日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅳ〔49〕

 時は今より遡り──地底層・魔界(パンデモニム)。
 その中心地であり、第一の都である魔都ラグナオーツ。その一角に煉瓦造りの大きな洋館
が建っていた。七星が一人“黒姫”ロミリア。彼女が率いるクラン・オラトリヲの本拠地で
ある。
 普段は都の市民すら畏れ多くて安易に近付かない場所。
 だがこの日、そんな館へ一人の上客が訪れていた。
「やっほー。ロミリア、いる?」
「……来ると視えたからこうして待っていたんじゃない。いいの? 常夜殿──首長の仕事
の方は」
「いいのいいの。爺達に任せてあるから。おかげ様で今の所大きな問題は起きてないしね」
「……そう」
 館でも中枢も中枢、ロミリアの私室にそう上がり込んで来た人物。それは四魔長の一人に
して妖魔族(ディモート)の現首長・ミザリーだった。
 丸いサイドテーブルの中空に占札(タロット)を浮かべ、はらりはらりと捲りながら横目
を寄越すロミリア。彼女らは共に美貌の持ち主だが、ミザリーは勝気な姉御肌、ロミリアは
思慮深い艶というそれぞれ毛色の違った雰囲気を纏っている。
「それより飲みましょ? 良い酒が手に入ったの」
 にししっと笑い、ミザリーは手に提げていた木枠の篭を持ち上げてみせた。
 中には値打ち物の赤ワインが数本。ロミリアもそれを見てスッと視線を留め、タロットを
慣れた手付きで一束にしまい直す。
 程なくしてお互いの従者を退室させ、二人は葡萄酒(さけ)を酌み交わした。
 グラスになみなみと注いだ赤。色と香りを愉しみ、ミザリーがくいっと飲む。続いてロミ
リアも静かに嗅ぎ、一口二口。
 一見すれば穏やかな時間だった。種族や立場こそ違えど、彼女達は折に触れて飲み交わす
友でもあった。
「……聞いたわよ。今度、地上(ミドガルド)に行くんですってね」
 そうして、暫く黙々と飲み交わした後だった。そっと上機嫌な声色を落とし、ミザリーが
さも探りを入れるかのようにその話題を切り出してくる。
 ぴくり。言葉にこそ出さなかったが、静かに静かに、ロミリアの動きが止まる。
「ええ」
「共和国(サムトリア)から直々に招聘されたそうじゃない。顧問になるんでしょ? 少し
前に新しい大統領になったばっかりだものねぇ」
「……」
 くっと長めに一口、ロミリアはグラスの中のワインで喉を潤していた。
 ミザリーに対して横斜めに腰掛けた位置。そこからやはり横目に視線を持ち上げ、彼女は
この友に静かな弁明を試みる。
「私は傭兵ですもの。大口の仕事が入った、それだけよ」
「ふぅん……?」
 なのにミザリーは退きそうにない。むしろ空になったグラスを自身眼前のサイドテーブル
に置き、肘をついて軽く両手を組みながら、更なる言葉を投げ掛けてくる。
「雇い主──新しい大統領の名前、何だっけ? ああ、そう。ロゼッタ・ウィンストン。統
務院議員も経験してるルーキーちゃんよね」
「……ミザリー」
「分かってるわよ。他言してない。する気もないし、スキャンダルになっちゃうものね」
 しつこい。
 そういう意図なのか、やがてロミリアがじっと彼女を諌めるような眼を向けていた。それ
でも当の彼女は余裕を持って微笑(わら)い、しかし次の瞬間にはスッと真面目な表情にな
って更に訊ね返す──本題をぶつけてくる。
「……本人に、話したの?」
 どうやらそれが、今日この館を訪れた目的だったようだ。
 ロミリアは答えなかった。二口三口、黙したまま残りのワインを飲み干している。しかし
その沈黙は実質肯定に等しいものだ。
 ミザリーは深く息を、ため息をついた。やっぱり……。
 この子の真面目さ(せいかく)からしてそうだろうなとは思っていたけれど、実際その頑
なさを発揮されると、中々どうしてお節介が疼くじゃないか。
「伝えた方がいいんじゃない?」
「メリットが無いわ。仕事(ビジネス)に支障が出るだけ。彼女の方にしたって、今が踏ん
張り所なのに“隙”をみすみす作るようなものじゃない」
「まぁ、それはそうかもしれないけど……」
 ロミリアの言うことは確かに間違ってはいなかった。だけど、ミザリーは思う。
 たとえその出会いが──引き合わせが偶然から起こったことであっても、それを自らふい
にしてしまうなんて……哀し過ぎる。
「大体、今更どう名乗ればいいっていうの? 私は、私達は……あの子の苦労を知ろうとも
してこなかったのに」
「……」
 ぽつり。漏れる心。
 ロミリアもまたグラスを空にし、友にすら目を合わせず、じっと去来する想いに思考に抗
っているようだった。捌こうとしているようだった。
「らしくないわね。七星の紅一点、未来を見通す知将なんて呼ばれる貴女ともあろう者が」
 数拍間を置いて、ミザリーは言う。
 だがそれは皮肉を装った──背中を押す一言だ。ロミリア自身も黙してこそいたが、この
友の意図には間違いなく気付いていただろう。
 暫くそんな彼女(とも)の思案顔、やり過ごしたいという横顔をミザリーは見遣った。
 ふぅと静かに嘆息をつき、手ずからまたなみなみとグラスにワインを注ぐ。
「それでもね。事実は事実じゃない」
 おそらく友(かのじょ)は承知しないだろう。だけど伝えずにはいられなかった。
 たっぷりと置いた間。グラスの中の赤を揺らして、ごちる。
「たとえ腹違いでも……この世でたった一人の妹なんだから」

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  1. 2014/04/01(火) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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