日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅵ〔74〕

 部下を率い、ダーレンとヴェスタが不敵に嗤っている。
 だが何よりも胸の奥に熱を帯びたように突き刺さるのは、そんな二人の周りに取り囲んで
立ち、こちらを忌々しげに見つめる散光の村(ランミュース)の村人達の眼差しだった。
 保身、忌避、執着。
 向けられたそれは大よそ人間の悪意といっていい。
 しかしジーク達はそんな眼差しへすぐさま拳を振り上げることもできなかった。……知っ
ているからだ。これまでの旅で幾度となく経験してきたヒトの生の心、利害が絡んだその瞬
間の叫び。もしこの声に力で応じ、押し込めてしまえば、自分達は彼らにとって取り返しの
つかない「悪」となるだろう。
「ジ、ジークさん。皆……」
「……っ」
 背後でレナが震えている。セディナ夫妻もだ。やっと親子が再会できたというのに、彼女
達は今まさに引き裂かれようとしている。
 声が漏れた。ジークは内心沸き立つ憤りに拳を震わせていた。腰の柄に伸ばそうとして思
い止まった位置から手が動かせない。
 どうする? 無茶を承知であの神官騎士二人をぶちのめして逃げるか? いや、それでは
セディナさん達を危険に曝すことになる。少なくとも夫妻を連れた上でなければ行えない。
 守り切れるか? この数を相手に。
 戦うだけならどうとでもなる。だが夫妻が傷付かないようにと気を配れば配るほど、難易
度は数段飛ばしに跳ね上がる。見捨てる──そんな選択肢など端から無い。レナの、仲間の
両親だ。一旦転送リングで夫妻ごと船に戻るか? 正直まだ聖都にすら辿り着けていない状
態で手の内を見せてしまうのは得策ではないが……。
『……』
 ちらと密かに、肩越しに仲間達を見る。イセルナやハロルド、シフォン、クレア、オズは
既にこちらの意図を汲んでくれたようで、剣や弓、付与術(エンチャント)用のピンなどに
手を伸ばして応戦の構えを取り始めている。
 セディナさん達とレナを頼む。
 俺があの騎士どもを押さえておくから、その間に──。
「そこまでだ」
 しかし、その時だったのである。
 ハロルドの横に立っていたリカルドが突然拳銃を抜き、彼に向かって銃口を突きつけたの
だった。ジークは勿論、イセルナやシフォン、クレアの手が止まる。思わず振り返り、オズ
も咄嗟に右手の機関銃を向けていたが、躊躇無く彼を切り捨てるには心を持ち過ぎた。
「叔父さん……? 何で……」
「悪いなレナちゃん。俺にも立場ってもんがあるんだよ。悪いことは言わない。抵抗しない
でくれ。それがセディナさん達の身を守る事になるってことくらいは、解るよな?」
「……」
 弟にこめかみへ銃口を突きつけられたまま、ハロルドは黙っていた。
 レナがハロルドの、叔父の仲間の裏切りに動揺している。ジークが「こんな時に……」と
言わんばかりの形相で彼を睨んでいた。イセルナが一瞥を遣り、小さく頷いたシフォン達は
次々に得物をしまい直す。
「ほう? 仲間割れかい? だがいい判断だ。もし抵抗していたら、この後ここで起こった
であろう惨劇は、全て君達の所為になっていたからね」
「別に俺らとしちゃあそれでも良かったんだがよ。コソコソやらねぇでもぶちのめせる口実
ができたしな」
 ヴェスタがさらりと、そうとんでもない腹積りを打ち明ける。
 一方でダーレンはやはり血の気が多かった。あからさまに残念だと舌打ちし、ひっ!? 
と竦み上がる村人達、そして元同僚だったリカルドの帰還を疑わしく見遣っている。
「……本気か? リカルド」
「ああ。今の俺は史の騎士団所属の神官騎士だ。筋は通す」
 部下達がおろおろ、互いの顔を見合わせて戸惑っている。しかし兄に問われて答えるのも
そこそこに、彼は一人すたすたとダーレンとヴェスタ達の側に歩いていってしまった。
「連行しろ!」
 かくして、ジーク達は抵抗する術も封じられ、史の騎士団に捕えられることとなった。
 村人達が見守る中、一行は手錠を掛けられ、村の入口に横付けされていた馬車の中へと押
し込まれる。
 ジーク達は唇を噛んで俯いていた。レナがセディナ夫妻──カインとクラリスより引き離
され、されど“聖女”の身から仲間達とは別格の待遇で移送される。馬車の車輪がガラガラ
と少しずつ動き始めた。その姿が少しずつ遠くなっていく。村人達はようやくの安堵の息を
ついたが、しかし置き去りにされた夫妻とは皆そこはかとなく距離を置いて目を合わせられ
ずにおり、各々がばつの悪い顰めっ面を隠せない。
 夜の山道に馬車が溶けゆき、点々とした松明の灯だけがその存在を示す。
 封印の呪文(ルーン)を刻んだ鎖に繋がれた車内で、ハロルドはスッと静かにその視線を
暗がりの中から外にいるであろう弟の方へと向けていた。
「……」
 ガラガラと車輪の回る音がする。
 かつての同僚達に交ざり、リカルドは一人じっと神妙な面持ちのまま迫り出した踏み板に
腰掛け、馬車の扉に背を預けるのだった。

続きを読む
スポンサーサイト



  1. 2016/06/08(水) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

05 | 2016/06 | 07
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (194)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (111)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (49)
【企画処】 (472)
週刊三題 (462)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (403)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month