日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔106〕

 神都パルティノー。其処は街と呼ぶには違和感のある、創世の民・神格種(ヘヴンズ)達
の本拠地兼巨大研究施設だ。この世界の文明とは明らかに異質──無機質を突き詰めた塔状
建造物群の内外は、立ち入った人間(もの)に重暗い“畏れ”を抱かせるに充分ではあった
だろう。
「……ん?」
「あ、ルキさん」
 そんな継ぎ目も見えない研究棟(ラボ)の一角で、居合わせた神々(どうりょうたち)は
彼の姿を認めて振り返った。
 淡い金髪にトーガ風の衣装、引っ掛けた上衣。
 一見して端正な顔立ちと形容して差し支えない青年だった。ただ平常に張り付けたその表
情は、何処となくダウナーなそれを感じさせる。
「よう。見回りご苦労さん」
 遊戯と寓意の神・ルキ。こちらを向いてきた面々と同じく、創世の民の一人である。加え
て彼らからの眼差しと、手に何気なくぶら下げた高レベルのカードキー。それだけでこの人
物が、神都(パルティノー)内でも相当の地位に在ると分かる。
「話は聞いたぜ? 全く、所長(チーフ)はどういうつもりなんだか……」
 自分を一目置いて、若干緊張する神々(どうりょうたち)。
 されど当の彼──ルキ本人はごく気さくに、何時もの気だるげを引き摺りながら近付き、
話し掛けてくる。
「ああ、そっちも情報が行ったんだね?」
「何でも下界の人間が迷い込んで来たらしい。例の、レノヴィン兄弟の片割れだ」
「弟の方だそうだよ。それと、その持ち霊」
「ああ。二人をとっ捕まえた本人達から聞いた。所長(チーフ)に絞られた後で、随分ぐっ
たりしてたけどな」
 曰く、所長(チーフ)ことゼクセムが、件の迷い人らを箱庭(フラスコ)の下へと連れて
行ったとのこと。あそこは自分達にとって最重要のプロジェクトだ。いくら彼が施設内を自
由に行き来できる“権限”を持つからといって、安易に外部の者を入れてしまっては示しが
つかないではないか。せめて事前に、自分達にも知らせておくぐらいはしてくれてもいいだ
ろうに。
「そもそも何故彼が? 常人では、神界(ここ)には近付く事さえ出来ない筈だ。それに彼
の仲間──クラン・ブルートバードは、先日“結社”との戦いに敗北したんだろう? 悠長
に異界観光などしている場合ではないと思うんだが」
 そう言われても……。尤も居合わせた神々(どうりょうたち)もまた、その詳しい経緯に
ついては分からないことだらけのようだった。互いに顔を見合わせて、知らないと小さく首
を横に振る。
 王(ゼクセム)の手前、反抗も出来なかったのか。当人を含めた上層部の判断? それと
も彼らがアイリス転生体の友であり、例の暗号──自分達の正体を知っていること、下界で
はヒトの国のいち皇子である点からも、下手に扱えば後々面倒になると考えたからか?
「……仕方ないな」
 故にルキは大きく嘆息をつきつつ、されど追従するしかなかった。
 何せ自分達は“チーム”なのだから。もう後には戻れない身となって久しい以上、要らぬ
軋轢で神都(ここ)を追い出されては命に関わる。
 俺も様子を見に行って来るよ。ルキは言い、場の面々に深部へと続くゲートを開けて貰っ
た。自身の持つカードキーも使い、あくまで合法的に件の箱庭(フラスコ)へと向かう。
「そう言えば……。アルス・レノヴィンの所持品は、今何処に?」
「? ああ。えっと、確か……」
「B2隔離区だよ。例の凝縮品──兄貴の聖浄器を何故か持ってたらしくてな」
「へえ……。そっか、ありがとう」
 一人扉の向こうへと去って行くルキ。
 その間際、彼からそんな質問をされたが、場の神々(どうりょうたち)は特に疑問も持た
ずに答えた。既に己の持ち場に戻り、保守・点検作業を再開している者達さえいる。
『──』
 より深部へ。こちらに背を向け、通路奥へと消えてゆくその表情(かお)に、不穏な影が
差していたことにも気付かないまま。

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  1. 2019/07/09(火) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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