日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅴ〔63〕

 周囲の人混みが一層ざわついている。そんな中にアルスは立っていた。
 季節は二巡りし、更に夏も終わろうとする秋の足音。場所は学院(アカデミー)の中央講
義棟ロビー。
 アルスは相棒(エトナ)やシンシア、ルイス、フィデロ、ブレアなどすっかり顔馴染みの
面々と共にその時を待つ。
「……き、緊張するな」
「大丈夫だよ。アルスならきっと受かってるって」
「そ、そうですわ。貴方には肩を並べて貰わないと困ります。ラ、ライバルがいなくなるの
は締まりがありませんもの」
「ふぅん? その割にゃあすっかり丸くなったように思うがなあ」
「そっ……! そんな事は、ありませんわ……」
「はは。何も今に始まった事じゃないッスよ、先生。それだけアルスに人徳があるって証で
さあ」
「そうだね。アルス君も、もう“先輩”な訳だし」
「も、もう。その言い方は止めてよぉ……」
 飄々と平静を保って言う友(ルイス)に、当のアルスが苦笑を漏らした。
 大都消失事件から二年。リオによる兄達への修行が始まってから二年。
 結局アルスはその輪の中に加わる事が出来なかったが、それでも皆に追いつこうと必死に
頑張ってきた。あの日ブレアから示された提案。夢を叶える為に、ひいては大切な人達を守
れるように、アルスは己が魔導に更なる磨きを掛けてきた。
 ルイスにそう呼ばれるのも至極単純な理由である。
 飛び級を果たしたのだ。シンシアと共に優秀な成績を収め、現在は四回生のカリキュラム
を学んでいる。当初の目的であった色装(形質変化)の習得──その権利を大手を振るって
勝ち取った格好だ。
「あはは。ごめんごめん。でも実際、成長したと思うよ。身も心も、ね」
 鷹系の翼を気持ち揺らし、友は微笑(わら)った。その視線に倣うフィデロと共に、彼ら
の瞳には二年の歳月で成長したアルスの姿が映っている。
 多少なりとも伸びた背。基本ぼさぼさだった髪も、今は綺麗に切り整えられ上質のローブ
と共に品の良さを醸し出している。この辺りはシンシアの助力だ。「め、名実共に王子様なの
ですから、もっと身だしなみには気を遣わないと……」そう口実をつけてはアルスを連れ出
しつつも顔を真っ赤にしていた彼女を、二人(と従者達)は毎度ニヤニヤしながら見守って
いたものだ。
「そうだと、いいんだけど……」
 アルスは静かにはにかんでいた。
 線が細く心優しい印象と控え目な性格。
 どれだけ背が伸びても、魔導師としての力をつけても、そんな根っこの部分までは変わっ
ていないらしい。
「……さて。そろそろだな」
 そうしていると、腕時計に目を落としながらブレアが呟いた。見れば周りの学院生達も不
安と期待でそわそわとし、皆一心に同じものを見つめている。
 大型のディスプレイだった。ロビーの受付すぐ上の壁に設置されており、普段は各種連絡
事項を知らせる役目を果たしている。
 ……だが、今日ばかりは違う。魔導学司校(アカデミー)に通う者にとり、最も神経を尖
らせるイベントがすぐそこまで迫って来ている。
 資格試験だ。魔導の最高学府・魔導学司(アカデミア)が認定する魔導師免許。その夏季
分の合否が今日発表される。アルスやシンシアなどまだ若い生徒に加え、祈るように食い入
るようにこのディスプレイを見つめている先輩や付き添いの者達の姿も少なくない。
 先ず、汎用免許(ベースライセンス)だ。
 今回アルスとシンシアが受けたのは、最低限魔導師を名乗れる一階部分。各人がその進路
に沿って組み合わせる専門免許(スキルドライセンス)群はもう少し先の話になる。
 それでも、初めての事だ。緊張しない訳がない。
 時間が間近に迫る。事務職員らがそれぞれの端末を操作し、魔導学司(ほんぶ)が解禁す
る合格者リストのデータを受信し始める。
「それでは、合格者の発表を開始します」
 場に控えていたエマが小型マイクを片手に、そうキィンと反響する声で宣言した。職員ら
がほぼ同時にキーを押し、受付頭上のディスプレイにその一覧が表示される。
『──』
 誰もが息を呑んだ。ずらっと表示された受験者番号の羅列を睨むようにし、自分のそれが
あってくれと願う。
 アルス達も同じだった。にわかに世界がスローモーションになる。
 30445、30446。
 二つの、或いはどちらかの数字があれば──。
「ッ?! あった! あったよ、アルス!」
「連番。私も、アルスも……」
 まるで息が止まっていたような。だがそれはそう長くは続かず、はたと弾けるようにして
世界は動き出す。
 相棒(エトナ)が目敏くアルスの番号を見つけ、黄色い声を上げながら抱きついていた。
シンシアもこのすぐ後に並ぶ自身のそれを確認して震え、人混みの後ろで待機していた従者
三人──ゲドとキース、及びリンファに硬くなって振り向きながらコクと一度大きく頷く。
「うぉっ、しゃあッ!!」
 フィデロが叫んだ。ガッツポーズを取り、隣で佇むルイスとハイタッチを交わす。
 ゲドが「おめでとうございます、シンシア様!」と馬鹿でかい声で返事を寄越していた。
なのでつい恥ずかしくなり「こ、声が大きいですわっ」と諌める主に、キースがやれやれと
苦笑いを零している。同じくリンファも、主の節目に深く安堵しているように見える。
「……やったな。おめっとさん」
 周囲の悲喜こもごも。魔導師を志す者達の雑多な声。
 ぽんとブレアは、そう軽くアルスの肩を叩いた。口調は何時ものようにダウナーだが、細
めた目の頭は何処となく熱くなっているような印象さえある。
「……った」
「うん?」
「本当に、良かった……」
 しかし誰よりも嬉しかったのは、安堵したのは、他ならぬ本人だったのだろう。
 アルスは前髪に表情を隠して震えていた。辛うじて聞き取れた声は、そんな絞りだすよう
に抑え込まれた歓喜のそれで。
「アルス……」
「いやー、良かった良かった! 信じてたぜ、俺は」
「おめでとう、アルス君。あとエイルフィードさんも」
「何ですの、そのおまけみたいな言い方……。そ、それよりも。だ、大丈夫ですの?」
 後ろから抱きついていたエトナがふわっと力を緩め、ブレアが静かに見遣る。友らが肩を
叩き、祝福を述べ、或いは泣き出したその姿を見て動揺し周りを囲む。
「……ええ。大丈夫です。ちょっと、思ってた以上にホッとしちゃって……」
 目にいっぱいの涙を湛え、若干赤くなった瞳。
 アルスはごしごしと袖で涙を拭いながら、それでも彼女達に笑顔でいようと努めた。
 悔し泣きじゃない。嬉しき泣きだ。徐々に仲間達だけでなく、周りの生徒達からも注目さ
れ始めていたが、当の本人は予想以上になだれ込んで来るこの感情に内心困惑気味だった。
(これで、兄さん達に追いつけたのかな……? 迷惑を掛けずに済むのかな……?)
 自分達の合格を示す番号が視線の先に映っている。
 つぅっと頬に涙が伝い、伸びた髪がただでさえ曇る視界を狭くする。
「──」
 感傷。
 暫しアルスは、そっと空(くう)を仰いだのだった。

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  1. 2015/05/08(金) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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