日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「無垢の墓守」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:墓標、廃人、幼女】


 文明という言葉が死語になったのは、一体どの瞬間からだったのだろう。
 私達人類は、滅びの一歩手前にいる。それでも多くの者が何となく、今日もそれぞれに懸
命に生き長らえているのは、結局それらが何処か遠い場所の出来事だと思っている──そう
信じていたいからなのか。
 だが事実、この大地は不毛となって久しい。大昔に云う国や政府といったものは、私や両
親、その祖父母が物心ついた頃にはとうに滅んでいたそうだし、大小様々な紛争が今もあち
こちで繰り広げられている。
 ……そもそもの発端など、とうに忘れた。
 ただある勢力がある別の勢力を憎み、その逆も反撃の名目でまた然り。元々の本筋など失
せて、末節の粗を探しては口実にし、議論の余地すらも無い。とにかく敵(あいて)を討ち
滅ぼすことにばかり心血を注いでいる。
 そうした数え切れない程の戦いが続くにつれて、世の中は疲弊していって。
 卵が先か鶏が先か、今となっては確かめようもないが、その結果かつての文明は大きく衰
退した。大地も文字通り不毛に荒れ果ててしまった。動物達にはとんだとばっちりだろう。
現在はそんな過酷を逃げ延びた人間達が、各地に点々と街(コロニー)を作っている。

「こんにちは。ようこそ、ピースメイク第二特別区へ!」
 私はこの日、そんな大地の一角にある敷地を訪れていた。自分達の街(コロニー)でも珍
しい、要所要所の道順に石畳と幾つかの管理棟らしき建物を備えた、かなり広大で厳重な施
設である。
 張り巡らした高い塀の正面から出迎えてくれたのは、揃いの深紺の制服──だぼっとした
作業着に身を包んだ、一見幼い女の子や男の子達だった。
 正直、内心本物を見て驚いたが、私はなるべく丁寧な態度を、平静を装う。
 こう見えても彼女らは、れっきとしたこの施設の管理人──通称“墓守”達なのだ。鉄格
子の出入り門を開けて、トコトコと駆け寄って来る彼女らに会釈をし、私は事前に送付され
ていたこの日の分の通行証を懐から取り出すと、名乗る。
「初めまして。先日連絡させていただいた、ハンヅキ=オータムです。今日は宜しくお願い
します」
 は~い! 見た目はやはり、無邪気な子供達にしか見えない彼女らに通行証を検めて貰っ
てから、私は案内のままに敷地内へと足を踏み入れた。わ~! っと駆けてゆく彼女らの姿
は微笑ましいが、反面実際に目の前に広がる光景は、寧ろ何処か圧迫されるような、空寒し
いように思えた。
(……ここがあの、公社の施設か)
 はたしてこの場所を形容するなら、何と言えばいいのだろう。
 そう、墓地だ。整然と整えてありながら、何処かもの寂しい雰囲気が全体として漂う。も
しかしなくても、彼女らを“あの姿形”に設定してあるのは、そういうことなのか。
「それでオータム様は、私達のことをどれくらいご存知なのでしょう?」
「一応、人並みには。取材させて貰うのに、予備知識の一つも無いのは失礼ですからね」
 そう……取材だ。私は今日、一介のライターとして、此処についての紹介記事を書く為に
訪れたのだ。本来ならばそう易々とは入れない場所なのだが、そこはひとえにクライアント
の根回しのお陰なのだろう。
 なるほど。案内役の少女はそうコクンと頷くと、少し佇まいを正した。私の横をてくてく
と歩きながら、小さくわざとらしい咳払いをして説明を始める。
「……コホン。此処は人々に安息を提供する、ピースメイク計画の最前線です。此処は第二
区域ですが、現在第五区域までが稼動。第六・第七区域が新たに建築中です。本サービスに
登録いただいたお客様は、お一人お一人専用の匣(スペース)にて安置。私達が二十四時間
体制で、その仮想ライフをお守りさせていただいております」
 ピースメイク計画。
 それはとある大きな街(コロニー)に拠点を置く“公社”が、その持てる技術と財力を駆
使して展開している、いわば仮想現実への移住事業だ。此処のような幾つかの施設の、地下
深くに設置されたカプセルの中に入り、半永久的に目覚めぬ夢の中で生きられる。見られる
仮想世界は複数の中から選択できるから、望みの世界にずっと居られるのだ。昨今の果ての
ない紛争と、不毛の大地に巻き込まれるかもしれない不安を考えれば、なるほどこれはおあ
つらえ向きの逃避手段なのだろう。
「……」
 だが、それははたして正しい選択なのだろうかと私は思う。
 仮想空間はあくまで仮想空間。実際の自分の身体はこうして、地下深くのカプセルの中に
埋まっているし、もし此処を攻撃でもされたら、それこそ文字通りに死んでしまう。
「じゃあそこの匣(スペース)を、記者さんに見せてあげて~」
「了解~。よい、しょっと……」
 目の前で、取材──宣伝をしてくれるからと、小さな“墓守”達がその一つを特別に掘り
起こして見せてくれる。土と分厚い金属板の仕切りの下から出て来たのは、カプセルの中で
静かに眠っている初老の男性だった。
『──』
 とても、安らかだ。きっと自分好みの平和な夢を見ているのだろう。
 しかし私には……それがまさに墓のように見えた。棺の中で眠っている、色白の死者であ
るかのように思えた。持って来た携行型の端末でこれを写真に収める。プライバシーの関係
から、男性の顔は直接写せない。それが条件の一つだ。後ろから別の男の子の“墓守”が、
私の撮った画面を覗き込んでいたが、きちんと首から下のそっと両手を胸元に組んだそれに
なっていることを確認し、グッと無邪気にサムズアップの笑みを向けてくる。
「此処には、どれだけの登録者が?」
「今月現在で、六二〇〇名ほどになります。まだ空きと予約がありますので、収容数は今後
増えてゆくものと予想されますねー」
 ……そうですか。ぽつりと、私は呟いていた。
 案内役の彼女と共に、先ほどのカプセルを埋め戻す作業が瞬く間に進められてゆく。凄い
力だ。あんな金属板や石片を、ああも軽々と扱っている。
「それ~♪」
 もうお気付きだろう。彼女らは人間ではない。“公社”が、このピースメイク計画におけ
る施設の維持管理の為に大量投入している人形(マトン)達だ。故に膂力や五感、その他身
体能力などは並の人間を遥かに超えるし、何より従順だ。こうして遠巻きに眺めていると、
その横顔や手足に、磨耗して肌表面の下から機械の部分がしばしば覗くが、当の本人達はま
るで気にしていないように仕事に専念している。無邪気な笑顔を向け合っている。
「……」
 もし使い潰すことを前提で、かの“公社”があの子達を子供の姿にデザインしたのだとし
たら、何とも趣味が悪い。いや、ただの喋る人形に情を持ってしまう私の方が、今日びおか
しいのか。一説には子供型にしたのは、敢えて幼い外見にすることで外敵の油断を誘い、尚
且つ後ろめたさで攻撃自体を抑止するためらしいが……実際、並の荒くれでは返り討ちに遭
うのが関の山だろう。
 それに、私達人間の方も大概だと思う。確かに今の世の中は、いつ紛争する軍勢の巻き添
えを食らうかも分からないが、だからと言って悲観するあまり、夢の中に逃げるというのは
如何なのか。……ただでさえ人類の数は緩やかに減っていく一方だというのに。もっと露骨
なことを言うと、ライターとして食っている今現在の私の縁(よすが)、その分母が減って
しまうのは困るからだ。
「はい。ですので、これからは更に選択可能なオプションを増やし──」
 ちょうど、そんな時だった。内心モヤモヤとしながらも、これが現在の仕事、今自分のや
るべき役目だと彼女達に引き続き聞き取りを行っていた最中、突如としてドォォォン……と
つんざくような轟音が聞こえてきたのだった。
「な、何だあ?」
 周りの人形(マトン)──もとい“墓守”達も、弾かれるようにして見張り台などの高所
に登ったり、上空を見渡したりしてすぐさま状況を確認し始めていた。思わず私も聞き取り
の手と口が止まっている。
「煙が見えるよ! 九時の方向!」
「どうやら遠くでまた何処かの派閥(グループ)同士が衝突したみたい!」
「距離は……遠いのかな?」
「念の為、Aチームは警戒位置について! お客様達だけは絶対に守るんだよ?」
 はーい! 可愛らしい合唱とは裏腹に、施設内はにわかに慌しくなった。元々こんなに居
たのかというほど、大量の“墓守”達が、メイン武装らしき機械仕掛けのスコップを片手に
四方の塀へと散ってゆく。
「……こりゃあ、取材はこの辺りで終了かなあ?」
「え? でも、他に聞きたいことは残っていませんか?」
「とりあえず避難しましょう。防御性の高い施設がありますので、そちらへ」

『──ありがとうございました~!』
 結局、何処ぞの小競り合いは施設から遠く離れた場所のまま、収まったようだった。日も
暮れてきたことだし、その後も彼女らに追加の聞き取りや見学をさせて貰ったので、情報と
しては十分だ。それに“公社”の人形(マトン)である彼女達からは、予め想定された返答
はあっても、自分達に不利になるような突っ込んだ話は望み薄な筈だ。
 訪ねた時と同じように、そんな子供の姿をした“墓守”達からの見送りを受ける。
 去りながら肩越しに軽く顔を向けて手を振り、別れを告げる。また何かの切欠でピースメ
イクの記事依頼が来るかもしれないが、多分もう同じ“彼女ら”とは会えないだろう。
「……」
 正直、気が重かった。これから街(コロニー)に帰れば、このピースメイク事業について
の原稿を書き上げなければならない。毎度ながら、納期との戦いだ。それもまだ、個人的に
関心の持てる話題ならいいが……生憎今回はそうではない側になりそうだった。
 荒れ果てた大地に、不自然なほど小奇麗に用意されたカプセル。
 その中で静かに眠り、ずらりと地中に埋められていたあのさまは衝撃的だった。以前から
話には聞いていたが、あれは想像以上にクる。文字通り墓を掘り返すかのような罪悪感とい
うか、不気味さだった。彼らが見ているのは人工的な夢──曰く安息だというが、はたして
あれが私達の行き着く果てなのだろうか?
 現実で繰り返される争い。時にそれらは、直接自分の生命すら脅かす。
 払い除ける? 戦う? いや、結局それは彼らと同じではないか。別に好き好んで戦いた
い訳じゃない。ただ平穏に暮らしたいだけだ。それすら叶わない。なら此処から降りるしか
ないではないか──。
 とはいえ、永遠の安息も金次第。厳密にはやはりピンからキリまであるが、あのカプセル
に入るにはそれこそ、かなりの金額を必要とする。
 尤も当の“公社”だって慈善でやっている訳ではないのだ。結局あんな、何だか現実を超
えた世界だと言っても、要は金儲けなのである。
(……はあ)
 直接手を下すものではないとはいえ、期せずしてそんな現実と“否”現実との橋渡しに関
わってしまうとは。家に帰る足取りが重い。
 やはり、気が進まない。
                                      (了)

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  1. 2018/09/02(日) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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