日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔110〕

「──アルス・レノヴィンが?」
『うむ』
 煉獄深層域、監視塔内部。
 西棟の死神衆・獄吏達もただでさえ好んでは近寄らないその一角、人目のつかない物陰に
潜みつつ、死神総長アララギはとある人物から通信を受けていた。掌の光球越しに、ハザン
及びシゼル──同じ“結社”に属し、率いる盟友達から、外界に関する近況を聞かされる。
『ユヴァン殿の見立てでは、あの者達も“撰ばれ”つつあるようだ。先刻ティラウド殿とオ
ディウスが、用心の為加勢に向かった』
 曰く、レノヴィン兄弟の片割れ・アルスが、何の因果か神界(アスガルド)に迷い込んだ
のだという。
 深淵層(こちら)に向かっていた筈なのに? 何故天上層へ? 何故彼だけが?
 アララギは訝しんだが、ハザンからもたらされた情報を基に合点がゆく。
 “虚穴(うろあな)”だ。奴らブルートバードは、鬼ヶ領郊外のそこからこちら側へと侵
入し、魂(ストリーム)の暴風雨の中を進んで来た。状況からして、奴らの持つ聖浄器に惹
かれ、引き摺り込まれたのだろう。そしてアルス・レノヴィンはその時、兄・ジークの得物
でもあるこれらの一つ、護皇六華を預かっていたという。
『そちらも、確実に始末を。障害は早急に取り除かねばならない』
「……分かっている」
 弟が“撰ばれ”つつあるのなら、兄もその可能性は十分にある。ハザン達がわざわざ釘を
刺すように連絡を寄越してきたのはその為だ。アララギは努めて淡々と簡潔に、やや苛立ち
を宿して答えたが、それでも内心現状では“足りない”と感じていた。
 生来の気難しさ故なのか、或いは直感の類か。
 当初はなるべく内々に始末しようとしたのに邪魔が入り、加えてブルートバードの侵入を
許しつつある。第五層・六層の魔獣(しゅうじん)達を解き放ち、念押しの一手を打ちはし
たものの……。
『アララギ総長! 応答してください!』
『こちら煉獄第四層! 脱獄です! ジーク・レノヴィンとアズサ・スメラギが共謀して、
囚人達を……!』
 ちょうどそんな時だった。ふと通信機の向こうから部下達──西棟死神衆からのSOSが
響き、ザザザッと時折ノイズを含みながら現場の混乱が伝えられた。
 静かに目を見開き、アララギがじっと黙っている。光球越しのハザンやシゼルも、これら
声は聞こえていたとはいえ、一旦口を閉じざるを得ない。彼との繋がりがバレてしまわない
ように、通信の向こうで息を潜める。
 そうして暫く応答せずに黙り込んでいると、死神達の声や物音が途絶えた。返事がないと
諦め、向こうから切ったようだ。
『おい。一体どういうことだ?』
『今、脱獄と……』
「……ああ。どうやらまた、しぶとく抵抗を始めたらしい」
 先ほどよりも険しい、驚いたかのような声色になるハザンとシゼル。
 やはり私自らが手を下すしかないのか……? アララギは更に顰めっ面を重ねて眉間の皺
を深くしつつ、絞り出すように二人に答えていた。ギリッと静かに拳を握り締める。
 忌々しい。死んだのだから、さっさと諦めて死んで(きえて)しまえばいいものを。尤も
実際は使徒(ジーヴァ)に殺された訳だが。
 邪魔をするな。“摂理”を知り、成り行きから“結社”の一員として、大命成就の時を今
までずっと待ち続けていたのに……。
『た、大変ではないか!』
『ユヴァン様にも報せます。すぐに対処を』
「……分かっている」
 言われずとも。慌てる光球越しの二人に、アララギは応じた。出来ればその瞬間(とき)
が来るまで正体を晒したくはなかったが……ここまで状況が拗れては致し方が無い。全ては
あの兄弟の所為だ。分不相応に抗うからだ。
 しかしルキのように、“結社”側の兵をこちらに持ってくるのは宜しくない。直接動く前
にバレる可能性があるからだ。尤も、クロムが私の存在に気付いていれば同じ事だが。どち
らにしても、早々に事を終わらせる必要性が増した。
『──ッ?!』
 だが事態は、彼らが次の対応に動くよりも早く、容赦なく進んでいたのだった。まるで連
鎖するように次々と、歯車は加速度を上げて回り始めていた。
 直後、獄内を昇って、何か膨大なエネルギーが吹き上がってゆく感触。足元から大きく揺
さ振られる衝撃。
 その場に居たアララギは勿論、光球越しにハザンやシゼル、摂理宮内にもその異変は時間
差で伝わる。周囲で吹き昇る奔流、輝く魂(ストリーム)達の様子に、アララギは唖然とし
ていた。眉間に皺、怒りを伴い、彼はその表情を歪める。
「まさか……」
 視える者には視える。聞こえる者には聞こえる。
 遥か頭上へと一目散に向かう、魂達の叫び。それはアララギが抱いていた嫌な予感が、最
悪の形で的中した瞬間でもあった。

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  1. 2019/11/04(月) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔109〕

 ルキ達が目の当たりにしたのは、アルスの身に起きた明らかな異変だった。辺りに吹き荒
ぶ魂(ストリーム)達の叫びよりも、只々その豹変ぶりに目を奪われている。
『──』
 見開かれたアルスの瞳は、何時もとは違う碧い輝きを宿していた。
 全身から溢れる膨大なオーラと、これに引き寄せられて蠢く周囲の魔流(ストリーム)。
クーデター派の神々や天使(エンゼル)達が慌てふためき、気圧される中、他ならぬ彼に庇
われる形で膝を突いていたゼクセムも、呆然としてその背中を仰いでいた。
「ぐっ……?!」
「ぎゃっ!?」
 すると直後、アルスが動いた。見開き覚醒した眼のまま掌をかざすと、まるで彼の意思に
呼応するかのように魔流(ストリーム)達が牙を剥いたのだ。クーデター派の面々から、兄
・ジークの六華を回収する(うばいかえす)。
(魔流(ストリーム)を手足のように……。いや、触手か)
 左右傍らで吹き飛ばされた部下達を横目に、ルキは密かに舌打ちをする。
 おそらくはこれが、彼の撰ばれし者としての特性なのだろう。或いは魄の先天属性と、同
じく樹木の精霊を持ち霊としていること。それらが相乗効果を生んだのかもしれない。事実
当の彼女も、彼と同様の光に包まれながら「おおおおおっ!? 力が、力が漲るぅ~!」と
ハイテンションになっている。
(今此処で……潰すしかない!)
 文字通り、光の速度で霞みながら、次の瞬間ルキはこの少年に襲い掛かった。ゼクセムや
配下のクーデター派達が到底追い切れない中、他ならぬアルス自身はちらっとこの動線を目
の端で捉えていたのだ。手刀に集めたルキの光線(レーザー)を、彼は魔流(ストリーム)
達を駆使して防ぎ返す。
 そこからは──まさしく目にも留まらぬ攻防。
 アルスも足元に沿った魔流(ストリーム)に乗り、射出されて滑り出すように空中を舞い
始めた。光速で繰り返し襲ってくるルキに対し、同じく無数の魔力(マナ)の糸を得物のよ
うに編んでぶつかる。エトナもゼクセムを守りながら、地面に手を当てて樹木の触手達を生
み出して援護する。
「ぎゃあッ!?」「ぐわあああーッ!!」
「ル、ルキ様!」
「おっ、お待ちください! 我々にまで攻撃が──ぐぶっ?!」
 中空・頭上で突如始まった両者のやり取りに、クーデター派の神々や天使(エンゼル)達
も少なからず巻き込まれていた。ゼクセムら主流派の面々とごちゃ混ぜになって逃げ惑い、
ルキの独走に制止と助けを求めたが、当の本人は聞き届けている暇さえない。
「くぅっ……!!」
 まさかこの俺が、苦戦させられるなんて。
 思わぬ事態だった。だが奴が“虚穴(うろあな)”──魔流(ストリーム)の渦からこち
らに流れ着いたことを考えれば、この豹変ぶりには納得がいく。
 決して偶然などではない。こいつは来るべくしてやって来たのだ。招かれるべくして招か
れ、自分達の目の前に立ち塞がってきたのだ。
(間違いない……選ばれやがった。俺達と同じ領域まで、登って来やがった……!!)

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  1. 2019/10/09(水) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔108〕

 世界樹(ユグドラシィル)内部に浮かぶ要塞・摂理宮。その深部たる中枢域にて。
 奥半分に大穴が空いたフロアの真ん中で、ユヴァンは幾つもの魔導的なホログラム板を操
っていた。ポゥン、ポゥンと。大穴のすぐ手前、大量の魔流(ストリーム)が渦巻く霊海の
気流。眼下にそんな世界の“摂理”を視ながら、彼はじっと自らが為すべき役割に集中を続
けている。
「──そうか。ジーク・レノヴィンはようやく“死んだ”か」
 そうして背を向けたまま、彼はハザンやシゼル、ティラウドにオディウスといった盟友達
から、事の子細について報告を受けていた。先頭に立つのはハザン。彼ら“結社”の表向き
の指導者として辣腕を振るう老魔導師である。
 曰く冥界(アビス)にて、かの兄弟の片割れが“煉獄”に収監されたとのこと。
 途中で色々とすったもんだはあったようだが、これで最大の邪魔者はいなくなる……。
「でもまだ、安心は出来ないな。あの男はしぶとい。それにクラン・ブルートバードの仲間
達が冥界(あちら)に攻め入ったとなれば、また一悶着起きるのは確実だろう」
 ええ……。ハザンは恭しく、シゼルはその補佐的に傍らで。オディウスは斜に構えたよう
に腕を組んで立っているし、ティラウドは沈黙を守ったまま、中空に浮かぶホログラム板達
をじっと見つめている。
「アララギ殿には、確実に消して貰わないと」
「はい。当人も既にその為に動いておられるようです」
「しっかし、あの世まで追っかけて来るとは……。ティラウド、やっぱあん時、ごり押して
でも始末した方が良かったんじゃねえか?」
「……かも、しれないな」
 ユヴァン殿。すると次の瞬間、ハザンが口を挟み始めた。
 まだ何か報告すべきことがあるとみえる。ユヴァンも、ようやくこちらへと肩越しに振り
向き、その眼差しで続きを促す。他の面々が横目を遣って気持ち眉を顰める中、彼はおもむ
ろにもう一人の片割れについて語り始めた。
「その事なのですが……。確かにジーク・レノヴィンは“煉獄”へ放り込めたものの、それ
とは別のトラブルが起こりまして」
「……弟の方、ですか?」
「ええ。面々に同行していたアルス・レノヴィンが、どうやら“虚穴(うろあな)”の中で
暴走した魔流(ストリーム)に呑まれ、はぐれたようなのです。おそらくは聖浄器──兄に
代わり守っていた六華でしょう。加えて彼の流された先というのが、神界(アスガルド)で
ありまして。現在、ルキ殿が動いてくれてはおりますが……」
『──』
 ユヴァンを始めとした他の盟友達は、それぞれに言葉を失って驚愕した。素直に目を大き
く見開いた者もいれば、すぐにその出来事(トラブル)が意味する所を導き出そうとする者
もいる。
 こと盟主たるユヴァンは、後者の側に拠って立ったらしい。
「……もしかしたら、彼らもまた“撰ばれ”つつあるのかもしれないな」
「っ?! 何ですと!?」
「おいおい。それって色々拙いんじゃねえのか?」
「アルス・レノヴィンが神界(アスガルド)に流れ着いたのも、偶然ではない……と?」
「可能性は十分にあります。そもそもあそこは、通常の航行では立ち入れない場所。偶然に
しては出来過ぎている。だから彼個人というよりも、もう“片方の者達”の意思が介在して
いるとしか……」
 そう最後まで言いかけて、ユヴァンは再び熟考モードに入った。口元に手を当て、じっと
何かを懸命に頭の中で計算しているかのように。
 驚き、動揺しているハザンやオディウス、シゼル。そんな中でティラウドだけは、彼と同
じようにそっと口元に拳を当て、薄く目を瞑り始めている。
「オディウス、ティラウド殿」
 そしてユヴァンは盟友の内、武に長けた二人を指名して言った。嫌な予感はなるべく潰し
ておかなければならない。こと自分達と──“摂理”に深い繋がりを持ちうる相手ならば。
「念の為、用意出来る分の兵を連れて神都(パルティノー)へ向かってください。ルキ殿と
合流し、あの二人が本当にそうなってしまう前に始末を」
「お、おう! 任せとけ」
「……了解した」
 重鎧を鳴らし、羽織胴着を翻して。
 ユヴァンとハザン、シゼルが見送る中、二人は直後踵を返すと出撃(ばをあとに)して行
ったのだった。

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  1. 2019/09/10(火) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔107〕

 時はちょうど、グノアの処刑が中継され、世間の眼差しがそちらへと釘付けにされていた
タイミングと重なる。
「ま、待ってくださいよ~! 先輩~!」
 とある雑誌社に勤める、女性記者と男性撮影技師(カメラマン)のコンビだった。二人は
世間の注目が件の処刑に向かっている中、密かにトナン皇国へとやって来ていたのだった。
「遅い! ネタは待ってくれないわよ?」
 後を追ってくる後輩に、先輩記者である彼女は振り返る。今回の目的は、行方知れずとな
ったジーク皇子及び、クラン・ブルートバードの消息だ。
 古界(パンゲア)・ディノグラード家の葬儀に加え、弟皇子アルスも失意の休学。以降そ
の動静はなく、学院側も秘して沈黙を保っている。今はそっとしておいてあげてくれという
ことなのだろう。
 だが……そこではいそうですか、と引き下がる訳にはいかない。人々が強く知りたいと望
む時、何者かが風化させようとしている時こそ、自分達ジャーナリストの出番なのだから。
「だからって、俺達がすっぱ抜けるネタですかねえ? 例の処刑の方が、絶対に“撮れ高”
はいいッスよ?」
 一方でこの後輩は、今回の取材(えんせい)にあまり期待していないようだった。首から
下げた写姿器を片手に、普段見慣れぬトナンの和圏建築を時折見回している。
「横並びの記事なんか書いても、変わり映えしないでしょうが。うちみたいな小さな所は、
どうしても大手の報道に埋もれてしまう──独自報道を怠れば、じわじわと沈んでしまうん
だから」
 それでも彼女は、自らが勝ち取った情報に拘っていた。組織としての大きさに劣る分、追
従するだけの記事だけでは、どうしても大手の側に分がある。彼女は意気込んでいた。尤も
実際に記事を手に取る人々は、そのような事情など構いはしないのだが。
「さあ、聞き込みを始めるわよ!」
「はいはい……」
 故に二人は、というよりも主に彼女がぐいぐいと彼を引っ張り、両皇子の祖国・トナンの
地での取材を開始した。自分達が戴くジーク・アルス兄弟の事となれば、領民らも十や二十
思う所はある筈だと踏んだのだが──。

『あんたらも、ジーク様が死んだって言いたいのかい?』
『ブン屋はいつだってそうだ。他人に不幸があると、すぐに飛んで来る……』
『一番哀しんでるのは両陛下だ。俺達が何を言おうと、お二人の痛みに敵いやせんよ』

 滞在から数日、そんなある種の希望的観測は容易に砕かれた。話を聞いて回った限り、大
半の領民が思ったほど不満をぶちまけてはくれなかったのだ。或いは余所者に対して、不敬
を誰かに知られては拙いと暗黙の了解でもあったのか。
 少なくとも、国内情勢は少しずつ明らかになってきた。傷心のシノ女皇は体調不良を起こ
して倒れ、現在は夫・コーダス皇が代理として政務を回しているらしい。
 だが一方で、当のジーク皇子は過去あちこちの世界を旅して来ているため、敗北後も何処
かで身を潜めているのではないか? という憶測も多く聞かれた。二年前のフォーザリア鉱
山での一件から、突如として大都(バベルロート)に現れて、かの“結社”を撃退した先例
を指すのだろう。希望的観測なのか、まだ信じたくないだけなのか『まだ死んだと確定した
訳じゃない』──そう零す領民も、少なからずいたからだ。
「ですが、ディノグラード公の葬儀は行われたのに、こちらはそんな話さえ出ていないんで
しょう?」
「実はもう、治療中だとか? 同家が匿っているとか?」
「それとも……。表に出せないほど粉微塵になっているか……?」
「な、何てことを!」
「他国人だからといって、皇子らを侮辱するのは許さんぞ!」

「──はあ」
 結果、収穫はあまり無し。寧ろこちらが記者だと判ると、多くの領民達は不信の眼差しを
向けてさえきた。先代アズサ皇の治世を知りながら、放置していた事などを今も根に持って
いるのだろう。彼らはまだジーク皇子らの復活を信じているようだった。信じたいようだっ
た。心情としては、無理もないが。
「どうするんですかあ。肝心の皇子達の消息、分からずじまいですよ? まぁここの写真を
切り貼りすれば、繋ぎの記事一つくらいは出来そうですけど……」
「そんなのじゃ駄目よ! 何も獲って来れなかったって白状しているようなものじゃない。
正直、ここまで頑なだとは思わなかったわ」
「……そうッスね」
 参ったな。二人はそう、一しきり取材を終えて街の一角に座り込んでいた。滑らかな石の
ベンチが、ひんやりと尻から背中へと温度を伝える。暫くの間、お互いに掛けるべき言葉を
見つけられずに黙っていた。
 本を正せば、確かに自分達ジャーナリストの取捨選択、被害感情が故の非協力的な態度な
のだろうが……それは別に、直接自分達の仕業という訳でもない。
「こんにちは」
 しかし、ちょうどそんな時だった。
 ニッコリと、妙に紳士的に微笑む男性──トナン領民と思しき装束を着た、見知らぬ人物
が一人、こちらに向かって近付いて来たのは。

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  1. 2019/08/13(火) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔106〕

 神都パルティノー。其処は街と呼ぶには違和感のある、創世の民・神格種(ヘヴンズ)達
の本拠地兼巨大研究施設だ。この世界の文明とは明らかに異質──無機質を突き詰めた塔状
建造物群の内外は、立ち入った人間(もの)に重暗い“畏れ”を抱かせるに充分ではあった
だろう。
「……ん?」
「あ、ルキさん」
 そんな継ぎ目も見えない研究棟(ラボ)の一角で、居合わせた神々(どうりょうたち)は
彼の姿を認めて振り返った。
 淡い金髪にトーガ風の衣装、引っ掛けた上衣。
 一見して端正な顔立ちと形容して差し支えない青年だった。ただ平常に張り付けたその表
情は、何処となくダウナーなそれを感じさせる。
「よう。見回りご苦労さん」
 遊戯と寓意の神・ルキ。こちらを向いてきた面々と同じく、創世の民の一人である。加え
て彼らからの眼差しと、手に何気なくぶら下げた高レベルのカードキー。それだけでこの人
物が、神都(パルティノー)内でも相当の地位に在ると分かる。
「話は聞いたぜ? 全く、所長(チーフ)はどういうつもりなんだか……」
 自分を一目置いて、若干緊張する神々(どうりょうたち)。
 されど当の彼──ルキ本人はごく気さくに、何時もの気だるげを引き摺りながら近付き、
話し掛けてくる。
「ああ、そっちも情報が行ったんだね?」
「何でも下界の人間が迷い込んで来たらしい。例の、レノヴィン兄弟の片割れだ」
「弟の方だそうだよ。それと、その持ち霊」
「ああ。二人をとっ捕まえた本人達から聞いた。所長(チーフ)に絞られた後で、随分ぐっ
たりしてたけどな」
 曰く、所長(チーフ)ことゼクセムが、件の迷い人らを箱庭(フラスコ)の下へと連れて
行ったとのこと。あそこは自分達にとって最重要のプロジェクトだ。いくら彼が施設内を自
由に行き来できる“権限”を持つからといって、安易に外部の者を入れてしまっては示しが
つかないではないか。せめて事前に、自分達にも知らせておくぐらいはしてくれてもいいだ
ろうに。
「そもそも何故彼が? 常人では、神界(ここ)には近付く事さえ出来ない筈だ。それに彼
の仲間──クラン・ブルートバードは、先日“結社”との戦いに敗北したんだろう? 悠長
に異界観光などしている場合ではないと思うんだが」
 そう言われても……。尤も居合わせた神々(どうりょうたち)もまた、その詳しい経緯に
ついては分からないことだらけのようだった。互いに顔を見合わせて、知らないと小さく首
を横に振る。
 王(ゼクセム)の手前、反抗も出来なかったのか。当人を含めた上層部の判断? それと
も彼らがアイリス転生体の友であり、例の暗号──自分達の正体を知っていること、下界で
はヒトの国のいち皇子である点からも、下手に扱えば後々面倒になると考えたからか?
「……仕方ないな」
 故にルキは大きく嘆息をつきつつ、されど追従するしかなかった。
 何せ自分達は“チーム”なのだから。もう後には戻れない身となって久しい以上、要らぬ
軋轢で神都(ここ)を追い出されては命に関わる。
 俺も様子を見に行って来るよ。ルキは言い、場の面々に深部へと続くゲートを開けて貰っ
た。自身の持つカードキーも使い、あくまで合法的に件の箱庭(フラスコ)へと向かう。
「そう言えば……。アルス・レノヴィンの所持品は、今何処に?」
「? ああ。えっと、確か……」
「B2隔離区だよ。例の凝縮品──兄貴の聖浄器を何故か持ってたらしくてな」
「へえ……。そっか、ありがとう」
 一人扉の向こうへと去って行くルキ。
 その間際、彼からそんな質問をされたが、場の神々(どうりょうたち)は特に疑問も持た
ずに答えた。既に己の持ち場に戻り、保守・点検作業を再開している者達さえいる。
『──』
 より深部へ。こちらに背を向け、通路奥へと消えてゆくその表情(かお)に、不穏な影が
差していたことにも気付かないまま。

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  1. 2019/07/09(火) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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