日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔86〕

 先方からの案内役・ミハエルと合流し、世界樹(ユグドラシィル)の上弦から弧を描くよ
うに東進する。
 古都(ケルン・アーク)を出発してから数日。ジーク達北回りチームは古界(パンゲア)
の鬱蒼とした原生林を進んでいた。辺りには薄くぼんやりとだが、霧も出ている。これほど
までに自然が残っているのは、開拓が進む──使い潰される前に先人達が地上へと出て行っ
たからなのだそうだ。整備された道は少ない。ジーク達はミハエルやシフォン、クレアとい
った土地勘のあるメンバーを先頭にして緑の中を進んでいく。
「皆さん、大丈夫ですか?」
「平気ー? ちゃんとついて来れてるー?」
 樹から樹へと、トントンと軽快に跳んで渡ってゆく妖精族(エルフ)の三人。
 彼らは時々立ち止まり、こちらの進み具合を心配してくれた。三人にははっきりと草むら
の中に道筋が見えているのかもしれないが、ジーク達には辛うじて所々に掻き分けた痕跡を
見つけられる程度だ。
「何とかな。見失わない程度に頼まあ」
「はは。流石は妖精族(エルフ)だ。水を得た魚だな、ありゃ」
 樹上のクレア達に応えながら、がさがさと掻き分け掻き分け。
 リカルドが少し疲れているようだった。苦笑を漏らしながら、トントンと数歩先を跳んで
ゆく彼女達を見上げている。
(以前は、俺も森だの何だのに分け入って魔獣を狩ってたモンなんだが……)
 冒険者という括りでは自分もシフォン達も同じ筈だ。だが、種族的な差があるとはいえ、
今ではすっかり野に繰り出して魔獣討伐──冒険者本来の仕事をやるということが減ってし
まったように思う。それはひとえに自分達兄弟の為、度重なる“結社”との戦いにシフトし
てくれたからなのだが、こうして久しぶりに人気のない場所を分け入っていると、かつてあ
ったいち冒険者としての日々を思い出す。
(また、鍛え直しとかないと……)
 道なき道を、只々黙々と進む。
 ミハエルが先導してくれているから間違いはない筈だが、里に通じる「道」は依然として
見えない。注意深く見れば、何度か掻き分けられた跡は見つかるが、先ず素人には見分けが
つかないと言ってしまって良いだろう。
「なあ、ミハエルさん。もっときちんとした道ってねえのか? ある程度俺達でも覚えてお
いた方が、後々手間も掛けさせずに済むと思うんだが」
「……すみません。うちはまだ出来て間もないので。いずれ整備に人を回す予定ではありま
すが、それまでは私達が案内させていただきます。それに、この方が光の妖精國(むこう)
にはバレにくいですからね」
 一旦太い枝の上で立ち止まり、肩越しに振り向いて苦笑するミハエル。
 だが対するジークは内心、何とも言えぬ心境だった。思わず渋い表情(かお)をして眉間
に皺を寄せている。
 話によると、彼ら開明派のエルフによる新たな里・霧の妖精國(ニブルヘイム)は、これ
まで古老達の強い影響下にあった光の妖精國(アルヴヘイム)から独立して作られたという
経緯があるらしい。
 故に、隠れ里。出来てまだ日が浅いこともあり、なるべく古老達にはその正確な位置を知
られたくないのだという。
 ……そこまでして、分け隔てなければならなかったのか? ジークはギッと胸奥が小さく
も締め付けられる思いだった。他に方法はなかったのだろうか? 他種族の問題とはいえ、
ヒト同士いがみ合う、解り合えないというのは、まさにこの世界の縮図そのもののようでは
ないだろうか……?
「さあ、見えてきましたよ」
 内心悶々としながら進む。すると暫くして、それまで覆い被さるように広がっていた霧が
はたと捌けていった気がした。同時に視界が開ける。ぐるりと丸く切り拓かれた森の端から
見下ろした段々の凹みの先には、木造と石積みが混在する集落群が見える。
「あれが私達の里、霧の妖精國(ニブルヘイム)です」
 ジーク達はミハエルを先頭に、ようやく整備された道を下って行った。道の先は里の正門
らしき三重の見張り台に繋がっており、そこには二組のエルフ夫婦と子供達──里の面々が
手を振りながら一行の到着を出迎えてくれていたのだった。
「クレアー、シフォン君ー」
「お姉ちゃん、叔父さん、こっちこっちー!」
「おう、シフォン。久しぶりだなあ。元気そうで何よりだ!」
「……父さん、母さん」
 クレアの両親、ハルト・ユーティリアとその妻サラ。ハルトの弟で、シフォンの両親でも
あるカイトとその妻タニア。
 里を率いるのは、そんな仲間達の両親らだった。周りには四人の子供──クレアの弟妹ら
が元気に諸手を挙げている。皆、それぞれにクレアやシフォンと似た面立ちをしているよう
に見えた。尤も兄ハルトは線が細く、弟カイトはガタイが良い。どうやら二人の子らの容姿
は、それぞれに濃い方が違うらしい。
 おーい! 里の皆が、笑顔を向けて手を振ってくれている。
 ぱぁっと笑うクレアと、両親との再会に表情を硬くしたシフォン。ジーク達はそんな二人
に微笑みかけ、残る坂道を駆け下りた。

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  1. 2017/08/07(月) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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