日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)死に損いのデッドレス〔5〕

 ロッチの加勢が、商会(ヒュー)の意思じゃない……?
『あいつなら暇(いとま)を取っている最中ですが。デトさんとエリスちゃんがこっちを出
て二・三日ぐらいでしたかねぇ。“身内に不幸が出たので数日暇を頂きたい”と言ってきた
ので、それで──』
 通信機を耳に当てたまま、デトはヒューゼが口にしたその事実に身を硬直させていた。
 小首を傾げるような口ぶりからして、友は本当に知らなかったようだ。
 最初打ち明けるか迷ったが、先程からの嫌な予感に従って、これまでの経過──サヴル隊
と共にロッチが商会の代表として合流・同行していたことを伝える。
『ロッチが……そちらに? どういうことです? ズル休み、という訳ではないですよね』
「……ああ。正直認めたくはないが、どうやら俺達はまんまと嵌められたらしい」
 眉を顰めるヒューゼの顔が想像できるかのようだった。
 返ってくる声色、その少なからずは戸惑いの色。彼もお人好しではあるが、豪商の一人と
して頭は切れる。こちらが何を言いたいのか、考えているか、長年の付き合いもあって既に
察し始めているらしい。
「は、嵌められたって……」「どういう事です?」
「つまり、ロッチ氏は“本当の仲介役ではなかった”ということね」
「……そういうことだ」
 周りにはサヴル隊とササライ父娘及び傭兵団の面々、リノン一派に商会からの助っ人達が
ぐるりとデトを取り囲んでいた。
 口々に漏れる怪訝と不安。
 その中で口元に手を当てて目を細めていたリノンが呟くと、デトは皆がこれまでになく動
揺するのを横目に見ながら首肯する。
 始めから偽るつもりだったのだ。
 ロッチはヒューゼに嘘の忌引きを申告して一旦商会から距離を取り、その上でサヴルらを
騙し、自分達と合流した。
 そこには間違いなく、何か目的がある筈だ。
 ……それも綿密かつ執拗な、大きな企みの類という名の。
「言われてみれば、俺たちロッチさんが実際に商会と連絡を取ってるの見てないな……」
「じゃ、じゃあ今までの手筈はどうなってんだ? 事実こうして傭兵達が援軍に来てくれて
るんだぜ?」
「そこはどうともなる。ロッチは商会内でも地位が高いからな。大方、金を掴ませて代理の
使いを囲っておいたんだろう」
『ええ……。確かに今回の件でロッチ自身から連絡が来たことはありませんでした』
 デトの推測はヒューゼによって確信に変わり、一同のロッチに対する心証は急速に白から
灰に、灰から黒へと変わっていく。
「ロッチは──あいつは、裏切り者だったんだ」
 そもそも、とデトは苦々しい面持ちで語る。 
 先ずもって聖教国(エクナート)と帝国(ガイウォン)の両国が同時期に自分の旅立ちを
知ったという点が妙だと思っていたのだ。
 最初はエル・レイリーでの一悶着が予想以上に尾を引いたのかと思ったが、違う。
 おそらく密告されていたのだろう。そう、ロッチに。
 複数の大国に情報をリークしたのは大方互いを競争させつつ、自分をより効果的に追い詰
めていく為。そしてそんな状況を作った上で味方を装って合流し、彼らと鉢合わせになるよ
うに誘導する。
 思えばトーア連峰に進路を移したのも彼の発案だ。となれば、あの時の賞金稼ぎ達は同じ
く彼の用意した刺客なのだろう。……背後を、エリスを狙えば虚を突けるとあたかも知って
いたようなあの伏兵も、十中八九奴の入れ知恵だと考えていい。
「卑劣な……。紳士のような佇まいは偽りだったのですね」
「……しかしデト殿。そうなると」
「ああ」
 生真面目な性格もあるのだろう、語られる推論にアヤがあからさまな嫌悪感で拳をぎゅっ
と握り締めていた。
 少なからず似た思いを抱く、旅の中で出会った仲間達。
 その一方で、父(カミナ)の方はあくまで冷静だった。エリス云々の件が出た辺りから眉
間に深い皺を刻み始め、まるで確認するかのようにデトに語りかける。
「嵌められたんだ。俺達は、ここで殆ど意味の薄れた戦いをやってたんだよ」
 ざわざわと、面々の動揺は最高潮に達しようとしていた。
 無駄な戦い──そう他ならぬ彼が言ってしまうほどの、そもそもの理由。そこに思い至っ
た者達は次々と戦慄した。
 デトが静かに悪寒で震えている。それをリノンがそっと、肩を取って宥めている。
「身柄を確保しないとはっきりとは言えないけれど……ロッチ氏の目的がもしデト君、貴方
だとすれば、エリスちゃんは」
「……」
 彼女の手をそっと除けて、デトはゆっくりと立ち上がった。
 通信機を商会の傭兵に返し、半壊した古城、その遥か山向こうを仰ぎながら、彼は搾り出
すような声で呟いていた。
「──エリスが、危ない」

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  1. 2013/03/14(木) 18:00:00|
  2. 死に損いのデッドレス
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長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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