日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(企画)週刊三題「デス」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:アルバム、犠牲、燃える】


 藤森が電話を終えて戻って来ると、リビングの一角が散らかっていた。
 原因は妻・敦子のようだった。周りに厚い冊子や小物の詰まった箱、古い電話帳などを広
げ、膝の上にはまだ幼い息子・克也を乗せたまま二人で目の前のそれの頁を捲っている。
「あら、電話終わったの? 誰から?」
「ああ。昔の同級生が死んだってさ。……それより、何してるんだ?」
 彼女達が広げていたのは、一冊のアルバムだった。
 しかし少なくとも妻側のものではない。やや古びた写真の中に写っているのは、十四・五
ほどの少年少女達の姿だ。教室や廊下、木陰の川辺、或いは校舎らしき建物をバックにした
集合写真──藤森が無言のまま、静かに眉間に皺を寄せる中、敦子はニコッと微笑(わら)
うと言う。
「見ての通り、さっきからそこの棚を整理してたんだけど……こんなのが出てきちゃったも
のだから。これってあなたのでしょう? あなたはどこ? これって、いつ頃のなの?」
 自身の若い頃でも思い出しているのか、妻の機嫌は少し浮かれたものだった。眉間に皺を
寄せたまま、藤森がそんな妻子の隣へとしゃがみ込む。
 その横顔に、彼女はようやく夫の感情を察し始めたようだった。横目にぱちくりと目を瞬
き、段々とそのテンションがトーンダウンしてゆくのが分かる。
「悪いが、俺は写ってないよ。これは中学の時だな。ちょうど俺達が卒業する年で校舎が建
て替えになるってことで、記念に撮ったんじゃなかったかな? 生憎、俺は当日風邪をひい
てて、この場にはいなかったからな」
「……そう」
 それは、間の悪いことを訊いてしまったかしら。
 敦子はそんな藤森の返事を聞いて、思わずばつが悪そうに唇を結んでいた。掛かってきて
いた電話の内容からしても、明るいものではない。一方で幼い克也はと言えば、そんな二人
の様子などお構いなしで、キャッキャッと無邪気に頁を捲ったり戻したり、写真を撫で回し
たりしている。
「ねえねえ、パパ~」
「うん?」
「このお兄ちゃん、顔がぐにゃぐにゃだねー」
 だからこそ、ふと我が子がそんな不穏な言葉を発した時、藤森は何のことかすぐには理解
できなかった。隣の敦子もきょとんとした様子で、共にこの息子が指し示す、集合写真の中
の一人に注目する。
『──』
 そこには確かに、当時少年だった生徒の一人が並ぶ面々の中でポーズを取っていた。
 しかしその顔面は、克也の言う通り妙に歪んでいるように見える。経年劣化による痛みや
汚れではない。明らかに、そこだけが捏ね回したようにぐにゃぐにゃになっている。
「ほ、本当だわ。な、何なの? 気持ち悪い……」
 切欠はほんの些細な整理整頓で、こんなものが見つかるとは彼女自身、考えてすらいなか
ったのだろう。敦子は思わず口元に手を当て、不快そうに眉根を寄せていた。「うーん?」
指摘した当の克也は、まだ事の異常さを理解してはいなかったようだが。
「……」
 だがその一方で、藤森は別の理由でもって凍り付いていた。驚愕と言ってもいい。突然の
事に半ば生理的な嫌悪感を抱いている傍らの妻とは対照的に、その内心の思考はある意味で
至極冷静に回転している最中だった。
(増田……? いや、そんなまさか……)

 最初は、ただの偶然かと思った。しかし念の為にと一人調べ始めた藤森は、それが単なる
気のせいではないと確信する。
 他でもない、あの日訃報を聞いたかつてのクラスメートこそが、この増田だったのだ。電
話自体は人伝の又聞きだったとはいえ、何でもその死因がよく判らないという話であった事
も彼の仮説を後押しした。
 すっかりその存在さえ忘れて、家財の奥で埃を被っていた中学時代のアルバム。
 校舎建て替えを前に撮った、そのクラスの集合写真の中で痛んで写っているかつての級友
らがことごとく、既に亡くなっているか大きな怪我を負っていると判ったのだ。多少話が盛
られている可能性もあるが、彼らのフェイスノート──今日のSNSは役に立つ。
 ……だが藤森は、正直そんなクラスメート達の災難自体、何とも思っていなかった。突如
として浮上してきた不可解さ・不気味さよりも、先に彼に込み上げてきたのは、ある意味で
悪意と呼んでいい。実際自室のパソコンの前でニヤリと、静かにほくそ笑んだものだ。
 もしかしてこの写真を使えば、奴らに“復讐”できるかもしれない──。
 当時藤森は、クラスの全員から苛められていた。全員から侮蔑され、時には理不尽な理由
で暴力を振るわれ、カーストの最下位に落とされていたのだ。しかもその犯行は実に陰湿な
もので、担任は勿論、他のクラスの生徒や教師達には一切秘匿──表向きは“皆仲良し”を
装っており、彼自身もそう振る舞うよう強制されていた。
 ……何が最高の仲間だ。仲良しクラスだ。
 あの時はいつも、そう憎しみを自らの内側に焚き、しかし生来の小市民的な性格のせいで
実際に現状を打開することさえできなかった。耐えて耐えて、その内進学などで彼らと散り
散りになっていったことで、自然とそういった記憶も風化していったのだが……。
 今なら、その“復讐”ができるかもしれない。加えてうだつの上がらない、現在(いま)
の日々のそれも一緒に。
 もしこの写真が、本当に“そういうこと”であるならば。
『……』
 パソコンの画面に映し出された、更新の途絶えた彼ら元クラスメート達のフェイスノート
のページを見つめて。
 藤森は音もなく嗤う。ブルーライトの影に、ぼんやりとその口元が映り込む──。

 そして決行の日。藤森は夜、妻と子が寝静まるのを待ってから、一人キッチンの流しの前
に立っていた。室内の明かりは落としたまま、手元だけを小さな蛍光灯で照らし、手にした
件の集合写真に、そっともう片方の手でライターの火を近付ける。
 じりじりと、そんな少年期の一頁はあっさりと燃え始めた。火を付けた端から、少しずつ
確実に黒く燃えて灰になってゆく。一人また一人、かつての級友が──今やそんな風に呼ぶ
ことすら忌々しい彼・彼女らの顔が、進んでゆく炭化の中に呑み込まれてゆく。思わず口元
から嗤いが漏れてゆく。
「……ふふ。ふふふ……」
 あの日、自分は学校を休んでいた。この集合写真にはそもそも存在しないのだ。
 尤も当時、運よく風邪をひいていなかったとしても、あんなイベントに加わっていたかは
怪しい。おそらく何かしら理由をつけてでも休んでいただろうが。
 だから大丈夫だと思った。もし本当にこの紙切れがある種の“呪い”を含んでいて、そこ
に映っている者達に災いを与えられるのだとしても、安全に復讐できると。自分に害は及ば
ない筈だと。
 そう……思っていた。
「あなたッ!!」
 ちょうど、そんな時だったのだ。一人流しの前で黙々と写真を燃やしていた藤森の下へ、
突然酷く慌てた様子の敦子が、寝間着のままで駆け下りてきたのだった。
 ……まさか、気付かれたか?
 咄嗟に燃える写真を身体の陰と流しのくぼみの中に隠し、藤森は内心ドキリと、一瞬心臓
を掴まれたような心地になった。あくまで偶然下に降りて来ていた風を装い、このいきなり
現れた妻の方へと振り返る。
「どうした? 何をこんな時間に──」
「か、克也が、克也が大変なの! さっきまで普通に寝てたのに、急にうなされ始めて……
もの凄い熱で……!」
「えっ?」
 故に短く、思考は止まり。
 藤森はただその場に立ち尽くしていた。ぐらりと、思わず見開いた瞳の奥が揺らぐ。サラ
リとその手の中にあった集合写真が、次の瞬間完全に灰になりながら、流しの底へと滑り落
ちていった。
                                      (了)

スポンサーサイト
  1. 2018/07/01(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔97〕 | ホーム | (雑記)共感の輪が向かう果て>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://higurasisouann.blog27.fc2.com/tb.php/1009-541f5529
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

08 | 2018/09 | 10
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (170)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (99)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (37)
【企画処】 (400)
週刊三題 (390)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (7)
【雑記帳】 (359)
【読書棚】 (31)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month