日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-〔11〕

 珍しく礼を以って頭を下げてきたジークに、イセルナら一同は少なからず驚いているよう
だった。しんと、ロビーに沈黙が走る。
「……学院で何か分かったのね?」
 暫しの間を置いて、イセルナが皆を代表して訊ねていた。
 ジークはその言葉にワンテンポ遅れてゆっくりと頭を上げて言う。
「ええ。何か、俺の刀はかなり珍しい──ア、アート……」
「アーティファクト?」
「え、ええ。それッス。何でもそのアーティファクト級の魔導具、らしいんです」
「ほぅ……。やはりただの代物ではなかった訳だ。でも何でそれが休暇願いになるのかな」
 ハロルドの小さな含んだ微笑の問いかけ。
 その隣に立つリンファは眉根を寄せて押し黙っていたが、彼はそんな彼女の様子にもそれ
となく横目の一瞥を寄越している。
「刀を診て貰った魔導師のおっさんからも言われたんです。一度、母さんに──この刀をく
れた本人にこいつらの事をちゃんと問い質してみるべきだって」
 するとジークは、何処か返事を躊躇うように俯き加減の顔をしかめると、
「……それに、もう知らん振りをしたままじゃいられない。俺がこいつらを持ってる所為で
リンさんを怪我させる事になっちまった。サフレやマルタを巻き込んで、シフォンにも危な
い目に遭わせちまった……。もうこれ以上、俺の所為で皆が傷付ける訳にはいかねぇ……」
 悔しさを押し殺すように吐露された、抱え込まれた罪悪感。
 再び、しんと面々は押し黙っていた。
 ずっと気に病んでいたのだ。最初に“結社”の傀儡兵らとの一戦からずっと。
 病室のシフォンに漏らしていた思い。イセルナら四人はあの時の彼の悔しさを思い、安易
な慰みは通用しないだろうと悟っていた。
 リンファとシフォンは特に、アルスから以前聞いた兄弟の過去を思い出す。
 魔獣によって奪われた故郷の同胞らの命。そしてあまつさえ瘴気に中てられ魔獣化してし
まったそんな一人を自らの手で殺さざるを得なかった心の傷(トラウマ)。
 普段は無愛想な言動が目立つが、この眼前の青年は誰よりも“強さ”に拘っているのだ。
 もうあの時のように、力不足から誰かを守れなかった結末を繰り返さない為に。
 だからこそ──その時とは事情が違っているとはいえ──“自分が原因で仲間が傷付く”
ことにきっと誰よりも敏感であり、堪えがたい心地がしているのだろう。
「……なるほど。だから、お前のお袋さんに問い質すために故郷に戻ろうってわけか」
 今度はダンがそんな皆の想いを代表するかのように大きくため息をつき、ガシガシと髪を
掻きながら言った。ちらりとイセルナとブルートを、リンファを、ハロルドを、この場にい
るクランの幹部にして戦友(とも)でもある面々を見遣る。
 コクと。皆の頷きが確認できた。
「……駄目ッスか?」
「別に断わる理由なんざねぇだろうが。俺達としてももう“結社”とはドンパチやっちまっ
てるんだ。むしろ向こうの狙いやら手掛かりが掴めりゃ助かる」
「それじゃあ──」
「だけどな」
 断わられる訳ではない。ジークが僅かにホッとして言葉を続けようとしたが、それをダン
は遮っていた。小さな怪訝と、にやりと威厳のある含み笑いと。両者が視線を交わす。
「一つ条件がある。俺達も連れてけ」
「えっ……?」
 するとジークは隠す事もなく驚いていた。いや戸惑いという表現に近いのだろうか。
 全く……。てめぇの考えてることは分かり切ってんだよ。
 ダンは内心で一笑に付していた。
 大方、自分達を巻き込む訳にはいかないとかのたまうつもりなのだろうが……。
「あのなぁ、お前は俺達が“結社”相手にやられるとか考えてんだろ? その台詞、そっく
りお前に返すっての。これでもお前よりはずっと長く冒険者やってんだ。そう簡単に後れを
取られて堪るかよ」
「そうだね。それにジーク君一人よりも私達が徒党を組んでいた方が“結社”と相対した時
も対処の幅が広がる。合理的に考えても君一人に全てを背負わせる訳にはいかないさ」
「……ジーク、もう私は君の歩みを止める事はしない。ただせめて、その背中を守らせてく
れはないだろうか? 一度逆に守って貰った口で言うのも何だがな……」
「分かってやれ。皆にとりお前は仲間だ。奴らの狙いがその身と剣ならば尚更だろう?」
 ダンの苦笑と憎まれ口を皮切りに、皆の意見は一致していた。
「……みん、な」
 仲間だろう? 水臭いこと言うなよ──。
「ふふっ。そういう事だから。ね? ジーク、私達もついて行っていいでしょう?」
 そんなイセルナ達の気遣いが、温かさを帯びて決心を固めようとしていたジークを包む。
「……。本当にいいのかよ」
「くどいっての。それに、そこの弟君もお前の一人旅は許さないんじゃねぇか?」
「へ?」
 唇を噛んで渋々とするジーク。
 だがダンはそうした反応は織り込み済みだったらしく、今度はついっとそう彼の背後を顎
で示すと言った。
「兄さん……」
 振り返ると、ロビーとの境目の物陰にアルスとエトナがこっそりと隠れるようにしてこち
らを窺っていた。ダンの言葉で兄や一同の視線がこちらを向くと、エトナを伴って、この弟
は緊張と驚きを半々に混ぜたような表情(かお)でふらふらと近付いて来る。
「村に、帰ってくれるの?」
「……あ、あぁ。話、聞いてたんだな」
「うん。その、偶然通り掛っちゃって……」
 もじもじと。だがこの少年の感情は驚きから徐々に喜びにシフトし始めていた。
 バツが悪くジークが言葉を濁しかけるのを遮ってしまうかのように、ややあって彼はバッ
と顔を上げると、
「兄さんが帰ってくれるなら、僕も一緒に行く!」
 ぱあっと明るくなった笑顔で告げる。
「お、おい。勘違いするなよ? これは村に戻るんじゃなくて母さんに刀の事を訊きに」
「同じことだよ! そっか……。やっと兄さんを皆に会わせられるんだ……!」
 少なくともアルスの中では「兄が故郷に戻ってきてくれる」ことへの喜びが大きなウェイ
トを占めているらしい。
 ジークは微妙に解釈がズレているそんな弟に言葉を掛けようとするが、満面の喜色を浮か
べるその様子に水を差すような真似もできず、ただ気まずく頬を掻くことしかできない。
「まぁいいんじゃない? どのみち帰省って事には間違いないんだしさ」
「そりゃあそうなんだが……」
 エトナも苦笑い気味に。傍らの相棒を横目にしながら、ジークとその苦笑を共有する。
「決まりだな」
 そしてダンが仕切り直すように言った。
 イセルナとブルート、リンファにハロルド。この場にいるメンバーらと共にジークを見遣
るとフッと口元に孤を描く。
「そうと決まれば善は急げだ。ハロルド、リン、皆を呼んでくれ。今抱えてる依頼、さっさ
と片付けちまおうぜ!」
 ジークが、アルスとエトナが見遣る中、ブルートバードは再び動き始めた。
 一度乗りかかった船。その行く末を決める舵を、自分達の手で握るべく。

続きを読む
スポンサーサイト



  1. 2011/11/12(土) 20:30:00|
  2. ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0

自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

訪問者累計

最新記事

最新発言

検索窓

月別履歴

10 | 2011/11 | 12
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 - - -

分類/索引

【案内板】 (2)
【小説:短編】 (20)
本の蟲 (1)
硝子野不動産店 (1)
夏の日の幻影 (1)
四番線の彼女 (1)
夢視の宿 (1)
線を曳く町 (1)
炬燵の神様 (1)
三者三盗噺 (1)
色眼鏡 (1)
奴らは攻城戦師 (1)
詰め替える (1)
同じ籠の狢 (1)
二十年後の遺言 (1)
轍の先 (1)
水に流せば (1)
真夜中の御二柱 (1)
いつか見た夢 (1)
神様達の初詣 (1)
白い花束 (1)
丸の代償 (1)
【小説:長編】 (194)
Amethyst League (6)
アンティーク・ノート (3)
ユウキのヒカリ (5)
NIGHT GUNNERS (5)
レディ・ルーン-Bonds of RU'MEL- (6)
ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle- (111)
死に損いのデッドレス (5)
Dear SORCERY (4)
サハラ・セレクタブル (49)
【企画処】 (472)
週刊三題 (462)
その他参加物 (10)
【資料庫】 (2)
【落書帳】 (2)
【詩歌帳】 (8)
【雑記帳】 (403)
【読書棚】 (32)
【遊戯倉】 (25)
path. (4)
decide: (3)
ユー録FW(凍結中) (17)

記事録

交友関係

このブログをリンクに追加する

(RSSリンク)

(QRコード)

QR

Tweets by long_month