日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔104〕

 魂魄楼北棟。同中枢、中層域にて。
 死者の裁定を担う閻魔達は、基本的にこのフロア一帯の大半を占める各法廷を、主だった
職場としている。
 その数──およそ数百。
 現世にて死神達が回収してきた魂もとい幽冥種(ホロゥ)達を、楼内へ入る前に予め専用
の装置で測った、生前の罪業(ログ)を元にして裁定は行われる。その魂が黒く穢れていれ
ばいるほど、浄化のプロセス──収監される“煉獄”の階層は深くなるという仕組みだ。
 故に一連のサイクルにおいて、閻魔個々人の意思が介在する場面は少ない。
 人ではなく、あくまで先例(ほう)による秩序が、長らく維持されてきたのである。
「判決を言い渡します。留置番号七八六〇五、貴方を煉獄第四層へと送致します。浄化完了
までの推定日数は、三万飛んで二十二日です」
 特に閻魔総長ヒミコが裁定長を務める大法廷は、生前大きな事件を起こした魂を専門に取
り扱う。
 しかしそんな個々の背景に、彼女は一切動じない。
 蒼褪めた人魂、白装束、或いは生前の姿形を保ったままの罪人に、彼女は高い壇上の席か
らそう淡々と裁定の結果を告げる。閻魔達の長といえど、基本的な仕事は変わらない。ただ
彼らの魂の記録(ログ)と、継承されてきた基準とを照らし合わせ、手の掛かる一人分とし
て浄化プロセスに送ってゆくだけだ。
 連れて行きなさい。威圧するように睨み返すその眼を努めて淡々と見下ろし、彼女は控え
ていた獄吏達に命じた。鎖で繋がれた封印錠を引っ張り、彼らによってこの罪人は大法廷を
後にする。去り際、罪人の言葉にならない恨み節が響いたが、彼女を含めた閻魔達はちらり
と横目こそやれどその表情を変えることはない。
「……もう大丈夫ですよ。貴女達を陥れた者は、これから永い贖いの時を過ごすことになる
でしょう。貴女達も安心して次なる生に備えなさい。次に出会う時は、あの者の魂はすっか
り真っ新な別物になっている筈です」
 それでも綻ばせる時があるとすれば、その被害を受けた魂達へ語りかける時だ。
 壇上からなれど、ヒミコはそうフッと優しい微笑みを向けて彼女らに言った。先ほどまで
の大法廷を傍聴していた一家が、そんな言葉に思わず感涙に顔を歪める。
「……ありがとう、ございます」
「これでやっと、私達も……」
 他の閻魔らが黙して見守っている中、ヒミコは続ける。あの罪人の魂とは違い、貴女達は
まだ善良なそれだとも。今後それぞれに裁定を受け、浄化のプロセスを経て貰わなければな
らないが、希望さえすれば楼内で暮らすことも出来ると。
 彼女達は、ボロリと泣き崩れていた。自身の死が命を奪われたことによるものだとは解っ
ていても、周りの他の魂達を目の当たりにする中で、全く“罪”を持っていないとは思えな
かったからだ。
「いいのですよ。普通のことです。悔い改め、浄化(ほう)に身を委ねてくれる……それだ
けで十分なのですから」
 悪しき魂にはより多くを。善良なる魂には慈しみを。
 ありがとう、ございます……! 半ば嗚咽し、涙の止まらない彼女らを、今度は別の獄吏
達がそっと優しく促して連れ去ってゆく。

「──んんっ」
 そうした、裁定と裁定の合間。自身の執務室に戻ったヒミコは、束の間の休憩を取ってい
た。ぐぐっと小柄な身体を伸ばし、大きく深呼吸を。室内には数名の部下達が、次の裁定に
向けて準備を整えている。
(資料……彼らの生きた記録……)
 室内に所狭しと収納された、生前の罪業(ログ)と個人情報。
 ヒミコ自身、いち閻魔となってから延々と繰り返してきた日常であり、仕事だ。過去現在
未来と膨大に上るそれを、一個一個検める暇は正直無い。
 では、元々の自分は……? それでも時折こうして自問(と)えど、既にその確固たる記
憶は忘却の彼方だ。現世と冥界(ここ)では、時の流れというものは微妙に違う。
「失礼します」
 ちょうど、そんな時だった。入口の扉をノックし、別の閻魔の一人がヒミコ達の控える執
務室の中へと入って来る。部下達がおもむろに視線を遣る中、何やら資料を抱えたこの女性
閻魔は、ヒミコの前まで進み出ると胸元のそれを差し出してくる。
「総長。頼まれていた資料をお持ちしました」
「ありがとう、ご苦労様」
 失礼します。そうして無事用件──資料を届け終えた彼女は、折り目正しく一礼をすると
部屋を出てゆく。他の部下達がその一部始終を一瞥し、されどすぐにめいめいの職務に戻っ
てゆく中で、ヒミコはこの手渡された資料をぱらぱらと捲って目を通し始めた。先日、アラ
ラギ総長以下死神衆が話していた、この冥界(アビス)へと侵入してきたという者達の来歴
についてである。
 ──ジーク・レノヴィン。顕界(ミドガルド)北方、陽穏の村(サンフェルノ)出身。
 十五の成人直後から故郷を出、梟響の街(アウルベルツ)にて冒険者を始める。程なくし
てクラン・ブルートバードに拾われ、めきめきと頭角を現す。
 当初は本人らも知らなかったことだが、母シノは女傑族(アマゾネス)の国・トナン皇国
より亡命した元王女であると判明。二年半ほど前に同国で起こった内乱により玉座に復帰。
彼らと結社“楽園(エデン)の眼”との確執はこの前後から本格的なものとなる。
 同西方フォーザリア鉱山、同央域大都バベルロートにおける統務院総会(サミット)及び
監獄島ギルニロックにおける攻防を経て、クランの仲間達と共に対“結社”特務軍に任命さ
れ、志士十二聖ゆかりの武具・聖浄器回収の旅を続けていた。その果てに古界(パンゲア)
北方・竜王峰にて戦死。現在に至る。
「……随分と、破天荒な青年だったようですね」
 ざっと内容に一通り目を通した後、ヒミコはそうぽつりと呟いていた。他の部下達も何人
か、差し出されたこれを回し読み、同じく呆気に取られたかのように目を瞬いている。
 彼が亡くなったという話は、かねてより聞き及んでいた。又聞きが主ではあるものの、仕
事柄、現世の情勢は多少なりとも頭には入れている。そもそも裁定は対象者の罪業(ログ)
と先例(ガイドライン)に基づくため、私情を挟むべきではないし、余地もないのだが。
 最初はアララギ以下、死神衆が動いていた。
 だがこと侵入者──この楼内の秩序にも関わること故、彼女も彼女で部下達に情報を集め
させていたのだった。
 報告によると、件の侵入者達は、クラン・ブルートバードの面々。現在死神衆から選出さ
れた討伐部隊が楼外遠方にてその確保に当たっているという。
(まさか……。彼を蘇らせようと……?)
 故にヒミコはその可能性に思い当たり、思わず静かに頭(かぶり)を振った。
 あり得ない。前例がない。そもそもこの世界における、生と死のルールに真っ向から歯向
かう行いではないか。それでも何となく複雑な心境だったのは、彼女自身、先のアララギ達
の迅速さに一抹の怪訝を抱いていたからに他ならない。
「……次の裁定まで、まだ時間がありましたよね?」
「? ええ……」
 だからこそ、ヒミコは一旦ぐっと密かに唇を結ぶと、場の部下達にそう確認するように訊
ねた。懐中時計を取り出し、室内に掛けられている予定表と合わせ、彼女らは若干疑問符を
浮かべたままに頷く。
「分かりました。では、行きましょう」
 するとヒミコは、部屋の外に向かって歩き出した。次の裁定に向けて準備を進めていた部
下達が「えっ?」と驚く一方で、予めその心積もりを聞き及んでいた何人かがスッと彼女に
同伴する。少しスケジュールに空きがあるとはいえ、一体何処へ……?
「ジーク・レノヴィンの所、ですよ。件の侵入者と縁があるとすれば、アララギ達も黙って
はいないでしょうから」
 生前どれだけの大事件に関わろうとも、皆同じ魂だ。その存在自体に貴賤はなく、生前の
それが故に、不平等に取り扱うべきではない。
 戸惑う閻魔に、慌ててついて来る閻魔。
 幾人かの部下を引き連れて、同総長ヒミコは自ら動き出した。

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  1. 2019/05/15(水) 18:00:00|
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(企画)週刊三題「芝駆り」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:才能、闇、見えない】

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  1. 2019/05/12(日) 00:00:00|
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(雑記)示すから、示される

『あまりにも長過ぎる休息はかえって苦痛である(ホメロス)』

今年の大型連休もあっという間に過ぎ去って、ぼちぼち新年度本番──初夏が始まります。
前回、先月末の雑記に追記(訂正の横線)をした通り、サハラ~のプロット作成は何とギリ
ギリ終えることができました。早速月頭から月2本体制に戻ろうかと思いましたが……身体
はこの一段落に安堵したからか、ぐったりガス欠に。仕方ないというか、コンディションが
これでは不十分と判断し、連休中はほぼ休養に充てさせて貰いました。書く方も読む方も、
文字通りたっぷり「時間」が取れる機会だったのですが……申し訳ないφ_(:3 」∠)_

ただまあ、お陰様で体力・気力諸々は大分回復したと思います。気分転換もできたのかな?
尤も実際にそうなってきたのは、連休の最中というよりも、いざ明けてお仕事が再開してか
らなのですが……。何度となく使ってきた言い回しではありますが、やっぱり日がなPCと
睨めっこしているだけでは捗りはしませんねえ。可処分時間自体はどうしても減ってしまう
けれど、別のことをやりながらの片手間思案の方がよっぽど「閃き」易いようで。ともあれ
ネタ練り云々は、もっと実際に手を動かす──物理的にメモに書き出すことを意識的にやっ
ていかないと、徒に時間ばかりが過ぎてしまうなあというのが経験則、個人的な実感だと改
めて思い知らされた数日間でありました。

ユー録は今週末→翌週前半に。
サハラ~は(例の如く一週間ほどインターバルを置き)再来週末→翌再々来週前半に。

執筆モードの予定を後回しにすれば、カレンダー的に日程がカツカツになるのは分かってい
たとはいえ、結局プロットを作り終えた当のサハラ~本編の更新が月末となってしまいそう
ですね……(´・ω・`) まぁ間髪いれずUPしても検索エンジンに載りませんし、何より肝心の
クオリティを自分としても保証できない気がしますし。元より安定してないじゃん?

普段の執筆スケジュールもそうですが、ストックが尽きぬよう、早め早めに並行してどちら
かのプロット作りも進めておかねばならんですね(残り章数的にサハラ~でしょうか?)何
よりようやく出来たこの執筆と執筆の空き期間に、いい加減新しい企画のプロット達を起こ
さなければ。実際にGOサインを──形にする為の準備を済ませてゆかなければ。今年こそ
は、今年こそはと抱負「だけ」を嘯いた所で、自分以外の誰にも現実にも認知されやしない
のですから。

回復した時点で安堵しない。気持を切ってしまわない。最早幾度目、ここからがスタート。

口じゃあなくて、手を……動かすのだ。

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  1. 2019/05/08(水) 21:00:00|
  2. 【雑記帳】
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(企画)週刊三題「ファミリ・ア」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:犬、蜘蛛、主従】

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  1. 2019/05/05(日) 00:00:00|
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(企画)週刊三題「Y字路」

──これから毎週、小説を書こうぜ?

毎週一回、ツイッタの「診断メーカー」で出たお題で小説を書いてみるという
自己鍛錬、 それがこの『週刊三題』であります。
さてさて。紡がれる文章は良分か悪文か、或いは怪文か?
とある物書きの拙文晒し、此処に在り。

【今週のお題:人間、メトロノーム、地平線】

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  1. 2019/05/01(水) 00:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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