日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔48〕

「リアナイザを、持っていない……?」
 突如として魔女型のアウターと、その召喚主と思しき女性に襲撃された睦月達は、彼女ら
相手に有効な攻め手を見つけられないでいた。
 炎や雷、冷気に風刃。多彩な攻撃を持つ魔女(ウィッチ)を一旦諦め、睦月はEXリアナ
イザの銃口を彼女に向けようとしたが──当の本人の手には、改造リアナイザはおろか、鞄
の一つも下がっていなかったのだった。こちらに向けてくる眼差しだけは並々ならぬ敵意に
満ち、しかし自身は丸腰と呼んでも差し支えなかったのである。
(……ど、どうする?)
 目に映った光景・事実に、睦月は思わず戸惑う。引き金をひく訳にはいかなかった。
 アウターの苗床である改造リアナイザが見当たらないという事は、彼女が召喚主ではない
可能性がある。つまりは別の誰かなのか? 或いは既に実体化を果たしているのか?
 ただ少なくとも、睦月にはこの二人が阿吽の呼吸であるように思えた。怒り狂うさまを始
めとして、その湛えた“感情”はお互いに酷似している。
 何よりも……彼女は明らかに生身の人間なのだから。
「アアアアッ!!」
 しかしそんな隙を、ウィッチは見逃さなかった。睦月が彼女にみせた躊躇いを、絶好のチ
ャンスと捉え、右掌に炎を集束──鞭状に変えてぶつけてきたのだ。
「ぐがッ?!」
「佐原!」「睦月君!」
 そのやや斜めから割り込んできた一撃を、守護騎士(ヴァンガード)姿の睦月はもろに受
けてしまう。仁や冴島、仲間達が思わず血相を変えて叫ぶ。隊士達のコンシェルらも何体か
巻き込みながら、睦月はビル壁の一つに叩き付けられた。鈍い衝撃音と共に、大きな陥没を
作ってひび割らせ、ぐったりとその場で項垂れる。「フゥゥ! フゥゥゥーッ!!」女性と
ウィッチが、勝ち誇ったように口元を歪め、或いは再三狂気のままに吼えていた。
「おい、佐原! お前ら! しっかりしろ!!」
「拙いぞ……。彼が崩されたら、僕達は……」
 絶体絶命のピンチ。止めだと彼女に呼応し、ウィッチが両手に雷のエネルギーを集める。
『司令』
 だがちょうど、その時だったのだ。次の瞬間司令室(コンソール)の向こうで、職員の一
人が皆人に報告を上げる声が聞こえてくる。緊張気味のそれが、気持ち通信越しの睦月達か
らも大きく漏れ聞こえて響くようだった。
『七波由香の居場所が判明しました。北大場三番地二十七──廃ビル群の一角です』
 えっ? 故に仁や隊士達、睦月らは思わず目を丸くして呟いた。不意に出てきたその名前
に、後の細かいやり取りが頭に入って来ない。
 何故そこで彼女が? ここ暫くは対策チームメンバーのケアの下、保健室登校と警備の続
く自宅を往復していた筈ではなかったのか? コンクリ壁の陥没に背を預けた睦月も、ゆら
りと顔を上げてこの報告を聞いている。静かに目を細めた冴島が、通信の向こうで挙げられ
たその方角、遠巻きに見える廃ビル群を仰いだ。
「七波さんが? 北大場……近くだ」
 するとどうだろう。それまで怒涛の襲撃を仕掛けていた、ウィッチとその召喚主と思しき
女性は、文字通り彼の呟きに血相を変える。「ナナミ……?」「七波由香!」憤怒の矛先を
あっという間に切り替え、全滅一歩手前の睦月達をそのままに、脇目も振らずに向かって行
ってしまったのである。
「……。えっ?」
「助かった、のか……?」
 回収するようにこの女性を抱え、二度・三度大きく跳躍。ビル街の向こうへと瞬く間に消
えてゆく魔女型(ウィッチ)のアウター。
 はたして一行は、その場に取り残される格好となった。ボロボロになりながらも、敵が止
めすら刺さずに往ってしまい、暫し呆気に取られたように立ち尽くした。

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  1. 2019/10/22(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔47〕

 公の状況が新たに変化し始めたのは、他ならぬ渦中の関係者が一つ、H&D社がその日動
きを見せたからだった。同グループのトップ、リチャード・ビクターCEOが突如として、
飛鳥崎市内で記者会見を開いたからである。
「ようこそ皆サマ。本日は遠い所へ足を運んでいただキ、ありがとうございマス」
 キラキラと、文字通り輝くような平素の微笑(えみ)も、流石に今回ばかりは幾許かの影
が差しているようだ。外人訛りのこなれた日本語で、先ずはそう開口一番繕いを覗かせる。
『──』
 それでも会場に駆け付けたマスコミ各社は、総じて緊張と驚きに包まれていた。広々とし
た室内、指定されたホテルのイベントホールの方々から、構えたカメラのフラッシュが焚か
れていてる。
 渦中のH&D社が、事件後ようやく声明を出したという点は勿論ながら、まさか彼がこの
飛鳥崎までやって来ていたとは。
 事前にそのような情報は無かった。完全にお忍びである。尤も自社製品への信頼が大きく
損なわれかねない中、CEO自ら火消し──本国を飛び出して駆け付けるべき案件であると
考えたなら、そこまで不自然という訳ではないのかもしれないが。
 曰く先の中央署の一件、いわゆる電脳生命体に自社の製品であるリアナイザが関わってい
るとの情報を受け、彼らは内部調査を進めていたのだという。今回来日し、このような会見
の場を開いたのは、他でもないその結果を伝える為だ。
「結果から申しましテ……報道されている内容は、事実デス」
『!?』
 ざわっ。強くひっきりなしになるカメラのフラッシュは勿論、リチャードの端的な発言を
受けて、集まった記者達は目に見えて衝撃を受けていた。大きく目を見開き、神妙な面持ち
を貼り付けて語り出す彼の一挙手一投足に、細心の注意を払っている。
「調査の結果、我々の商品であるリアナイザを違法に改造シ、件の怪人達の苗床とシテ巷に
ばら撒いている者達がいると判明しましタ。皆サマもご存知の通り、彼らはこの街の中枢に
さえ忍び込み、暗躍してきた者達デス。残念ですガ……事態は既に我々のみでは対処し切れ
ないほど大きくなっていマス。それでも我々にハ、未だ出来ることがありマス」
 加えて同グループの総責任者として、当面正規リアナイザの出荷を自粛し、既に市中に出
回っている分の回収を進めるとも彼は表明したのだった。かねてより水面下で進行していた
対応ではありながら、今後も飛鳥崎当局と協力して事態の収拾に当たり、損なわれた信頼を
取り戻す決意だ……とも。
「皆サマも、どうかご協力をお願いしマス」
「この度ハ、誠に申し訳ございませんでしタ」
 そうして深々と、同席していた他の幹部らと共に頭を下げ始めるリチャード。流石は世界
中に事業を展開するグループのトップか。欧米(ほんごく)以外の文化圏における、求めら
れる対応のスタイルについても、豊富な知識と理解があるらしい。ここぞとばかりに記者達
が、この絶好の“画”を収めに掛かる。
(……まさか、あのビクターCEOが直々に出張って来るとは)
(こいつは特大のネタだ。暫くはどの局も、この話題一色になりそうだな……)
 一見すると、H&D社の迅速な対応であるように見えた。自社へのダメージを最小限に抑
えたいという思惑なのだろう。
 トップダウンによる大鉈──ただその一方で、自粛によって切り捨てられる人々、リアナ
イザの製造・販売に関わってきた者達が、報道によって埋もれる可能性も出てくる。
(それに……)
 “画”はまだ続いている。実際の所、時間にすればほんの十数秒ほどだ。ただそんな大き
なうねりの中で、記者達の何人かは思った。
 即ち彼らの対応は事実上、既に流通している分も含めて、リアナイザという商品それ自体
を“禁制の品”にするようなものではないか──。

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  1. 2019/09/24(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔46〕

 集積都市が一つ、飛鳥崎の郊外。
 先端インフラの檻(ゆりかご)から距離を置く──取り残されたとある集落の入り口で、
筧はふいっと肩越しに振り返った。警戒心で寄った深い眉間の皺は、今やその標準装備と化
して久しい。
(……何だ?)
 かつてスーツの上にコートを引っ掛けていた刑事の姿は、もう見られない。
 彼はハンチング帽を目深に被り、袖なしベストにズボンといった、変装用の服装に身を包
んでいた。言わずもがな、自らの正体を隠す為である。普段はかけもしない伊達眼鏡もその
一環だ。
 中央署の一件以来、自分を尾けていた冴島達に動きがあったのだ。彼が部下の半分を連れ
て、何処かへと去って行った──遠巻きに潜んでいた気配が、明らかに減ったのを感じ取っ
たのだった。
(まあ、目障りな連中が減ってくれるのはいいが……)
 されど、内心のそんな憎まれ口とは裏腹に、実際に貼り付けていた表情は渋いままだ。
 何の理由もなく、対策チーム(やつら)があの男を下げる事はしないだろう。となると、
それ相応のトラブルが起きたと考えるのが自然だ。……嫌な予感しかしない。街の方に──
七波君(かのじょ)の身に、何かあっただろうのか?
「……」
 しかし筧は、そのまま街の方へ引き返す事はしなかった。
 先日当の本人に、今後の心積もりを留守電に残したばかりだし、何より未だ面と向かって
話せる気がしなかった。心の整理がついていなかった。
 それでも……失意のまま閉じ籠もってしまえば、この視界はどんどん暗く狭くなる。だか
らこそ多少無理矢理にでも、己を“外”に向けていた方がまだ建設的だろうと考えたのだ。

 越境種(アウター)もとい、改造リアナイザの被害者を巡る旅。
 筧が独り足を運んでいたのは、かつて飛鳥崎を震撼させたテロリスト・井道の住んでいた
集落だった。由良と生前、一度聞き込みに訪れた地区でもある。
 司令室(コンソール)の資料によると、爆弾魔(ボマー)のアウターの召喚主。
 彼は急病に倒れた妻を、すぐに搬送に来てくれなかった集積都市に対し、強い恨みを抱い
ていたらしい。
 ……つまりは復讐だった。あの事件は大上段なテロリズムなどではなく、井道個人の復讐
劇と表現するのが正確であった。救命措置が遅れた結果、息を引き取った妻。井道はその無
念を、やがて集積都市の医療だけではなく、街そのものへの敵愾心として膨らませていった
のだろう。
 その為に、違法なリアナイザを?
 最初に資料を読んだ時は、正直そんな風に思ったが、今なら解る気がする。事実かねてよ
り飛鳥崎の水面下では、こうしたアウター達の力に取り憑かれた人間達が、多くの事件を引
き起こしてきたのだから。
 自身も井道以前──対策チーム(れんちゅう)による一度目の記憶操作を受ける前に、期
せずしてその一端に触れようとしていたらしい。
 尤も、これらが明るみに出た切欠が、井道の一件である点に変わりはないのだが。
(……あんまりじゃねえか。恨み辛みに付け入られた挙句、散々利用されてポイなんざ)
 独り筧は集落の一角にある、かつての井道の自宅前に立っていた。事件以降、主のいなく
なった古い一軒家は、どうやら売りに出されてしまったようだ。
 街に子供達がいるとの話も聞いているから、その内の誰かが厄介払いよろしく処分しよう
としたのだろう。ただ事の経緯もあってか、買い手がついている様子はなく、でかでかと地
面に打ち込まれた『売り物件』の看板の後ろで順調に廃屋化が進んでいる。
「……」
 暫くの間、筧はじっと、この見捨てられた空き家を眺めていた。
 あんまりじゃないか。
 言っておいて、思い直す。そもそも自分だって当時は、井道(かれ)が恨んでいた飛鳥崎
当局側の人間だったというのに。
「──誰だい、あんた? この辺りじゃ見かけない顔だな?」
 ちょうどそんな時である。その場に縫い付けられたように、旧井道家を前にしてこれを見
上げ続けていた筧の背後から、ふと少なからず険のある声がした。眉間もろとも皺くちゃの
顔をした、集落の住民らしき老人だった。
 ……拙い。気配に振り向いた筧は、内心焦っていた。
 こちらの正体がバレてしまったのではないか? 何せ自分は以前、由良と共にこの集落で
聞き込みを行っている……。
「え、ええ。市内から来ましたから」
「やっぱりか。てーことは、記者さんか何かかい?」
 ええ、まあ……。だがどうやら、その心配はなさそうだった。この近付いて来た老人は、
変装した筧の姿をざっと眺めると、勝手に勘違いしてくれる。筧は下手に自己紹介する訳に
もいかず、はぐらかすように応じておいた。
 もし自分が元刑事だと知られれば、間違いなく恨み節をぶつけられるだろう。「今更調べ
に? もう遅いよ……」老人は何処か遠い場所を見るような目をすると、おもむろに嘆息を
ついて話し始めた。
「この家に住んでた人のことは、もう知ってるんだろうが……。井道さんといってね。心臓
に病気のあった奥さんと二人で住んでたんだが、その奥さんを亡くしてからというもの、す
っかりおかしくなっちまった。かれこれ半年──いや、八ヶ月前くらいに行方知れずになっ
てそのままだったんだ。で、街で死体になって見つかった」
「……」
「二人とも、飛鳥崎に殺されたようなモンだよ。儂ら郊外の人間は、医者にもすぐに掛かれ
ない。本人にはもう訊けやしないが、井道さんも恨んでたんだろうよ。……街の方じゃあ、
デンノーセイメータイって化け物がうろついてるんだってな? 出元が街の連中らしいし、
もしかしたらとは思うが……。あんたらも精々、痛い目に遭えばいいのさ」
 声色はあくまで淡々とした冷たいものだったが、老人が時折向けてくる一瞥は、間違いな
く筧こと街側の人間への憎しみだった。
 井道ももしかしたら、その化け物によって命を落としたのかもしれない。それでも彼らが
同様にその牙を剥けられるなら、多少は留飲も下がろうものだと言わんばかりに。
「……」
 筧は老人を直視する事が出来なかった。郊外民、集積都市の恩恵を受けられない者達の、
街に対する憎しみは、かくも依然として燻り続けている現実。
 確かにアウター達は、蝕卓(ファミリー)──街の者達が生み出した“罪”だ。
 怪しいのは、リアナイザの製造・販売元たるH&D社だが……はたして人が取り締まる事
が出来るのだろうか? 相手はその内部まで、自分達当局に侵入を果たせるほどの組織力を
も兼ね備えている。今だって、どんな悪だくみを進めているか分かったモンじゃない。
 老人の恨み節は、“新時代”に乗らなかった各々の自業自得と行ってしまえばそれまでな
のかもしれない。だがそうバッサリと、全てを切り捨ててしまうのはあんまり過ぎる……。
(……法を犯してでも、叶えたい“願い”……)
 井道を始めとした、これまでの様々な召喚主達の背景を念頭に、筧はそんなフレーズを脳
内で復唱する。
 悪イコール蝕卓(ファミリー)。その点は間違いない。
 だが筧は改めて、この一連の問題の根深さを思い知ることになったのだった。

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  1. 2019/08/27(火) 18:00:00|
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(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔45〕

 憎しみは何も生まないとは云うが、人は自尊心を痛めつけられたり実害を被ったり、何よ
り大切なものを失った時、容易に絶望からそちらへと流れ得る。
 そもそも溝(ドブ)に顔を押し付けられ、起き上がることすらしない人生など、はたして
生きていると言えるのだろうか?
(畜生……ッ!!)
 即ち、事件は終わってなどいなかったのだ。表面上、中央署を巡る一連の騒動は沈静化に
向かっていたものの、こと玄武台関係者(かれら)は密かに憎悪を再燃させていた。めいめ
いが街の中に潜んでいたのである。
(あいつが……。あいつが、ゲロっちまえさえしなければ……!!)
 事の始まり、瀬古兄弟が絡む内情を告発(リーク)した“裏切り者”の名は、七波由香。
野球部の元マネージャー見習いだ。
 確かに彼女は、結果的に中央署解放の立役者となったが、彼らにとっては敵視の対象でし
かなかった。加えて守護騎士(ヴァンガード)の実在──巷がいわゆる正義の味方と賞賛す
る向きに包まれても、彼らにとっては事を大きくした“疫病神”に過ぎない。
(……いや。どのみち瀬古勇の暴走は、止まらなかったのか?)
 或いは一周回って、はたと冷静に考える。
 尤もそれは、同じく結果論だ。当時から季節が移ったことで、ようやく過去の惨状を振り
返られるようになったというだけである。事実彼らの意識の内の占めるのは、尚も罪悪感で
はなく、各々の悔しさや保身──巻き戻る気配のない事態への苛立ちだった。
 故に水面下では七海や勇、こと“抵抗する相手”ではない彼女へと、その鬱憤は捌け口を
求め続けていた。

「引き金をひけ。そうすれば、お前の願いは叶う」
 そしてそんな彼らに目を付け、接近する影があった。他でもない“蝕卓(ファミリー)”
である。人間態のプライド、グリードとグラトニー、或いはスロースがそれぞれ改造リアナ
イザを投げ渡し、街の片隅に潜んでいた彼らへと魔手を伸ばす。
『──』
 行き交う人並みや物陰の奥。
 ただ当の彼らも、この出会いに欲望よりも困惑する向きの方が多かった。年頃の少年達や
学生と思しき少し年上の少女。唖然と、戸惑うように見上げた表情が、全く違った場所にて
重なる。
 改造リアナイザ。
 それは先の中央署の一件以来、アウターこと電脳生命体に繋がる代物として、知る人ぞ知
る禁制の品となっていた。「でも……」仮に望みが叶うとしても、そのような危険物に手を
出して良いものなのだろうか?
「……何を迷う事がある?」
 しかし対するプライド──白鳥は、淡々と彼らを見下ろしたまま言う。静かに眉間に皺を
寄せてから促す。
「力が欲しいんじゃないのか? 今を変えたいんだろう?」
 所変わって同じく、グリード及びグラトニーが言う。尻込みする目の前の関係者に、その
欲望を焚き付けんとするかのように。
「何? 今更“善人面”しようっていうの?」
 とりわけスロースは、そのゴスロリ服姿の少女という見た目からは想像出来ないほど、面
と向かって冷たい眼差しと毒を向けていた。そもそも苛めの末、瀬古優を死なせた“前科”
があるではないかと、暗に詰って刺激しようとしている。
「……手間を掛けさせるな。早く握れ」
 だが元より、プライド達はそんな彼らの心情を一々汲んでやる心算などなかった。必要な
どなかった。無駄な面倒が増えるだけだ。
 プライドはそう、迷うままの彼らを転げ堕とすように、改造リアナイザを半ば無理矢理押
し付けて──。

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  1. 2019/07/23(火) 18:00:00|
  2. サハラ・セレクタブル
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(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔44〕

「に、逃げろおおおーッ!!」
「くそっ! 一体何なんだよ!? 何でこんな……!」
 自分には関係ない、何処か遠いセカイの出来事だとの思い込みに“否”を突き付けられた
時、人はその本性を露わにするのだろうか。或いは元より保身(それ)は、皆誰しもに備わ
った反応(もの)なのか。
 アウターと思しきミサイル型怪人からの襲撃を受け、現場に居合わせた学園(コクガク)
生や職員達は、大わらわになって逃げ出していた。直接大穴の空いたクラス教室近隣から始
まり、恐怖は間を置かずして波紋のように伝染してゆく。
『──』
 そんな学内の一部始終を、密かに見つめている者達がいた。少し上階の廊下側、窓際の一
角に立ち、生徒達と破壊された現状を見下ろしている。
「ねえねえ、見えた?」
「ああ。視た」
 人影は二つ。先ずは少女らしき人物が口を開き、もう一人が応える。彼女に比べるとひょ
ろっとした背丈で、やや気の弱い印象を受ける男性だった。共にその顔は逆光と物陰に隠れ
ており、口元から上は窺い知ることが出来ない。
 校舎内には先ほどから、緊急を知らせる警報が鳴り響いている。
 そういった状況も手伝って、生徒や職員達は避難一辺倒だったのだが……この二人はそん
な他人の波には呑まれていない。寧ろ自ら取り残されるように、その場に立ったまま、事の
推移をギリギリまで観察しているかのように見えた。

『よし、誰もいないな。ここで一旦奴を迎え撃つぞ』
『あ、貴方達は、一体……?』
『ナナミ、ユカ……コロス!』
『やっぱり、あれぐらいじゃあ死なないか……。皆、七波さんをお願い!』

 変身!
 そして二人の“眼”には、一連の騒ぎの中で全くの別行動をしていた、ある人物達の一部
始終もまた映っていた。
 七波を庇いながら屋上へと逃げ、更にそこへミサイル型の怪人が追いついて来る。これを
面々の一人──睦月が守護騎士(ヴァンガード)となって迎え撃とうとし、残る面々もリア
ナイザらしき装置を片手に身構える。
「よりにもよって、あの子が学園(うち)に来た矢先にねえ……。少なくとも転入するって
話は、対外的には発表されてない筈なんだけど……」
 一旦フッと瞳を閉じて、彼女は一人しみじみと呟いた。尤もその内容とは裏腹に、肝心の
声色の方は寧ろ弾んでいるように思える。ワクワクと。そんな彼女の、良くも悪くも旺盛な
好奇心に、一方で男性の側は半ば呆れた様子を見せている。
「……面白くなってきた」
 ふふふ、と口元で微笑(わら)う声と、やれやれと肩を竦める気配。
 爆音轟く非日常にあっても、事態(とき)は変わらず構わず進んでゆく。

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  1. 2019/06/25(火) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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