日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)死に損いのデッドレス〔3〕

 少女(かのじょ)の姿が落ちていった。
 振り向き叫び、手を伸ばしても、阻む残党らにその距離すら埋めることができなかった。
「……ッ」
 殆ど無意識のままに、デトは深く眉間に皺を寄せていた。
 賊達にとってもこの事態は想定外だったようで、少なからぬ面子が思わずエリスの落ちて
いった崖の方に眼を遣っている。
「──せろ」
 だがそれは、彼らにとって決定的な隙となった。
「失せろ、この賊どもがッ!!」
 刹那の怒声と同時に視界を染めたのは、文字通り焼けるような赤。
 炎が渦巻いていた。デトを包囲しようとしていた彼らの隙間を縫うように、真っ赤な炎が
生き物のように幾重にも奔り始める。
「ひっ……!?」
「これは、輝術? まさか……そんな」
 賊達が思わず後退る。その退きを突くように、デトは一歩二歩と足を踏み出していた。
 炎は彼の掌から生み出されていた。
 明らかに自然発生的なものではないそれ。術の心得がある賊が震え声で呟くが、その表情
には驚きと畏怖が混在しているように見える。
「……」
 嗚呼、そうだ。
 何を躊躇うことがある? これまでも自分は“自分達”の為にこの力を振るってきたじゃ
ないか。今更「化け物を見せたくない」だなんて、温い……温いんだよ。
 守れなきゃ、意味が無い。
 あの娘(こ)一人を守れないようで、何が不死身の男だ──。
 バチンと炎を纏った指先を弾く。
 するとそんなデトの意思に操られるかのように、生み出された猛火は一斉に明確な攻撃と
為って賊達に襲い掛かった。
 《火炎》の輝術。
 本来は火を熾す効用だけのそれも、術者の力量次第では一発逆転の攻撃力へと変貌する。
「ぎゃあッ!?」「熱っ、焼け──」
「に、逃げろっ! 死に損い(デッドレス)の本気だ!」
 炎に巻かれ──実際に三人ほどがそのまま消し炭になって、賊達は逃げ出していた。
「今更……ッ!」
 その撤退を、炎が両者を分断したのを確認して、続いてデトは後ろへ振り向きざまにもう
一発と《火炎》を放った。
 一時はサヴル達に迫ろうとしていた伏兵達。
 しかし彼らもまた炎に巻かれ、これは敵わぬと言わんばかりに散り散りになりながら逃げ
ていく。
「……た、助かったみたいですね」
「ああ」
 暫くして、賊達の姿は完全に見えなくなった。
 ホッと胸を撫で下ろすサヴル隊と、細剣(レイピア)を鞘に戻しそっと眼鏡のブリッジを
押えているロッチ。
 だがそんな仲間達の反応もそこそこに、デトは一人真っ直ぐエリスの落ちた崖の際に立つ
とその眼下を覗き込む。
「……下は森か」
 限界線を隠す茂みを掻き分けた視線の先。そこには眼下に遠く、辺り一面に広がる森林が
映っていた。
 その様子を見て、デトは内心静かに希望を見出す。
 下が森なら地面に叩き付けられて即死、という可能性は随分と減る筈だ。……とは言って
もこの高さだ、全くの無傷で済むとも思えない。
「エリスちゃん、大丈夫ですかね?」
「上手く森がクッションになってくれていればいいんだけど……」
「……」
 やや遅れて倣うサヴル達も同じことを考えたらしい。
 しかしデトは真剣な表情を緩めない。心配そうに呟き覗き込んでる彼らを余所に、今度は
ゆっくりと後退して軽く助走を取り始める。
「デ、デトさん?」
「エリスを捜してくる。お前らは別のルートを見繕っておいてくれ」
 何をしようとしているのか、サヴル達にはすぐに分かった。
 思わず留めようとする複数の声。だがそれでもデトは止まらず、ぽつとそれだけを言い残
すと彼らの横を駆け抜ける。
「──」
 収まった炎の臭いと風を切る音、仲間達が呼ぶ声。
 それらをあっという間に背後に置いて、デトは躊躇いもなく眼下の森へと跳び出した。

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  1. 2013/01/16(水) 18:00:00|
  2. 死に損いのデッドレス
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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