日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅴ〔64〕

「……マスコ、リーダ?」
 リオの投げかけたその一言が、宴の余韻に浸っていた場の面々をサァッと現実へと引き戻
していた。
 皆が目を瞬き、或いは互いに顔を見合わせる。
 中にはダンやイセルナ、グノーシュ、リカルド──冒険者として先輩な面々が言葉はなく
とも「ああ、あれか」と言わんばかりに視線を上に、思い出すような仕草をしていたが、皆
を代表してジークがこのフレーズを反復する。
「“地底武闘会(マスコリーダ)”──魔界(パンデモニム)の都ラグナオーツで毎年この
時期に開催されている総合武術大会だ。非合法なものを除けば、俺の知る限り数も質も世界
で一・二を争う大会だ。お前達のこの二年の成果を、あそこで見極めたいと思う」
 ざわ……。皆が、団員達が息を呑み、緊張するのが分かった。
 夢見心地はもう終わりだ。さもそのように、酒で朱に染まった彼らの表情(かお)が引き
締まる。
「誰でも構わない。優勝してみせろ。それくらいでないと“結社”という規格外の敵と渡り
合うには命がいくらあっても足りないからな」
「それは、そうッスけど……」
「だ、大丈夫かな? そりゃあ俺達も二年前に比べて大分強くはなったと思うけど……」
「その辺は実際かち合ってみねぇと分からんさ。でもまさか俺達全員でって訳にはいかねぇ
よな? なまじ有名になっちまってる。余計に混雑するし、迷惑になるんじゃねぇか?」
「それに、人数だけを投入すればいいというものではないわ。目的が優勝なら、遅かれ早か
れ仲間同士で潰し合う事になるものね」
「ああ。だから参加メンバーは絞ってもらう。ジークやお前達──クランの中核メンバーが
出場すれ(でれ)ばいい。他の面子は、また後日個別に見極める」
 加えて設定されたハードルはいきなり高いように思えた。団員達に不安の声が漏れる。
 それでもダンやイセルナ、皆のリーダーの疑問に、リオは予め用意していたかのようにそ
う答える。少数精鋭。それは無用な混乱を避けるだけではなく、単純に数で攻め立てて確率
を上げるような姑息を許さぬという意味合いもあるのだろう。
「……どうする? 無理にとは言わんが」
 言って、されどリオは静かに腕を組んでジーク達を睥睨していた。それまでの愉しみが嘘
のようにテーブルに残った料理の皿や酒、壁周りの飾りが何処となくちょこんと遠く置き去
りにされて佇んでいる。
『──』
 団員達は互いに顔を見合わせていた。それはおそらく、戸惑いという感情(もの)だ。
 何となく誰もが解っている。きっとこれは修行の終わり、モラトリアムの終わり。今宵の
宴すら遠い日の思い出になっていくもの。
 少なからぬ者がイセルナやダン、幹部メンバー達を見ていた。
 恐れていないと言えば嘘になる。だけども彼らが往くと決めるのなら、自分達は何処まで
もついていくつもりだ。
「……ああ。勿論、行くよ」
 そんな中で、最初に返事を口にしたのはジークだった。
 不安が過ぎっていたのは始めの内だけ。皆がハッと視線を向けたその横顔は、何処か不敵
な笑みすら作ろうとしているかのように見える。
「団長、副団長。出場して(でて)、いいよな?」
「ええ。他でもない貴方がそう望むなら」
「大体ここまでお膳立てされておいて逃げる俺達だと思ったか? 存分に暴れようぜ!」
 応ッ! イセルナの、ダンの呵々とした笑いに団員達は一斉に声を上げた。
 不安はある。だけども皆、やっぱり本質は冒険者(あらくれ)なのだ。
「……了解した」
 フッ。少しだけ、ほんの少しだけ嗤ったような気がした。
 やれやれ。調子づく面々に苦笑するシフォンやハロルドを横目に、そうリオはじっと腕を
組んだままの姿で瞳を閉じたのだった。

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  1. 2015/06/04(木) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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