日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔99〕

 刹那、巨大な翼で自らを包んだセイオンは、竜族(ドラグネス)本来の姿を解放した。
 冷え冷えと蒼い全身の鱗──氷竜である。その姿になってちらっとこちらを見下ろしてき
た彼の背中に、ジーク達北回りチームの面々は乗り込んだ。直後、ぐんと上昇し、空高くへ
と舞い上がる。周囲ではセイオンの部下達が竜人態となって飛び、ずっと遠く高くに見えて
いた竜王峰の上層が、次第に大きく近付いてくる。
「──切欠は、君達が大爺様と出会ったことだ」
 そうして何度、ゆっくりと大きな翼をはばたかせた頃だったろう。重ねて謝罪をしてきた
後だったろう。
 竜の姿のセイオンは、その整った横顔に憂いを宿したまま、されど視線は真っ直ぐに山の
頂を見つめ続けて言った。
「尤も君達からすれば、そもそも先に接触してきたのはこちらなのだがな……。最初、大爺
様がそこの彼女──レナ君について調べて来て欲しい、会いたいと頼んできた時、私は何と
なく嫌な予感がしていた。大爺様も、タイミングは違っただろうが、おそらく仔細を聞く内
に懸念を抱くようになったのだと思う」
 曰く、ヨーハンも“結社”との対決に有効だとは解っていても、本音としてはジーク達に
聖浄器を渡したくはなかった──絶晶剣(ボルフ)と絶晶楯(マレフ)を再び使わせたくは
なかったのだという。
「大爺様は、英雄になりたかった訳じゃない」
 曰く、若さ故の過ち。良かれと思って突き進んだ道が、偶々良い結果に転がっただけ。
 気付けば十二聖として祀り上げられ、他人びとに囲まれて身動きが取れなくなっていた。
それでも全くこちらに落ち度がなかったと言えば、嘘になるが……。
 だが、そうして増えていった一族と、子孫らの成長を見ることができたのは確かに幸せで
はあったものの、一方でそれまでに犠牲にしてきたものを忘れられた訳ではない。かの大戦
で失われた命と戦友・ユヴァンの死。それらを想う度に、自身の歩んできたこの道は本当に
正しかったのだろうか? と……。
 ジーク達をリュノーの大書庫へ誘った理由は、そこだ。
 生前かの親友(とも)は、早々に隠居こそせど、何やら熱心に資料を集めていた。あの頃
から既に“結社”の不穏な動きに気付いていた可能性が高い。ジーク達に聖浄器の真実を知
って考え直して欲しかったのと同時に、彼の残した資料からもっと詳しいことが判るかもし
れないと考えたのだ。
 だが……そんなヨーハンの心積もりも、アルスがその隠しメッセージを解読したことで大
きく崩れることになる。他でもない“結社”の黒幕が、かつての戦友(とも)だと知ってし
まったからだ。
 セイオン曰く、解読結果を読み終えた後、ヨーハンは今まで見たことがないほどに酷く泣
いていたという。その上で、彼は自分達に足止め工作を頼んできたのだと。
「大爺様は……死ぬつもりだ」
『──っ!?』
 だからこそ、次の瞬間セイオンがぽつりと絞り出すように紡いだ言葉に、ジーク達は思わ
ず言葉を失った。
 戦友(とも)を止めること。それが己に残された責任だと、ヨーハンは考えたらしい。
 たとえ命を賭してでも、彼と戦うつもりなのだと。事実“結社”の側も、既に残る聖浄器
である絶晶剣(ボルフ)と絶晶楯(マレフ)を狙っている。
「そこまで知ってて……!」
「ああ。止められなかった。私達では、大爺様を……」
 竜の姿のまま眼を、そっと気持ち細める。
 ジークの掠れそうになる荒げた声に、セイオンは抵抗することもなく認めた。イセルナや
レナ、クレアといった面々が「セイオンさん……」と哀しげな表情を浮かべている。
 なまじ近しい親族だから。現当主として本人の苦悩を知っていたから。
 しかし一時は自らに言い聞かせていたその釈明も、ジーク達と剣を交えた──交えて改め
て、結局は諸々の責任を彼一人に押し付けていただけなのだと痛感した。寒空の音。数拍の
間セイオンは、部下達は黙っていたが、程なくして再び前を見据えて言う。
「……だが大爺様は、もう独りじゃない──させちゃいけない」
「ああ。そうだな……。急ごう、爺さんを助けるんだ」
 静かに目を瞬いてこの跨る巨体を見下ろし、ジークが呟く。仲間達もコクリと、一様に神
妙な面持ちで首肯する。
 風雪の増してゆく空を昇り続け、やがて上層の宝物殿が見えてきた。
 やはり此処までくると地面はかなり白く降り積もっている。山頂に届く岩肌の一角を掘り
込むように造られたそれは、確かに来る者を拒む自然の砦のようだ。
「!? あれは──」
 ちょうど、その時だった。
 ジーク達は眼下に、開いた宝物殿の入り口に立っているヨーハンとその従者らしき数名の
人影を見た。そんな彼らと相対するように、目深にフードを被った人物と胴着羽織の男──
ティラウドと、数名の見覚えある使徒達の姿を見たのだった。

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  1. 2018/09/12(水) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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