日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔39〕

『兄ちゃん──』
 黒いリアナイザの拳鍔(ダスター)を打ち込む寸前、勇の目には亡き弟・優の姿が映った
ような気がした。
 生前の記憶そのままに、心優しくはにかんだ笑顔。その姿に、勇は思わずハッとなる。
 故にそんな一瞬の迷いが、結果として七波を、粉砕の運命から逃れさせた。
「先、輩……?」
「──っ」
 咄嗟に身を屈めたすぐ頭上の、激しく抉られた背後の壁。
 どうやら攻撃が外れたらしいと判り、彼女は混乱している。勇もそこでようやく、事の重
大さに気が付いたのだった。
(俺は一体、何を……?)
 少し手元が狂った、と言うにはあまりにもお粗末。少なくともこの女が筧兵悟から自分達
のことを聞き及んでいる以上、始末しなければならない。
 なのに──身体が思うように動かない。理屈では今やるべきことは解っているのに、まる
で自分の中で別の力が働いているかのように、もう一撃という動作を踏み留まらせる。
 まさか、こいつの「謝罪」を真に受けたとでもいうのか? 今更優(あいつ)が戻ってく
る訳でもないのに。こんな涙に自分が騙されかけた? そんな「弱さ」など、とうに捨てて
来た筈なのに。
 大体こいつも、あいつを見殺しにした“仇”じゃないか……。
「……ご、ごめんなさい」
 するとどうだろう。怯えて震えの止まらない七波は、再びそう勇に謝り始めた。
「そう、ですよね。今ここで謝ったって、優君はもう戻っては来ないのに……」
 但し今度は、自らが見て見ぬふりをしてしまったことへの詫びではなく、勇へそう安易に
謝ってしまったこと、それ自体へのものだ。ぎゅっと目を瞑り、声色を抑えながらも、その
姿はまさに命乞いそのものだ。
「私達が死なせたんです。なのに謝ったらどうにかなるだかなんて──自分勝手ですよね」
「……」
 彼女を見下ろしたまま、勇はゆっくりと黒いリアナイザを壁から離した。数拍、ほぼ無音
の反応となって何が起こったのかと、七波がおずおず目を開けようとするが、勇は次の瞬間
そんな彼女を至近距離の真上から見下ろすと呟く。
「もう、喋るな」
「えっ?」
「これ以上誰かに話してみろ……。本当に死ぬぞ」
 思わず目を瞬いて戸惑う七波。彼が刺すような眼光と鬼気を纏っているさまは相変わらず
だが、その言い方は、まるで他人事のようにも聞こえた。
「──うーん。確かこっち辺りから聞こえたような……」
「本当かあ?」
「気のせいじゃねえの? 今この辺、ポリ公やら何やらで騒がしいし……」
 ちょうど、そんな時である。二人が居た路地裏の、更にもう一区画向こうの通りから、通
りすがりと思しき男達の声が聞こえたのだった。三人分の足音が近付いてくる。おそらくは
壁を抉った際、その物音に気付いたのだろう。
「おーい、誰かいるのか~?」
『……』
 カツ、カツンと、靴音がやけに鳴り響きつつ、そんな何処か間延びしたやり取り。
 警戒と動揺。勇と七波は、それぞれにハッとなって身構えていた。どちらからともなくそ
の場で息を殺し、何とか彼らが立ち去ってくれるのをじっと待つ。
「──ちっ」
 だが先に痺れを切らしたのは、勇だった。まだこの邪魔者らが視界に入って来ない内に、
さっさと逃げてしまうことを彼は選択したらしい。他人に目撃され(みられ)てしまっては
元も子もない。舌打ちをして自分からあっという間に離れ、反対側の横道へと消えてゆく彼
とこの乱入者の影を交互に見遣りつつ、七波も迷う。
「……っ!」
 そして出した答えは──逃走。
 故に彼女は次の瞬間、思わず慌てて、この場から駆け出していたのだった。

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  1. 2018/10/16(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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