日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔87〕

 “弓姫”アゼルことアゼル・メルエットは、およそ千年前のゴルガニア戦役において解放
軍の一翼を担った妖精族(どうほう)の女性です。

 森に生まれ、森と共に生きる私たち妖精族(エルフ)の中でも、彼女の弓の腕は抜きん出
ていました。故郷で獲物を追って過ごした狩猟生活の経験は、戦場という環境に変わっても
遺憾なく発揮されたといいます。解放軍の遊撃大隊を任された彼女は、帝国兵の視認の外か
らの遠距離狙撃でもって多くの敵を討ったと伝えられています。
 ……しかし、その後彼女が辿った運命は、大よそ不遇と言ってしまってよいでしょう。
 故郷に戻った彼女は、地上の者達に与したという理由で追放されてしまいました。詳しい
やり取りまでは記録に残っていませんが、彼女は彼女なりに、故郷と天上世界の未来を憂い
て行動を起こした筈です。もし帝国があのまま滅びず、各地への版図拡大を続けていたなら
ば、ここ古界(パンゲア)にもその食指は伸びていたでしょう。事実当時既に、地底世界の
各地が徐々にその勢力下に呑まれつつありました。全ては故郷を守る為だったのです。
 ですがそんな彼女の想いは、結局理解されることはありませんでした。彼女を放逐したの
は、他ならぬ守りたかった故郷の古老達でした。当時から彼らは、じわじわと迫る外の世界
の悪意よりも、連綿と続けてきた“秩序”を守ることに拘泥していたようです。
 そして彼女は、二度と故郷の地を踏むことはありませんでした。
 守ろうとした人々に裏切られ、どれほど失意の旅だったのか。……いえ、或いは古老達が
そうした態度に出ることは、ある程度分かっていての志願だったのかもしれません。
 十数年に及ぶ、放浪の旅が続きました。帰るべき場所を失った彼女は、各地に点在する同
胞らの集落を訪ねて回りましたが、その殆どが彼女を歓迎しなかったといいます。古老達が
手を回していたのでしょうか。或いは風の噂で耳にし、保身に──要らぬトラブルの元を背
負い込みたくないと警戒したのでしょうか。
 しかし……救いはあったのです。長い旅路の末、彼女は一組の同胞夫妻と出会いました。
彼らは彼女の境遇を知り、大変親切に迎え入れてくれたといいます。まだ年若い夫婦だった
ため、それほどしがらみが多くなかったのかもしれません。
 二人の名は、コリン・ランバートとシーナ・ランバート。後に私達のご先祖様となる二人
です。かつての“弓姫”に手を差し伸べた彼らは、その後彼女の生涯の友となりました。長
い放浪の旅の末、彼女もまた、彼らの暮らすこの地を安住の地としたと伝えられています。
 ……唯一彼女が報われたのは、彼ら夫妻との出会いだったのかもしれません。地上ではそ
れこそ英雄的な扱いをされながらも、故郷に戻ってみれば放逐された身。
 一度は得た地位や名声を捨て、その後彼女は静かな余生を送ったといいます。生涯彼女に
は伴侶も、子もできませんでしたが、友であるランバート夫妻の子供達にはまるで実の親族
のように愛情を注ぎ込んだと伝えられています。
 記録によれば、それからおよそ三百年──私たち妖精族(エルフ)は長命なのです──の
後、彼女は亡くなりました。最期を友たるランバート一族に看取られ、そしてその今際にあ
る頼みを遺して。
『この弓を……エバーグリスを頼みます。この戦友(とも)の魂を解放してくれる者が現れ
る、その日まで……』
 これこそが、私達“守人の一族”誕生の瞬間です。
 夫妻は友の最期の願いを快く引き受け、代々守り続けてきました。遺された言葉の通り、
この翠に輝く聖なる弓が、真に解放されるその時まで……。

「──おーい、ミシェルー!」
 どうやら知らぬ間にうとうとと眠ってしまっていたようだった。大樹の枝の上に寝転がっ
ていたミシェルは、ふいっと、そう下から呼び掛けてくる声に起こされて目を覚ました。
 眼下には、妖精族(エルフ)の青年二人がこちらを見上げて手を振っている。大柄な方が
テオで、小柄な方がマギリ。共に彼女と同じ“守人”の一人だ。
 幹に預けていた背を、身体を起こしてミシェルは彼らに向き直って見下ろした。確か二人
には街の方へ買い出しに行って貰っていた筈だ。もうそんなに時間が経ったのか……。
「どうしたー? ぼうっとしてー?」
「……ううん。何でも。少し寝入っていただけよ」
 するりと樹から飛び降り、彼らの前に着地する。二人は両手や背中に買い物の布袋を提げ
ており、何処となく得意げだ。中身を確認したら長旅を労ってやらねば。
「おかえりなさい。一応聞くけど、尾けられたりは?」
「問題ない。その点に関しては最優先で気を付けてるよ」
 テオが苦笑いを零し、布袋を差し出した。ミシェルがそれを検めている横で、同じく仲間
のマギリがふと思い出したように言う。
「ああ、ミシェル。そういえばさ」
「? うん?」
 テオも彼を見遣っていた「ああ、あれな」と思い出したように小さく頷き、二人して彼女
に向かって報告してくる。
「実は情報収集がてら、酒場やギルドにも寄って来たんだがよ」
「そこで、面倒なものを見つけちゃってね……」

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  1. 2017/09/12(火) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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