日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔94〕

 旧ワーテル島、黒瘴気のドームの外縁。
 災いの最前線で、ウルら万魔連合(グリモワール)の面々は、彼らが到着するのを待って
いた。ようやく連絡を寄越してきた統務院側の名代──ヒュウガ達討伐軍である。
「やあどうも。お待たせしました」
 正式に許可を取ってからの、地上からここ器界(マルクトゥム)へ。
 しかし対するウルは、降りた飛行艇からこちらへ歩いて来るヒュウガ達の姿を見つつ、寧
ろ眉間の皺を深くしていた。腹の底に抱えた不快感を隠そうともせずに、淡々と応える。
「ああ、まったくだ」
 ただそれだけ。されど皮肉を多分に含んだ一言。
 ヒュウガ達統務院側、討伐軍と、ウル達の間に何とも言えぬ沈黙──緊張感が横たわって
いた。会談の場とした急ごしらえの掘っ立て小屋の下で、両者は暫し睨み合う。
 厄介事を持ち込んできたのはそっちだろうに……。
 尤もそんな本音は、露骨には口にしない。今日は話し合いに来たのだ。統務院側と、この
状況をどう打破するのか? その対策を話し合う為に。
『……すまなかった、首領(ドン)・ラポーネ。まさか島ごと逃げ出すとは予想だにしなか
ったものでな』
「ふん。済んだ事を言っても仕方ないさ。それにあんたらに振り回されるのは、別に今に始
まったことじゃない」
 数拍の様子見の間にも、周りは動いていた。両陣営の技師達は背後で通信機材を準備し、
向こうでは今もウル以下各門閥(ファミリー)の兵達が、少しでも黒瘴気を押さえ込もうと
悪戦苦闘を続けている。
 ホログラム画面の通信越しに、ハウゼンが皆を代表して口を開いた。ウルもそう売り言葉
な風に返すが、実質ただの挨拶のようなものである。
『そう言って貰えると助かる。……では早速だが、我々統務院は、貴公らと正式にこの一件
に関して共同戦線を張りたい。こうなった責任はこちら側にある』
「当然だ。申し出、受け入れよう。特例として彼らの進入を許可する」
 予め磨り合わせていたように。ウルとハウゼン、両陣営の長達は合意を交わした。ファル
ケンやウォルター、ロゼ、ミザリーにセキエイ、リリザベートなど双方の残る四盟主・四魔
長らも通信越しにコクリと頷き、この合意の場に立ち会う。
 それはひとえに、表面上の利害が一致したが故の決着だった。
 万魔連合(グリモワール)側としては、ヘイトらをこちらに落として来たのは彼ら地上の
面々だし、何とかしろ。責任を取れと投げ返すのが筋だ。だがそれでは、軍事的干渉を是認
する格好になる。ことかつての武力衝突を知っている世代からの、独立志向の強い者達から
の反発はどだい避けられないが、その為にもあくまで「こちらが上」という態度を保ち続け
る必要があった。
 一方の統務院側としては、このまま保守同盟(リストン)もといヘイト討伐を地底の者達
に丸投げしたくはなかった。元より自分達が始めた戦争だ、得る筈だった利益はどうなる?
何より万魔連合(グリモワール)と事を荒立てる心算は毛頭なかった。“結社”にヘイト、
加えて彼らと三方面で戦争をするような真似だけは避けたかった。こちらが折れた云々も、
地上向けの報道を絞れば何とでもなる。
「……まったく。あやつも面倒な事を持ち込んでくれたものだ」
「ええ。ですが奴が梃子に用いた魔導具は、魔銀(ミスリル)を主に使っているそうです。
器界(ここ)でしか採れない筈の、ね」
 咥えた葉巻から一度大きく煙を吐きながら、ウルはそう遠回しに当て擦って言った。する
とその場に対するヒュウガも、にっこりと微笑みながらも一つ事実を持ち出して返す。
 一瞬、場の空気が一層緊張したような気がした。だがお互い、それ以上相手に矛を向ける
ことはしない。今はそれ所ではない。
 向こうの、黒瘴気のドームを見上げる。
 まるで生き物のように蠢くそれは、今も尚器界(マルクトゥム)全土に伸ばした触手から
大地のエネルギーを吸い続けていた。
「正義の剣(カリバー)の。あれは一種の変換器のような物なんだろう? 詳しいカラクリ
は分からんが、あれは不自然なエネルギーの塊だ」
「ええ。人や物、呑み込んだものを片っ端から取り込んで力として蓄えているようですね。
ハーケン王子もその犠牲となりました。こちらにも、ある程度情報は伝わっていると思いま
すが」
「ああ……」
 ヒュウガが軍服を揺らし、グレンとライナ、部下達を引き連れて数歩黒瘴気のドームの方
へと近付いて行った。その中心、分厚く阻まれた先を指差して続ける。
「あれを破壊するには、反魔導(アンチスペル)が効果的です。どれだけ巨大であっても、
所詮は変質した魔力(マナ)──瘴気の塊ですから。ヘイトの居る中枢に辿り着く為には、
どちらにしてもこの塊を片っ端から剥がすか、抉り進むかしかないでしょうね」
「なるほどな……言われてみればそうだ。こちらも至急、使える魔導師達を掻き集めるとし
よう。そちらの頭数はどうだ?」
「一個大隊といった所でしょうか。ここまで膨れ上がられると、正直足りませんがね」
 すぐにウルが指示を出し、部下達が動く。通信越しのミザリー達も、同じく魔導師集めに
掛かったようだ。ヒュウガが合図して連れて来た反魔導(アンチスペル)隊を呼び、地上の
時と同様、攻撃態勢を整えさせる。
 撃てーッ!! そして、統務院・万魔連合(グリモワール)両軍共同による突入作戦が始
まった。時間は経てば経つほどこちらに不利になる。随時召集を掛けた魔導師・兵士らを投
入しながら、一行は黒瘴気のドームをこじ開けていった。
 やはりというべきか、想定はしていたが、内部は侵入者を阻むように多層の迷路構造にな
っているようだ。加えて内壁からはボトボトと瘴気を材料にした異形達が止めどなく生み落
とされ、こちらの攻略に抵抗する。部隊は前衛と後衛、攻撃用兵力と風穴を維持・拡張する
反魔導(アンチスペル)隊に分かれざるを得なかった。
「キリがないな……。一度触手を潰して供給を断つか?」
「数が足りません。それよりは先ず、ドームの中心にいるヘイトを討った方が早い」
 うむ……。それぞれの部下達の指揮を執り、ウルとヒュウガが攻略の様子をじっと見つめ
ていた。互いに合流し、兵力と対策を共有したことで破壊効率自体は確実に上がっている。
だが如何せん相手の瘴気塊はじわじわと肥大化することを止めず、徹底して篭城戦の構えを
崩さないようだ。
『首領(ドン)、そっちにうちの戦士達を送った。使ってくれ!』
『魔導師隊、追加だよー』
『こちらも転送を開始したわ。最寄の塔から半刻ほどね。一旦私達は周りの触手を叩いた方
がいいかしら? 余剰兵力になるかどうかは、そっちで判断して?』
 セキエイやリリザベート、ミザリーといった他の四魔長らの下からも、援軍が時間を置い
て到着してくる。彼女の言葉通り、ウルらはその一部を外壁・触手達を断つ方へと振り分け
ることにした。本来が生きている限り時間稼ぎにしかならないが、弱らせればその分、攻略
も進み易くなる。
「……むっ?」
 ちょうど、そんな時だったのだ。直後、はたっと辺り一面に何かの波長が拡がってゆくの
をウル達は感じた。
 力場だ。
 そう数拍置いて理解し、一同は思わず空を仰いで──。

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  1. 2018/04/10(火) 18:00:00|
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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