日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅵ〔71〕

 それは史の騎士団と正義の剣(カリバー)、セイオンの三つ巴の睨み合いが収束し、よう
やくクランが一先ずの安堵に包まれた夜のことだった。
 宿舎の自室で、ジークは二段ベッドの下へともぞもぞ潜り込む。アルスも日課となって久
しい夜長の勉強を切り上げて魔導書やノートをしまい、同じく寝間着になって二段ベッドの
上へと上っていく。
「あ~……。今日はすっげー疲れた……」
「だねえ。でも何とか丸く収まってよかったよ。一時はどうなる事かと思ったもんね」
 自身を包み込み、受け止めてくれる布団の感触に背中を預け、ジークは思わず身体の底か
ら声を絞り出していた。上段のアルスも薄手の毛布を被りつつ苦笑する。エトナが机の上の
照明具をオフにして室内はパチリと暗くなり、二人の目が闇に慣れるには暫しの秒数を必要
とする。
「それって、史の騎士団? それともレナが“聖女”だったってこと?」
「うーん……どっちもかなあ。でもレナがってのは正直あんまり驚きはねぇな。そうだと言
われても何となくしっくり来るっつーか……」
 ふよふよ。エトナが気持ち自身の翠光を抑えながら、天井近くへと浮き上がりつつ問う。
 ジークは頭の後ろで両手を組み、ぼうっと意識と身体を手放しながら答えた。脳裏に己の
秘密を知らされた時のレナの横顔が映る。
 ……酷く動揺していたっけ。自分があのマッチョな神官騎士にぶん殴られていた時、今ま
でに見たことがないくらいに泣き叫んでいたっけ。連中が守備隊に連れて行かれた後も、赤
く泣き腫らしていたのに、それでも真っ先に自分の手当に駆け寄って来たっけ。
「あ、それは皆も言ってたね。“俺達の天使だし”とか何とか」
「天使(エンゼル)と聖女はまた別物だと思うんだけど……」
「それだけ皆の支えになってるって事だろ? 俺だってそう思うぜ? あいつは気立てもい
いし、大人しそうに見えて案外肝も据わってるしな」
 これだから男は……。エトナがジト目になりながら呟いている。
 しかしジークはそんな弟の言葉を継ぎ、微笑(わら)っていた。胸元から下に毛布を被せ
て暗闇に身を委ねながら、仲間達と同じ思いであることに何処か誇らしさすら覚える。
 すると今度はふわっと、エトナが逆さまになってこちらに顔を出してきて言った。先程と
は打って変わり、妙にニヤニヤとしていて悪戯っぽい。
「ほうほう……? じゃあジークはやっぱり、レナのことが好きなんだ?」
「はっ?! な、何でそういう話になるんだよ? 信頼できる奴だって話だろ? そういう
のじゃねぇよ……。大事な仲間、だよ」
 折角ゆっくりと眠気に委ねようとしていたのに、不意にそう意識を叩き起こされた。
 がばっと毛布をはだけつつ、ジークはベッドの外でほくそ笑むエトナに反論していた。自
覚はしていないが少し頬が赤い。ニヤニヤと、彼女はそれを心底面白そうに見返している。
「もう、エトナ。あんまり兄さんをからかっちゃ駄目だよ? もう今日は遅いんだし、お喋
りは程々にね」
「あ、ああ。そうだぞ、エトナ。お前は時々斜め上なとこからぶっ込んでくるからなぁ」
「は~い。……はあ。こりゃレナ達も苦労する筈だわ」
 うん? 兄弟の疑問符が綺麗に重なった。だがエトナは「何でもなーい」とわざとらしく
視線を逸らし、再びふわっと天井へと飛び上がると顕現を解いて(きえて)しまった。
 夜更けの静けさが、はたと距離を縮めてそこに在るように思えた。
 暫くジークとアルスは、上下それぞれのベッドの中で黙した。毛布の柔らかさに包まり、
うつらうつらと少しずつ瞼が重くなり始める。
「……兄さん、まだ起きてる?」
 そんな沈黙の中、小さく声を出したのはアルスだった。
 もぞっ。ジークは瞑りかけていた目を軽く開け「ああ」と短く答えた。また少しの間が横
たわる。静かになると、またさっきエトナが言った言葉が思い出されてくるかのようだ。
「その……またレナさん達と出掛けるんでしょ? ヨーハン様に会いに」
「ああ。それが“青龍公”の用件だしな。荷物を整理したら、また近い内に出るんじゃねぇ
か? もしかしてお前も行きたいのか? そりゃあマジモンの英雄様だからなあ」
「きょ、興味はあるけど、講義が……。それに今日のゴタゴタでフィデロ君達、随分と先生
に絞られちゃったみたいだしね。昨日の今日でサボる訳にはいかないよ」
「真面目だなあ。まぁ実際、あいつらが割って入ってくれたお陰で助かったんだが」
 夕食時に話し合った結果、古界(むこう)へ行くメンバーはレナとハロルド、代表として
ダンにジーク、ステラ、リュカ、サフレ及びマルタの八名となった。兄弟ともに手負いでは
あったが、今回はより重症だったリカルドは引き続きこちらで養生して貰うことにする。
「さて、どうなる事やら。伝説の勇者様が一体レナに何の用なんだか」
「……」
 おそらくは“聖女”と“勇者”──同じ十二聖繋がりだとは思う。
 だが片方は正真正銘の生き証人で、もう片方は生まれ変わりである。相手の肩書きの大き
さに、レナがまた萎縮しなければいいのだが。
「……。ねえ、兄さん」
 だから少しばかり、ジークはいつの間にかアルスが押し黙ってしまっていたことに気付け
なかった。代わりにちらと視線を上段の底板に向けた時、彼は暗闇の中で自分に何かを伝え
ようとしていた。
 沈黙。しかしまだ語るべき内容がはっきりとしていないのか、底板越しの弟はたっぷりと
逡巡しているようにもみえた。
「アルス?」
「……あ、うん。その、まだ色々僕の中で詰め切れていないんだけど。まだ皆に話すには早
計だとは思うんだけど」
 目を瞬き、ジークは問う。
 するとアルスはついっと文字通りを背中を押されたように促され、訥々とながらに話し始
めたのだった。
「向こうへ発つ前に、聞いて欲しいことがあるんだ」

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  1. 2016/03/05(土) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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