日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅱ〔17〕

 かの「ゴルガニア帝国」が戦乱の世界を統一せしめたものは何だったのか。
 歴史の変遷、運命の巡り合せと云われるものか。或いは拗れた対立の束を武力で以って断
ち切ってくれる──結局は時が経つにつれ“悪”扱いされた──強権だったのか。
 一概には語れない。しかし一つ確実と言っていいファクターはあるだろう。
 それは即ち帝国が開発し、大成させた“機巧技術”に他ならない。
 今日、かつては大陸毎に隔絶していた人々を結びつけ、交流を盛んにし、そして飽くなき
セカイの開拓を可能にするインフラとしての飛行艇や鉄道網は、これらのテクノロジーなし
には成しえなかったのだから。
 しかしこれらの功罪を、この機械仕掛けの空港(ポート)に居る人々はどれだけ真に理解
しているのだろう?
 一方では人々を苦しめた圧政の巨悪として。
 一方では今日の交通・物流の要を築いた先駆者として。
 それでも衆愚(かれら)はそのような事も考えず、今目の前にある繁栄に口を開けて待っ
ているだけなのだろう。
 それらがいつ潰えるとも知らず、想像せず、ただひたすら依り立つセカイを顧みる事すら
を偽善などと哂ってのけて、多くの彼らはただ刹那の現在(いま)を過ごして。

「……」
 人の波がひっきりなしに行き交っている。
 彼らが忙しなくひしめているのは、一面が金属質の素材で覆われた建物だった。
 此処は、空港(ポート)。
 世界各地に建設され、日夜飛行艇が離発着する機巧技術の最先端の現場。
 何処へ向かうとも知れぬ人々の群れが視界を断続的に遮ってくる中、分厚いガラス越しか
ら眼下に見えるのは、硬い石造りのだだっ広い地面の上で待機している多数の飛行艇だ。
 中にはポートの建物から延びる機械式の渡り廊下と接続し、乗客の出入りをしている最中
の機体もある。
 生産国や機種にもよるが、基本的に飛行艇はずんぐりむっくりな卵を横に倒したボディに
多数の軌道制御用のプロペラを取り付けたフォルムをしている。この金属で覆われた機構が
大気中のマナを取り込みながら動力にして消費・排出し、推進力に変えながらセカイを覆う
マナの雲海を航海するのだ。
 そしてこうしている間にもまた遠巻きに一機、ゴウッと唸りを上げながら空高く飛び立っ
てゆく姿が見えた。
(さて……と)
 コツンと、ロビーに点在する観葉植物の枝葉に隠れるようにスーツケースを一つ置く。
 その所作に周りの誰も気付かない。
 無数に巡り、行き交っている姿と眼。しかしそれらから気配を断つことなど自分達には容
易い行為だ。ゆたりとその場から離れて人の波に混じりつつ、着こなした黒スーツの襟元に
取り付けた小型のマイクに呟くように合図を送る。
「設置した。お前達(そっち)はどうだ?」
『ハイ、問題アリマセン』
『配置ノ遂行状況ヲ確認……百パーセント完了デス』
「ん……。では撤収だ。常に余裕を持って、スマートに」
 そう言うと、人ごみの中で一瞬だけ同時に複数の人影が動いた。
 一見すると何の変哲もない、共通点もない一般市民の姿をしている。
 だが彼らが各々マイク越しに伝えてきたのはヒトではなく──戦闘用オートマタ兵らが語
るぎこちなさを伴う人真似の声だった。
 しかし雑踏の騒々しく忙しない構内に、彼らの侵入を察知したものはいなかった。
 ゆっくりと、しかし確実に彼らは人ごみの中から現れて集まると、言葉の通り余裕綽々と
してその場を立ち去っていく。

 彼らは知らないのだろう。いや……知ろうとすらしないのだろう。
 セカイを壊してまで自分達だけを豊かにしようとする行為が結果、何を意味するのか。
 正義は──摂理の加護は我々の側にある。
 さぁ、すぐに示してあげよう。我らの大命を妨げるとどうなるのかを。
 そして泣き叫びその慢心なる生を存分に呪うがよい。
 君達の“善”とは真に善か?
 君達の“悪”とは真に悪か?
 ヒトという名の尺度の狭さ、今此処に示してやろう。
「──さぁ。派手な花火を打ち上げよう(パーティーをひらこう)じゃないか」
 前髪に隠した表情の隙間からにたりと口元に弧を描いて。
 配下らを率いたこの黒スーツの男(フェイアン)は、そう小さく呟くと哂った。

続きを読む
スポンサーサイト



  1. 2012/02/13(月) 22:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

01 | 2012/02 | 03
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (194)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (111)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (49)
【企画処】 (472)
週刊三題 (462)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (403)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month