日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅴ〔56〕

 帰還祝いと快気祈願の宴から数日が経っていた。
 季節はすっかり夏。朝とはいえ、その注ぐ日差しは既に眩しいくらいだ。
「──じゃあ、行って来ます」
 クランのホーム裏口(運動場方面)に面する路地に停められた場所を前にして、アルスが
そう零れるような笑顔を向けて言った。その両側にはイヨやリンファを始めとした侍従衆、
加えて旅荷を背負ったルイスとフィデロも控えている。
「おう。思う存分遊んで来い。ルイス、フィデロ。アルスの事よろしくな?」
「ええ、そりゃあもう。任せといてくださいよ」
「むしろ礼を言わなければならないのは僕達の方です。都合とはいえ、今回自分達も乗員に
含めていただいて……」
「いいな? 自分の身体が第一だぞ? ただでさえお前は自分を引っ込めて無理し過ぎる。
向こうにいる間くらいは我が侭になれよ」
「あはは。そう、ですね」
「程度にもよるがな。まぁアルス様に限って滅多な事は起こさないと思うが」
「はは。ダンさん、まるで父親(おやじ)みたいだ」
「ま、実際家族みたいなモンだしな。だろ? ミアちゃん?」
「……何でボクに」
 そんな弟達を見送るのは、ジーク以下他の団員達である。
 兄・ジークが返す笑みに続き、何だかんだで面倒見の良いダンが念を押すように言った。
そこに他の団員達からの茶々が入り、ミアが視線を逸らして微かに頬を染めている。
 今日はアルスの静養──清峰の町(エバンス)への出発日だった。勿論予定自体、アルス
当人の回復度合いを視た上で調整されている。
 だが少なくとも、この心優しき皇子は、今回の旅行をとても楽しみにしているらしい。
 この街で出来た初めての、出自が明らかとなっても変わらずにいてくれた大切な友らから
の招待という事もある。既に車椅子から卒業こそせど、その弱った頬肉には心なしか喜色の
色艶が付いているような気がする。
「シノさん達が帰って来た時にも言ったけれど、そっちの事はなるべく漏らさないようにす
るから安心して。何か困った事があれば駆けつけるわ。まぁリンもいるから、余程の事でも
ない限り大丈夫だとは思うけど」
 わいわいと見送り、笑う皆にぴしゃんとイセルナが言った。
 とはいえその彼女も、その実穏やかに微笑(わら)っている。団員(かぞく)の幸福は、
彼女にとって他の団員(だれ)よりも我が事であるのだから。
「ああ、任せておいてくれ」
「陛下達からも改めて拝命いただきましたからね……。頑張りますっ」
 リンファとイヨが応える。
 先日シノやコーダス、トナン側の皆も、サンフェルノから帰って来るとすぐ見舞いに来て
くれた。あの時は外野への要らぬ波紋を警戒して説得したが、彼女らとて一人の親、心配で
ない訳がなかったのだ。部屋まで案内すると『アルス、大丈夫か?』『ごめんね? 無理を
させちゃって……』等と暫く夫婦二人して、我が子を抱きの撫でのとし続けていたのが記憶
に新しい。
 今頃は彼女達も皇国(くに)に戻っているだろう。生憎皆が皆、のんびりとはしていられ
ないのが現実なのだ。
「……ふふっ」
 それでも、イセルナは苦笑(わら)っていた。
 リンファの見た目の悠然さはいつも通りとして、イヨはやはり緊張──少々気を引き締め
過ぎているようだ。
 それはひとえに彼女の(いい意味での)真面目さからなのだろうが、当の静養中に彼女が
ダウンしようものならきっと結局はプラスマイナスである。イセルナも、そして同じ事を思
ったのかジークも、次の瞬間には「まぁまぁ」とこの気弱な侍従長を慰めに掛かっていた。
「侍従長、そろそろ」
「あ、はい。そうですね。行きましょうか」
 そしてかくして、暫しの戯れは終わる。
 御者を務める侍従が声を掛けてきて、イヨは携行端末に映る時刻を確認した。ジーク達も
アルス達も改めて向き合い直る。出掛ける者と見送る者。二者に分かれた一同は互いに手を
振り合い、徐々に歩き出す馬車によってあっという間に引き離されていく。
「……行っちゃいましたねえ」
「ああ。一時はどうなる事かと思ったが、嬉しそうで何よりだよ」
 しんと、いや鳴き始めの蝉の音が再び大きく耳に届く気がした。
 サフレにマルタ、他の面々。アルス達を見送った一同はやがて散開するように踵を返し、
思い思いに酒場へと宿舎へと戻っていく。
「……本当に、これでよかったのね?」
「ええ」
 スッ──。すると同じく、踵を返していくジークにイセルナが問うた。
 そしてこのやり取りに、サフレやマルタ、リュカなどの仲間数人が気付き、ちらりとこち
らを見遣ってくるのが分かる。
「これは俺達のけじめです。今のあいつに、余計な心配はさせられないッスよ」
 だが当のジークは、彼女に背を向けたままだった。
 ただそう、立ち止まり答えるのみだった。

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  1. 2014/10/09(木) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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