日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔88〕

「くうっ! 何という事だ……!」
 光の妖精國(アルヴヘイム)の中枢、屋内庭園に囲まれた会議場。
 外界の騒ぎとは一見隔絶され、対照的に見えるその広々とした席に、五人の老エルフ達が
集まっていた。この巨大な里を統べる長老達である。
 内一人がぎりっと杖を握り締めて怒っていた。残る四人も同じく激昂や、寡黙な不機嫌面
をそれぞれに浮かべている。
 先刻、里一帯に警報が鳴り響いた。防御結界に干渉した何者か──侵入者を知らせる鐘の
音だった。
 長らくこんな事はなかった。そもそも自分たち妖精族(エルフ)の一大拠点を、不用意に
刺激して敵に回そうと考える勢力が此処古界(パンゲア)の何処にいるというのか。
 なのに、現在進行形でそれは起きてしまった。森に紛れながら、犯人は逃走。しかも出動
した若い兵が二人ほど、彼らに怪我を負わせられたという。
「その者達の手当てを急げ、このような事で失わせてはならんぞ!」
「意識が戻れば、犯人の顔も覚えているだろうしな……。速やかに状況の整理を進めよ」
「他に被害はないのか? 一体何の為に……?」
 めいめいに腰掛けたまま、困惑している長老達。
 忙しなく報告に駆け込んでくる兵らにその都度指示を飛ばしながら、彼らは一様に渋面の
思案顔をしていた。何故? が多過ぎる。里が誕生してから数百──数千年。近隣の國々と
小競り合いこそあったが、この百年ほどは大きな事件もなく平和だったというのに……。
「目下確認中です。ただ現場の者達からの報告によると、侵入者はジーク・レノヴィンほか
二名だったと……」
『何っ!?』
 だからこそ、戸惑いながら言葉を継いだこの報告の兵に、長老達は一斉に目を遣ると丸く
していた。古界(パンゲア)でも仙界(レムリア)でもない。噂に聞く、地上の人間の名前
が出てきたからだ。
「レノヴィン……。確か地上で暴れているという、例の風雲児か」
「この二年、大人しいと思っていたが、また動き出した訳か」
「しかし何故、そんな地上の者達が此処へ……?」
「──天上(こちら)に来ているのですよ。彼と、クラン・ブルートバードが」
 そんな時である。眉根を顰め合う長老達の下へと、澄んだ一声が投げ掛けられた。ハッと
して彼らが視線を向けると、そこには庭園の入口からこちらへと歩いてくる一人の男──胴
着姿に羽織を引っ掛けた竜族(ドラグネス)男性の姿があった。
「ハザワール殿」
「お取り込み中失礼。ですが、どうやら里の外が騒がしいと聞きましてね」
 衣装もあり、何処となく独特な雰囲気。長老達からハザワールと呼ばれたこの人物は、あ
くまでフッと微笑を浮かべたままこの会議に同席を志願する。少なくとも敵ではない──よ
ほど信頼されているのか、長老達も立ち合っていた兵らも、特に反対などはしなかった。寧
ろ恐縮し、どうぞと席を勧めてさえいる。
「クラン・ブルートバード……」
「ええ。レノヴィンと、彼らと言えば特務軍です。つまり天上(こちら)に来た理由は十二
聖ゆかりの聖浄器でしょう」
「むう……」
「そういう事か。統務院め。地上だけでは飽き足らず、我らが地まで蹂躙するつもりか」
「少なくとも、彼らが与かり知らぬという事はないでしょうね。それに、ハルト・ユーティ
リアはかつてのレノヴィンが盟友の一人。私の掴んだ情報では、レノヴィン達は既に彼に接
触し、身を寄せているようです」
「何……だと?」
「おのれ、ユーティリアめ。やはり碌な事にならなかった……!」
 ハザワール氏──胴着羽織の竜族(ドラグネス)は、そう続けざまに独自に手に入れたと
いう彼らについての動静を伝えた。長老達が一様に悔しさに歯を食い縛り、怒りに身を震わ
せる。ハルト・ユーティリアとその妻サラ。二年前、この里からの離脱と独立を宣言し、長
年の秩序を掻き乱した者……。
「今回の侵入も、おそらく聖浄器──“弓姫”アゼル・メルエットの足跡を辿る為のもので
しょう。大方、目的を果たす為の陽動……。当時の史料は今何処にありますか?」
「む……? 史料? アゼルについての、ですか」
「何処にやりましたかのう。何せ先々代の頃のものですから……。旧書庫だったかの?」
 故に、次の言葉で彼が問うてきた内容に、長老達は数拍怪訝になった。
 アゼルにまつわる史料──それがレノヴィン達の狙い? あのかつての裏切り者を調べて
何になるのだろう? 事実ハザワール殿に訊かれるまですっかり忘れていた。おそらく随分
と埃を被っている筈だが……。
 長老の一人が、そちら方面の担当である別の長老についっと視線を遣って確認を取った。
コクリとこの長老は頷き、まだ控えていた兵とこの胴着羽織の彼を見返す。
「念の為、場所を移しておくことを勧めます。また狙ってくるかもしれませんから」
「……そうじゃな。すぐに係の者に伝令を」
 はっ! 控えていた兵が頷き、駆け出してその場を後にして行った。長老達自身は、裏切
り者の文献の一つや二つぐらいと思いはしたが、実際その為に里の平和が掻き乱されたので
ある。若き兵士が傷付いたのである。やはり開明派(れんちゅう)は信用ならない。改めて
警戒を強める必要があるだろう。
「ユーティリアもだが、やはり外の人間は信用できんな」
「全くだ。このままでは済ますまい。追跡はどうなっている? 例の若い兵と交戦した後、
逃げてしまったそうだが……」
「ああ。急ぎ、追跡要員を増やすとしよう。地の利は我々の側にある。事前に逃走経路を確
保してでもいない限り、そう遠くへは行けない筈だが……」
「くっ……。やはりユーティリアか、レノヴィンまで引き込むとはな……。やはり災いの芽
は早々に摘んでおくべきだった……」
「ご心配なく」
 口々に不信と、苛立ちを露わにする長老達。
 だがそんな面々に、胴着羽織の彼は言った。変わらず静かな笑みを浮かべてそっと胸元に
手を当ててみせる。
「既に私の部下達が、動いてくれておりますので」
 その表情(かお)に何処か不穏な、一抹の影を差しながら。

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  1. 2017/10/09(月) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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