日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔107〕

 時はちょうど、グノアの処刑が中継され、世間の眼差しがそちらへと釘付けにされていた
タイミングと重なる。
「ま、待ってくださいよ~! 先輩~!」
 とある雑誌社に勤める、女性記者と男性撮影技師(カメラマン)のコンビだった。二人は
世間の注目が件の処刑に向かっている中、密かにトナン皇国へとやって来ていたのだった。
「遅い! ネタは待ってくれないわよ?」
 後を追ってくる後輩に、先輩記者である彼女は振り返る。今回の目的は、行方知れずとな
ったジーク皇子及び、クラン・ブルートバードの消息だ。
 古界(パンゲア)・ディノグラード家の葬儀に加え、弟皇子アルスも失意の休学。以降そ
の動静はなく、学院側も秘して沈黙を保っている。今はそっとしておいてあげてくれという
ことなのだろう。
 だが……そこではいそうですか、と引き下がる訳にはいかない。人々が強く知りたいと望
む時、何者かが風化させようとしている時こそ、自分達ジャーナリストの出番なのだから。
「だからって、俺達がすっぱ抜けるネタですかねえ? 例の処刑の方が、絶対に“撮れ高”
はいいッスよ?」
 一方でこの後輩は、今回の取材(えんせい)にあまり期待していないようだった。首から
下げた写姿器を片手に、普段見慣れぬトナンの和圏建築を時折見回している。
「横並びの記事なんか書いても、変わり映えしないでしょうが。うちみたいな小さな所は、
どうしても大手の報道に埋もれてしまう──独自報道を怠れば、じわじわと沈んでしまうん
だから」
 それでも彼女は、自らが勝ち取った情報に拘っていた。組織としての大きさに劣る分、追
従するだけの記事だけでは、どうしても大手の側に分がある。彼女は意気込んでいた。尤も
実際に記事を手に取る人々は、そのような事情など構いはしないのだが。
「さあ、聞き込みを始めるわよ!」
「はいはい……」
 故に二人は、というよりも主に彼女がぐいぐいと彼を引っ張り、両皇子の祖国・トナンの
地での取材を開始した。自分達が戴くジーク・アルス兄弟の事となれば、領民らも十や二十
思う所はある筈だと踏んだのだが──。

『あんたらも、ジーク様が死んだって言いたいのかい?』
『ブン屋はいつだってそうだ。他人に不幸があると、すぐに飛んで来る……』
『一番哀しんでるのは両陛下だ。俺達が何を言おうと、お二人の痛みに敵いやせんよ』

 滞在から数日、そんなある種の希望的観測は容易に砕かれた。話を聞いて回った限り、大
半の領民が思ったほど不満をぶちまけてはくれなかったのだ。或いは余所者に対して、不敬
を誰かに知られては拙いと暗黙の了解でもあったのか。
 少なくとも、国内情勢は少しずつ明らかになってきた。傷心のシノ女皇は体調不良を起こ
して倒れ、現在は夫・コーダス皇が代理として政務を回しているらしい。
 だが一方で、当のジーク皇子は過去あちこちの世界を旅して来ているため、敗北後も何処
かで身を潜めているのではないか? という憶測も多く聞かれた。二年前のフォーザリア鉱
山での一件から、突如として大都(バベルロート)に現れて、かの“結社”を撃退した先例
を指すのだろう。希望的観測なのか、まだ信じたくないだけなのか『まだ死んだと確定した
訳じゃない』──そう零す領民も、少なからずいたからだ。
「ですが、ディノグラード公の葬儀は行われたのに、こちらはそんな話さえ出ていないんで
しょう?」
「実はもう、治療中だとか? 同家が匿っているとか?」
「それとも……。表に出せないほど粉微塵になっているか……?」
「な、何てことを!」
「他国人だからといって、皇子らを侮辱するのは許さんぞ!」

「──はあ」
 結果、収穫はあまり無し。寧ろこちらが記者だと判ると、多くの領民達は不信の眼差しを
向けてさえきた。先代アズサ皇の治世を知りながら、放置していた事などを今も根に持って
いるのだろう。彼らはまだジーク皇子らの復活を信じているようだった。信じたいようだっ
た。心情としては、無理もないが。
「どうするんですかあ。肝心の皇子達の消息、分からずじまいですよ? まぁここの写真を
切り貼りすれば、繋ぎの記事一つくらいは出来そうですけど……」
「そんなのじゃ駄目よ! 何も獲って来れなかったって白状しているようなものじゃない。
正直、ここまで頑なだとは思わなかったわ」
「……そうッスね」
 参ったな。二人はそう、一しきり取材を終えて街の一角に座り込んでいた。滑らかな石の
ベンチが、ひんやりと尻から背中へと温度を伝える。暫くの間、お互いに掛けるべき言葉を
見つけられずに黙っていた。
 本を正せば、確かに自分達ジャーナリストの取捨選択、被害感情が故の非協力的な態度な
のだろうが……それは別に、直接自分達の仕業という訳でもない。
「こんにちは」
 しかし、ちょうどそんな時だった。
 ニッコリと、妙に紳士的に微笑む男性──トナン領民と思しき装束を着た、見知らぬ人物
が一人、こちらに向かって近付いて来たのは。

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  1. 2019/08/13(火) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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(企画)週刊三題「ずっと」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:指輪、玩具、ツンデレ】

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  1. 2019/08/11(日) 00:00:00|
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(雑記)勝ち負けに狂う病

今年は冷夏になると言い出した人は、正直に手を挙げなさい(^ω^#) 殴りに行くから。

梅雨入りが遅くなった分、まるで巻き返すかのように明けた途端にカッカ晴れ。
まぁ分かっていたというか、どうせ今年もと経験則から導き出してはいたんだろうけど、蓋
を開けてみれば猛暑に次ぐ猛暑。誰が呼んだか「災害級」。自分は基本、屋内での物仕事が
多いのですが、冷房を利かせていてもじんわりと汗ばむほど。とうに人間の体温さえ上回る
気候が続いています。皆さんも、熱中症にならないようお気を付けて。しっかりと水分や塩
っ気を補給しつつ、出来る限り炎天下で動き回ることは避けてください。
(とはいえ、そもそも職種によっては無理ゲーなんだよなあ……。本当にお疲れ様です)

……しっかし拙いな。ここん所あまり書けていない。一応月末から月頭にかけての三題だけ
は捌いたけれど、長編系の執筆モード(前半:ユー録次章)は結局先延ばしにしてしまいま
した。あんまりに日中暑くって、とてもじゃないけど集中できる状態ではなく、先の土日は
ぐったりと寝てたりゴロゴロしていました。休養に専念していました。お陰様で体力気力の
方は結構回復したかな? とは思うのですが……如何せん目下の環境が。いっそ昼間に書く
のは諦めて、夜時間に冷房をガッツリ入れて短期集中でやってみようかとも考えましたが、
朝から始めてエンジンが掛かるのに下手すれば丸一日掛かるような人間が、そんな都合良く
コンディションを持って来れる確証など無く(´・ω・`) そもそも、熱量とは代替性が皆無であって。
さりとて、これ以上ずるずると延ばしていると、月全体のスケジュールがもっとキツキツに
なってしまいますし、今週末こそはと書き出し練りやらそれ以前までの書き物やら(当雑記
を含む)を捌きつつ準備中です。申し訳ありませんが、もう暫くお待ちくださいm(_ _;)m

……うーん。別に今に始まった事ではないけども、やはり「ノルマ」としての書き物・創作
活動へと傾きまくってしまう。自縄自縛──内容に行き詰ったり、普段の生活に支障が出る
ようなら後回しにしたっていいものを、どうにもこれまで続けてきた“惰性”が止めてしま
うことを過剰に恐れているような。自信が習慣(ルーティン)の生き物だと自認しているが
故に、一旦プツッとそれを途切れさせてしまうと、簡単には戻って来れない(復旧困難な)
ような気がして。

書きたい時に書く。書きたいものを書く。書くことを楽しむ。

年初の抱負を始めとして、以前からさんざ事ある毎に自分に言い聞かせてきたフレーズ達な
のですが、未だに中々どうして身に成ってはくれないようです。多少昔に比べてバランスを
取ってゆく術を培ってはきたものの、それでも根っこはぼんやりとネガティブな世界観に支
配され続けているというか。

欲が──出るんでしょうねえ。今やただ書くだけでは満足できず(長持ちせず)に、もっと
良い文章、もっと良い物語をと追及を止めない。その癖変な自尊心というか、自罰癖で悦に
浸っておきながら、他人に受けるコンテンツとは? という分析眼・実践に徹せられない。
未だに小説なり創作というものを、利他=消費されて当たり前の娯楽ではなく、利己=自身
が思考を深める為の踏み台として突き詰めよう突き詰めようとしている。

良く言えば“藝術”志向……なんでしょうけどねえ。

その割には文体と題材がマッチしてないんだって、何度言われたら( ゚д゚)⊂彡☆))Д゚)φ

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  1. 2019/08/06(火) 23:30:00|
  2. 【雑記帳】
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(企画)週刊三題「ビジブルズ」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:車、氷山、時流】

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  1. 2019/08/04(日) 00:00:00|
  2. 週刊三題
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(企画)週刊三題「N+ever(ネヴァー)」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:晴れ、ロボット、主従】

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  1. 2019/08/01(木) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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