日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅴ〔68〕

 天上(たかき)から地上(ひくき)へ。
 足元から頭上へと駆け抜けていく突風の感触と、投げ出された浮遊感。暫しじっと目を瞑
っていたセイオンがそっと瞼を開いて大地に足を着けた時、目の前には夜闇に溶ける地上の
風景が広がっていた。
 地上層・顕界(ミドガルド)。九つある世界の内、最もヒトに満ち、活気ある場所だ。
 かつての十二聖が一人“勇者”ヨーハンこと、ディノグラード家の大爺様。
 セイオンは自分を呼び出した彼の頼みを受け、こうして同本家の在る古界(パンゲア)か
ら遥々こちらにまで降り立っていた。
 夜風が少し寒い。
 あちらに比べて四季がはっきりしている顕界(ミドガルド)だが、それでも秋口の冷えは
世界共通のようだ。背後には古びた構造物──導きの塔がある。セイオンは数歩それを隠す
ように繁茂する林を抜け、夜に埋もれた遠くの街の灯を見つめた。
(あれが梟響の街(アウルベルツ)か……)
 なだらかな丘陵の中に、どんと囲われた城壁。
 確かこの辺りの街道が交わる、交易の要所だったと事前の調べで読んだ。今は暗くて分か
らないが、昼間は四方から緑を喰い進むように道が延びて来ているのだろう。
 点々と。街には疎らに灯りが点っている他は、特に変わった所は観られない。
 一晩明けてから来ればよかったか……。セイオンは思ったが、ここまで来てしまった手前
また古界(パンゲア)に引き返すのも手間だ。街に入るだけ入って、朝まで宿なり何なりで
時間を潰せばいい。
 それにしても……と、彼は思う。
 大爺様の言葉通りなら、これはある意味重大なミッションだ。しかしこの事実をはたして
クラン・ブルートバードは何処まで知っているのだろう?
 皇国(トナン)内乱に会った際、そんな素振りは無かった。
 知らないのか? もしかしなくても黙っている?
 ハロルド・エルリッシュ。身寄りのない彼女を養女として引き取ったという幹部の一人。
 さてどうしたものか。当人はレノヴィン兄弟らと共に地底武闘会(マスコリーダ)に出場
している。数日もすれば戻って来るだろうが、果たして留守を預かっている養父(かれ)が
何処まで話を通してくれることか……。
(……うん?)
 そんな時だった。ふとセイオンは風に乗って流れてきた気配──殺気に類するそれを瞬間
的に感じ取り、眉を潜めて振り向いた。
 遠い。だがこのすっかりと更けた夜闇の向こうに、間違いなく何者かが戦意を滾らせた事
実がある。
「──」
 到底目視できる筈もない。
 だがセイオンは、その場で殺気の流れてきた方向──街の中ではなく郊外の闇の中に視線
を向け、じっと己が両目にオーラを込める。
(戦っている? こんな時間に……? それに、あの二人は……)
 その距離約十三大往(ディリロ)(=十三キロメートル)。だがセイオンには今そこで起
ころうとしている出来事が手に取るように見えていた。
 超覚型《天》の色装。視覚の精度を何百何千倍にも高めることに長けた、いわば千里眼の
ような能力である。
 セイオンはオーラを宿した眼で逸早くこの夜闇に紛れた事件を察知し、同時に様々な怒涛
が起こるであろうことを脳裏に描いていた。ギリッと歯を噛み締め、唇をやや吊り上げ、そ
の背中から竜族の翼を広げさせる。
(何故かは分からんが……止めなければ)
 飛翔。
 そして次の瞬間、セイオンは両翼を揺らして跳び上がり、この遠く闇に紛れた現場へと飛
び去っていったのだった。

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  1. 2015/10/08(木) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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