日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「フリーズド・ライ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:砂漠、凍てつく、先例】


 ──はたして其処は、不毛の地だった。

 元を辿れば単に長い時の流れの一環だったのか、或いは戦(いくさ)に次ぐ戦の中、彼ら
が多くの血をそこへ染み込ませ続けてきた結果であったのか。
 今となってはもう、誰一人として当時を知らない。何より彼らは事実(きゃっかん)より
も経験(しゅかん)を好む。過去から学び、尚且つ実践できる者などはごく少数だ。
「見つけたぞー!」
「異端者だ! 絶対に逃がすな!」
『殺せ、殺せ!!』
 とうに荒れ果て、芽吹きの気配すら無くなってしまった大地(フィールド)を、彼らは今
日も駆け抜けている。遠征に向かっている。彼らが好んで握っているのは──棍棒だ。
 何故ならそれは、最も確実に相手を殴り殺せ、尚且つ達成感という名のリアリティを与え
てくれる武器だからだ。その形状こそ時代によって、集団によって差はあるが、変わらない
シンプルな強さは彼らが愛用するに足る理由ともなっていた。更に言えば、この武器におけ
る変遷と試行錯誤こそが、唯一彼らが時と共に進歩してきた証でもあるのだが──とにかく
彼らは今日も今日とて、隠れ住む“敵”達を探し求めて彷徨する。
「ひ、ひいっ!?」
「逃げろー! 皆、逃げろー!!」
「奴らが来たぞー!! 門を閉じるんだー!!」
 とうに繁栄なるものは遠ざかって久しかった。だがそれでも人々は未だこの大地に生きて
いる。いや、生きざるを得ないと言ってもいい。
 だからこそ、彼らは概して相互に分断された状態だった。不毛な地平に点々とそれぞれの
集落を形成して、ひっそりと生きている。
 だが中には力をつけ、この大地全てを我が物にしようと意気込む者達もいた。彼らは棍棒
を手に徒党を組み、まるで神出鬼没のように現れる。自らに従わない集落を、その武力でも
って制圧し、充足感を得てはまた“敵”を探しに出掛けるのだ。
 ──どちらが正しい? そんなことは、此処ではあまり意味を成さない。
 勝った側が正義なのだ。勝てばより多くを得て、負ければ失う。より多くの仲間と、強い
棍棒を磨き上げた側こそが人々に知られ、即ち他のそれらを食い尽くす。敗れた者達は許さ
れぬ者達であり、存在することさえ認められない。此処では長きに渡り、そうした血で血を
洗う歴史が繰り返されてきた。
(なんで……。なんでまた、こんなことに……?)
 それでも、彼らは一時反省した時期もあった。際限なく争い尽くした果てに、はたと自分
達の立つその大地がすっかり汚れてしまったことに気付いたのだ。
 このままでは拙い。何とかしなければ。
 いずれは自分達さえ、此処で暮らせなくなる──。
 ただその意識はあくまで「保身」であり、食い尽くした者達への「優しさ」ではなかった
と付け加えておこう。とにかく彼らは一度、このままではいけないと集まったのだ。互いに
その棍棒を振るうことを抑え合い、そのルールを破った者に皆で立ち向かうと決めた。これ
でもう、大地がこれ以上血に塗れて死んでゆくことはないと思ったのだが……。
「奴らめ、門を閉ざす気だ!」
「させるかッ! 逃げようたってそうはいかない!」
「四方から囲め! 叩き続ければ、絶対に突破口は開ける!」
 彼らはまたしても戦を始め出した。荒れ果てた大地をだだんと踏み締め、大挙して“敵”
の下へと馳せ参じる。その手に、かつての比ではないほどの棍棒を握り締めて。
 ──ルールを破ったからだ。××でなく○○という、彼らの合意に反したからだ。
 ──ルールに逆らったからだ。だから、殴り殺していい。
 新しい御旗(りゆう)を獲得した彼らは、はたして大地に再び不毛の轍を刻む。ルール違
反を掲げる彼らに敵──集落の者達は最初困惑し、篭城を試みようとしたが、それも日に日
に増してゆく彼らの数を前に、やがて崩れた。どうどうっと旗を掲げた彼らが、棍棒を引っ
下げた彼らが集落の者達を引きずり出し、寄って集って散々にぶん殴る。
 中には抗おうとした者、逃げようとした者も少なくなかったが、彼らはまるでその一切を
許さなかった。
 一人一人を見つけては取り囲み、罵声を浴びせる。何よりその棍棒は、相手の退路を塞ぐ
仕掛けに秀でていた。何処から身を逃がそうとしても、叩かれる。いっそ真正面から受け止
めた方が、まだマシであると思えるくらいに……。
 だが彼らのそれは、強力である。元より従わぬ者を殺す武器である。
 殆どの者は、その一撃に耐え切れずに倒れた。目から血の涙を流し、或いは内側からバキ
ベキと折れてゆきながら、その場に崩れ落ちる。彼らは、集落の者達のそんな様子に、改め
て自分達は正しいのだと再認識した。
「う……あ……」
「? おい、まだ生きてる奴がいるぞ!」
「チッ、しぶといな。もっと念入りに始末(や)っておかないと……」
 だが時々、この大地では奇妙な形で“死ぬ”者達がいる。この日も、集落の者達の何割か
がそのケースに当てはまった。何度も何度も叩かれて、それでも首を縦に振れなくて、結果
その者に起こる現象である。
『──』
 氷漬けになった。いや、厳密には結晶に覆われたとでも言うべきなのか。
 苦悶や苦痛、或いは反骨の表情のまま、その者達は固まって動かなくなった。棍棒を手に
した彼らも「しまっ──!」と急いで防ごうとするが、間に合わない。自慢の武器で叩こう
ともびくともしないこの半透明の外壁は、彼ら攻撃の側からしても厄介な代物なのだ。
「くそっ! 籠もっちまいやがった」
「流石にこうなると、私達だけじゃあ限界があるものね」
「……いいんじゃないか? 少なくともこれで、こいつはもう俺達に“敵対”はしない」
 故に、彼らの取る反応は二つだ。
 一つは目の前で仕留め損なったことを悔しがること。もう一つは当面“敵”が一人確実に
減ったのだと前向きに捉えること。
『……』
 棍棒を片手に、或いは片肩に担ぎ、彼らは暫く制圧を終えた周囲を見渡していた。
 ぐったりと倒れて動かない集落の者達と、目の前のこの者のように、氷漬けになって微動
だにしなくなった者。
 最初はまだ不完全燃焼気味だった血気盛んな者達も、ややあってこの年長の仲間の言葉に
従うことにした。優先すべきは“敵”を倒すこと。誰が倒すかはその次、三の次なのだ。
「よし、一旦撤収しよう!」
「後で監視班の編成を行う。各自そのまま棍棒(えもの)を大事に装備しておくように!」

 ***

 不毛の大地で、再び見境のない乱世が始まろうとしている。
 そんな時、人々は大きく四つのパターンに分かれた。即ち積極的に棍棒を持って駆け回る
者と、それらを間接的に応援する者。或いはそれぞれの集落に怯えながら、おっかなびっく
りに目を凝らして留まり続ける者であり、何より完全に“地下に潜ってしまう”者である。
「──表で、また襲撃(レイド)があったみたいだな」
「ああ。この前、別の区画(シェル)の奴が言ってたっけ。ますます出て行くのが怖くなっ
ちまったなあ」
「出て行くって……。お前、あんな埃臭いとこに行きたいのかよ」
 あははは。言い合いながら、二人は笑う。
 いわば、彼らは避難民だった。最早荒れ果て、豊かな再生の見込みのない地上を棄て、ひ
っそりと小さな暮らしに自らをスケールダウンした者達である。
 確かに、その腰掛ける部屋は明かりが心許なくて狭く、身に纏う服も万一見つからぬよう
目立たない地味な布切れである場合が多い。だがその割には、彼らは比較的にこの生活に慣
れ親しんでいるようでもあった。限定した空間であるが故に、楽なのだろう。
「……そうよ。あんな所、好き好んで行く所じゃない。失うかもしれないっていう恐ればか
りで、得られるものなんてまるでありゃしない」
 すると通路を挟んだ向かい側の席で、同じく避難民の女性が静かに呟いた。すぐ横の土壁
にぺたりと身を寄せ、じっと通路奥に下がった照明を見つめている。
 この二人は最初互いに顔を見合わせて押し黙っていたが、やがてフッと苦笑いを零して彼
女に声を掛ける。
「ってーと? つまりあんたは、こっちに“降りて来た”クチかい?」
「ええ。最初は他の奴らに混じって戦っていたんだけど、ある時標的にされてしまってね。
負けたのに死に切れず、気付いたらこっちに来てたの」
「あー……」
「凍結(フリズ)ったか……」
 だからこそ、次に紡がれた彼女のアンニュイな返事に、二人は結局二の句を継げることが
できなかった。ただそれは残念だと、お気の毒にと、言外に漂わせながらそっと視界の中か
ら身じろいでいくことしかできない。
 避難民の中には、地上で“棍棒持ち”らの襲撃に遭い、自らの本体を結晶の中に閉じ込め
てしまった者達がいる。
 一見すれば、彼らは元々から地下(こちら)にいた者達と違いはないが、こうして明かさ
れれば別だ。尤も少なからぬ彼女らのような面々も、いずれは本体すらこちらに溶かして完
全に移り住んでゆくのだろうが。
「……ま、命あっての物種だ。そう悲観するこったねぇさ」
「そうそう。確かに表に比べてこっちは不便な所はあるけど、それはそれで逆に余計なもの
が入って来ないってことでもあるしな」
 二人は、元々からの避難民である彼らは苦笑(わら)いながら言う。
 何も全ての者達が地上に、あの不毛な大地で再起を図ろうとした訳ではない。一度戦に次
ぐ戦で滅茶苦茶になったあそこを、早々に捨てて今もこちらに留まっている者達だって大勢
いるのだ。彼らにとっては所詮、そんな過去の歴史が再び繰り返されようとしているらしい
というだけのこと……。
「……ええ」
 ポツリ。彼女はそれだけを言って、しかし終ぞ笑顔も視線も向けてくることはなかった。
だが彼らとてそのこと自体に特段気を悪くすることはない。元より小さく纏まり、それで満
足している者達の暮らす空間(フィールド)だ。中途半端に地上に顔を出したり、引っ込め
たりしている連中ならともかく、下手に慣れ合わないし知らないというのは、此処で生きる
為には不可欠な態度なのだと誰もが知っている。
(とりあえず、場所移すか)
(ああ。こんな空気の手前、あんまり馬鹿騒ぎも出来んだろ)
 そうしてこの二人の避難民は、いそいそとそれまで座っていた席を立って別の区画へと移
動してゆく。土壁と通路、照明が幾つも連なるこの空間群は、何処までいっても──他人に
徒に干渉しない限り──それぞれに自由なのだ。
「ッ……!?」
「な、何だぁ?」
 だが、ちょうどそんな時である。
 この日、地上とはすっかり縁を切っていた筈のこの場所に、異変が起きた。

「──合図に合わせて一気に力を入れろ! もたついてたら連中の仲間に気付かれるぞ!」
 いっせーのせっ! 時を前後して、地上では棍棒を持つ者達が大挙して、とある氷漬けに
なった者の前に集合していた。
 掘っていたのだ。より長く頑丈に作り変えた棍棒でもって、数にものを言わせてこれを地
面ごとひっくり返そうとしていたのだった。
「結構……深いな……」
「諦めるな! ここで俺達が成功すれば、今後もっと地上から“敵”を駆逐できる!」
 スコップのように、梃子の要領で。
 彼らはリーダー格の掛け声に合わせて何度も力を込め、この半透明の殻に守られたかつて
の“敵”を掘り返そうとしていた。ギシギシ、存外に根深いその塊の端を必死になって探し
つつ、埋もれた土を取り除く。だが彼らは決して気付くことはないのだろう。その土は、自
分とその先人達が葬ってきた無数の亡骸から出来ている……。
「よしっ! 見えた!」
「持ち上げろぉぉ! 総員、突撃ーッ!!」
 はたして、その襲撃は良くも悪くも、双方にとって衝撃的なものとなった。棍棒を持つ者
達と、かつて敗れて氷漬けになった者らを含む避難民達とが、一堂に会する瞬間だった。
「な……何だあ!?」
「て、天井が崩れた……?!」
「嘘……だろ? あいつら、こんな所にまで……」
 結晶に覆われた者達がゴウンゴウンと乱暴に崩れ落ち、辺りに転がる。間延びした、自由
気ままな生活を送っていた避難民達は瞬く間に騒然となった。
 そんな散り散りになって逃げ惑う彼らを、一旦睥睨し、されど目の前に広がるこのさまの
全てを認識して。棍棒を握り締めて現れた戦士達は、にいっと嬉しそうに口元を歪める。
「おお……。あるぞ、あるぞ! 証拠の山だ!」
「全部持ち出すわよ? これからの戦いにとっても、きっと重要なサンプルになる」
「おうおう、異端者だ! 異端者どもがわんさかいやがる!」
「要するに吹き溜まりか……。おあつらえ向きっちゃあおあつらえ向きだな……」
「ああ。だがここまで潜り込んだんだ。……絶対に逃がすなよ?」
「へいへい。分かってますって」
「ひゃははは!」
「殺せ、殺せェェーッ!!」
                                      (了)

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  1. 2018/08/01(水) 00:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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