日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅱ〔14〕

 記憶はすっかりおぼろげになっているが、それでも確かに焼き付いているものがある。
 それは家族の光景だ。いや……争い合う男女の、両親の姿だ。
 私が物心つくかどうかという頃、両親は毎日のように激しい口論を繰り返していた。時に
は取っ組み合いになる事も珍しくなかった。
 理由は、もう今となっては分からない。
 俗によく言う性格の不一致か、或いは私たち姉妹(きょうだい)の養育を巡る意見の対立
だったのかもしれない。
 結局、両親は離婚することになった。
 私は妹や弟とも引き離され、クリシェンヌ教団傘下の孤児院に放り込まれた。
 その後の妹と弟の行方は分からずじまいだった。私自身は理解ある、慈悲深い院長先生の
おかげで充分な食事とベッド、そして魔導を始めとした学問を修めることができた。
 伴霊族(ルソナ)として生まれてきた一人として、自身の持ち霊──ブルートを知覚する
ことができるようになったのもその頃であったと思う。
 独りぼっちではなかった。それが分かっただけでもどれだけ救われたことか。
 それでも……私はずっと気掛かりだった。
 妹や弟は今何処で何をしているのだろう? 或いは……もう路頭に迷ってこの世の人では
なくなっているのかもしれない。
 それでも構わないと思った。私は……確かめたかったから。
「──っらぁッ!!」
「くっ……!」
 そうして身軽でいられる冒険者に身を投じて、どれくらいの月日が経っただろう。
 私は日々の食い扶持の為に色んな依頼をこなす毎日を送っていた。
 その中は時に誰かを傷付ける、殺さないといけないような類のものもあって……。
「はん……。やるな、お前。ここまで俺を苦戦させた相手は久しぶりだぜ」
 あの時もそうだったけ。
 依頼内容は賊に占拠された小村の奪還。
 本来は守備隊の負うべき役目だが、権力者の威光が届き難い──言ってしまえば辺境の地
においては彼らに騎士道のような崇高な精神を期待するのは、概して無駄であると断言して
しまってよい。
 何時もの、尻拭い。
 そう私は自分に言い聞かせつつ他の冒険者達と共に向かったのだが、その時ばかりは少々
勝手が違っていた。
「……そう。なら早く倒れて欲しいのだけど」
 賊側に用心棒がいたのだ。
 巨大な戦斧を振るう、猫系獣人の男。間違いなくそれまでの中で屈指の実力者だった。
 同行していたメンバー達が次々と戦闘不能にさせられ、私もじりじりとそのパワーに追い
詰められていく。スピードと手数なら勝っているが、それも長丁場になれば元々身体能力が
高い彼ら獣人族(ビースト・レイス)の方が有利になるのは明らかだった。
 ブルートの冷気も、彼のマナを噴出させた排熱によって思うように通じない。
 私は剣を構えつつも、そう静かに呟きながら隙を見つけようと時間を稼ぐしかなかった。
「そうはいかねぇよ。諦めな。……さもなきゃ」
 男がじりっとまた一歩動いた。
 その眼には明確な戦意が見て取れる。
(……でも、何かしら?)
 でも、そこには何故か依頼への義務感とは違う“必死さ”があるように思えて……。
「おとうさん!」
 その時だった。
 私達の戦っていた村の敷地、その一角の路地裏から一人の少女が飛び出してきたのだ。
「ミア!?」
 男は驚いてその娘を抱き止めていた。
 見てみれば、同じ猫系獣人の女の子であるらしい。
「まさか……貴方は」
「……。ああ、俺の娘だ」
 手に下げたままとはいえ、私がまだ剣を持っている事に警戒してか、彼は私を一瞥するだ
けで短くそう答えていた。
 大柄な彼(ちちおや)の胸の中で不安そうな少女の瞳が揺れている。
 それでも戦斧だけは手放さず──いや、切っ先が私の方から外れて。
「お前、ボロボロじゃねぇか……。あいつらか逃げてきたのか?」
「ん……。鎖、千切ってきた」
「千切……っ!? ぬぅ。流石は俺の娘、か……」
 彼の問い掛けに女の子、ミアちゃんはこくんと頷いていた。
 私とブルートはそっと二人に近付いてみる。
 状況から察するに、いやもしかしてなくても……。
「!? 伏せろ!」
 そんな時、不意に何かに気付いてブルートが一人前に出て障壁を張った。
 刹那、撃ち込まれた銃弾の雨。
 私も彼も、彼に庇われるようにぎゅっと抱き締められたミアちゃんも、一瞬その強襲に身
動きを止めてしまう。
「くそっ! 仕留め損なった……!」
 そして、次いで出て来たのは──私の予想通り──如何にもといった賊達の姿。
 銃を構えたのが五名、剣や手斧を持った者が十名程度。
 そこで、私は確信を持った。
「……その子を人質を取られていたのね」
 男は暫し黙っていた。面子もあるのだろう。そうすぐに頷けなかったのかもしれない。
 でも否定する材料も理由も既になかった。彼の胸の中には、既に守りたいと願った娘が、
家族が戻ってきているのだから。
 ブルートに障壁を維持させつつ、私は剣を賊達に向けて構え直すと言った。
「ならもう、貴方とは戦う必要はないわよね? 待っていて。すぐに片付けるから」
「……何でだ。さっきまで俺はお前を」
「何でって。その子が理由なのは明白じゃない。戻ってきたんでしょう? 私が依頼された
のはこの賊達の討伐、仲間達を倒された恨みを晴らすという私情じゃないわ」
「……」
「それに」
「? 何だよ」
「……“家族”の為に戦うって人を、失わせたくはないもの」
 男は最初、戸惑いのような驚きのような目を瞬かせ、私を見ていた。
 それでもややあって、彼はおもむろに立ち上がると私の隣で戦斧を同じく賊達へと向けた
のだ。ミアちゃんも幼いながらも父親のことはよく分かっているらしく、とたとたと私達の
後ろへと走っていくとしっかり物陰に隠れてこちらを見つめている。
「女一人に任せてられっかよ。けじめはつける」
「あら? あれだけ私に苦戦しておいて女の癖にって言うつもり?」
 賊達が障壁に突っ込んでくる。
 だがブルート謹製の防御を、力押しの野盗が破れる筈もなく。
「そういう意味じゃねぇよ。……まぁいい。足を引っ張ってくれるな。えっと……?」
「イセルナ・カートンよ。貴方は?」
「……ダン・マーフィ。傭兵くずれさ」
 私達はそこでやっとお互いの名を名乗り合って向き直ると、同時に地面を蹴って──。

「──ナ。イセルナ」
 ブルートの声が、はたとイセルナの意識を現実に引き戻していた。
 目の前を音もなく漂っている、蒼いオーラを纏う梟型の持ち霊。彼は一瞬だけ怪訝な様子
を見せつつも、やっと我に返った相棒に報告をする。
「精霊達が情報を持ってきたようだ。……あまり、いい報せではないらしいが」
 その言葉にイセルナは僅かに表情を硬くし、意識を集中させていた。
 ほぼ同時に、ふわっと二人の周りに漂う曖昧な光──下級精霊の顕現はこれくらいが限界
であることが多いのだ──が見聞きした言の葉を届けてくれる。
「ああ。いつもの伝令か」
「それで……彼らは何と?」
 そんな彼女の傍らで、ダンとリンファが片眉を上げつつ目を細めつつ訊ねていた。
 ふわり。報告を済ませて再びセカイの一部に還って姿を消していく精霊たちに礼を述べて
送り出してから、イセルナとブルートは言う。
「ええ。どうやら思ったより事態が早く進んでいるみたい」
「アウルベ伯が動き出しているようだ。ジークとアルスの確保を命じたらしい」
「領主がか? 何でまた……」
 ポリポリと顎を掻きつつ、ダンは眉根を寄せる。リンファも僅かに視線を落とし、何事か
憂慮の念を抱いているようだった。
 この梟響の街(アウルベルツ)を治める領主がレノヴィン兄弟を捜している。それが意味
することは、自分達が歩んできたこの状況を考えれば……。
「……“結社”絡みか」
「ええ」「ほぼそう見て間違いないだろう」
「チッ……。帰って来て早々かよ。ご苦労なこった」
 四人は互いの予測を擦り合わせてから、口の中で嘆息を漏らした。
 もうというべきか、やはりというべきか。
 少なくとも早々に同業者達への引き込みを済ませておいて正解であったらしい。
「ならば一旦ホームに戻るべきか。動こうにも先に押さえられては拙い」
「そうだな。皆にも召集を掛けねぇといけねぇし」
「ええ。急ぎましょう」
 イセルナ達は、その足で急ぎ自分達の拠点へと向かう。
「……私の“家族”に、手出しをされて堪るものですか」
 小さな、彼女のそんな呟きを残しながら。

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  1. 2011/12/23(金) 23:00:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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