日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔43〕

 先の飛鳥崎中央署の一件以来、ネット上ではその一部始終──守護騎士(ヴァンガード)
達とプライドこと白鳥涼一郎らとの戦いの映像が、次々に投稿・拡散されていた。連日祭り
のように取り上げていた各種メディアの報道も、政府が件の怪人──越境種(アウター)こ
と電脳生命体の存在を公式に認め、本格的な対応に乗り出したことで下火になっていたが、
その後も尚有志達による検証と憶測は繰り返されている。
 それはひとえに──人々の理解欲(リテラシー)が故だったのだろうか? いやその実、
単純な好奇心だったのかもしれない。
 “繕われた(オフィシャルな)声明を鵜呑みにしない”。
 かねてより積み上げられていた、公権力への不信。或いは全幅には程遠い信頼。
 それらはことネット民を中心として、執拗なまでの疑義と攻撃性を孕んでゆく……。

「──全く。やってくれたな」
 事の発端は、事件のあったすぐ後にまで遡る。
 飛鳥崎の地下、南部ポートランドの一角に潜む“蝕卓(ファミリー)”のアジトに、人間
態のプライドこと白鳥を始めとした幹部達が一堂に会していた。薄暗い室内、やや楕円形の
円卓に着いた彼らに詰るような眼差しを向けられているのは、同じ七席の一人のエンヴィー
こと勇である。
「すみません……」
 つい先刻、彼ら“蝕卓(ファミリー)”は敗北──大きな痛手を負った。これまで自分達
の存在を揉み消すのに好都合だった、飛鳥崎当局内への掌握を、守護騎士(ヴァンガード)
とそのシンパらによって破られてしまったのだ。
 こと現場に居合わせ、指揮を執っていたプライドにとっては許せない出来事だった。実力
も兵力も間違いなくこちらの方が上だった筈なのに、猪口才な人間どもの再三の抵抗に遭っ
た挙句、自身の正体さえも暴かれてしまったのだから。
「謝って済んだら警察は要らないわよ。で、どうすんの? これまでプライドが色々手を回
せてたルートも、これでパァよ? これまでみたいに、他の個体達に好き勝手やらせるのは
厳しくなるんじゃない?」
「だろうなあ。まぁ今までだって、ちょいちょい悪目立ちする奴は出てたけどよ」
「それとこれは別ですよ。拠点を一つ潰されたというのが大きい。第五研究所(ラボ)の件
もありますしね」
「む……。あれは奴らが……。いいでしょ? データは全部持ち出したし、後始末も済ませ
たんだから」
「その“合成”個体も、守護騎士(やつ)にやられた訳だがな。以前にも増して、明らかに
強くなってやがる」
「……むう」
「ねぇねぇ、ラストは? シンも来てないみたいだけどォ~?」
「召集は掛けましたよ。面倒なお供を振り切らないといけませんし、その内来るでしょう。
シンは……今回の件で、既に方々へ手を回しに行っているようです」
 プライドら残りの五人にじっと睨まれ、見つめられて、勇は只々そう頭を垂れて謝るしか
なかった。動揺で頭の中が幾度となくグチャグチャになり、焦点が合わずに揺れている。何
よりも怖かった。今回の失態で、行く当てを失くした自分を拾ってくれた、プライドに見捨
てられてしまうのではないか? と。
 ただ……確かに七波由香を逃してしまったことは、結果的に今回全体の撤退を招いてしま
ったが、彼女の留守電を再生したのは他ならぬプライドさんだ。直接の切欠はそれで、自分
もまさか、あんなメッセージをぶち込まれているとは予想もしていなかった。
 しかし言えない。そんな反論というか、言い訳じみた抵抗など……。
「今度こそだ。今度こそ、あの女と筧兵悟を始末しろ。私達に歯向かう人間どもは、骨の髄
まで解らせてやらねばならん。障害となるものは排除せねばならん」
 分かったな? 故に勇は、改めてそうプライドから厳命されたのだった。報復と排除、今
回の失態をぶち込んできた七波由香と筧兵悟には、何としてでも消えて貰わねばならない。
「忌々しいが、私の方は暫く表立って動き辛くなるだろうからな。この人間──白鳥涼一郎
の顔は割れてしまったし、本来の姿は言わずもがなだ」
「……はい。必ず」
 敢えて頭を垂れたまま、勇はギュッと唇を結びつつ静かに答えていた。遠回しに非難され
ていると思しきその捨て台詞を、踵を返して全身──背中で受け取り、一人薄暗いアジトを
後にする。
 そうして暫く彼の姿が見えなくなるまで見送った後、扉が閉まるのを見計らうようにして
から、スロースが気だるげに言った。
「……よかったの? てっきりあんたのことだから、この場であの子の首を飛ばすかと思っ
てたんだけど」
「私を何だと思ってる……。勇も私達七席の一人だ。それに、龍咆騎士(ヴァハムート)の
装着者をまた見繕ってくるのも面倒だしな」
 ふーん? 彼女の言いように、プライドは若干眉根を寄せたが、それでもあくまで彼自身
は冷徹を貫くようだった。スロースもスロースでそれ以上特に追及はせず、そもそも興味は
ないようで、他の面々と同様自分の席で手持無沙汰にしている。
「それよりも……。お前達に、頼みがある」
 だが次の瞬間、プライドはおもむろに立ち上がると、残る彼女らにそう言ったのだった。
 スロースやグリード、グラトニー。普段“売人”を務める三人は勿論、七席の司令塔を自
任するラースも、じっとその眼鏡の奥からこの言葉と動きを見つめている。
「何ですか?」
「もしかして……私達まで尻拭い?」
「例のアレがあるし、あんまし時間はねえぞ?」
「構わんさ。念の為の保険だ」
 やや面倒そうな、彼らの声。
 それでも当のプライドは、尚もそう淡々としていた。冷静に冷徹に、次に取り得る自分達
の手を、着実に打ってゆくという強い意志が感じられた。
 いや──実際その“感情”には、激しい苛立ちが含まれていたのかもしれない。

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  1. 2019/05/28(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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