日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔98〕

 白咆の街(グラーダ=マハル)郊外、その道中。
 ディノグラード家からの使者が運転する鋼車に分乗し、その館を目指していたジーク達北
回りチームは、突如して彼らからの裏切りに遭っていた。中からは銃を突き付けられ、外か
らは竜族(ドグラネス)の戦士達に包囲され、為す術もなく一行は両手を上げた状態で鋼車
の外へと──積雪点々とする山道の只中に連れ出される。
「何で。何でだよ……?」
「……」
 そんな面々の中心に立つのは、七星の一人であり、ディノグラード家の嫡子でもあるセイ
オン。冬間近の竜王峰を背後遠巻きに臨み、ジークらが困惑と共に問い詰める中、その顔色
は明らかに浮かないものだった。
「ここから先は……行かせられない。悪いが君達には、このまま留まって貰う」
「えっ……? ど、どういうことですか?」
「おいおい。案内に応じておいてそれはないだろう……」
「そうね。いきなり過ぎるわ。理由を……教えてはくれないかしら?」
 レナやリカルド、そして団長イセルナも口々に問う。だがそれにセイオンは答えようとは
しなかった。代わりに深く眉間に皺を寄せ、静かに大きなため息をつく。
「……思えば、君達とは不思議な縁があるな。皇国(トナン)内乱から始まり、大都消失、
聖都(クロスティア)の一件、そして大爺様の聖浄器──あの頃は、こんな形で君達と相対
することになるとは思ってもいなかった」
 少なくとも、彼の眼差しと纏う雰囲気には、多分に“哀しみ”が含まれているように思え
た。配下の戦士達も同様だ。
 なのに彼らは何故、今こうして自分達に刃を向けようとするのか? それが分からない。
「できれば手荒な真似はしたくない。大人しく、言う通りにしてくれないか?」
『……』
 故にギリッと、しかしはいそうですかと折れる理由も見出せず、ジーク達は寧ろ警戒の気
色を強めていた。ゆっくりと腰の剣や銃に手を伸ばし、物音をも抑えつつオーラを練る。
「断る。俺達は爺さんに“会いに行かなきゃならない”んだ」
 互いに目配せをする隙さえ惜しかった。誰かに言われるでもなく、次の瞬間ジークは困惑
を無理にでも振り切るようにして、そうキッと険しい表情で言い放った。
 どんな理由──事情があるのかは分からない。
 だがもし彼らが、あくまで自分達の行く手を阻もうとするのなら……。
「……そうか」
 残念だ。そしてセイオンも、言外にそう漏らすようにまた嘆息をつくと、自身も腰の剣を
揺らしながら一歩前に出た。周りの部下達も、それを合図とするようにザリザリッと、一行
を包囲する距離を縮め始める。
「ま、待ってください! 私達は、皆さんと戦いたくは……!」
「そうです! 一体何があったというんですか? 何が理由でこんな──」
「シフォン。無駄だ。彼らに聞く耳はない」
「こんな所で消耗するなんて不本意だけど……やるしかないわね。突破するわよ」
 そんな彼らの動きに、レナは尚も必死に説得しようとする。ヨーハンとの面会を通じて、
同家の者達と事を構える気などそもそも持ち合わせていないのだ。シフォンやクレアも、納
得がいかないという風に首を横に振っているが、目の前の状況はそう悠長に構えていられる
ものではないらしい。
「……こんな歓迎は、御免被りたいんだけどね」
「足止め、だろうなあ。わざわざ使いをこっちに送って来ておいてまでだし……」
「うう……。何でこんなことに……」
 あくまでセイオン達は、こちらを阻止する構えのようだ。ハロルドやリカルド、クレアが
心を臨戦態勢に、銃を抜き、ピンを五指の間に構えてめいめいにごちている。ジーク達は仕
方なく応戦する他なかった。動機がいまいち分からないが、このままでは埒が明かない。と
もかくこの包囲網を、何とか突破しなければ。
「……。何でこうなっちまうんだよ」
 呟く舌打ち。それはジークに、仲間達にとって、言外に主語を大きくしたこれまでの旅路
に対する怨嗟のようでもあった。
 二刀を抜き放ち、同時にオーラを全身に巡らせる。同じく竜族(ドラグネス)の戦士達が
一斉に地面を蹴り、攻撃を仕掛けてくる動きがスローモーションのように五感に映る。オズ
がその機械の剛腕を、レナが指に嵌めた魔導具を、シフォンが靄状に変えたオーラを足元に
叩き付ける。イセルナが駆け出しながらブルートを纏い、周囲に冷気を吐き出す。
「──」
 そんなぶつかる寸前、両者の向こうでセイオンはじっとこちらを見ていた。
 同じくスローモーションの世界。その眼差しは、表情は、まるで思い詰めたように深刻な
それのまま、ざらりと腰に下がった長剣を大きく弧を描くように抜き放つ。

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  1. 2018/08/07(火) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔97〕

 これまでの旅がことごとく波乱含みだっただけに、こうもあっさりと着いてしまうと逆に
不安になる。

 霧の妖精國(ニブルヘイム)を発ってから十五日──およそ一週間と三日。
 古都ケルン・アークに到着したイセルナ以下北回りチームは、市中の一角に宿を取り、先
だって面会を要請したディノグラード家からの返答を待っていた。
 天上層特有のゆったりとした時間の流れと、古く染み付いた匂い。
 だが、そんな時にノスタルジックなこの地の空気も、今のジーク達にはじわじわと焦りを
促す材料にしかならなかった。立ったり座ったり、窓から眼下の風景をぼんやり眺めたり。
スライド式の間仕切りで男女別に分けられる大部屋で、一行は思い思いに過ごしていた。寡
黙が、気鬱が部屋一面に横たわっている。
『……』
 その理由は、単純なことだ。解りきっている。
 先のニブルとアルヴ、新旧妖精族(エルフ)達の争いに翻弄されつつも、何とか聖浄器・
深緑弓(エバーグリス)を手に入れたジーク達だったが、事件が終わって一段落……とはい
かなかったからだ。心中、決して穏やかではなかったからだ。
 体力的にというよりも、精神的に。
 ぐったりとめいめいに沈黙しているのは、その後の人々の評価故だ。保守的で平穏を望む
古界(パンゲア)の者達にとり、先の一件で「どちらが正しかったか?」はさして重要では
なかったのだ。開明派が、ブルートバードが掻き乱した──ただその事実一点をもって不快
なのであり、この市中でも散々その不満や悪評を耳にしてきたのだ。用心のため、外出時に
は変装やほっかむりを被っておいて正解だったと思う。目の前に当の本人達がいると分かっ
たら、はたしてどんな罵声を浴びせられたことか。
 ……自分達は、一体何の為に戦ったのだろう?
 聖浄器を手に入れる為、そして“結社”の脅威と戦う為には違いない。ニブルとアルヴの
対立に関わる形になってしまったのは、ひとえに成り行きだとも言える。
 だが結局、あの戦いで自分達は何を得られたのだろう? 何を守れたのだろう?
 どれだけ特務軍としての大義名分を抱えても、ミシェルら“守人”達を守れなかったのは
紛れもない事実だ。長老達の暗殺という形で一先ずの終止符が打たれたとはいえ、アルヴと
ニブルの対立は解消できなかった──寧ろ溝は深まったままで、その実単に振り上げられた
拳を下ろさざるを得なくなった、というだけに過ぎない。
 その意味では、市民(かれ)らの言う通りなのかもしれなかった。
 こちらがどれだけ“結社”の脅威を説こうとも、結果が伴わねば、ただ“掻き乱された”
という事実・感慨ばかりが残るのである。正直、もやもやした気持ちは否めないが、それが
現実だ。
(……ま、本を正せば俺達の個人的な戦いだったからな。誰かの為ってのは、結局後付けだ
ったのかもしれねえが……)
 そう、ぼんやりとジークが窓際で古都(ケルン・アーク)の静かな街並みを眺めていた時
のことだった。トントンと、部屋の入口が何者かにノックされる。
 一同が誰からともなく顔を見合わせて、ハロルドとレナがこれに応じた。開けた扉の向こ
うに立っていたのは、黒い正装に身を包んだ竜族(ドラグネス)の男性。
「クラン・ブルートバードの皆さんですね? ディノグラード公ヨーハン様より、皆様のお
迎えを仰せつかりました」
 ようやく来たか……。この慇懃な使者の到着に、ジーク達はおもむろに立ち上がった。皆
にイセルナが、纏めてある荷物を運ぶように指示する。それまで物静かだった時間が、にわ
かに緊張し、慌しくなる。
「表に鋼車を停めてあります。どうぞ」
 サッと無駄のない所作で、廊下の先を促す使者。ジーク達は彼の案内のままに、ぞろぞろ
と出発の準備をし始めた。
 僅かに唇を結んで、神妙な面持ち。ようやく彼に、最後の聖浄器に会える。
 リカルドやシフォン、オズなどが荷物をぶら下げ、先ず外に出て行った。その後ろをハロ
ルドやレナ、クレアにジークといった残りの面々が続く。この部屋の主達が減ってゆく。
 そこに、一通の開封済みの封筒が残されていた。備え付けの花瓶を文鎮代わりに、小振り
な丸テーブルの上に置かれている。
 最後にイセルナが、これをサッと花瓶の下から引き抜いて部屋の中を見渡した。忘れ物や
戸締りを確認してから、自身も肩に引っ掛けた荷物を揺らし、踵を返す。
『──』
 アルスからの手紙だった。
 彼が滞在中のジーク達に宛てた、件の解読結果だった。

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  1. 2018/07/03(火) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔96〕

 それぞれの講義の合間に。或いは放課後に皆で集まって。
 アルスやエトナ、ルイスにフィデロ、シンシア、及びゲドとキースの護衛コンビら解読班
は、梟響の街(アウルベルツ)のエイルフィード家別邸に避難させていた文献を、修理の終
わったルフグラン号に再び運び込む作業をしていた。
 現在のシンシアの住居である別邸内には、既に技師組らにより『陣』が敷設されている。
転送リングで荷物ごと船内に移り、設備棟の転移装置を経由して、解読の終わった文献達を
翠風の町(セレナス)の大書庫へ返却するという流れだ。
「ほいさっ」
「ほい。よっ、と……」
 面々の中で大柄なゲドとキース、或いはフィデロを中心として、箱詰めした文献達を一つ
また一つと手渡しでリレーしてゆく。船内には団員達が待機してくれており、そのままある
程度纏めた都度、同じく転送装置を起動させて大書庫へと転移・返却に向かう。
「しかし、何だな。こんな二度手間三度手間するんなら、始めっから向こうの執政館で作業
してた方が良かったんじゃねえか?」
「あはは……。ご、ごめんね? フィデロ君達にもいっぱい迷惑を掛けちゃって……」
「謝ることはないさ。僕もフィデロも、エイルフィードさんも、好きで手伝っていただけな
んだから」
「好きっ?! ……ま、まぁそうですわね。アルスの頼みですし、お兄さん達──“結社”
との戦いの助けになるのなら、是非もありませんもの」
「フィデロの言いたいことも分かるけどねー。結局解読は、こっちで終わったんだから」
 そうしてルフグラン号から戻って来たフィデロが、また次の箱を持ち上げながらごちた。
アルスが苦笑(わら)い、ルイスが力仕事に難儀しつつ、シンシアやエトナがそれぞれに妙
に焦ったり、宙に浮かんで皆を応援したりしている。
「だが実際問題、向こうに出ずっぱりって訳にゃあいかんだろう」
「館の地下に『陣』は敷いてあるがのう」
「そう……ですよね。部外者をほぼ毎日のように上げる格好になっちゃいますし。アルノー
さんは気にしなくても、その事を知ったら、町の人達がいい顔をしないでしょうし……」
 故に、同じように船内と邸内を往復するキースが、そう何の気なしで言った。アルスや他
の面々も、とうにそういった事情は理解している。
 すっかり自分達イコール“結社”に絡む疫病神扱いされることもままある点に加え、かつ
ては一度、翠風の町(セレナス)は実際に天瞳珠(ゼクスフィア)を巡って使徒達と戦闘に
なったことがある。その一件もあって、領民感情が悪く働くであろうことは容易に想像でき
たからだ。
「また攻めて来られても、困りますものね」
 そう肩を竦めるシンシアも、結局は何処が被害を被るかの違いでしかないとは内心解って
はいたが。事実──文献を狙ったとは言い切れないものの、作業拠点であったルフグラン号
が襲撃に遭ったのだ。なるべく“他者”を巻き込みたくはない。
「ま、それも今日で終わりだ。解読作業も済んだし、これを全部返し終われば、ミッション
コンプリートってな」
「ああ。来月には定期試験だし、間に合って良かった」
「うん……」
 言って、彼女やルイス、フィデロ達がちらっと横目を遣る。小さく首肯するアルスの横顔
が、先程からどうも暗く感じられていたからだ。
 いや、彼の様子の変化はそれ以前、リュノーが残した暗号の全文が明らかになってからの
ことだ。大量の文献の中に隠されていた暗号、先祖の意図が判明し、アルノーこそ『これで
僕達は役目を果たせたんですね……』と何処か安堵し、感慨深げだったが、それ自体と暗号
の“重さ”とはまた別の問題である。
 アルスはぎこちない笑みを繕いながら、終始複雑な表情だった。フィデロ達も、そんな友
の姿に、自らが解き明かしたメッセージに、場が気分がゆっくりと沈み込んでゆくのを抑え
切れないでいる。
(アルス君……)
(まぁ、無理もねえよなあ)
 ひそひそと、学友達は小声で囁き合う。
 解読の結果は先日、ヨーハンの下にも送った。まさかあんな事が書いてあるだなんて思い
もしなかった。自分達も、にわかには信じられなかった。

 ……もしかしたら自分達は、とんでもないものをこじ開けてしまったのかもしれない。

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  1. 2018/06/05(火) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔95〕

『まさか、これは……』
 ワーテル島の消失。映像越しにその一部始終を見ていたのは、何も一連の戦いを対岸の火
事と決め込んでいた人々だけではない。ようやく万魔連合(グリモワール)と合流──追討
作戦を再開しようとしていた王や議員達も、まるで頭を殴られたかのように大きく目を見開
いている。
『い、一体何が起きたんだ?』
『急いで現地に連絡を! サーディス達は無事なのか!?』
『そ、それだけじゃない。また万魔連合(グリモワール)を巻き込んでしまったら……』
 ざわざわと、ホログラム画面の向こうでこちら側で、面々が状況確認に動き始めた。
 よりにもよって……。その表情が総じて必要以上に険しいのは、既視感──二年前の大都
消失事件の記憶を重ねているからなのだろう。
『……してやられたな。あの時の結界か。それだけ結社(やつら)も、ヘイトの横暴を看過
できなくなったということなのかもしれんが』
『ああ。だが、策としては上出来だ。力の供給元を断てば、奴もいずれはジリ貧になる』
 尤も、それまで待つつもりはねえし、奴も待ちやしないだろうが……。
 そんな中でも、ハウゼン以下四盟主は比較的落ち着いているように見えた。フッとそう嗤
うファルケンに、ロゼとウォルターは横目を遣りながらも、画面の向こうに映る現地の様子
に注意を向け続けている。
『だ、駄目です! 応答がありません!』
『モニター中の映像も途絶えました! おそらくは、機材ごと結界の内側に巻き込まれたも
のと思われますが……』
 通信の端々で、各配下の技師や官吏達が振り向いて言う。案の定、ヒュウガやウル達も結
界の中へと閉じ込められてしまったらしい。
『ど、どうしましょう?』
『くっ……拙いな。突入の最中だったからな』
『ああ。だが彼らは魔人(メア)だし、実力も“七星”クラスだ。そう簡単にくたばるとは
思えん』
『し、しかし……。二年前と違って、今回はレノヴィンがいないんだぞ? 突入口だってあ
の時のように在るとは限らない。こちらと分断されてしまった事実には変わりないんだ』
 実際に二年前、大都消失を生き抜いた本人達ではある。そう易々とやられはしないだろう
と信じたい。
 だが議員の一人がそう口にするように、状況は間違いなく悪い──不透明だ。少なくとも
こちらの兵力も一緒に分断されてしまった以上、ヘイト追討を続けるにしても脱出を優先す
るにしても、リスクが高い。二年前のあの時はジーク達が正面の守りを破ったことで突破口
が開けたが、その当人達は今天上と地底に分かれて聖浄器回収の任に就いている。
『……結社(やつら)の介入があった時点で、想定すべきだったな。緊急事態だ。現地に兵
を増派する。残された万魔連合(グリモワール)の関係者と交渉を行ってくれ。結界で分断
されたとはいえ、まだ外側には大量の瘴気が残っている。先ずはその後始末をしつつ、結界
内部への進入も模索する』
 了解! 暫し思案顔をしていたハウゼンの一言に、配下の者達が動き出した。他の王や議
員達も、特段これに反対はしない。増派については先方と改めて擦り合わせる必要があるだ
ろうが、今自分達にできる事と言えばそんなものだ。またレノヴィン達──部外者ばかりに
頼る訳にもいくまい。何より今回は、こちらが始めた戦争なのだ。
「……」
 どっかりと、自身の玉座に深く腰掛け直し、ハウゼンは人知れず深く息をついた。眼下に
は官吏や将校らに指示を飛ばす臣下達の姿があるし、通信画面の向こうでも各国の王や議員
達が、それぞれに随時部下を動かしたり報告を受けたりしている。
 ファルケンやロゼ、ウォルターがじっとこちらを窺っている事には気付いていた。彼らも
彼らで思う所──戦術の立て直しや自身への心配、或いはこの戦いの後の商機について思い
を巡らせているのであろうが、正直ハウゼンが今胸中に抱く感慨は、ある意味でそれらとは
一線を画すものである。さも目の前の、現実とは違ったベクトルを向いてしまっている。
 ……ここまで戦いが長引くとは、複雑になるとは思っていなかった。
 いや、保守同盟(かれら)と戦うと決心した時点でその内情は入り組んではいたのだが、
兵力差を考えれば、決着は比較的早期だろうとやや楽観的に目算をつけていたのだ。
 それだけに飽き足らず、戦いは地底層──器界(マルクトゥム)の人々まで巻き込んで。
 直接の元凶はヘイトの側であるにせよ、当初想定していなかった広がりを許してしまった
事はれっきとした自分の落ち度である。
 これは、報いなのだろうか? 息子の弔い戦という大義が招いた罪であるならば、やはり
自分は多くの人々にとって悪人なのだろう。或いは身内が関わったことで、冷静な判断力を
欠いていたのかもしれない。
 何より“結社”の介入がここまでとは……。奴らの意図、目的は未だ判然としない部分が
多いが、少なくともこちらに任せていれば、漁夫の利を獲れた筈だ。
(……“共通の敵”とは、こういう事を云うのだな)
 ハウゼンは内心、自嘲っぽく苦笑(わら)う。その皮肉を痛感する。
 多くの兵達が、自分の指示一つで死地に向かう。“結社”は普段から、そんな価値判断を
繰り返しているというのだろうか? 一体何故そこまで、何を目指して……?

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  1. 2018/05/08(火) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅶ〔94〕

 旧ワーテル島、黒瘴気のドームの外縁。
 災いの最前線で、ウルら万魔連合(グリモワール)の面々は、彼らが到着するのを待って
いた。ようやく連絡を寄越してきた統務院側の名代──ヒュウガ達討伐軍である。
「やあどうも。お待たせしました」
 正式に許可を取ってからの、地上からここ器界(マルクトゥム)へ。
 しかし対するウルは、降りた飛行艇からこちらへ歩いて来るヒュウガ達の姿を見つつ、寧
ろ眉間の皺を深くしていた。腹の底に抱えた不快感を隠そうともせずに、淡々と応える。
「ああ、まったくだ」
 ただそれだけ。されど皮肉を多分に含んだ一言。
 ヒュウガ達統務院側、討伐軍と、ウル達の間に何とも言えぬ沈黙──緊張感が横たわって
いた。会談の場とした急ごしらえの掘っ立て小屋の下で、両者は暫し睨み合う。
 厄介事を持ち込んできたのはそっちだろうに……。
 尤もそんな本音は、露骨には口にしない。今日は話し合いに来たのだ。統務院側と、この
状況をどう打破するのか? その対策を話し合う為に。
『……すまなかった、首領(ドン)・ラポーネ。まさか島ごと逃げ出すとは予想だにしなか
ったものでな』
「ふん。済んだ事を言っても仕方ないさ。それにあんたらに振り回されるのは、別に今に始
まったことじゃない」
 数拍の様子見の間にも、周りは動いていた。両陣営の技師達は背後で通信機材を準備し、
向こうでは今もウル以下各門閥(ファミリー)の兵達が、少しでも黒瘴気を押さえ込もうと
悪戦苦闘を続けている。
 ホログラム画面の通信越しに、ハウゼンが皆を代表して口を開いた。ウルもそう売り言葉
な風に返すが、実質ただの挨拶のようなものである。
『そう言って貰えると助かる。……では早速だが、我々統務院は、貴公らと正式にこの一件
に関して共同戦線を張りたい。こうなった責任はこちら側にある』
「当然だ。申し出、受け入れよう。特例として彼らの進入を許可する」
 予め磨り合わせていたように。ウルとハウゼン、両陣営の長達は合意を交わした。ファル
ケンやウォルター、ロゼ、ミザリーにセキエイ、リリザベートなど双方の残る四盟主・四魔
長らも通信越しにコクリと頷き、この合意の場に立ち会う。
 それはひとえに、表面上の利害が一致したが故の決着だった。
 万魔連合(グリモワール)側としては、ヘイトらをこちらに落として来たのは彼ら地上の
面々だし、何とかしろ。責任を取れと投げ返すのが筋だ。だがそれでは、軍事的干渉を是認
する格好になる。ことかつての武力衝突を知っている世代からの、独立志向の強い者達から
の反発はどだい避けられないが、その為にもあくまで「こちらが上」という態度を保ち続け
る必要があった。
 一方の統務院側としては、このまま保守同盟(リストン)もといヘイト討伐を地底の者達
に丸投げしたくはなかった。元より自分達が始めた戦争だ、得る筈だった利益はどうなる?
何より万魔連合(グリモワール)と事を荒立てる心算は毛頭なかった。“結社”にヘイト、
加えて彼らと三方面で戦争をするような真似だけは避けたかった。こちらが折れた云々も、
地上向けの報道を絞れば何とでもなる。
「……まったく。あやつも面倒な事を持ち込んでくれたものだ」
「ええ。ですが奴が梃子に用いた魔導具は、魔銀(ミスリル)を主に使っているそうです。
器界(ここ)でしか採れない筈の、ね」
 咥えた葉巻から一度大きく煙を吐きながら、ウルはそう遠回しに当て擦って言った。する
とその場に対するヒュウガも、にっこりと微笑みながらも一つ事実を持ち出して返す。
 一瞬、場の空気が一層緊張したような気がした。だがお互い、それ以上相手に矛を向ける
ことはしない。今はそれ所ではない。
 向こうの、黒瘴気のドームを見上げる。
 まるで生き物のように蠢くそれは、今も尚器界(マルクトゥム)全土に伸ばした触手から
大地のエネルギーを吸い続けていた。
「正義の剣(カリバー)の。あれは一種の変換器のような物なんだろう? 詳しいカラクリ
は分からんが、あれは不自然なエネルギーの塊だ」
「ええ。人や物、呑み込んだものを片っ端から取り込んで力として蓄えているようですね。
ハーケン王子もその犠牲となりました。こちらにも、ある程度情報は伝わっていると思いま
すが」
「ああ……」
 ヒュウガが軍服を揺らし、グレンとライナ、部下達を引き連れて数歩黒瘴気のドームの方
へと近付いて行った。その中心、分厚く阻まれた先を指差して続ける。
「あれを破壊するには、反魔導(アンチスペル)が効果的です。どれだけ巨大であっても、
所詮は変質した魔力(マナ)──瘴気の塊ですから。ヘイトの居る中枢に辿り着く為には、
どちらにしてもこの塊を片っ端から剥がすか、抉り進むかしかないでしょうね」
「なるほどな……言われてみればそうだ。こちらも至急、使える魔導師達を掻き集めるとし
よう。そちらの頭数はどうだ?」
「一個大隊といった所でしょうか。ここまで膨れ上がられると、正直足りませんがね」
 すぐにウルが指示を出し、部下達が動く。通信越しのミザリー達も、同じく魔導師集めに
掛かったようだ。ヒュウガが合図して連れて来た反魔導(アンチスペル)隊を呼び、地上の
時と同様、攻撃態勢を整えさせる。
 撃てーッ!! そして、統務院・万魔連合(グリモワール)両軍共同による突入作戦が始
まった。時間は経てば経つほどこちらに不利になる。随時召集を掛けた魔導師・兵士らを投
入しながら、一行は黒瘴気のドームをこじ開けていった。
 やはりというべきか、想定はしていたが、内部は侵入者を阻むように多層の迷路構造にな
っているようだ。加えて内壁からはボトボトと瘴気を材料にした異形達が止めどなく生み落
とされ、こちらの攻略に抵抗する。部隊は前衛と後衛、攻撃用兵力と風穴を維持・拡張する
反魔導(アンチスペル)隊に分かれざるを得なかった。
「キリがないな……。一度触手を潰して供給を断つか?」
「数が足りません。それよりは先ず、ドームの中心にいるヘイトを討った方が早い」
 うむ……。それぞれの部下達の指揮を執り、ウルとヒュウガが攻略の様子をじっと見つめ
ていた。互いに合流し、兵力と対策を共有したことで破壊効率自体は確実に上がっている。
だが如何せん相手の瘴気塊はじわじわと肥大化することを止めず、徹底して篭城戦の構えを
崩さないようだ。
『首領(ドン)、そっちにうちの戦士達を送った。使ってくれ!』
『魔導師隊、追加だよー』
『こちらも転送を開始したわ。最寄の塔から半刻ほどね。一旦私達は周りの触手を叩いた方
がいいかしら? 余剰兵力になるかどうかは、そっちで判断して?』
 セキエイやリリザベート、ミザリーといった他の四魔長らの下からも、援軍が時間を置い
て到着してくる。彼女の言葉通り、ウルらはその一部を外壁・触手達を断つ方へと振り分け
ることにした。本来が生きている限り時間稼ぎにしかならないが、弱らせればその分、攻略
も進み易くなる。
「……むっ?」
 ちょうど、そんな時だったのだ。直後、はたっと辺り一面に何かの波長が拡がってゆくの
をウル達は感じた。
 力場だ。
 そう数拍置いて理解し、一同は思わず空を仰いで──。

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  1. 2018/04/10(火) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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