日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅴ〔55〕

 自室のベッドで、アルスはそれこそ深く沈み込むかのように眠っていた。
 二段ベッドの下、普段は兄・ジークが寝ている場所。
 相棒たるエトナは勿論、仲間達は皆この部屋にわらわらと集まり、そんな彼の寝姿を心配
そうに見守っている。
「過労、ですね」
 医務担当の侍従がやがてそうぽつりと言い、皆に向き直った。
 その傍らには使用済みの注射器と、空になった栄養剤のパック、医術道具がいくつか。
「おそらくこれまで積み重なった心労が、今回の帰還という一区切りを切欠に限界を迎えて
しまわれたのでしょう。リンファ様とエトナさんの話を聞くに、倒れられたのはご学友との
導話の直後だったそうですし、緊張の糸がその安堵感でもって切れてしまったのではと」
「そっか……。あいつも、無理してたんだな」
「うぅ。私の馬鹿馬鹿! ずっと傍にいたのに何で気付かないのよぉ!」
 ざわめき。
 連絡を受けてリオ達と共に戻って来たジークもそう深く眉根を寄せて呟き、エトナに至っ
ては、ひた隠す相棒の内心を察し切れなかったことに彼女なりの後悔を吐き出している。
「ていうか! 何でジークは平気な訳?! 大都(バベルロート)で大変な目に遭った……
滅茶苦茶戦っていたのは同じなのにさ」
「あ~……。そりゃあまぁ、アルスと違って冒険者(プロ)だからな。鍛えてる分がある。
それに俺、接続(コネクト)使ってぶっ倒れてたからなあ。他の誰よりも長く寝てただろ?
多分回復って意味じゃ、それで賄えてたんじゃねーか?」
「むぅ……」
 ばつが悪そうに、ガシガシと後ろ髪を掻いてジーク。さりとてあながち嘘でも間違いでも
ないのはエトナも重々理解しているところであり、彼女も只々唇を結ぶしかない。
「でもまぁ、落ち着いたみたいでよかった。ぶっ倒れたって聞いた時は流石に冷や汗がだら
だらしたもんだが」
「そうね。まだ暫くは安静に、ゆっくり眠らせてあげる必要があるのでしょうけど」
 ダンとイセルナを筆頭に、団員や侍従達はここに来てようやく一息をつくことができたの
だった。アルスはまだ目を覚まさない。だが医務の侍従の話では、命に別状があるという訳
ではないとのこと。
 今はそっとしておいてあげることだ。……ここ暫くが、あまりにも煩過ぎた。
「休息が必要、ということだな。アルス様も、私達も」
 深く息をつき、リンファがごちた。場の一同も大きく首肯する。
 足を止める。さりとて彼らの纏う雰囲気は“真面目”だ。
「……」
 そんな空気を、リオは一人、少々遠巻きな位置から黙して眺めている。
「と、なると、当面の公務の予定は全てキャンセルしなければなりませんね……。皆さん、
時間はすっかり遅くなっていますが、連絡の取れる先方には至急この旨を。くれぐれも外部
には漏れることのないようにお願いします」
 はい! 次いでイヨの指示を受け、侍従達がその場から動き出した。
 日はとうに暮れている。だが状況が確定した以上、早く動くに越した事はない。
「あとは陛下とコーダス様ですね。私が直にお伝えします。きっとご心配なさるのだろうけ
れど……」
「そうだな。実の息子だ、宿から飛んでくるかもしれない。だが陛下達が動けば、それだけ
で周囲は敏感に察するだろう。できるだけ連絡の時点で、事を大きくしないよう進言するの
がベストか」
「そうかもしれんが……。時間の問題だと思うぞ? 良くも悪くも有名になっちまったから
なあ。昼間もあちこち記者が張り付いていたろーが」
「僕もダンに賛成。オブラートに包むにしても、メディア向けに多少の発表をした方が弊害
は出難くなると思う」
 イヨとリンファ、ダンやシフォン、クランの幹部達。
 早速彼女達は、今後の対応をどうするのか話し合いを始めていた。それとなく覗き込んで
いた部屋から離れつつ、廊下に出つつ。そんなさまを室内のジークやエトナ、或いはミアと
いった尚も見守ろうと留まった面子が言葉少なく見遣る。
(分かっちゃいるが、あんまりいい気はしねぇな……)
 団員達(みな)のではない。きっとこれから起こるであろう、周囲──外野の人々がみせ
るリアクションの数々にだ。
 メディアはこぞって弟のダウンを記事にするだろう。心配ですとのたまいつつ、そのどれ
だけがあいつを自分達の飯の種にすることか。
(……英雄、ねえ)
 犠牲。暗がりの向こうからの無数の眼。
 当のアルスは相変わらず深く寝入り、辺りはすっかり夜闇の色に塗り替えられている。
 ジークはぼんやりと、今日から何日かは、何処か別のソファででも寝起きしないといけな
いなぁなどと思った。

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  1. 2014/09/12(金) 00:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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