日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔97〕

 これまでの旅がことごとく波乱含みだっただけに、こうもあっさりと着いてしまうと逆に
不安になる。

 霧の妖精國(ニブルヘイム)を発ってから十五日──およそ一週間と三日。
 古都ケルン・アークに到着したイセルナ以下北回りチームは、市中の一角に宿を取り、先
だって面会を要請したディノグラード家からの返答を待っていた。
 天上層特有のゆったりとした時間の流れと、古く染み付いた匂い。
 だが、そんな時にノスタルジックなこの地の空気も、今のジーク達にはじわじわと焦りを
促す材料にしかならなかった。立ったり座ったり、窓から眼下の風景をぼんやり眺めたり。
スライド式の間仕切りで男女別に分けられる大部屋で、一行は思い思いに過ごしていた。寡
黙が、気鬱が部屋一面に横たわっている。
『……』
 その理由は、単純なことだ。解りきっている。
 先のニブルとアルヴ、新旧妖精族(エルフ)達の争いに翻弄されつつも、何とか聖浄器・
深緑弓(エバーグリス)を手に入れたジーク達だったが、事件が終わって一段落……とはい
かなかったからだ。心中、決して穏やかではなかったからだ。
 体力的にというよりも、精神的に。
 ぐったりとめいめいに沈黙しているのは、その後の人々の評価故だ。保守的で平穏を望む
古界(パンゲア)の者達にとり、先の一件で「どちらが正しかったか?」はさして重要では
なかったのだ。開明派が、ブルートバードが掻き乱した──ただその事実一点をもって不快
なのであり、この市中でも散々その不満や悪評を耳にしてきたのだ。用心のため、外出時に
は変装やほっかむりを被っておいて正解だったと思う。目の前に当の本人達がいると分かっ
たら、はたしてどんな罵声を浴びせられたことか。
 ……自分達は、一体何の為に戦ったのだろう?
 聖浄器を手に入れる為、そして“結社”の脅威と戦う為には違いない。ニブルとアルヴの
対立に関わる形になってしまったのは、ひとえに成り行きだとも言える。
 だが結局、あの戦いで自分達は何を得られたのだろう? 何を守れたのだろう?
 どれだけ特務軍としての大義名分を抱えても、ミシェルら“守人”達を守れなかったのは
紛れもない事実だ。長老達の暗殺という形で一先ずの終止符が打たれたとはいえ、アルヴと
ニブルの対立は解消できなかった──寧ろ溝は深まったままで、その実単に振り上げられた
拳を下ろさざるを得なくなった、というだけに過ぎない。
 その意味では、市民(かれ)らの言う通りなのかもしれなかった。
 こちらがどれだけ“結社”の脅威を説こうとも、結果が伴わねば、ただ“掻き乱された”
という事実・感慨ばかりが残るのである。正直、もやもやした気持ちは否めないが、それが
現実だ。
(……ま、本を正せば俺達の個人的な戦いだったからな。誰かの為ってのは、結局後付けだ
ったのかもしれねえが……)
 そう、ぼんやりとジークが窓際で古都(ケルン・アーク)の静かな街並みを眺めていた時
のことだった。トントンと、部屋の入口が何者かにノックされる。
 一同が誰からともなく顔を見合わせて、ハロルドとレナがこれに応じた。開けた扉の向こ
うに立っていたのは、黒い正装に身を包んだ竜族(ドラグネス)の男性。
「クラン・ブルートバードの皆さんですね? ディノグラード公ヨーハン様より、皆様のお
迎えを仰せつかりました」
 ようやく来たか……。この慇懃な使者の到着に、ジーク達はおもむろに立ち上がった。皆
にイセルナが、纏めてある荷物を運ぶように指示する。それまで物静かだった時間が、にわ
かに緊張し、慌しくなる。
「表に鋼車を停めてあります。どうぞ」
 サッと無駄のない所作で、廊下の先を促す使者。ジーク達は彼の案内のままに、ぞろぞろ
と出発の準備をし始めた。
 僅かに唇を結んで、神妙な面持ち。ようやく彼に、最後の聖浄器に会える。
 リカルドやシフォン、オズなどが荷物をぶら下げ、先ず外に出て行った。その後ろをハロ
ルドやレナ、クレアにジークといった残りの面々が続く。この部屋の主達が減ってゆく。
 そこに、一通の開封済みの封筒が残されていた。備え付けの花瓶を文鎮代わりに、小振り
な丸テーブルの上に置かれている。
 最後にイセルナが、これをサッと花瓶の下から引き抜いて部屋の中を見渡した。忘れ物や
戸締りを確認してから、自身も肩に引っ掛けた荷物を揺らし、踵を返す。
『──』
 アルスからの手紙だった。
 彼が滞在中のジーク達に宛てた、件の解読結果だった。

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  1. 2018/07/03(火) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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