日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔95〕

『まさか、これは……』
 ワーテル島の消失。映像越しにその一部始終を見ていたのは、何も一連の戦いを対岸の火
事と決め込んでいた人々だけではない。ようやく万魔連合(グリモワール)と合流──追討
作戦を再開しようとしていた王や議員達も、まるで頭を殴られたかのように大きく目を見開
いている。
『い、一体何が起きたんだ?』
『急いで現地に連絡を! サーディス達は無事なのか!?』
『そ、それだけじゃない。また万魔連合(グリモワール)を巻き込んでしまったら……』
 ざわざわと、ホログラム画面の向こうでこちら側で、面々が状況確認に動き始めた。
 よりにもよって……。その表情が総じて必要以上に険しいのは、既視感──二年前の大都
消失事件の記憶を重ねているからなのだろう。
『……してやられたな。あの時の結界か。それだけ結社(やつら)も、ヘイトの横暴を看過
できなくなったということなのかもしれんが』
『ああ。だが、策としては上出来だ。力の供給元を断てば、奴もいずれはジリ貧になる』
 尤も、それまで待つつもりはねえし、奴も待ちやしないだろうが……。
 そんな中でも、ハウゼン以下四盟主は比較的落ち着いているように見えた。フッとそう嗤
うファルケンに、ロゼとウォルターは横目を遣りながらも、画面の向こうに映る現地の様子
に注意を向け続けている。
『だ、駄目です! 応答がありません!』
『モニター中の映像も途絶えました! おそらくは、機材ごと結界の内側に巻き込まれたも
のと思われますが……』
 通信の端々で、各配下の技師や官吏達が振り向いて言う。案の定、ヒュウガやウル達も結
界の中へと閉じ込められてしまったらしい。
『ど、どうしましょう?』
『くっ……拙いな。突入の最中だったからな』
『ああ。だが彼らは魔人(メア)だし、実力も“七星”クラスだ。そう簡単にくたばるとは
思えん』
『し、しかし……。二年前と違って、今回はレノヴィンがいないんだぞ? 突入口だってあ
の時のように在るとは限らない。こちらと分断されてしまった事実には変わりないんだ』
 実際に二年前、大都消失を生き抜いた本人達ではある。そう易々とやられはしないだろう
と信じたい。
 だが議員の一人がそう口にするように、状況は間違いなく悪い──不透明だ。少なくとも
こちらの兵力も一緒に分断されてしまった以上、ヘイト追討を続けるにしても脱出を優先す
るにしても、リスクが高い。二年前のあの時はジーク達が正面の守りを破ったことで突破口
が開けたが、その当人達は今天上と地底に分かれて聖浄器回収の任に就いている。
『……結社(やつら)の介入があった時点で、想定すべきだったな。緊急事態だ。現地に兵
を増派する。残された万魔連合(グリモワール)の関係者と交渉を行ってくれ。結界で分断
されたとはいえ、まだ外側には大量の瘴気が残っている。先ずはその後始末をしつつ、結界
内部への進入も模索する』
 了解! 暫し思案顔をしていたハウゼンの一言に、配下の者達が動き出した。他の王や議
員達も、特段これに反対はしない。増派については先方と改めて擦り合わせる必要があるだ
ろうが、今自分達にできる事と言えばそんなものだ。またレノヴィン達──部外者ばかりに
頼る訳にもいくまい。何より今回は、こちらが始めた戦争なのだ。
「……」
 どっかりと、自身の玉座に深く腰掛け直し、ハウゼンは人知れず深く息をついた。眼下に
は官吏や将校らに指示を飛ばす臣下達の姿があるし、通信画面の向こうでも各国の王や議員
達が、それぞれに随時部下を動かしたり報告を受けたりしている。
 ファルケンやロゼ、ウォルターがじっとこちらを窺っている事には気付いていた。彼らも
彼らで思う所──戦術の立て直しや自身への心配、或いはこの戦いの後の商機について思い
を巡らせているのであろうが、正直ハウゼンが今胸中に抱く感慨は、ある意味でそれらとは
一線を画すものである。さも目の前の、現実とは違ったベクトルを向いてしまっている。
 ……ここまで戦いが長引くとは、複雑になるとは思っていなかった。
 いや、保守同盟(かれら)と戦うと決心した時点でその内情は入り組んではいたのだが、
兵力差を考えれば、決着は比較的早期だろうとやや楽観的に目算をつけていたのだ。
 それだけに飽き足らず、戦いは地底層──器界(マルクトゥム)の人々まで巻き込んで。
 直接の元凶はヘイトの側であるにせよ、当初想定していなかった広がりを許してしまった
事はれっきとした自分の落ち度である。
 これは、報いなのだろうか? 息子の弔い戦という大義が招いた罪であるならば、やはり
自分は多くの人々にとって悪人なのだろう。或いは身内が関わったことで、冷静な判断力を
欠いていたのかもしれない。
 何より“結社”の介入がここまでとは……。奴らの意図、目的は未だ判然としない部分が
多いが、少なくともこちらに任せていれば、漁夫の利を獲れた筈だ。
(……“共通の敵”とは、こういう事を云うのだな)
 ハウゼンは内心、自嘲っぽく苦笑(わら)う。その皮肉を痛感する。
 多くの兵達が、自分の指示一つで死地に向かう。“結社”は普段から、そんな価値判断を
繰り返しているというのだろうか? 一体何故そこまで、何を目指して……?

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  1. 2018/05/08(火) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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