日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔37〕

「んんっ……!」
 無理やりいつの間にか、鉛のように重く暗い底に意識を沈められて、筧は一抹の不快感と
共に目を覚ました。喉に詰まった濁りを吐き出すように何度か咽返りつつ、知らず知らずの
内に深い渋面を浮かべている。
(……っ。何だ? つーか、何処だ、ここは……?)
 力いっぱい顰めた視界に映っていたのは、昼間と思しきながらも妙に薄暗い、とある室内
のようだった。
 長らくまともに人手が入っていないのだろう。辺りにはひんやりとしたカビ臭さが漂い、
粗く目張りされた壁や天井の隙間から日の光が静かに差し込んでいる。
 何処かの廃屋か……。筧はまだぼうっとする頭で、そう状況を把握しようと努めていた。
 後ろ手にされた手首と足首には、固く結ばれた縄。まだ節々の痛みが残る中、筧は可能な
限り直前までの記憶を引っ張り返そうとする。
 あの時は確か、自分達は鎖で柱に括り付けられていた筈だ。例の兄(あん)ちゃん達の姿
も見当たらないということは、やはり自分だけが別の場所に移動させられたのだろう。一体
何の目的で? いや、そんな思考を巡らせているよりも、今は此処から脱出する方が先だ。
 連中がいない今がチャンスだ。筧は辺りを見渡し、そして部屋の隅に半分朽ちかけた作業
机があるのを発見する。
 どうやらこれも長らく放置されているらしい。ごちゃごちゃと工具や図面らしき古紙が乱
雑に積まれているが、そこにナイフがあるのを彼は見逃さなかった。
 あれなら……。手足の自由が利かない中、腰を下ろした格好のまま尺取虫の要領で身体ご
と作業机の前に移動すると、筧は一旦背を向けて、後ろ手越しにこのナイフを手に取った。
古びて大分錆付いているが、背に腹は代えられない。まだ切れ味が残っていることに賭け、
この刃をぐいっと自身を縛る縄の隙間に捻じ込んでゆく。
「……よしっ!」
 少々難儀したが、無事拘束を解くことができた。どれだけの時間縛られていたのだろう?
軽く手首を振って握力を確認しつつ、残る足首の方の縄も切る。
「……」
 握ったままのナイフ一瞥して、改めて辺りを見渡す。
 案の定、警察手帳やデバイス、拳銃や警棒といった装備は取り上げられたままらしい。正
直心許ないが、このままナイフは持って行くことにした。いつ連中と鉢合わせして、戦いに
なるとも限らない。
 物音一つ聞こえない廃屋の中を、筧は慎重にクリアリングしながら進んだ。部屋の外周に
背を預けながら、扉同士の隙間をじっと覗いては、敵がいないことを一つ一つ確認しながら
隣へ、そのまた隣へと移動してゆく。一気に出口まで進むべきか? いや、内部構造が判ら
ない以上、下手に直進すれば潜んでいる敵に勘付かれる恐れがある。
(妙だな……)
 だが、そう筧が慎重に慎重を重ねて辺りを警戒しているのに、当の連中の姿は一向に確認
できなかった。気配すら感じない。
 尤も相手は人外の化け物達なのだから、それぐらいできるのかもしれないが……だとして
もそうする意図が分からない。わざわざ自分をこんな所に監禁していたのだから、何かしら
目的があった筈だ。
 もしかして、何かの取引の為に出払っているのか?
 ならば脱出には好都合ではあるが……杜撰過ぎないか?
(──うん?)
 ちょうどそんな時だったのだ。筧の前にふと、それまでよりも大きめの空間が広がった。
 先程までよりも一層警戒して、中に入る。例の如くボロボロだが、残っている調度品など
を合わせると、どうやら元々はリビングの類だったらしい。
 ここにも敵はいなかった。ぽつんと、筧は眉間に皺を寄せたまま、この廃屋の広間の中に
立っている。
『──』
 いや、誰かいる……。
 次の瞬間、筧が斜め向かいの窓際に見つけたのは、ぐったりと仰向けに倒れたまま微動だ
にしない、何者かの人影だったのだ。
「……?」
 だから最初、筧はそれが誰なのか分からなかった。
 少し遠巻きの位置にいたというのもある。だが何となくじっと目を凝らし、日差しの逆光
の中に血汚れが残る身体と、見慣れたその顔を認めた時、彼は思わず全身を強張らせて驚愕
の表情を浮かべた。
「……ッ?! 由良!」
 はたしてそれは、行方を眩ませた筈の自身の相棒で。
 次の瞬間、衝き動かされたように、筧は彼の下に向かって走り出し──。

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  1. 2018/08/21(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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