日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔52〕

 時は睦月達が、八代もといキャンサーを倒した後の事。白昼堂々、勇はやや遠巻きの位置
から学園(コクガク)を覗いていた。じっと微動だにせず、物陰から半身を覗かせている。
「……」
 七波由香を巡る攻防は、同じく彼女を狙う別個体らの襲撃により、当初の思惑から大きく
外れてしまった。延びてしまった。
 下調べによると、あの女は一時行方知れずになった後、また保健室登校に戻ったらしい。
 ならば同じ場所を──グラウンドに面したあの一室を狙えば、もう一度始末するチャンス
はある筈だ。
(ただ……)
 とはいえ一方で、気になることもある。同じく下調べをしていた際、市中の“同胞”達か
ら奇妙な噂を聞いていたからだ。何でも『ここ最近、筧の姿が見えなくなった』とか、或い
は『また同胞が一人、また一人と消えていっている』らしいとか。
 少なくとも後者に関しては、今に始まった事じゃない。また守護騎士(ヴァンガード)達
が、手当たり次第に首を突っ込んで狩っているのだろうと思ったが……それにしては奴らの
動きに目立ったものが見られないのは何故か?
 筧兵悟の件も気になる。十中八九、七波由香の方が当人に報せなかったのだろうが、結局
自分が目論んだ策に奴は乗って来なかった。寧ろ後になって知り、彼女と接触して家まで送
ったとみた方が自然だろう。
 何か不穏な動き──。そんな情報もあって、勇は再びの襲撃に対して慎重を期していた。
 大体もって七波由香の転入とその後の動き自体、守護騎士(ヴァンガード)とその仲間達
による“根回し”である。となれば学園(コクガク)内部にも、工作員の類が居てもおかし
くはないだろう。警戒すべき戦力が潜んでいる可能性は否めない。七波由香一人を殺す。そ
の目的自体は、龍咆騎士(ヴァハムート)のアクセルでも使えば強行突破できなくもないだ
ろうが……リスクは大きい。こちらが変身した時点で察知はされるだろうし、今後突きうる
チャンスも減る。となると、やはり在宅時を狙った方がいい。
 ただそれも、自分が七波沙也香を“始末”したことで、一家の住処として殆ど機能しなく
なってしまった。警戒の兵、当局の人員が今も交替で張っているようだが、当の由香本人は
まともに帰って来てすらいないようなのだ。
(……どいつもこいつも)
 俺の邪魔ばかりしやがって。勇は内心ずっと、怒りや焦りが綯い交ぜになったその感情に
苛立ちを覚え続けていた。苛立っている自分自身にも、しばしば害意を向けたくて仕方ない
時があった。
 どうしてだ? お前は何故、俺という“仇”に反撃しようとさえしない? 自ら向かって
来ることすら選ばない? どのみち俺もお前も、今更「普通」の「日常」には戻れない筈だ
ろうが。自分の意思で茨の道を選んだのだろうが。何を呑気に、奴らが設えた安寧の中に閉
じ籠もっていやがる……。
(それにしても。妙に浮付いてるな。何かあったっけか?)
 少なくとも当の標的(ターゲット)、向こうから積極的に動こうという様子は無さそうだ
った。一方で先ほどから覗いている学園(コクガク)の敷地内では、あちこちでトンカンと
工作の音が聞こえる。屋台らしき木組みを運んでいる生徒達の姿が見える。
(……そうか。そう言えばそろそろ、文武祭の時期だったな)
 だからこそ勇も、ややあってその理由に気付き出して。自身も前年と前々年、いち学生と
して玄武台(ブダイ)のそれに関わっていたからだ。祭りの準備をしながら、当時まだ中等
部生だった弟・優との記憶が蘇る。

『へえ、凄いなあ……。話には聞いていたけど、そんなに大きなお祭りなんだ?』
『ああ。玄武台(うち)だけじゃなく、飛鳥崎中の学校が集まるからな。先輩に聞いても随
分盛り上がってたみたいだぜ? まぁうちは基本、スポーツ系の大会になっちまうんだろう
けど……』
 記憶の中の弟は、そうやってニコニコと笑っていた。まだ野球部に入る前、進学先の高校
すら決まっていなかった頃だ。思えばあの時もっと、あいつに合った学校を見つけてやれて
いれば、あんな死に方はしなかったのかもしれない。元々お世辞にも、バリバリの体育会系
という訳ではなかったのだから。
『それでも、だよ。いいなあ。僕も参加したいなあ……』
『はは。お前も進級すれば、クラスでやるだろうさ。それまでのお楽しみだな?』
 只々家から近かったから。選んだ理由は先ずそこからで。
 でも根っこの優しかったあいつには、スポ根という名の閉鎖的なセカイは合わなかった。
奴らの秩序と自らの良心、さぞ辛かっただろう。俺達もあんな最期になるとは考えもしなか
った。あいつの平穏な日々と笑顔を、奴らは平気で奪いやがった。悪いのはさも、そこに小
さくとも疑問を呈した弟の方だと、反省すらしなかった……。

「──」
 要らぬ感傷だな。
 されど勇はすぐに、そんな過去の記憶から意識を現在(いま)に戻すと、再び敷地内の様
子に集中し始めた。だってもう……あの頃には戻れないのだから。殺した者、殺された者。
本当の意味で“取り返しのつかない”ということを、彼は否応なしに知っている。
 かつての平穏だった頃の記憶。同時に自分達を置き去りにしてでも、こうして現在進行形
で前へと進んでゆくばかりな、歳月というものの無慈悲さ。無常さ。
 状況としては、依然として宜しくはない。文武際の準備が本格化すれば、今以上に七波由
香をピンポイントで狙い討つのは難しくなるだろう。
 それでも──勇はやるしかなかった。
 七波由香と筧兵悟、そして守護騎士(ヴァンガード)。彼女らを殺す、これまでのけじめ
をつけるしか、もう残された道は無かったのだから。

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  1. 2020/02/25(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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