日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(書棚)感想:姜尚中・森巣博『ナショナリズムの克服』

書名:ナショナリズムの克服
著者:姜尚中、森巣博
出版:集英社新書(2002年)
分類:新書/対談集

いいぜ、だったらその国家(げんそう)をぶち壊す──!
在日政治学者と博徒作家の二人が語らう「国家」像とは……?


本カテゴリでは初めての新書の感想となります。
実は題名も相まって以前より読みたいなと思っていた一冊でありました。
姜氏の著作『悩む力』も読了済である僕としては、果たしてどんな切り口で以って今日蔓延
っている“病的な”ナショナリズムを語ってくれるのか。それが楽しみでした。
とはいえ、下手の横好きなだけの思索人である自分では彼らの言わんとしていた事を正確に
汲み取れていないかもしれません。ですので、是非とも本書を実際に目を通してくれること
をお勧めします(という口実で逃げ道を作るのはあざといですかね)

ざっくりと自分なりに押さえておくとすれば。
・国家や伝統という概念は近代になってから作られた「幻想」である
・その自国とその他という「差異」を設け続ける──その異端であるマイノリティ的存在を
 差別し続けることで国家、ナショナルなものは維持されているという構図
・しかし福祉国家が破綻している今日、そうした国家・民族概念に意味はあるのか?
・だがそうした「国境」を維持しようとしても、いずれは意味を成さなくなると考える
 故に“多民族の協和”よりもっと踏み込んだ“無民族の協和”を提唱
とまぁ、こんな感じでしょうか。
(違っていたらすみません。何せ自分にはかなり知的なやり取りに感じられたので……)

本書にざっと目を通して痛感したのが、如何に自分が今日の「愛国か売国か」的な二元論の
中に振り回されていたのかということ。
某都知事のような「犯罪者民族な三国人」といったラディカルに過ぎる発言や思考には行き
つかないとしても、正直を言えば僕自身の中には“他国からの脅威”からくる排斥の念が少
なからずあると自覚せざるを得なかったのです。
確かに実際、某国は経済力などを背景に対外的な進出と軍事的威圧を強め、また別な某国は
事ある毎にネガティブキャンペーンと謝罪賠償要求の波状攻撃を掛けてくる。はたまた更に
別な某国は自分達が「Can't」そうだから周りを踏み台にしようと画策している。……お世辞
にも国家というものが守るべきものだとは思えない現実があります。
しかし、だからといって「排除」すればいいんだという考えは結局の所自分達の「国家」を
守るという意識の現れでもある筈なのです。
そういう意味でも、互いに「国家」という枠組みを意固地になって保ちながら日々火花を散
らし合うというのは……何だか根本的な所が違うのではないか? もっとお互い皆が無闇に
いがみ合う構図を自分達自身で作り続ける必要はないのではないか? そう思えてきてしま
うのですよね。
(まぁ『表はニコニコ・裏はドロドロってのが政治だろ』と言われれば詮無いのですが)

この国では政権交代後、何かと受難な日々が続いています。
天災や人災のオンパレードという状態。見方を変えればそれまで権力に居座ってきた者達の
尻拭いをする立場になったからこそ、今になってその歪が表沙汰になって、加えて政権経験
の乏しさから四苦八苦しているのだとも言えるのですけども。
そんな情勢だからか──いや、政権交代の以前より、ネット界隈などでは保守的な──即ち
ナショナリズムに寄った──言論の勢力が攻撃の手を激しくしているようです。
曰く、今の政権は「反日・売国」だ。だから我々はこの国を守らなければならない。今の政
権を叩き落さなければならない云々と。

確かに今日の政治が良いとは到底思えません(ええ、思えませんとも)
ですが本書を一読した後、そんな現状を見渡してみれば、売国(所謂国益よりも外国と結び
つくことで利益を得るのを厭わない姿勢?)も愛国(そんな勢力を排斥し、国益を第一に政
治を執るなどと主張する姿勢?)も「国家」という枠、本書での表現を借りるならば「病」
に陥っているのだと捉えることもできます。
だとすれば、僕らがすべきなのは「あいつは右だ」「あいつは左だ」などと罵り合う事では
なく、そうした利害をなるべく発生させないような社会の世界の姿を“再想像”することで
はないのか──そう考えられはしないでしょうか?

とはいえ、哀しいかな、実際の行動として落とし込むのは酷く難しいのでしょう。
グローバル化というのは自由であり、同時に猛烈に格差を生み出し続ける源泉でもあるので
すから。互いの利が危ういと思い合う中で「国境なんてぶっ壊せ!」と言った所でどれだけ
の人がその論理的説得を──感情的な縛りよりも大きく優先して──受け入れ、実践できる
ものなのか。僕個人はその点は未だ懐疑的です。
(むしろ僕なりに考える国境というものの意味は「喧嘩しない為の線引き」ですので……)

それでもともすればつい右に左にと流されてしまうこのご時世です。
政治なんて関係ない。そう仰るかもしれませんが、社会の一員として“セカイ”がどうある
のが望ましいか、その自分なりの返答──軸を模索するのも有意義だとは思いませんか?

思索たっぷり。個人的にもお勧めの一冊です。

<長月的評価>
文章:★★★★☆(対談集という事もあり情報量は多め。但し要専門用語の知識か)
技巧:★☆☆☆☆(分類の特性上、小説のようなギミックはありません)
物語:★★☆☆☆(姜・森巣両氏の軌跡も語られているのでそこは“物語”なのかも)

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  1. 2011/12/18(日) 10:30:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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