ……。これは思った以上に大群ね」
 更に、アルスらには同行者達が付いて来ていた。それも──とびっきりの。
「これだけの魔獣を使役するとはな。悪名高い“楽園(エデン)の眼”とはかくあるか」
「問題ありません。その為に我々が赴いたのですから」
「だよなぁ。街が潰されちまったら学院(しょく)も失くしちまうし」
 次いでアルス達の両側から姿を見せたのは、ミレーユら学院の教師陣だった。
 眼下の門の前方で彼女達を見上げている冒険者達が、ジーク達がこの思わぬ援軍に驚きざ
わついている。
「魔導学司校(アカデミー)学院長、ミレーユ・リフォグリフです。当学院も皆さんの援護
に回らせて頂きます。一旦、魔獣達から距離を取って下さい」
 城壁の上にずらりと横並ぶ魔導師達。
 そして彼らはミレーユのその加勢宣言を合図に、一斉に呪文の詠唱体勢に入る。
「盟約の下、我に示せ──抹消の空(イライザフィールド)」
 ミレーユから放たれたのは、藍色の魔法陣だった。
 すると地面の広範囲をカバーするその円陣を中心としてごっそりと削ぎ取られるように、
大量の魔獣ごとその空間が丸々“消滅”し、次の瞬間にはまっさらな地面だけが残る。
「盟約の下、我に示せ──震撃の荒土(アースクエイク)!」
「盟約の下、我に示せ──喰尽の灼蛇(ファルディオン・ヒーム)」
 バウロとブレアから放たれたのは、黒色と赤色の魔法陣だった。
 振り下ろす拳をバウロが魔法陣に突き立てれば、その動きに合わせるように目の前の大地
が猛烈な隆起と断絶を起こし、ブレアが振り上げた手をサッと眼下にかざせば、彼の周囲に
浮かんだ無数の巨大な炎球が蛇のような姿になって突撃を始め、次々と魔獣の群れを飲み込
んでいく。
 それは、間髪入れずに放たれてゆく魔導攻撃の雨霰。
 頭上からその圧倒的な火力の前に魔獣の群れはあっという間に巻き込まれ、吹き飛ばされ
確実にその数を減らされていく。
「盟約の下、我に示せ──逆巻の把紋(リワイン・クロノク)」
 そしてエマの魔導によって、一旦魔獣達の群れに肉薄していた最前線の冒険者らが一挙に
紺色の魔法陣の中に包まれて“巻き戻し再生”の如く城門のすぐ傍まで戻ってくる。
「……あまり出過ぎていると巻き込まれますよ? こちらで微調整は致しますが」
 あくまで淡々と冷静に皆に注意を促すエマ。
 位置的に見下ろす格好という事も相まって何処かその言葉はいつも以上に有無を言わせな
い威力を以って訴え掛けてくるかのようだ。
「お、おぅ……」
「ああ、分かった。恩に着る!」
「ハハッ! これほど心強い援護はねぇや!」
 それでも眼下の冒険者達は大きく色めき立っていた。
 想定していなかった方面からの援護射撃。
 しかも彼らは皆、学院の教員を務めているプロの魔導師ばかりだ。
 いける。これならこの大群相手でも……。
(ははっ……。アルス達の奴、さては学院に頼みに行ってたな?)
 そんな皆の中で、ジークもまた自身の消耗に苛まれながらも、密かにそんな弟らの支援に
感謝する。
 そうしていると、城壁の上からリュカがジークに向かって叫んできた。
「ジーク、一旦退きなさい! 今の貴方の導力では連発は無理よ!」
「それは……。だけどっ」
 正確な見立てだった。しかしこのまま自分だけ退いてもよいものなのか……。
 だが、そんな憂いは次の瞬間、ジークと再び襲い掛かろうとする魔獣達との間に割って入
ってきたイセルナとバラクの一閃によって叩き伏せられていた。
 ブルートと合体した飛翔態の青白い冷気の剣。
 巨大な鉤爪と酸毒で魔獣の身体を根こそぎ溶かすバラクのガントレット。
 二人、そして両クランの面々が次々に魔獣らに対応し、薙ぎ倒してゆく中で二人は言う。
「いいから一度戻りなさい。貴方に倒れられたら何の意味もなくなっちゃうわ」
「よく分からんが……。だが俺達は、お前一人の穴で遅れを取るほど鈍っちゃいねぇさ」
「僕達なら大丈夫だ。そう簡単にくたばるものか」
「……。分かった、頼んだ!」
 彼女達、サフレと頷き合い、ジークは駆け出していた。
 マナの消耗が、走り出すその身体すら否定しようとしてくる。だがそれよりも仲間達の言
葉をやせ我慢のせいで無駄にしてしまう方がよっぽど情けない筈だ。
 現在進行中で魔獣の群れとぶつかり合う「戦場」の合間を縫って、ジークは一旦街の門に
隣接した、即席の(街の冒険者達が乗っ取った)兵士詰め所──もとい本陣に足を運ぶ。

「あっ……。ジークさん、こっちです!」
 領主傘下の兵士達の殆どが追い出された格好となり、代わりに支援要員な冒険者らで込み
合う詰め所の室内。
 そんな中、ジークが重たい身体を引き摺って入ってくるのを認めて、呼び掛け駆け寄って
くる者達がいた。
「お前ら……。何でここに……」
 それはレナとステラ、聞いていた限りではハロルドの下にいる筈の少女達だった。
「見て分からない? 皆のサポートに回ってるの」
「ジークさん達のことが心配で……。それで、お父さんに無理を言って追いかけてきちゃい
ました」
「そ、そうか」
 ステラは意気込んだ様子で、レナはお淑やかに苦笑を漏らして。
 そんな二人にジークは出掛かった小言を飲み込んでいた。
 ここで危ないから戻れと言ってもおそらく聞かないのだろう。何よりもそうして時間を浪
費している暇などないのだ。
「状況、学院の人達のおかげで押し返せてるね」
「ああ。だけど数で言えば向こうの方が圧倒的だからな。どれだけもつか……」
 だからこそ、ジークは偽る事なく頷き、二人と共に強化ガラスで縁取られた窓の外から見
える両者の激突の模様にちらと目を遣ると、少し身体を引き摺って静かに顔をしかめた。
「あの。ジークさん、お怪我を……? 大変ですっ、すぐに手当てを」
「ん……? あぁそれなら大丈夫。こっちの方は掠り傷だ。それよりもレナ、マナを回復す
るとかってできねえか? あいつらをぶっ倒そうにも六華(こいつら)はどうにも燃費が悪
くてよ」
 そう少し無理して気取ってみせて、腰に下げた三本の得物をポンポンと叩く。
 レナの言葉はあながち間違っていなかった。確かに彼女の言う通り魔獣からの攻撃であち
こちに傷が走っていたが、幸いそれらが致命傷になっている訳ではない。
「は、はい……分かりました。では」
 レナは頷くとジークの胸元にそっと手を当てた。呪文が唱えられていくと同時に緑色の魔
法陣が彼女の足元に展開される。
「盟約の下、我に示せ──精神の枝葉(サプライメント)」
 温かい緑の光がジークを優しく包んでくれた。
 そして身体の中に力が再び湧いてくるのが感覚として伝わってくる。
「? こいつは、何時かの……」
「はい。確かサフレさんと戦っていた時にも使いましたっけ。ご要望の通り、対象にマナを
補給する回復系の術式のです」
「あ、言っておくけど別にレナのマナをジークが奪ってるんじゃないからね? 周りのマナ
を意識的に集めて、今ジークの中に送り込んでるの」
 すると二人が語ってくれる魔導の断片的な講釈。
 ステラからのそんなフォローは、自分のふと思ってしまったことを見透かしての言葉だっ
たのだろうか。 
 正直ジークは、何だかこっ恥ずかしい気がして話の内容も半々くらいしか入らない。
「……そっか。ま、ありがとよ。だいぶ楽になってきた。これで──」
 もう一度、あのガキんちょと魔獣どもに一発を叩き込める。
 マナの回復を受けつつも、そわそわと気持ちだけが逸ってしまう。再び、ちらと未だに仲
間達が交戦を続けている景色を窓越しに見る。
 ちょうど、そんな時だった。
「見つけたぞ、レノヴィン兄弟だ!」
 突然聞こえてきた不躾な声に振り向いてみると、詰め所の入口からこちらへ向かってくる
黒服達の姿が見えた。その両脇には、一度追い出された兵士達の一部が引き連れられている
のも確認できる。
「……。まだ捜してたのかよ」
 周囲の冒険者達が何事かと怪訝の眼を少なからぬざわつきを漏らす中、ジークは彼らに睨
みを効かせたままで小さく舌打ちをして、呟く。
 皆の眼が怪訝から警戒のそれへと変わっていく。
 だがそんな面々を手荒に撥ね退けつつ、黒服達は近付いて来る。
 途中で「弟の方は城壁(うえ)にいるようです」「捕まえろ」といったやり取りが聞こえ
てきた。しかしあちらにはリュカやミレーユ達がいる。自分が追いかけて行かずとも上手い
具合に撒いてくれるだろう。
 無意識の内に立ち上がって、レナとステラを自身の背後に遣って。
 ジークはそう数秒の内に頭の中で判断を下すと、ずんずんと向かってくる彼ら黒服達と相
対するように真っ直ぐに前を向く。
「ジーク・レノヴィンだな? 伯爵様からの命令だ。我々と来て貰──ぃぎゃお!?」
 だがしかし、黒服達の開口一番の台詞はそんな締まらない語尾で寸断されていた。
 ジークが、彼の背中に隠れておずおずとしていたレナとステラが、それぞれに小さく驚い
た表情を漏らす。
「おい坊主。よく分からねえけど今の内に前線に戻っとけ!」
「もしかしなくてもお前なんだろ? 領主が捜してるっていう“生贄”はよ」
「ぬぅっ! こら、お前ら離せ……っ!」
「私達を誰だと……!」
「やかましい! ろくに手を汚さない甘ちゃんの言う事なんぞ聞けるかってんだ」
「こいつらは俺達で押さえとく──というかボコっとくから、さっさと終わらせて来い」
 どうやら役人連中の高慢な態度が癪に障っていたのは周りの皆も同じだったらしい。
 ジークのすぐ目の前まで近付いて来た彼らに、突如他の冒険者達が飛び掛かって羽交い絞
めにし始めたのだ。
 黒服達は何気に自尊心を傷付けられて怒りの表情と声を露わにし、その縛めを振り解こう
とするが、よもや腕っ節の領域で冒険者(プロ)に敵う筈もない。
「…………」
 しかし当のジークは眉根を寄せたまま、すぐには動かなかった。
 数秒、何やら考え込んだ後、バッと何かに押し出されるように踵を返し、騒ぎの中を早足
に歩き始める。
「は、はい。今確保をしようとしているのですが、冒険者達が抵抗を──」
 その先には壁に備え付けられた導話で報告を送っている兵士がいた。
 するとジークは、
「……おい。その導話、領主に繋がってんのか?」
「え?」
「ちょっと貸せ」
「なっ……。い、いきなり何を──ぉうふ!?」
 戸惑う彼の同意も何も無視して、強引にその受話筒をぶん取る。
 弾き飛ばされてこの兵士がよろめき後退する。その勢いが余って壁のスイッチが「館内」
に切り替わってしまったのだがそれの事に気付く者はなく、事態は進行していく。
「おい、領主か?」
『ん……? どうした何があった? お前は……?』
 皆がそんな想定外の行動に出たジークに一斉に眼を遣る中、当のジーク本人は片肘を壁に
当てながら、受話筒を耳元に遣りつつアウルベ伯との通話を開始しようとしていた。
「ジーク・レノヴィンだ。てめぇが捜してる、な」
『なっ!?』
 当然の事ながら導話の向こう、屋敷の執務室でアウルベ伯は驚いているようだった。
 このやり取りが現場の全員に聞こえているなど知る由もなく、周りでざわつく側近らにち
らと眼を遣ってから受話筒を持ち直して叱責しようとする。
『……な、なら部下達から話は聞いてるな? すぐにこちらに来るんだ。早くこの状況を』
「馬鹿かお前? 結社(やつら)が俺達を“生贄”にして素直に退いてくれるような、そん
な穏便なタマかよ。いい加減俺を誘き出す為に利用されてることぐらい気付けよ」
 だが対するジークもまた一切の遠慮がなかった。
 相手が領主である事は周りも察していたので、レナやステラを始めとした面々は少なから
ず事態がこんがらがると思い、慌て、大きくざわつく。
『……。元はと言えば君達が“結社”とゴタゴタを起こしたのが原因じゃないか? それを
まさか棚に上げて加えて私を誹る気か? は、恥を知れ!』
 ムッとした若き伯爵の声色が導話越しに伝わってくる。しかし。
「──んな」
『んっ?』
「ふざけんなって言ってんだよッ!!」
 ジークの内に込めた憤りは、その比では無かったのだ。
 あまりにも激しく噴き出した、その剣幕。
 周りの面々も、そして対するアウルベ伯も思わず言葉を失い目を丸くする。
「恥だ? てめぇは本当に馬鹿か!? 自分達だけは安全な場所に居て、問題が起きたら誰
か一人に全部押し付けてやり過ごそうってのかよ? ふざけんじゃねえ!!」
 そしてその声は、勿論街の城門周辺で戦っていた仲間達や他の冒険者達にばっちり聞こえ
ていて。
『…………』
 アルスが、イセルナが、仲間達や同業者達が、街の人々が。
 アウルベルツを護ろうとする全ての者達が彼の滾る言の葉を耳に届ける。
「確かに俺達は“結社”とやり合ったよ。だけど最初に仕掛けてきたのは向こうだ。俺達だ
ってただ仲間を助ける為に立ち向かっただけだ。それの何が悪いってんだよ。見殺しにしろ
とでも言ったのか?」
 黒服達がちらちらと、戸惑いのまま互いの顔を見合わせ始めた。
 これは、釈明というより反論だ。いや……説教だ。それも街の領主に対する。
「てめぇは領主だろ。この街を守る為にいる人間だろうが。なのに今のてめぇは何にも守れ
ちゃいねぇ。せいぜいその傍でぬくぬくとしてる成金どもの我が身可愛さくらいだろうが」
『……』
 目を見開いたまま、アウルベ伯は押し黙ってもう一度側近達の方を見た。
 先代、父の代から仕えてくれている側近達。信頼できると思っていた者達。
 なのに……どうしてお前たちは、私の目を見ようとしない?
「おい。てめぇのそのお偉い肩書きは飾りか? 自分達を着飾って威張る為のものか?」
 ドゴッと。ジークは空いた手、拳で強烈な一撃を壁に叩き込んでいた。
 握り締めた受話筒、力をギシギシと込めた指先。それら全てが彼の憤りと爆発して止まら
ぬ情熱を物語っている。
「違うだろうが! 偉いってのは単に金や肩書きがあるからじゃねぇだろ! ……救えるか
らだろ? その権力ってもので人やモノを動かしてたくさんの人間を救える、その“力”が
あるからじゃねぇのかよ!?」
『──ッ!?』
 導話の向こうでアウルベ伯が息を呑んでいた。
 ハッと身に詰まされた思い。衝撃。それでもジークはまだ吐露することを止めない。
「俺だって一人じゃ力が足りねぇよ。皆で集まっても助け切れないかもしれねぇ。だけど、
お前らならもっとたくさんを救えるかもしれねぇ。てめぇは……何を守りたいんだよ? こ
の街なんだろ? 何を見てきた? 屋敷に籠って狸どもの言うことだけ聞いてて何も見えて
ねぇんじゃねえのか? 救ってくれよ……。街の皆が逃げ惑ってる。震えてる。それがお前
ら貴族って奴らの役割じゃねぇのかよ……?」 
 皆がしんとなっていた。
 誰が言ったかではない。ただその吐露があまりにストレート過ぎて。
「兄さん……」
「ジーク、貴方……」
 兵士や黒服達も、彼らに追い立てられ抵抗していたアルスらも。
「……はん。大層な言いようだなぁ、おい」
「ふふっ。そうかもね」
「だが、あれが本心なのだろうな」
 魔獣の大群と戦っていた、仲間達も。
「ジークさん……」
「……変わってないんだね。あの時から、ずっと」
 そんな言葉を間近で聞いていたレナやステラも。
 只々、暫しその威力に立ち尽くす他なくて。
「──っはぁ。分かったら、さっさとこんな意味の無い追いかけっこなんざ止めろ。今はそ
んな事をしてる場合じゃねぇだろうが……」
 その自然発生した沈黙の中で、その当人だけは一気に喋り過ぎて少々息切れしつつ、そう
結ぶように言い残して打ち込んでいた拳をだらりと下ろした。
「……。んあ?」
 そして、そこでようやく、ジークは周りを大きく巻き込んでいたことに気付いたらしい。
 じっと向けられている皆の驚愕やら感心やらの眼差しの束。
 ジークはついポロリと受話筒を手から滑らせつつ、唖然と皆を見遣る。
『…………そうだ』
 そんな時だった。
 はたと、導話の向こうからアウルベ伯の震えた呟きが聞こえた。
 ぐらりと心も体の倒れそうになるほどテーブルの上に体重を任せるように手を突き、俯き
加減になった表情を垂れた紺色の前髪が隠す。
 そこでようやく側近──街を代表する名士や商人達がおずおずとこの若き主……いや態の
良い操り人形の顔色を窺うべく、ざわつき見返し合っていた顔を向けようとする。
「すぐに、アウルベ家傘下の者全てに伝えろ」
 だが、結論から言えばもう彼はもう“以前の彼”ではなくなっていた。
 ゆっくりと上げた顔、その瞳には強い意思が。
 只々、父から受け継いだ街を守る。その使命という重圧の中でもがいていた日々から身を
乗り出し、自らの心に従い決断したその一言を。
「人員を三班に分ける。住人達の避難と保護に一つ、残りの二つを魔獣達の迫っている正門
に集結させろ。前線の冒険者と学院の者達を援護しあの狼藉者どもを討ち払え!」
 命令。権力としての叫び。
 側近達は慌てた。退けられるのか? それに“結社”からの報復があれば自分達の商いに
どんな悪影響があるか──。
「何をしている、早くしろ!!」
 しかしもうアウルベ伯は迷わなかった。もう彼らに“使われて”いなかった。
 気付いたから。
 自分は随分と狭い視野の中でもがいていたに過ぎなかった事を。
「財物ならまた時間を掛ければ蓄えられる。だが人は、失ったら二度と戻ってこない……」
 そうでしょう、父上?
 貴方が護りたいと願ったこの街は何も石造りの家屋ばかりではない。何よりもそこに息づ
く人々であるのですよね……?
「私はこの街の領主だ。この地の人々を、何にも替え難い財産を、私は護る義務がある!」
 ──当然、館内通話になっていた兵士の詰め所、ジーク達面々にも彼の言葉は全て届いて
いた。次の瞬間、場が一気にざわめき、鼓舞される。外の前線からも同じく重なる皆の声が
聞こえてくる。
「伯爵殿の命令だー! これより我々も攻撃に参加する!」
「撃ち方、全門開放っ! 発射準備!」
 もしかしたら、兵士ら自身はジーク達と同じく街の為に戦いたかったのかもしれない。
 アウルベ伯の命が下って数分と経たない内に、街を囲む城壁から兵達の呼び声が響いた。
そして次々と迫り出してきたのは、街の防衛時に使われている多数の砲台、その砲身。
「てーッ!!」
 撃ち出されたのは、その数と等しい多数の砲撃だった。
 砲弾は宙を飛び、魔獣らの群れの中へと次々と飛び込んでは爆散してゆく。
「……よっしゃあ! 何か知らねぇが領主も味方についたぞ!」
「今だ、一気にたたみ掛けろぉ!!」
 その勢いに乗じ、表の冒険者達も一気に攻勢に転じた。
 頭上から砲撃が降ってこようが何のその。魔獣が、街を襲う災厄が討たれるなら拒む理由
は何処にもない。そう言わんばかりに彼らの猛進が始まり、黒い大群へと更に深く深く斬り
込んでいく。
 そして、情勢は更にジーク達の側に加速することになる。
『──こちらアトス連邦朝守備隊東部統括本部。応答願います、アウルベ伯爵』
『守備隊……!? こ、こちらアウルベ伯ルシアン。こちらの様子は確認できるか?』
『はい。先程より正門付近での交戦を確認しています』
『遅くなって申し訳ない。こちらも対応できるだけの兵力を集めていたもので』
 以前より、アウルベ伯より援軍要請を受けていた守備隊が到着したのだ。
 彼らが語るように、その兵力数はざっと万規模。ちょうど正面からアウツベルツの軍勢と
ぶつかっている魔獣達の群れの左右を挟む形で二手に分かれ、その長銃・長剣を装備した隊
伍が地面を覆う格好。
『これより全軍、加勢致します。許可を』
『りょ、了解した! 援軍感謝する!』
 アウルベ伯が届いてきた導話通信に応えると、守備隊の軍勢は早速攻撃行動に移った。
 必然、正面の冒険者と学院の魔導師、伯爵傘下の兵達と共に魔獣の群れを三方から囲い込
んで進撃してゆく戦況となる。
 数の力の差はこれで一気に縮まることとなった。
 正面からの猛進、左右両側からの強襲。故に人間ほど統制された訳ではない魔獣の群れは
徐々に崩れ始める。
 一体、また一体、確実にそしてより急速に。
 集った軍勢は一丸となり、ぐいぐいと魔性の軍勢を攻め押してゆく。
「──おかしいの。何で私達のいう事聞かないの……?」
 怒涛の勢い、重なる人々の声。
 ヒトを駆逐する筈の魔獣達が押されているのが、戦況を眺めていたエクリレーヌにも伝わ
っていた。
 しかしその表情は、自身の配下らが劣勢に傾くことよりも、
「フェイちゃんの言っていた通りにすれば“皆バラバラになる”筈なのになぁ……」
 むしろ思い通りにいかない目の前の現状にむくれる子供のそれで。
 ぎゅっと継ぎ接ぎだらけのパペットを抱き締めて。
 この幼女の姿をした魔人(メア)は、手の中のメモを一瞥して大きくため息をつく。
「皆~! 帰るよ~っ! お兄ちゃん達意地悪過ぎるの~!」
 そしてそう彼女が叫んだ次の瞬間だった。
 突如として辺り一帯の地面に現れた毒々しい赤紫色の魔法陣。
 彼女は残っていた魔獣の軍勢をその円陣の中に収めると、サッと手を振る。
 するとどうだろう。その瞬間、彼女は魔獣ら諸共、一挙に姿を消してしまったのである。
「……い、いなくなった?」
「こ、これって……」
「もしかして俺達、勝ったのか? あの“結社”に……?」
 魔獣が蹂躙した目の前の大地は荒れてこそいた。
 だが、取り残された、勝利してその場に立っていたのは間違いなくアウルベルツを守ろう
とした者達の群れで。
「うぉぉぉぉーッ! 勝った、勝ったぞぉぉ!!」
 だからこそ冒険者達も、兵士達も、次の瞬間には一斉に勝ち鬨をあげていた。
 安堵、或いは歓喜。人々の嬉々の叫びが大地に満ちる。イセルナら仲間達は密かに胸を撫
で下ろし、にわかに晴れ始めた空を仰ぐ。
「……終わった、の?」
「みたいだね。よ、よかったぁ……」
 詰め所の中のレナとステラも互いに手を合わせて喜び、安堵していた。
 室内の周りの冒険者や兵士、そして黒服らも(半ば強引に)その喜びの渦の中にあって。
『……。ありがとう、ジーク・レノヴィン。私は、これでやっと父上から“領主”を受け継
げることができたような気がする』
「いきなり礼なんざ言うなよ。気持ち悪い。ま、そう簡単に本当の領主なれるなら誰も苦労
なんぞしねぇだろうけどな」
 そしてそう皆が歓喜に包まれている中で、ジークはアウルベ伯の静かな謝意を導話越しに
聞いていた。
 受話筒を片手に壁に寄り掛かり、そんな皮肉を付け加えて口角を吊り上げる。
「……まぁ精々頑張ってくれよ? この街のリーダーさん?」
『ああ。誠心誠意力を尽くすさ。……約束する』
 導話の向こう、屋敷の中から救われた街を眺めて微笑む彼に、ジークもまた静かに笑みを
返して──。


 魔性の群れは去った。
 それでもアウルベルツが全くの無傷であった訳ではなく、襲撃騒ぎの翌日には街のあちこ
ちで損傷した家屋の修理や怪我を負った人々の治療が始まっていた。
 しかし、人々の表情の多くは陰鬱なそれではなかった。
 アウルベ伯が彼らの支援に全力を尽くすよう計らってくれたこともある。何よりもそれ以
上に“結社”の魔手を撥ね退けた、その自信が多くの人々の目を前へと向けさせていたのか
もしれない。
「──行くんだね。大丈夫? まだ街の中はごたごたしてるけど」
 そして、ジーク達が皇国(トナン)への出発の路に就いたのは、その七日目の夜だった。
「ああ。だから夜まで待ったんだよ。むしろ今日まで掛かったのは遅いくらいだ」
 夜闇の下、ブルートバードの面々は宿舎前の中庭に集合していた。
 その輪の中心にはジークを始めとしたトナンへ向かうメンバー九人。
 アルスが寂寥感を堪えるように心なし抑えた声色で言うと、ジークは小さく頷く。
 先日、直接“結社”が攻めて来た事で「早く自分達が発てば皆に迷惑を掛けずに済む」と
いうある種の楽観論は崩されていた。
 それでも、ずるずると街の厚意に甘えている訳にはいかない。
 故に街がまだ復旧作業にある中で、ジーク達は足早に旅立の準備を整えていたのだ。
「それはそうだけどね。でも……いいのかい? 伯爵が直接謝罪に行きたいと連絡があった
ばかりじゃないか」
「……いいんスよ。向こうとしてはけじめなんでしょうけど、頭を下げられるのを待つより
もやらなきゃいけないことの方がごまんとあるでしょう? すみませんけど、団長達で応対
しておいてくれませんか」
「そう……。分かったわ。じゃあ貴方の代わりに宜しく言っておいてあげる」
 そしてもう一つ、ハロルドの問い掛けにジークはそう答える。
 早く六華を取り戻す。表向きの理由はそれで。
 だが、多分彼は気恥ずかしいのだろう。あの場の激情に身を任せていたからとはいえ、仮
にも領主にため口で説教までしてしまったのだから。
 幸い伯爵自身は彼の言葉を受けて心底悔い改めたようだったが、冷静になって考えれみれ
ばあの振る舞いはその場で「不敬」と斬り捨てられてもおかしくなかった筈である。
 イセルナはそんな推測を脳裏に浮かべると、くすっと苦笑を微笑みで隠してその面会の代
役を承諾してやることにする。
「しかしよ。どうするんだ? 出発するにしても例の襲撃騒ぎでまだ街の門は検問が続いて
るんだぞ? 俺達がすんなり通して貰えるとは思えないんだが……」
 ゆさっと肩に引っ掛けた旅荷を揺らし、僅かに片眉を上げてダンが問うた。
「ああ……それなら大丈夫ッスよ。リュカ姉」
「ええ。それじゃあ、皆さんちょっと離れていて下さいね。向こうに付いて来るメンバーは
私の傍に立ってくれるかしら」
 すると、ジークは待ってましたと言うような口調で傍らのリュカに合図を送った。
 どうやら事前に申し合わせていたことらしい。
 リュカは穏やかに頷くと、一旦イセルナら待機組に距離を置かせ、一方でジークやダン、
リンファなどの出発組を自身の傍へと誘う。
 団員らが、少なからず頭に疑問符を浮かべていた。
 そんな面々の様子をざっと見遣ってから、リュカはスッと神妙な面持ちになって片手を地
面と水平に伸ばしてもう片方の手を胸元に当てると、静かに詠唱を始める。
「天を闊歩する白霊よ。汝、その空への翼を我が朋へ授け給え。我はその悠々たる浮き巡る
脚にて天駆けることを望む者。盟約の下、我に示せ──風紡の靴(ウィンドウォーカー)」
 そして呪文が完成した次の瞬間、リュカを中心に白色の魔法陣が地面に展開された。
 その円陣の中に収まる格好となっていたジーク達出発組の面々。
 同時に足元にフッと風が吹く感触がする。見てみれば、彼らの両脚に風が集まり、その身
体をゆっくりと浮かせ始めていたのだ。
「これは……飛行の魔導。と、いうことは」
「ああ。そうさ」
 アルス達がそれを確認して、再び視線をジークらに向ける。
「簡単なこった。──空から出て行けばいい」
 リュカがサッと手を振った。
 するとふわりとジーク達九人の身体が宙に浮かび出す。
 空を飛び、街を出る。だからこそ気付かれ難い夜をその時に選んだのだ。
「シフォン。案内の精霊を」
「ああ。気を付けて。アルス君のことは任せておいてくれ」
「おうよ。……頼んだぜ、親友」
 ほうっとシフォンの意思に応じるように、はたと数体の下級精霊らが闇の中に灯る光の如
く姿を現す。そんな彼らを道しるべにするように寄り添わせると、次の瞬間、ジーク達九人
はぐんと加速して夜空の彼方へと舞い上がっていく。
 数秒も経たぬ内にジーク達の姿は夜闇に紛れて見えなくなった。
 ホームの中庭にはイセルナ達待機組の面々だけが、驚きや感嘆の様子で一様に空を見上げ
て立ち尽くしている。 
「兄さん……」
 そんな皆の中で、弟(アルス)はエトナと共に静かに兄達のこれからを案じてぽつりと呟
き、只々夜の黒に染まった空を星々を視界一杯に映し続ける。

「ハハッ! こいつは凄ぇや」
「あわわ……。飛んでる? 私、飛んでる!?」
「……レナは元から飛べるでしょ」
 ジーク達は夜空の中を文字通り飛んでいた。
 ダンが驚きの後に呵々と笑えば、レナは強い風圧で捲れようとするスカートを押さえなが
ら動揺し、そんな鳥翼族(ウィング・レイス)の友にスパッツ姿のミアが冷静にツッコミを
入れる。
「この人数を一度に制御するなんて……。流石はアルスのお師匠様です」
「ふふっ。ありがとう」
 ステラは一介の魔導の使い手として素直に感嘆し、リュカも応じて上品に謙遜する。
「ところでジーク。シフォンが言っていた例の場所は……?」
 夜空の中を舞い上がり、飛行するジーク達。
 大きく靡かされる髪を押さえながら、リンファは肝心の本題をジークを問うた。
「ええ。精霊達(こいつら)が案内してくれる筈ですけど……。リュカ姉、はぐれないよう
に頼むぜ」
「分かってるわ。貴方達こそ下手に暴れないでね? この高さ、落ちたら即死よ?」
 視線の先にはシフォンが寄越してくれた案内役の精霊達の灯火がふよふよと浮かんでいる
のが見える。この空中浮遊の制御をリュカに一任し、ジーク達は最初の目的地へと向かう。
 ──トナンへ赴くのに、飛行艇を利用するのは“結社”側に対して真正面過ぎる。
 何よりも空中で撃ち落されてしまえば自分達、そして乗り合わせる人々の命を犠牲にして
しまう可能性高い。だからこそ、地上経由で「導きの塔」を利用する事にしていた。
 だが、それでも“結社”は近場の主立った塔には手の者を遣っている可能性がある。
 そこでシフォンが話し合いの折、提案してきたのがもっと別な導きの塔──彼自身がこの
顕界(ミドガルド)に降りて来た際に使ったという人知らぬ塔だった。
 距離こそアウルベルツから離れていたが、こうして空を飛んでいけばそう長く時間はかか
らない。
 故にジーク達はその提案を採用し、彼が案内に寄越してくれた精霊達を目印にこうして夜
の空を移動しているのである。
「おっ……? あそこか」
 そうして夜空の空中散歩を始めて暫く。
 はたと、それまでゆらゆらと飛び続けていた精霊達がゆっくりと地面に降り始めた。その
動きに合わせてジーク達も彼らに続いてゆく。
 辺りに人家の灯りなどは見えなかった。
 目を凝らしてみても、人が手を入れているような痕跡は殆どなかった。
 一面の、森林。その中に……石造りの古びた塔が一棟、物音一つなく佇んでいた。
「ここがシフォンさんの言っていた場所なのだろうか?」
「多分、そうだと思いますよ? 精霊さん達も入口で待ってくれていますし……」
 地面に降り立って少し歩く。
 サフレが誰となく確認するように呟いていたが、塔の入口付近では既に精霊達がジーク達
を待つように周囲をほんのりと照らし、漂っている。
 どうやら、ここで間違いなさそうだった。
「よし。じゃあ行くか」
「そうだな……。だが気を付けろ? 結社の手の者がいないと決まった訳じゃない」
 到着の安堵とまだ残る警戒心と。
 ジーク達はいつでも戦えるよう得物にそっと手を伸ばしつつ、塔の入口を閉ざす金属質の
扉に手を掛ける。
 ギギィと、扉は少なからず年季の入った軋みの音を立てながら観音開きに開いた。
 一歩、また一歩とジーク達はその内部に足を踏み入れる。
 するとこれでお役御免だとでも言いたかったのか、案内してくれた精霊達はふわっと中空
に舞い上がると、フッと一斉に顕現を解いて姿を消してしまう。
 内部は奥に長い楕円形のような床になっていた。
 入ってすぐには祭礼場を兼ねていたその歴史よろしく左右に木の長椅子が何列にも横並び
になっており、正面の複雑なレリーフが彫られた石壁とその上に備え付けられた祭壇が静か
にジークら深夜の来訪者を出迎えている。
『……』
 いや、それだけではなかった。
 ふと複数の人の気配、視線が向けられていることに、ややあってジーク達は気が付いた。
 半ば反射的に顔を上げ、その主──祭壇が祭る種々の彫像の隙間に隠れていた、ローブで
頭からつま先までを隠し杖を握った術者風の一団の姿をようやく認めることができる。
「……あれは、衛門族(ガディア)か」
 眉根を寄せて、そうポツリと漏らすサフレ。
「ガディ……? ああ、あの門番民族の……」
 面々が祭壇上の彼らを見上げてひしと場に走る緊張感に身を強張らせる。
『…………』
 薄闇の中で静かに密かに目を細めて。
 このローブ姿の守人の民らは、じっと眼下のジーク達を見つめていたのだった。

スポンサーサイト
  1. 2011/12/23(金) 23:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(雑記)言の葉に願いをのせて | ホーム | (雑記)現実>理想のインペイシェンス>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/104-51cd0c55
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (147)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (86)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (27)
【企画処】 (333)
週刊三題 (323)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (15)
【落書帳】 (6)
【詩歌帳】 (6)
【雑記帳】 (315)
【読書棚】 (30)
【遊戯倉】 (24)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW (16)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

@long_month からのツイート