日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔34〕

「うぐっ!?」
 動きを止めたその一瞬が決定打だった。がら空きになった両腕の隙間をヘッジホックの拳
が抉り打ち、睦月は大きく吹き飛ばされた。目の前の遠巻きから、インカム越しから、仲間
達の自分を呼ぶ声が聞こえる。
「……」
 棘付きの拳鍔(ダスター)を両手に提げながら、鬼気迫る様子のヘッジホックがゆっくり
と近付いて来る。
 一方で守護騎士(ヴァンガード)姿の睦月は、その面貌の下で、ぐらぐらと動揺に瞳を揺
るがせているままだ。
「これで──」
 拳鍔(ダスター)を振り上げ、睦月に止めを刺そうとしたヘッジホック。
 だがそんな時、彼の身体に異変が起こった。不意に全身から血が──デジタル記号の粒子
が再び溢れるように噴き出し、その動きを止める。
 ダメージだ。初手の奇襲で國子達から受けたダメージが、今になり響いてきたのだった。
「かはっ……?!」
『……! よし、効いてる!』
『今だ睦月、反撃しろ!』
 瞳を明滅させ、ぐらりと大きく仰け反るヘッジホック。
 その異変を見て、すかさず指示を飛ばす、皆人以下司令室(コンソール)の面々。
 しかし肝心の睦月は、動かなかった。いや、迷いに囚われて動けなかったのだ。
 すぐ目の前で苦しみ、それでも尚抗おうとするヘッジホックの姿。
 その姿と、直前彼と打ち合いを繰り広げた際の言葉が、睦月の脳裏の中央でハレーション
を起こしている。

『約束したんだ……。お前を倒せば、僕達は自由になれる!』

 確かにヘッジホックは、そう言った。
 ただそれだけの為に、こいつは自分に戦いを挑んできた。
 ……どういう事だ? あの後から今日までに、奴らの間で一体何があった?
 頭の中が混乱している。戦いの意識と、もう一つ過ぎるのはかつての“友”の姿だった。
 これはあくまで推測の域を出ない。だがもしそれが正しければ、今自分が戦っている、倒
そうとしている相手の目的は……。
「ヘッジ!」
 ちょうど、その最中だった。海沙や宙、仁と対峙していたトーテムは、ビルの屋上からこ
の戦いの一部始終を目撃していた。
 自らに浴びせられた粘着弾にもがきながら、この盟友の危機に動こうとする。ぐおおおお
おおッ……!! ミシミシと、自身と足元のコンクリ床とを強力に貼り付けている粘々を、
その念動力の浮遊で少しずつ力ずくで引き剥がしてゆく。
「!? しまっ──」
 そう仁がハッと顔を引き攣らせた時には既に遅かった。一度完全に身動きを封じてやった
と思ったトーテムは、次の瞬間、その足元のコンクリ床ごと脱出して空中へと飛び上がって
行ったのである。仁達が追おうとしても間に合わなかった。海沙のビブリオが、宙のカノン
の銃口が慌ててトーテムに向くが、彼は一切構わずそのままヘッジホックの下へ急行する。
「掴まれ! 一旦退くぞ!」
 足元に粘着弾で貼り付いたままのコンクリ床──瓦礫の塊をぶら下げたままで。
 トーテムは“出血”にふらつくヘッジホックに、そう叫んで手を伸ばした。鬼気迫る表情
のまま、ギロリとこちらを睨み返してきたが、それでも数拍後には促されるがまま、その手
を取って彼と共に大きく再浮遊する。
 國子ら奇襲班はさせじと、このトーテムを叩き落そうとしたが、こちらへ飛んでくる際に
散らばり降ってくる無数の礫(つぶて)がそれを妨げた。
 混乱に、更に上乗せした混戦と、土埃。
 故に気付いた時にはもう、この二人のアウターはまんまと、睦月ら包囲網の中から逃げ出
してしまった後だったのである。
『……ちっ』
 インカム越しの向こうで、皆人が小さく舌打ちをするのが聞こえた。
 しかし当の、現場の睦月は、未だ動揺に身体の自由を押さえられたまま、荒く肩で息をす
る事しかできなかった。

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  1. 2018/05/22(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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