日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔111〕

 ハロルド及びリンファ──自分達を心配し、遥々捜しに来てくれた仲間が戻って来るのを
待ち、アルスとエトナは彼らと再び合流していた。一体何処に行っていたのだろう? どう
やら一旦連絡に出ていたらしい。
「お帰りなさい」
「もう大丈夫?」
「ああ、待たせたね。行こうか」
 王を失った神都(パルティノー)内部は、一見して相変わらず静まり返っているようで酷
く動揺していた。人工塔群の元から有る無機質さも手伝い、目に見えて怒りをぶちまけると
いうよりは、途方に暮れている神格種(ヘヴンズ)達の方が多かったのだ。
(……何故我々が、こやつらの案内を)
(よりにもよって、我々の領域を突破してきた者達に、このような待遇など……)
(口を慎め。聞こえるぞ。そもそも元を辿れば、ルキどもが叛乱を起こしたからで──)
 ゼクセム亡き後、一部の神々に連れられて、アルス達は再度神都(パルティノー)の奥深
くへと潜って行った。ルキ一派を退けた後、道中も彼らに不満が無い訳ではなかったが、他
ならぬ当のゼクセム自身の遺志もである。無下には出来ず、こうして一行を案内する他ない
といった様子だった。王に命じられた最後の仕事でもあった。
「……こちらです」
 途中、厳重に閉ざされた大扉が何度も立ち塞がったが、それもゼクセムから譲渡された最
高レベルの“管理者権限”が解決する。おずおずとアルスが手をかざすと、周囲の中空に数
式の羅列が浮かび上がり、歯車が一つ一つ外されるようにその封印(セキュリティー)が解
除されてゆく。そんな行程(プロセス)を幾度も繰り返した。
 はたしてその先に在ったのは──とある昇降機。
 かなり昔に造られたのか、或いは元々そういう設計なのか、外観は至極シンプルだった。
只々人を乗せて、何処かしかへ向かう為だけの手段である。案内役の神格種(ヘヴンズ)達
に促され、一行は中へと乗り込んだ。魔導らしき仕掛けも合わせた機構が軋むように駆動し
始め、延々と霊海、世界同士を隔てる壁の中を昇ってゆく。
「一体この先に、何があるっていうの……??」
 昇降機の中で、ぽつりとシンシアが誰にともなく呟く。ルイスやフィデロ、オズといった
面々も、密かな不安や緊張では等しかった。あまり変わり映えのしない周囲の景色を、忙し
なく視線を泳がせたり、茜色のランプ眼をぱちくりと点滅させている。
 いや──エトナの話などで、大よそは判っていた。
 九つの世界の天辺、始源層こと“霊界(エデン)”。全ての魂が生まれ、再び還る、この
世界の生命にとって根本的な場所と言っていい。
 魔導的な円陣が描かれた直後、一行を乗せた昇降機はその一角に現れた。足元にも広がる
白い靄を払いながら、アルス達は開かれた扉からかの地へと足を踏み入れる。
『……』
 眩い生命達の光。霊木・霊草が生い茂る神秘的な世界だった。やはり霊海の靄でその全景
を把握するのは難しいが、辺り一帯はこれらの森として覆われているらしい。
 言葉を失って辺りを見渡している間にも、精霊達が次々と生まれては魔流(ストリーム)
へと流れ、或いは留まって賑わいをみせている。良くも悪くも一行は、そんな目の前の光景
に圧倒されていた。興味深げに目を見張っている仲間達も少なくなく。
「……凄いな」
「うん。とても綺麗」
「“聖域”と称されているのも頷けるな。尤も私のような門外漢には、その価値も引き出せ
ないのだろうが」
 暫く呆然とした後、ようやく言葉を絞り出せたリカルド。小さく頷くミアやゲド、キース
といった戦士側の面々。
 一方でアルス達──魔導師側の面々は、若干その受け取った印象は違うようだ。最初に声
を漏らしたリカルドは勿論、ハロルドやアルス、エトナにシンシア以下学友達。辺りに漂う
精霊達と時折言葉を交わしながら、ことハロルドとシンシアは難しい表情を浮かべていた。
リンファやオズも、怪訝に横目を遣っている。
 一見すればとても平和な“楽園”のようでもあったが、反面浮世離れした感が著しい。
 性質上、仕方ないとはいえ……少なくともこの場所は生気が濃過ぎるのだ。
「あちらです。この聖域の、文字通り中心となります」
 すると案内役の神格種(ヘヴンズ)達がぽつっと、緊張した硬い声色で言う。
 ハロルドやアルス以下一行への警戒心も合わさっているのだろう。彼らが指し示した先に
は、森の中でも殊更巨大な、満天に光り輝く大樹がそびえていた。
「あれは……」
「“世界樹(ユグドラシィル)”です」
『“世界樹(ユグドラシィル)”?!?!』
 驚くのも無理はなかった。彼らは淡々と答えたが、それは紛れもなくこの九つの世界全て
を貫いている央域の魔流(ストリーム)──東西南北の支樹(それ)へと分岐する、文字通
り世界の軛(くびき)だ。
「我々も、普段余程の事が無ければ此処に来ることはありません」
「そもそも、その権限もありませんしね」
「事の重大さをご理解いただけましたか? ゼクセム様が貴方がたに託したというのは、そ
れだけ異例中の異例だということなのですよ」
 口々に説明というか、ほぼ後半は恨み節。
 だがそんな言葉を向けられていた当の一行、アルス自身はと言えば、実際話を半分ぐらい
にしか聞けていなかった。視界の向こう、この大樹の根元に眠る何者かの存在に気付いたか
らだ。
『──』
 とある一人の、精霊族(スピリット)の女性のようだった。
 全体的に碧色の光を湛え、ふんわりとしたローブと長髪が一際目を惹く。妙齢の背格好も
あって、母性の塊といった印象を受けた。
 ただ当の彼女をよく観てみると、その身体はこの“世界樹(ユグドラシィル)”の幹に、
何重もの文様(ルーン)帯によってぐるぐる巻きに──封印されているようだ。
(何で……こんな所に?)
 しかしその答えは程なくして知れる。案内役の神格種(ヘヴンズ)達から受けた説明もそ
こそこに、同じく大樹の根元に眠る彼女の姿を認めて、エトナとカルヴィンが驚愕の反応を
みせたのだ。「な、何!?」「どうしたの、カルヴィン……?」アルスやシンシア、自身の
契約主や仲間達の慌てた問いを受け、二人はぎゅっと一度唇を結んだ。或いは静かに鉄兜の
下で目を細め、改めて一行──立ち会うこの神格種(ヘヴンズ)達の姿も視界に捉えつつ、
答える。
「お母様……」
『えっ?』
「うむ、間違いない。あの方は我らが精霊族の始祖“マーテル”様だ」

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  1. 2019/12/11(水) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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