日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅵ〔82〕

 古界(パンゲア)北方を横断する大山系・竜王峰。
 その中腹に居を構える城塞都市・白咆の街(グラーダ=マハル)──自身が治める領地の
屋敷で、ヨーハンは報告を受けていた。
「……そうか。彼女達は無事、翠風の町(セレナス)に着いたんじゃな」
『はい。大よそ一週間ほどになりますか。予め根回しを行ってあったようで、到着後は全員
マルセイユ邸に滞在しています』
 執政館内の赤絨毯の一室。以前、ジーク達が彼と会談した場所だ。
 そこで変わらず彼はロッキングチェアに座り、中空に浮かぶホログラム映像──通信越し
に語るセイオンからの情報を聞いていた。その周りには数人、近しい側近達や普段身の回り
の世話をして貰っている使用人らが控えている。あまり詳しい事情までは聞かされていない
のだろう。彼らは皆、ピンと緊張した様子ながら、少なからず頭に疑問符を浮かべているよ
うにも見える。
「一週間か……。順調にいけば、そろそろあやつの書庫に辿り着いておるかのう?」
『おそらくは。伊達に冒険者ではありませんし、アルノー殿の案内があるのなら既に文献の
解読が進んでいる頃かもしれません』
「うむ。送り出した側とはいえ、あまり近寄って欲しくはなかったがの……」
 キィ……。ロッキングチェアを揺らして、ヨーハンは軽く掌で額を覆いながら天を仰いで
いた。映像越しのセイオンも沈黙している。同家重鎮の一人として、今回彼らが自分達を訪
ねて来て以降の動きを追っていたことは勿論、何より彼らに示唆したものの正体をヨーハン
より知らされていたからだ。
「……」
 具体的に何処まで踏み込んであれが書かれているのか、ヨーハン自身、全てを検めた訳で
はない。だが多少なりとも知っていたから、あの時代を生き、先人より続いてきた想いと真
実に触れた一人だからこそ、あの時自分は安易に聖浄器を渡す気にはなれなかった。
 その誕生に込められた秘密。
 故にその力を狙う“結社”の存在。
 先ずは知るべし──現状彼らは敵よりも本当の事を知らなさ過ぎると感じ、だからこそ友
の書庫へと誘ったのだが、はたして彼らが自分達と同じ結論に至るのかは疑問だ。
 もう使われるべきではない。戦いに酔うべきではない。
 ただ、今だけは……。
 そうやって彼らもあの戦争(ひび)と同じく正当性(りゆう)をつけ、使い続ける選択を
したのなら? 例外が広がり続けるのなら?
 自分の示唆は、はたして正しかったのだろうか。もっと頑なに、きちんと訳を話して諦め
させるべきだったのだろうか。
『大爺様?』
「ん……。すまんかったの。また彼女達に動きがあれば、知らせてくれるか? 七星の務め
に忙しいお前には悪いが」
『いえ……。大爺様の命とあらば、是非もありません』
 そうか。ロッキングチェアに腰を下ろしたまま、ヨーハンはフッと自嘲(わら)った。
 この玄孫が生真面目な人物である事は分かっているが、やはり心が痛み、寂しい気持ちに
なるのは否めない。どれだけ英雄だの、生ける伝説だのと呼ばれようが、誰もその過去の為
に切り捨てた(はらった)もの達のことを想いはしない。
 では、これで──。数拍沈黙があり、やがてセイオンは通信を切った。中空のホログラム
映像はプツンと消えて、室内にはただぱちぱちと暖炉の薪が燃える音だけが聞こえる。傍ら
に控えていた側近達の心配そうな様子・気配が手に取るように分かるようだ。
 十二聖の中でも、当時あまり深く考えなかった自分でさえ、今やこんな有り様だ。
 その代わり、と言っては何だが、あの頃からひたすら思慮の人であったリュノー(とも)
の心中は想像を絶するものであったろう。
 ……あれから、何度悔やんだことか。何度、もっと彼に手を差し伸べてやれなかったのだ
と自責の念に駆られたか。
 他人は自分達を“英雄”だと云う。だがその為に犠牲にしたものは、あまりにも大き過ぎ
たのではないか? 年寄の癇癪と言ってしまえばそれまでだが、自分達はその“大義”の為
に突っ走り過ぎたような気がする。にも拘わらず、奇しくもそのツケが今“彼ら”の逆襲を
生んでいるのだとすれば……。
(リュノー。お前は何処まで知っていた? 知っていて、何処までを墓に持って行った?)
 ギシ。ロッキングチェアに深く、二度三度と座り直す。静かに体重を掛けて長い嘆息をつ
きながら閉じられた空間の頭上を仰ぐ。
 側近達が、その心中を量り切れる筈もなく戸惑っていた。互いに顔を見合わせ、言葉なく
眉根を顰めている。
 遥か遠くの故郷で、これから本格的に雪に閉ざされてゆく天然の要塞の中で、ヨーハンは
ただ煩いの増す余生を迎えるしかなかった。取るべき“清算”に、躊躇い続けていた。

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  1. 2017/02/07(火) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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