日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅡ〔26〕

 それは神父風の男(ラース)が、一人本を読んでいた時のこと。
 アジトの広間、仄暗さの中に灯る明かりの下でじっと時間を潰していると、ゆっくりと近
付いてくる足音がある。
 ゴスロリ服の少女──同じ“蝕卓(ファミリー)”の一角、スロースだった。知らぬ間に
離席していたようだが、戻って来たらしい。
「──プライドが?」
「ええ。既に動いているそうよ。シンも了承済みみたい」
 手にしていた海外小説の原書に、しおり紐を一旦挟んで閉じる。
 答える彼女はいつものように気だるげで、不機嫌を表情(かお)に貼り付けていた。静か
に深く、ラースはため息をつく。
「……また勝手なことを」
 彼女からの話では、先日プライドが守護騎士(ヴァンガード)に対して刺客を放ったのだ
という。
 正直な話、あまりいい気分ではなかった。刺客なら自分も、少し前に腕利きの者達を召集
して差し向けた。だが結果は芳しくなく、全滅。一人は召集前に、残りは連携を取ることを
怠った末に各個撃破されてしまった。現在も新たな人選を進めているが、徒に個体数を減ら
すような真似は本末転倒である。それはプライドも分かっている筈だ。
 ……口に衝いて出たぼやきは、偽らざる本音だった。確かに彼や目の前のスロースは自分
よりも古参だが、実質の司令塔を任されている自分に何の相談なくというのはやはりいい気
はしない。
「奴は、あのストームと競り勝ったほどの相手なのですよ? 何処の誰です? 生半可な力
の個体では、返り討ちに遭うのが落ちですよ?」
「それがねえ……。ミラージュらしいのよ」
「ミラージュ? あの、猿真似しか能のない臆病者ですか?」
 故に、訊ねたスロースから返ってきた答えに、ラースは思わず眉根を寄せた。眼鏡の奥で
険しい眼差しを作る。
 記憶を引っ張り出す。確かに“蝕卓(ファミリー)”が把握する進化体の中にそのような
者がいたなと思い出すが、自分の記憶が正しければあれは戦闘能力は低い──皆無の個体だ
った筈だ。刺客として使うにはあまりにも力不足過ぎる。
「ええ。私も変だなとは思ったんだけどね。でも、調べさせたら間違いないって」
「……」
 という事は、プライドは端から戦いを期待していないということか。もっと別の、戦いで
はない目的があるというのか。
 ふむ? 口元に手を当て、考えてみるがいまいち分からない。ミラージュに化けさせ、敵
の油断を誘おうとでもいうのか? しかしそれなら、他に攻撃用の個体にも声を掛けている
筈だ。だがスロースの話では、そんな素振りはないという。
(一体、何を考えているのだか……)
 顰めた眉間から、ズキズキと鈍い痛みが走るような錯覚さえあった。半ば無意識に眼鏡を
ずらして目頭を摘まみ、このピースの足りない情報に暫し思考を重ねる。
「それで、どうする?」
「どうすると言われましても……。シンが了承済みだというなら、私達に止める謂われなど
ないでしょう。それに元から、プライドは独断専行ではありませんか」
「うーん。まぁそうなんだけどねえ」
 あんたがいいって言うなら、あたしも構わないんだけどさ──?
 継ぎ接ぎだらけのパペットを抱えたまま、そうスロースは気だるげにラースの前から離れ
ていった。そのままゆたりと円卓を回り、自身の席へと腰を下ろす。
「……」
 ラースも暫くその様子を見遣っていたが、程なくして視線を戻し、閉じていた洋書を再び
開いて捲り始める。仄暗い、沈み込むような静かな時間だけが過ぎていった。
(シンもここの所、研究室(ラボ)に篭もっているようですし……。また何か企んでいるの
でしょうね)
 それが何かまでは断定できなかったが、大よそそんな目星をつける。
 だがやはり、頭一つ上で物事が進んでいるというのは、気持ち良いものではなかった。

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  1. 2017/06/20(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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