日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔35〕

 いつだって強く思う。この世界は、嫌(ヤ)な奴ばっかりだって。

 私が物心付いた頃には、親父とお袋の仲はもう冷え切ってた。記憶の隅にこびり付いてる
のは、言い争う二人の怒声や罵声、獣みたいな横顔。
 物を投げ付け合っている時も珍しくなかった。取っ組み合いの喧嘩になる事も少なくなか
った。でも、遠巻きに見れてる内はいい。その矛先が私に向けられる日だってあったから。
あいつらの匙加減一つで、一体何度理不尽な目に遭わされてきたか。

 ……こいつらは、家が同じだけの他人だ。いや、同じ人間だとすら思いたくない。
 いつだって苛々する。どうして私だけ、こんなハズレくじを。
 あの二人だけの話じゃない。学校でもクラスの奴らは、毎日飽きもせず“仲良しごっこ”
の下で、互いの足を蹴り合ってる。女子特有の陰険さと、誰が決めたのかもはっきりとしな
いペースに、ルールに合わせなきゃいけないっていう面倒さ。本当に息が詰まる。
 なのに先公達は、分かった風に──実際は分かってても見て見ぬふりをして、何としてで
も私達に“問題がない”ってことにしたがって。
 地区の連中もそうだ。事ある毎に“見守り”だ何だと言って、放課後の私達の行動まで監
視してくる。無駄にニコニコしてくる裏で、何を考えてるのか分かったモンじゃない。それ
ぞれの仕事に、家庭に戻れば、そいつらがクソ野郎じゃないなんて保証は何処にもありはし
ないんだから。
 大人なんて皆そんなものだ。テレビの向こうでも、毎日のように芸能人や政治家、金持ち
連中のスキャンダルを嬉々として伝えてる──寄って集って誰かの足を引っ張ることばかり
に熱を上げている。進歩することを自分達から放り出して、代わりに残ってるカスを我先に
と争って、食い潰し続けているようにも見える。
 ……本当に、腐ってやがる。
 なのにあいつらは、口を揃えて私に言うんだ。
 必死になって勉強しろ、この国を担う人間になれ。その為の集積都市なんだと、口酸っぱ
く説教してくるけど、何で“こんな国”を支えなきゃいけない? “こんな国”を支える為
に大人にならなきゃいけない? 自分達がクソであることを理解しようとさえしないで、責
任ばかり押し付けてくるような連中の尻を拭く為に、私は生まれてきたんじゃない。お前ら
の“予備”になる為に、私は生まれてきたんじゃない。

 ……そんなの、絶対に嫌だ。
 でももし、そうしてああやって、汚く醜くなることが“大人”なんだと言うのなら。
 私は絶対、大人になんてなりたくない──。

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  1. 2018/06/19(火) 18:00:00|
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(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔34〕

「うぐっ!?」
 動きを止めたその一瞬が決定打だった。がら空きになった両腕の隙間をヘッジホックの拳
が抉り打ち、睦月は大きく吹き飛ばされた。目の前の遠巻きから、インカム越しから、仲間
達の自分を呼ぶ声が聞こえる。
「……」
 棘付きの拳鍔(ダスター)を両手に提げながら、鬼気迫る様子のヘッジホックがゆっくり
と近付いて来る。
 一方で守護騎士(ヴァンガード)姿の睦月は、その面貌の下で、ぐらぐらと動揺に瞳を揺
るがせているままだ。
「これで──」
 拳鍔(ダスター)を振り上げ、睦月に止めを刺そうとしたヘッジホック。
 だがそんな時、彼の身体に異変が起こった。不意に全身から血が──デジタル記号の粒子
が再び溢れるように噴き出し、その動きを止める。
 ダメージだ。初手の奇襲で國子達から受けたダメージが、今になり響いてきたのだった。
「かはっ……?!」
『……! よし、効いてる!』
『今だ睦月、反撃しろ!』
 瞳を明滅させ、ぐらりと大きく仰け反るヘッジホック。
 その異変を見て、すかさず指示を飛ばす、皆人以下司令室(コンソール)の面々。
 しかし肝心の睦月は、動かなかった。いや、迷いに囚われて動けなかったのだ。
 すぐ目の前で苦しみ、それでも尚抗おうとするヘッジホックの姿。
 その姿と、直前彼と打ち合いを繰り広げた際の言葉が、睦月の脳裏の中央でハレーション
を起こしている。

『約束したんだ……。お前を倒せば、僕達は自由になれる!』

 確かにヘッジホックは、そう言った。
 ただそれだけの為に、こいつは自分に戦いを挑んできた。
 ……どういう事だ? あの後から今日までに、奴らの間で一体何があった?
 頭の中が混乱している。戦いの意識と、もう一つ過ぎるのはかつての“友”の姿だった。
 これはあくまで推測の域を出ない。だがもしそれが正しければ、今自分が戦っている、倒
そうとしている相手の目的は……。
「ヘッジ!」
 ちょうど、その最中だった。海沙や宙、仁と対峙していたトーテムは、ビルの屋上からこ
の戦いの一部始終を目撃していた。
 自らに浴びせられた粘着弾にもがきながら、この盟友の危機に動こうとする。ぐおおおお
おおッ……!! ミシミシと、自身と足元のコンクリ床とを強力に貼り付けている粘々を、
その念動力の浮遊で少しずつ力ずくで引き剥がしてゆく。
「!? しまっ──」
 そう仁がハッと顔を引き攣らせた時には既に遅かった。一度完全に身動きを封じてやった
と思ったトーテムは、次の瞬間、その足元のコンクリ床ごと脱出して空中へと飛び上がって
行ったのである。仁達が追おうとしても間に合わなかった。海沙のビブリオが、宙のカノン
の銃口が慌ててトーテムに向くが、彼は一切構わずそのままヘッジホックの下へ急行する。
「掴まれ! 一旦退くぞ!」
 足元に粘着弾で貼り付いたままのコンクリ床──瓦礫の塊をぶら下げたままで。
 トーテムは“出血”にふらつくヘッジホックに、そう叫んで手を伸ばした。鬼気迫る表情
のまま、ギロリとこちらを睨み返してきたが、それでも数拍後には促されるがまま、その手
を取って彼と共に大きく再浮遊する。
 國子ら奇襲班はさせじと、このトーテムを叩き落そうとしたが、こちらへ飛んでくる際に
散らばり降ってくる無数の礫(つぶて)がそれを妨げた。
 混乱に、更に上乗せした混戦と、土埃。
 故に気付いた時にはもう、この二人のアウターはまんまと、睦月ら包囲網の中から逃げ出
してしまった後だったのである。
『……ちっ』
 インカム越しの向こうで、皆人が小さく舌打ちをするのが聞こえた。
 しかし当の、現場の睦月は、未だ動揺に身体の自由を押さえられたまま、荒く肩で息をす
る事しかできなかった。

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  1. 2018/05/22(火) 18:00:00|
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(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔33〕

 暗がりに潜む地下のサーバー室に、珍しい客がやって来た。灰色フードの青年と老紳士風
の男──ヘッジホックとトーテムである。
 カツンカツンと響いた足音の後、開いたゲート。
 その横顔、特にヘッジホックのそれは、真っ直ぐに張り詰めたかのような険しさを湛えて
いる。
「……何だおめえ。どうやって入った?」
 これにすかさず動いたのは、正面の円卓の面々だ。
 二人を睨み付けるチンピラ風の男(グリード)と、傍らの肥満の大男(グラトニー)に、
神父風の男(ラース)。ゴスロリ服の少女(スロース)、黒スーツの青年(ラスト)及び、
エンヴィーこと勇──不在の白鳥(プライド)を除いた“蝕卓(ファミリー)”幹部七席。
 気配ですぐに同胞だとは分かった。だがここは自分達蝕卓(ファミリー)の拠点だ。専用
のIDを使わない限り、ここへやって来るのは基本的に不可能な筈だが……。
「──」
 するとそんな思考を読んでか、トーテムがついっと指を一つ立てた。円卓の上に置いてあ
ったカップが、右へ左へとひとりでに滑って止まる。彼の念動力の能力だ。ラースが眼鏡の
奥から、ラストが流し目の端で視線を投げていた。どうやら扉のロックも、こうして物理的
に解除したらしい。
「やあやあ。おかえり。ヘッジホック、トーテム。君達から“里帰り”してくれるなんて、
泣かせてくれるじゃないか」
 ラース達の剣呑に反応して、暗がりのあちこちから現れていた無数のサーヴァント達。
 しかしその一方で、白衣の男(シン)だけは上機嫌だった。いつものように飄々としてい
るとも言えたが、両腕を、纏う白衣を大きく広げると仰々しく出迎える。
『……』
 だが肝心の、対するヘッジホックの表情は険しいまま微動だにしなかった。傍らのトーテ
ムも、彼ほどではないが、言葉なく白い目を向けている。
「……用件を聞こうか」
「ああ。折り入って、あんたに頼みがある」
 ラース以下七席達が、無言のまま眉を顰めた。それでもシンが自分達の前面に出て話して
いることから、実際に割って入ってまでこれを遮ろうとはしない。
「一つ、約束をして欲しい。僕が守護騎士(ヴァンガード)を倒せたら、僕の仲間達を自由
にさせてやってくれ。あんたらが僕達に手を出さないのなら、僕達もあんたらに手を出さな
いと誓う」
 ヘッジホックは言った。それは自らが、彼の者に対する刺客にならんとする宣言だった。
 全ては亡き友の──バイオの願いの為。やり方はいささか乱暴ではあったが、自分達の未
来を勝ち取ろうとして半ばに散ったその遺志を、彼は受け継ごうとしたのだ。
 ヘッジ……。傍らのトーテムが、実際にそう漏らしたかのように、きゅっと静かに唇を結
んでこの横顔を見ている。
「はあっ!?」
「おい、待て。何を勝手な事を……」
 当然ながら、この一方的な提案に幹部達は反発を隠さない。
 特に血の気の多いグリードや、獲物を奪われる格好となる勇は黙っていない。そうでなく
とも“身勝手”と映るのだ。そう安易に「独立」など許す訳にはいかない。
 詰まる所……敵討ちだとしても。
「ああ、いいよ」
『シン!?』
 だが当のシンは、そんな申し出をあっさりと受け入れた。ラース達を始め、周りの幹部達
が驚いたようにこちらを見遣ってくる。ガタッとにわかに席から立ち上がろうとする勇らを
制しながら、やはり彼は飄々としていた。
「まぁ、いいじゃないか。やらせてみるくらい。亡き仲間(とも)の弔いの為に……泣かせ
るじゃあないか」
 片手で目元を拭うようにして、だけども表情は変わらず底知れぬ笑みを。
 ラース達は押し黙っていた。蝕卓(ファミリー)の頂点、自分達を生み出した張本人がそ
う認めるのなら、これを覆すほどの権限は持ち合わせていない。
 勇が明らかに不服なまま席に座り直し、ラースが眼鏡のブリッジを、スロースがやれやれ
と嘆息をついている。そんな面々のやり取りをじっと見ていたヘッジホックが、改めて確認
するように問うた。
「……本当にいいんだな? 僕達を、自由にしてくれるんだな?」
「ああ。約束しよう。その間、こちらも邪魔はしないでおくよ」
 一見朗らかにシンが言う。ヘッジホックは、トーテムはこれを数拍じっと見つめていた。
 ゆっくりとその返事を咀嚼するように、全身に染み込ませるように、彼らは一旦目を瞑り
ながら深く息を吐き出した。安堵したのだろうか。「必ずだぞ?」念を押すように、確約を
取りつけるように、去り際にもう一度こちらを見据えてから踵を返す。
「……」
 その一瞬、トーテムが迷うように彼とシン達とを見比べていた。さりとてそれも数拍の事
で、すぐに彼の後を追って歩き出す。

 カツカツと、靴音が遠ざかって行った。
 少しだけ明かりの差した暗がりの中で、シンと七席達は不気味に佇んでいる。

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  1. 2018/04/24(火) 18:00:00|
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(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔32〕

「ん、う……?」
 カーテン越しの朝日が瞼の裏に注ぎ、睦月はゆっくりと目を覚ました。
 断続的に鳴り続けるアラーム──枕元のデバイスにもぞもぞと手を伸ばし、手元に引き寄
せる。チチチと、小鳥達の囀る声が、そこで初めて遠くに聞こえた。
『07.03 AM6:30』
 タップした画面には、そう日時が表示されている。
 睦月は疑いもしなかった。機械とは、淡々と命令通りにそのタスクを捌き続ける存在なの
だと。……いや、一見そうしたシステマティックとは対極にあるような少女が、この画面の
奥の方で、くてんと寝返りを打ったりしてはいるのだが。
 昨日は何があったっけ? ぼんやりと、まだ半分眠っている頭のまま、睦月は昨夜までの
記憶を引っ張り出そうとしていた。
 バイオを倒し、再び変身ができるようになり、冴島さんが“唇のアウター”に襲われた筧
刑事をすんでの所で助けた──。
(……由良刑事は、もう)
 冴島や司令室(コンソール)の皆人達との、通信越しの会話を思い出し、睦月はスッと音
もなく表情を曇らせる。
 現場に居合わせた冴島隊曰く、奴の口振りから、由良が同じく襲撃されたのはほぼ間違い
のだという。事実当の本人は、ここ数日行方を眩ませていた。正直ショックだったが、そう
いう事なのだと認めざるを得ない。
 筧は通信越しに、自分達を──対策チームの暗躍を非難し、皆人もこれに強く反論した。
曰く一度目の勧誘の際に彼が応じていれば、そもそもこのような事態には発展していなかっ
た筈だと。
 でも……と睦月は思う。それを言うなら、肝心な時に変身に失敗し、コーカサスフォーム
を由良刑事に使う機会を逃してしまった自分にこそ、明確な遠因があるのではないか? 友
はそれを自覚させないように、仲間達に意識させないように、敢えてもっと遡ってそもそも
論を弄したのではないか?
 個人的な意見としては、結局の所、責任転嫁なんだろうと思う。
 対策チームを名乗り、アウター達から街を人々を守るという体を採りながらも、その実失
うものの方が多かった。勿論それを理由に戦うことを止めてしまう訳にはいかないし、止め
ないことがひいては周りの大切な人達を守る──自分の利益、良心の呵責にも適う訳なのだ
が、一方で自分達はそういった自覚をもって臨むべきではないのかと思うのだ。
「……っ」
 そこまで悶々と考えて、睦月はふるふると首を横に振った。
 いけない。自分はともかく、皆人達にまでそんな押し付けがましい事……。これは自分の
我が儘で、他人に求めても詮無いことだ。皆は最善を尽くしてくれている。その事実だけは
忘れてはならない。
「明日から期末テストかあ」
 だからこそ、睦月はそう自ら頭を切り替えるように、画面の日付を眺めながら呟いた。日
常の裏側でどんなにアウター達との戦いを繰り広げようとも、季節は着実に移ろっている。
梅雨明け、夏本番は近い。
『──!?』
 だからこそ、パンドラはぎょっとした。画面の中で、しょぼしょぼと寝惚け眼を擦りなが
ら起きようとしていた所に、そう彼が“何も覚えていない”風なことを口走るものだから、
彼女は大いに焦ったのである。
『ま、マスター。もしかして……何も覚えてないんですか?』
「? 何もって、何を?」
 画面の外、現実(リアル)の側からそう小さく頭に疑問符を浮かべて応じてくる睦月。
 パンドラは確信した。嗚呼、やっぱりだと思った。電脳の身体を持つ自分は憶えている。
すっかり一晩経って忘れてしまった彼に向かって、改めて話し始める。
『新しいアウターが現れたんですよ。今日一日を、何度も巻き戻す能力を持つ個体が──』
 画面の中から身振り手振り。自らの中に幾度も蓄積された“今日(ログ)”を、つぶさに
語っては訴えて。
 じわりとゆっくりと。睦月の両目が大きく見開かれてゆくのが分かった。一時は失われて
いたn回目の今日という記憶が、認識が蘇って急速に頭の中を駆け巡る。くしゃっと、思わ
ず後ろ髪を掴んで、睦月は絞り出すように呟いた。
「……そうだよ。僕らは……」
 思い出した。
 それは睦月達が、繰り返される七月三日(ひび)から抜け出した瞬間で──。

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  1. 2018/03/20(火) 18:00:00|
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(長編)サハラ・セレクタブルⅢ〔31〕

 チクタクと、時計の針が動く音ばかりがする。
 その夜、彼は一人自室に篭もって試験勉強を続けていた。カリカリと、シャープペンを走
らせる音が耳に重なる。日付もとうに越し、この夜が明ければいよいよ期末試験本番だ。
「……駄目だ」
 しかしこの眼鏡の少年は、はたっとペンをノートの上に投げ出した。口を衝いて漏れたの
は、差し迫った嘆き──焦燥感だった。
 口の中がカラカラになる。時間が……足りない。
 彼は学園内では、基本優等生として通っていた。それは他ならぬ本人も自負している所だ
ったのだが、成績はここ暫く下降状態が続いている。いや、失速しつつあると言っていい。
 強い焦りの原因は、まさにそこだった。次こそ結果を出さなければ、このまま“落ちて”
ゆく予感さえあった。
 ──空高く飛んでいた姿から、真っ逆さまに墜ちるイメージ。思春期特有の、ゼロサムの
極端な飛躍。
 事実このまま落第などすれば、卒業後に選べる進路は狭まるだろう。そうなれば将来の、
自分の人生そのものが大きくグレードダウンすることは避けられない。……怖かった。社会
のレールから外れることは、彼にとって限りなく絶望に近い。現実のゼロサムも、飛躍した
イメージも、油断すればすぐにでも自分を奈落の底へと叩き落す。
 “新時代”以降、いわゆる弱肉強食や競争原理が肯定され、社会は自己責任の気風を強く
帯びるようになった。彼のような、物心ついた頃にはそれが当たり前となっていた──重圧
の中で生きてきた人間が、怖気づくのも無理はないのかもしれない。少なくとも現実という
ものは、早く動いてきた者がより多くを総取りしてゆく構図なのである。
 少年の両親は、共に手堅い公務員だ。彼の家系は代々、そうした地位に収まって安定した
暮らしを勝ち取ってきた。
 だからこそ、彼に掛かる期待、プレッシャーは目に見える以上のものだった筈だ。なまじ
両親がエリート街道を通ってきたタイプの人間であるが故、泣き言一つ伝えるのも何処か躊
躇われる環境だったからだ。
 彼は今、国立の一貫校・飛鳥崎学園に在籍している。つまりは……そういう事だ。
 彼は独り頭を抱えていた。机を照らす明かり以外はすっかり暗くなってしまった室内で、
髪をガシガシと掻き毟っては焦る気持ちにばかり苛まれている。時間が、足りない。
(せめてもう一日。もう一日あれば……)
 ちょうど、そんな時だった。頭を抱えていた彼は、ふと思い出したかのように机の引き出
しを開けていた。
 一番下の、最も深くてたくさん入る所。そこには短銃型のツール──リアナイザがしまわ
れていたのだった。参考書や教材、整理されたファイルが几帳面に並ぶ中にあって、それは
とても奇異に目立って映る。
「……」
 焦りでやつれた表情(かお)。
 彼はその険しい顔色のまま、この押し黙るリアナイザに手を伸ばして──。

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  1. 2018/02/20(火) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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