日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅲ〔37〕

 暴動。そのフレーズを耳にした瞬間、ジークは半ば反射的に眉を顰めていた。
 剥き出しの悪意が自分を哂っているような気がした。西方(こちら)では抗争は茶飯事だ
といっても、この胸奥を撫でる不快さは何なのか。
「またか……懲りずに何度も何度も……。警備の兵は?」
「はっ、既に現場付近を巡回していた兵らが鎮静行動を開始しています。場所は第三西口。
ただ如何せん連中の人数が多く、どうやら手榴弾などまで持ち込んでいるようで……」
「……他の哨戒区域からも応援に向かわせろ。それと館(ここ)の警戒レベルをBに引き上
げる。手荒な鎮圧は避けたいが、もし兵達に命の危険が及ぶ事態になれば連中の現行犯逮捕
も許可するよう伝えるんだ」
「は、はいっ!」
 抱く感情は、オーキス公も一見して似たようなものだった。
 少なからずその表情(かお)にうんざりしたと言わんばかりの感情を漏らし、彼は報告に
飛んできたこの若い官吏に仔細を訊ね、指示を飛ばす。また官吏の方も焦りと緊張ですっか
り硬くなってしまっており、オーキス公の命を受けると最初と同様、転がるように部屋を飛
び出していく。
「レノヴィン殿」
 そんな彼を見送って、他の部下達が慌しく動き出すのを横目にして、オーキス公はサッと
ジーク達の方へと向き直った。
「申し訳ありません。予定では一度皆を集めた上で、顔合わせと今後の作戦会議を行いたい
と思っていたのですが」
「気にすんなって。それよりさっき言ってた第三西口って何処だ? 俺達も加勢する。どう
やら連中はこっちの都合なんざお構いなしみたいだからな」
「……ご協力、感謝致します。すぐに案内させましょう。おい」
 サフレにリュカ、マルタら仲間達と顔を見合わせて頷き合い、ジークは視線をオーキス公
に戻すと言った。
 言葉の通り、彼らにとってもこのタイミングでの暴動発生は──元より起きないに越した
事はないのだが──宜しくないらしかった。
 オーキス公は数拍ばつが悪そうに唸っていたが、すぐに部下の一人に追加の指示を飛ばす
とそう硬い表情のまま礼の言葉を添える。
「レジーナさん、エリウッドさん。二人は此処に居てください」
「そうね、まだ館内の方が安全だと思いますから。すぐに……戻ります」
「え、ええ」
「……気を付けて」
 当然ながら民間人であるレジーナとエリウッド、技師二人には待機して貰うことにした。
 リュカの言う通り、暴動対策とみられるこの頑丈な造りの館内にいれば、ちょっとやそっ
との事では巻き添えは喰うまい。
 緊張気味な硬さと至極落ち着き払った一言。
 二人のそれぞれの首肯を確認して、ジーク達四人は警備兵の一人に案内されて部屋から駆
け出していく。
「陛下。申し訳ありませんが、一旦通信はここで切らせていただきます。陛下が此処を見て
いると奴らに知れれば、油に火を注ぎかねません。……鎮めた後、また」
『……分かった。くれぐれも油断するなよ』
「はい。それでは……」
 そしてオーキス公も、ホログラムの向こうのファルケン王にそう言い残し通信を切ると、
自身もまた陣頭指揮を執る為に部下達と応接間を後にしていく。

「──ふぅ」
 通信が途絶え、フォーザリア執政館の様子が画面ごと失せたのを見届けると、ファルケン
王は深く静かな息をついて玉座の背にぐっと体重を掛けた。
 グランヴァール王宮内・王の間。
 彼と眼下に並ぶ臣下達は、幾度も繰り返される保守過激派らの暴挙に、個人差こそあれ嘆
きと厭気を覚えずにはいられなかった。
「……僭越ながら、陛下。本当によろしかったのでしょうか?」
「その、一国の皇子をあのように使うというのは……」
 だが不安というものは次から次へと湧いてくるもので。
 通信が沈黙したその次の瞬間には、列席した諸候らの何人かがそう、ファルケン王に自分
達の抱く懸念の類を伝えようとしてくる。
 ファルケン王は内心で哂っていた。動き始めた事柄に、事実に今更ブレーキを掛けるなど
できる筈もなかろうに。
「何度も言ったろ。向こうも分かってて応じてる。それを証明する為の、いざって時の保険
の為の、いち冒険者っていう形式だろうがよ。……依頼手続きそれ自体に不正はねぇぜ?」
 ただ彼とて解っていない訳ではない。この地に漂い、我が臣下達すらも呑み込まんとして
いる暗い曇天のような心地自体は。
 即ち反発と突き上げである。
 この国──だけではなく世界中で推進される世界開拓に対する反対運動と、その急先鋒で
ある“結社”が人々に落とす影。開拓に与すれば、いつ何処でテロの巻き添えを喰らうかも
しれないという恐怖心。そこから保身に走った領民達が、そのめいめいの領主でもある臣下
らをも足元から揺るがしているのだろう。
 だが、それこそがテロリズムの狙いなのだとファルケンは考えている。
 本当に連中と“闘う”ことは正しいのか……?
 そう人々に疑問や迷いを抱かせ、その心の隙を容赦なく抉る。そこから力ずくで自分達の
望む世界を、酷く強引に、引き寄せようとする。
「……俺はよ、この国の王を任されてるんだ。国を豊かさに導くのが仕事だろうがよ」
 ファルケン王の、ぼうっと中空を眺めたまま呟く言葉に、場の臣下達は少なからず戸惑っ
ていた。互いに顔を見合わせ、それでも必死にこの主君の意図を汲もうとしている。
「どうせ何をやったって、やろうとしたって、賛成する奴も反対する奴もいる。糞真面目に
一々聞いてたら何もできやしねぇよ」
 結局の所、政治などゲームに過ぎないのだとファルケンは思う。
 パワーゲーム。利害の絡む者同士を配分する、どうしようもなくクソッタレでされどある
意味一番人間らしいとさえ言える、延々と繰り返される決定の連続。
 “失敗”すればアズサ皇のような末路が待っている。彼女の場合は結社の魔手に堕ちたと
言い換えていいのかもしれないが、少なくとも円満なピリオドではありえまい。
 ……では自分達は、繁栄を謳歌してきたこれまでを、それらを可能にしてきた多くの英知
を放り出すことができるのだろうか?
 できやしない。それは他ならぬ、民衆達が望んできたことだ。
 王というものが彼らの意思を代行する存在だと云うのなら、自分達が開拓を進めることに
ここまで“敵”が出てくること自体がおかしいのである。……本来ならば、凶刃を突きつけ
られるのは彼らであろうものなのに。
「暫くオーキスからの折り返しを待つ。それと一応、各地の定期報告をもっと細かく吸い上
げるようにしろ。各々の裁量を弄くる気はないが、情勢の把握に完璧なんてねぇからな」
 長考の後ファルケン王が出した指示を、臣下達は恭しく承った。控えていた官吏達が次々
に王の間から一時退席してゆく。
 大きく再びの息を一つ。
 ファルケン王は肘掛け越しにサイドテーブルへ手を伸ばすと、通常よりも一回り以上大き
めな、自身の携行端末を手に取り立ち上げる。
 手馴れた手つきで画面上のアイコン群を流してワンタッチ。
 次の瞬間、彼の周囲中空に現れたのは、多数の蒼く半透明なホログラムだった。
 浮かぶのは地図をベースとした、この国で起こっている紛争をリアルタイムで表示するよ
う作られた一大パノラマ。臣下達もつられて見上げる中、彼はフォーザリアを始め、地図上
のあちこちで散発する赤い点滅にじっと目を凝らす。
(──どうせ王ってのは、民衆が自分達の責任逃れにこしらえたツールなんだよ……)
 魔導と機巧技術。この世界の二大テクノロジーが作り出す作り物の現実。
 暫くの間、それらによって刻々と紡がれてゆく事実の群れを、この破天王はただじっと黙
り込んだまま見つめていた。

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  1. 2013/04/11(木) 18:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

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