日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔91〕

「三大刻(ディクロ)の方角に狼煙を発見! 霧の妖精國(ニブルヘイム)です!」
 マギリらが燃した赤いそれは、はたして進軍中のアルヴ遠征軍にも知られる所となった。
双眼鏡で周囲を警戒していたエルフ兵の一声に、指揮官を始めとした面々の表情が輪をかけ
て引き締まる。
「ハザワール殿の情報通りだな……。よし、では全軍前進! 目印を見失うなよ?」
 古界(パンゲア)の原生林を、暴力の為の群れが往く。
 木々に覆われた緑を散らすように、革鎧を着込んだエルフ兵達の影がちらつき始めた。や
がてそれらは重なる靴音を響かせ、数を増やし、只一つの標的へと迫ってゆく。
「……来たか」
 そんな動きを、当のハルト達が見落とす筈もない。
 彼らニブルの面々は、既に迎撃態勢──里全体を包む五重の防御結界を敷いてこれを眺め
ていた。ハルトやカイト、サラ、戦える者を除いた里の者達は、一足先にその奥に掘った地
下壕の中へと避難している。タニアやクリス・クララ、クレアの弟妹達も、そんな暗がりの
中皆に交じって身を寄せ合い、じっと息を殺している。
 森の切れ目、ニブル領のすぐ手前にまで遠征軍の姿が迫って来ていた。木々の隙間を埋め
尽くすようにずらりと、兵達は、およそ自分達の前方三方向から合流しようとしている。や
はりと言うべきか、初手からこちらを包囲するつもりのようだ。皆の先頭に立つハルトが、
ぎゅっと静かに唇を結んでいる。その傍らで妻(サラ)が、弟(カイト)が、それぞれに心
配そうな目で見上げ、寄り添ってくる。パキパキと拳を鳴らしている。
「聞け、造反者どもよ! 我々は光の妖精國(アルヴヘイム)評議会より派遣された、遠征
軍である!」
 そうしていると、アルヴ側から一個の小隊が出てきた。こちらからの攻撃を警戒してか槍
先同士を頭上で交差させ、左右に弓兵が並んでいる。その中央で、壮年のエルフ兵が文書を
広げると朗々と読み上げ始めた。
「既に調べはついている。先日、我らが領土に侵入を試みようとし、尚且つ我らが同胞達に
危害を加えた罪は重く、決して許されるものではない。お前達が犯行を主導し、あくまで実
行犯らを匿うのであれば──我々にも相応の報復措置を取る用意がある!」
 これはパフォーマンスだ。ハルト達は思った。どだい向こうは、今回の一件を攻撃の口実
にしたがっている。それでも正当性も何もなしに攻め入るのは“野蛮”だと考えているのだ
ろう。周辺勢力からの非難を警戒したのだろう。
 だからこうして、わざわざ隙を見せてまでも自分達に大義があるとのアピールを先ず取っ
ている。もし今この間にこちらが先制攻撃を加えようものなら、内心嬉々として更なる口実
とするに違いない。元よりハルトら面々にそのつもりは無いし、予め暴走しないようにと彼
から何度も念を押して制されている。
「好き勝手に言いやがって。全部仕組んでるのはてめぇらじゃねえか」
「……」
 実質的な宣戦布告。実弟の小声の不満に、ハルトやサラは唇を結んだまま押し黙るしかな
かった。確証はない。だがジーク達が能力者の罠に嵌められたのも、マギリらの裏切り──
狼煙で此処の位置を知られたのも、十中八九アルヴ側の策だろう。本人達は気付いていない
のかもしれないが、彼らの中に“結社”と繋がっている者達がいる。それが話し合いの中で
確認し合った自分達の仮説だ。ちらっとやや空を仰ぎ、ハルトは目の前の軍勢よりも、数刻
前に送り出した盟友の子らの身を案じていた。
(……大丈夫だろうか? 彼らがここまで来たという事は、何とか鉢合わせだけは避けられ
たようだけど……)
 互いに入れ違いになるように、南へ。
 作戦上、どうしても最短距離を迂回するルートを取らざるを得ないが、彼らにはアゼルの
聖浄器を手に入れて貰わなければならない。件の遠隔操作の術者もだ。自分達の役目は、あ
くまでそれらが果たされるまでの時間を稼ぐこと。目の前の彼らに弁明、衝突を回避できる
のならばそれに越した事はないが、無理だろう。ただでさえこれまで目の敵にされてきたの
に、加えて内部に“結社”が混じっている以上聞く耳はない。揉み消されるだろうし、事実
ジークがアルヴ兵を斬ってしまった失態は取り消せないのだから。
 何より──。
「これが最後の警告である! 里長ハルト・ユーティリア及び、お前達が匿っている犯人、
ジーク・レノヴィンを差し出せ! さもなくば、我ら全軍の総力を以ってお前達とこの地を
壊滅させよう!」
 ガチリ。文書を読み上げる壮年エルフの最後の一フレーズに合わせて、周囲の全ての兵達
が一斉にそれぞれの武器を掲げた。持ち上げて、その切っ先を真っ直ぐにこちらへと向けて
くる。森の切れ目、木々の隙間を埋め尽くす軍勢の奥で、指揮官がじっと腕組みをして睨み
を利かせていた。
『っ……』
 アリバイ作り。戦闘開始。
 拗れ続けた末の敵軍と相対し、ハルト以下ニルブの面々は一様に険しい表情を浮かべた。

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  1. 2018/01/03(水) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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