日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔93〕

 それはまだ、アルヴが遠征軍を組織する少し前に遡る。
 マギリ一派を確保し、ジーク達を見送った霧の妖精國(ニブルヘイム)の面々は、近く攻
めて来るであろうアルヴ側に備えるべく急ピッチで態勢を整えていた。里のあちこちで武器
が揃えられ、土や石材を盛った防壁が築かれてゆく。
「……」
 そんな日常(いつも)とは明らかに違う空気感の中に、ミハエルもいた。忙しなく動き回
る同胞達を横目にしながら、とある廊下を歩いている。
(──うん?)
 ちょうど、そんな最中の出来事だった。彼らが進むその先の一角で、数名のエルフが困っ
たように何やら話し込んでいる。
「やっぱ、もっと上の役の奴に訊いた方がいいんじゃないか?」
「訊くって、誰に? ぶっちゃけ捜すのも手間だぞ?」
「ただでさえ、今は里中が立て込んでるもんなあ」
「……何をしてるんだ?」
 故に、ミハエルは彼らの下へ近付いて行った。コツ、と小さく靴音を鳴らしてこの三人に
声を掛けてみる。
「あ、ミハエルさん。ちょうどいい所に」
「これ、どうしたらいいですかね?」
 彼らも、こちらの姿を認めて振り向いてきた。少しホッとしたように、一人が小さく苦笑
いを浮かべて応じてくる。
 差し出されたのは、幾つかの魔導具だった。
「これ、さっきマギリ達から押収した物の中に入ってたんですけどね? 流石に物置なんか
に置いておくのは拙いんじゃないかって話になって……」
 彼らの手には、指輪型や腕輪型など、先刻のマギリ一派が戦いで使ったと思われる魔導具
が握られている。中にはマギリが岩巨人(ゴーレム)を生成・使役する為に使っていたもの
や、これを硬化させた鋼身法(アイアンコート)の魔導具──黒金色の指輪もある。
「……?」
 その中で、一つミハエルの目に留まったものがあった。藍く色褪せた古い指輪だ。
 彼らから拝借し、手に取ってよくよく検めてみる。どうやら正規品の魔導具ではなさそう
だ。おそらくは使い捨て方式の粗悪なものだろう。汚れが酷いが、辛うじて表面に刻まれて
いる術式を読むことはできた。どうやら転移系の魔導具らしい。
「アゼ、ル……ハイ、デン……?」
 そしてその文様(ルーン)の一部に聞き覚えのある呼称が入っているの見て、ミハエルは
眉根を寄せながら思い出していた。
 確か、ミシェル達“守人”らの隠れ里の名前だった筈だ。ということは、これは自分達へ
の妨害に失敗した際の緊急脱出ないし帰還用か。
「へえ、そんなものが……。押収しておいて正解でしたね」
 読み取った文言を聞いて、この同胞達も小さく驚き、ホッと胸を撫で下ろしていた。もし
あの時使う暇を与えてしまっていたら、事態は今よりももっと難しくなっていただろう。
「確かに、物置(ここ)では不安だな。分かった。これは私が預かっておこう。後で族長達
に指示を仰いでおく」
 了解ッス。この三人は、厄介な代物を引き渡せて正直安堵したようだ。ミハエルもさして
気には留めず、このマギリの魔導具をズボンのポケットに押し込める。
「ミハエルさーん、ちょっといいですかー?」
 すると、また別の方から作業中のエルフ達が小走りで近付いて来ていた。何やら指示を仰
ぎたいことが出たらしい。ミハエルは目の前の三人に軽く挨拶し、そのまま彼らの方へと歩
いてゆく。
「どうした?」
「ええ。図面のここなんですけど──」
 大きめの紙、防御結界を張る為の設計図を片手に、このエルフは訊ねてきた。ミハエルも
図面を覗き込み、一つ一つ曖昧になっている箇所を潰してゆく。
 それ故に、彼は忘れてしまっていった。一人訊ねに、指示を仰いできた者に応えたかと思
えば、また次の者がやって来る。ミハエル自身も、己の用事でそのまま廊下の向こうへと歩
き去ってゆく。
 防衛戦前の忙しなさに掻き消されて。
 彼は、ズボンのポケットに突っ込んだマギリの魔導具の存在を、暫くの間すっかり忘れて
しまうことになる。

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  1. 2018/03/06(火) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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