日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔53〕

「トリニ……ティ?」
 惨劇に落ちた病院の外、手負いのマリアを一気に畳み掛けようとしていた睦月らの下に現
れたのは、思いもよらぬ乱入者達だった。司令室(コンソール)の向こうの皆人らも、思わ
ず目を見開いている。
『……どういう事だ? 何故あの二人が──額賀二見が一緒にいる?』
 変じたのは赤・青・黄、三色の獅子を象った騎士甲冑。
 筧と二見、由香。ただこの三人が現れただけだったならば、まだ分からなくもなかった。
彼らは皆、何からの形で自分達対策チームと関わりを持ってきた者達なのだから。
 しかし……三人がまるで守護騎士(ヴァンガード)のように、パワードスーツ姿に身を包
んだとなれば話は別だ。少なくともその力は、考えうる限り最も厄介な出元であると思われ
るからだ。避けねばならなかった。
 急いで解析を! 萬波や香月、研究部門の面々は、次の瞬間弾かれるようにめいめいのデ
スクへと飛びついていた。皆人らを含め、脳裏に駆け巡ったこの仮説を確認する為である。
その間にも睦月や冴島、仁に黒斗、現場の状況は刻一刻となだれ込んでゆく。
「退いてろ。後は、俺達が始末する」
 赤の獅子騎士──筧はそう短く言い放つと、両腰に下がっていた一対のパーツを手早く組
み立てた。取っ手付きの円筒と、三方十文字に分かれた円筒。両者を真っ直ぐ一本に繋いで
取っ手を手前に捻った瞬間、先端から迫り出したエネルギー塊が大きな刃──剣へと変わっ
て固着する。
 睦月達が止める暇さえなかった。直後彼はダンッと地面を蹴り、一気にこちらの合間を縫
ってマリアへと肉薄。引き離すようにして幾つもの斬撃を叩き込む。
 そのパワードスーツの色彩と同じく、刀身や甲冑から漏れるのは炎。辺りの空気を熱が少
なからず歪ませ、ぼやけたように見せる。マリアもマリアで、この突然割って入ってきた敵
に対し、何とか反撃しようと試みる。
「ガッ……!? 調子ニ……乗ルナッ!」
「本間翼ヘノ回路(パス)ガ途絶エタカラトイッテ、能力自体ハ……!」
 何度目かの斬撃。それをマリアは敢えて肩ごと受けて捉えた。肉を切らせ、骨を断とうと
したが──逆に利用されてしまった。筧ことブレイズのエネルギーをその吸収能力で奪い取
ろうとした直後、寧ろ熱と共に奪い返されてしまう。
「悪いな。てめぇの能力はもう、把握済みだ!」
「グエッ?!」
 続けざまに叩き込まれた一閃。マリアは弱った身体と隙を突かれて盛大に吹き飛び、アス
ファルトの地面の上で仰向けになって悶絶する。睦月達も一瞬、何があったのか理解出来て
いなかった。
「筧さん!」
「吸い取り返した……? あの力は、一体……?」
 熱量掌握。それが筧の、赤の獅子騎士(トリニティ・ブレイズ)の能力だ。熱を生み、或
いは奪って操る。同じく吸収系の能力を持つマリアにも、その効力は例外ではない。
 何故筧刑事達が? 睦月らは混乱していたが、少なくとも目の前で起きた変身(じたい)
は解る。彼らも改造リアナイザに手を出したのだ。このまま好きにさせる訳にはいかない。
間合いの空いた彼へと、急ぎ駆け寄ろうとするが……。
「額賀!」
 だがそれを防いだのは、もう一人の獅子騎士、二見ことブラストだった。青い騎士甲冑の
ようなパワードスーツ姿に身を包んだ彼は、筧からのそんな合図に両腰のパーツを組み立て
て棒状に。筧のそれとは逆方向に取っ手を捻ると、中心からエネルギー塊のシャフトが伸び
た杖を握り締める。
「どっ……せいっ!」
 するとどうだろう。次の瞬間、彼がこの得物を振り回しながら柄先をガンッと地面に叩き
付けると、そこを中心として青い冷気のような余波が睦月達を襲ったのだ。
 思わず駆け寄ろうとした足を止め、手で庇を作って風圧に耐える四人。
 しかしこれと同時、面々の動きはその意思に反して“ゆっくり”になっていた。驚愕する
表情さえスローモーションになる睦月達を、EXリアナイザの中からパンドラが目撃して叫
んでいる。
『こ、これは……まさか!?』
「そのまさかさ」
 物質遅滞。それが二見の、青の獅子騎士(トリニティ・ブラスト)の能力だった。対象範
囲を“ゆっくり”にし、動きを封じる。冴島隊B班を襲った異変と全く同じ効果だった。或
いはその作用の一環で空気中の水分すらも凝結させて冷気に──氷へと変えて攻防に利用す
る事ができる。
 杖の両端から冷気を纏わせつつ、二見は筧に加勢して更にマリアを追い詰めた。今度は熱
ではなく氷でその手足を凍て付かせ、回避を抑え込む。その隙に筧が高熱を込めた拳を腹に
叩き込み、再び病院側の方へと吹き飛ばした。
「……では、仕上げです」
 更に残る三人目、七波由香も準備を整えていた。両腰のパーツをL字型に組み立てて銃身
に見立て、先端三又の左右から弦を展開。まるで弩(ボウガン)のようにこれを構え、ちょ
うど階上の踊り場窓からこの一部始終を見ていた國子や海沙、宙、及び本間颯に狙いを定め
たのである。
『──ッ!?』
 直後、躊躇いなくひかれた引き金。数発の電撃の球が射出されたのを見て、國子達は咄嗟
に颯を庇いつつ避けようとしたが……同じく“ゆっくり”の範囲内に巻き込まれた彼女達は
思うように動けない。結果、最初の一発は彼女らを隔てていた窓硝子を破り、残る二発は他
でもない颯を直接襲う。
「あ……れ? 別に……痛くも……何とも……??」
 されどダメージは無い。しかし、油断したその直後から「仕上げ」は始まっていた。全身
をバチバチと、帯電の光が覆ってこそいたが、颯自身には特に変化はなかった。本人や國子
達が戸惑っている中で、由香は更にもう一発。近くのベンチを目掛け、この帯電させる電撃
球を放ったのだった。
「がっ?!」
 するとどうだろう。次の瞬間、彼の身体は瞬く間にこのベンチに向かって吸い寄せられて
ゆくではないか。「本間さん!?」海沙や宙が止める間もなく、この召喚主の男性は自分達
の手元を離れ、病院外の現場へと引き摺りだされていった。ビタンッ!! まるで磁石のよ
うに引き寄せられ、強力にくっ付く。國子や司令室(コンソール)の皆人、この一部始終を
目の当たりにした仲間達がハッと気付いて言う。
『……そうか、磁力か! あの光球は、包んだ対象(もの)を磁石に変えるのか』
 磁力付与。それが由香の、黄の獅子騎士(トリニティ・ブリッツ)の能力だった。S極か
N極、どちらかの磁場を相手に与え、吸引と反発の力でもって攪乱する。
 筧さん、額賀さん! 由香は二人の仲間に呼び掛けていた。キッと気丈に、手筈通りに。
 彼女はボウガン型に組んだ得物を片手に、これの銃底から延びるスイッチを引いた。スラ
イドしてまた元に戻りつつ、ボウガン及び騎士甲冑のパワードスーツ姿に黄色いエネルギー
の奔流が迸る。「おうよ!」二人に吹き飛ばされたマリアも、同じくベンチの方へと転がさ
れていた。筧は指先でなぞり、赤く熱を帯びる刀身を。二見は杖全体に冷気を巡らせ、回転
させてから再び地面へ。彼らはそれぞれの必殺技を発動する。
「……ッ!?」
「ひぃっ──?!」
 連続の剣閃が描く炎の獅子はマリア本体を、足元を這って進む冷気の獅子はマリアと颯、
両者の身動きを封じて襲い掛かった。ボウガンから大きくチャージして放たれる電撃の獅子
は一方で、的確にその改造リアナイザだけを狙って抉り取る。
『ぎゃあああああああーッ!!』
 故に断末魔。直後この実体化寸前まで進んだアウターは、あと一歩の所で自身の召喚を潰
されて永久に消滅した。三人の大技、風圧の余波で颯も吹き飛び、白目を剥いて遂に意識を
手放してしまった。辺りに立ち上った煙や土埃が晴れるまで、掛けられた“ゆっくり”の効
果が解けるまで、睦月達は呆然とその場に立ち尽くすしかない。
『……凄い』
『ええ。だが間違いなく、あの力は……』
 司令室(コンソール)の皆人や萬波、香月らも、同じく硬直したままでこの一部始終を見
ていた。とはいえそこに込められていたのは、単なる驚愕だけとは限らない。
 じっと筧と二見、由香が、マリアの撃破を確認してからこちらを見遣ってきた。睦月と冴
島、仁が、思わず“ゆっくり”なままで身構えようとする。
『……』
 ただ彼らが狙っていたのは、あくまで四人目──黒斗ことユートピアだったのだ。
 数拍、妙な間があってからの、明らかに害意を向けてこちらに駆け出した三人。それぞれ
の得物を引っ下げて、この睦月達の側に立っている個体(アウター)を引き続いて攻撃しよ
うとする。
「えっ……?」
「ま、まさか。彼らは」
「おい! 止め……止めろォォォーッ!!」
 尚も“ゆっくり”の効果が続いている睦月達には、どうする事も出来なかった。意識の上
でそう叫ぼうとしても、動こうとしても、言葉は酷くスローモーションで鈍い。次の標的と
された当の黒斗も、静かに目を見開いたように見える。
「……っ!?」
 鈴付きの鉤型杖を両手で握り締めたまま、同じく思うように動けない黒斗。
 筧ら三体の獅子騎士は、残るこのもう一人のアウター・ユートピアを倒すべく、彼を目掛
けて襲い掛かり──。

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  1. 2020/03/24(火) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔114〕

 真っ白な砂の地面と、真っ黒な虚ろの空間。何度も何度もサラサラと朽ちては再生し、朽
ちては再生してゆくイメージ。
『……』
 目を覚ました時、彼女の記憶は失われていた。
 浄化プロセス、個体としてのリセット。さりとてそれは、この冥界(アビス)ではありふ
れた日常に過ぎない。魂を使い回す為のいち工程でしかなかった。深い檻から引き上げられ
た後も、その姿はうら若きとて虚ろな目をしている。
『──素晴らしい。この者には素質がある』
『おそらくは生前、蓄えていた“穢れ”が少なかったのだろう』
『実に清く正しく生き、愛し愛されたのだろう』
 ただ彼女が他と違っていたのは、ひとえに目を付けられたからだった。当時の魂魄楼上層
部、世界の魂(エネルギー)を管理する神々が、彼女を閻魔にすべく働き掛けたのである。
『私が……裁判官に?』
 詰まる所はスカウト、強引な配置転換であったのだろう。
 尤も彼女自身、そんな事を薄々解ってはいた。しかし記憶──己そのものを失い、乏しく
なった今、激しさを増す空虚さを埋められるのならば何でも良かった。……いや、そもそも
一連の引き抜き自体が、そうした者を狙っての事だったのかもしれないが。

 かくして神々に言われるがままに居留、閻魔として道の歩み始めた彼女は、永い時間を掛
けて着実に出世を果たしていった。閻魔と死神、及び冥界(アビス)の存在理由──生と死
にまつわるシステム、世の理と呼ばれるもの。
 尤も既に在る、与えられた「秩序」であろうと、彼女にとってはそれが全てだった。抱い
た空虚さを埋めてゆく日々の中、自らも気付かぬ内に、それらは己の存在意義そのものと化
していたからだ。真面目に務め上げたが故に、総長にまでなった。
「──ヒミコっ!!」
 時は現在。全く変わり映えのしなかった日常が今、大きく壊れようとしている。これまで
疑うことさえも、暇もなかった根本が揺さぶられている。
 キリシマ以下北棟死神隊の面々に捕らわれていた彼女は、その時突入してきたオシヒト機
動長の姿を見、目を丸くしていた。その叫ばれた呼び捨て(ことば)に、一抹の違和感を覚
えていた。
 脳裏の一角にちらついたノイズ。いわゆる既視感(デジャヴ)。
 ただ彼女自身は全くもって判らない。そもそもこれが自分の記憶だとの実感すら無い。
 故に、反射的に抱いた感慨は、安堵でも捕らわれの恐怖でもなく戸惑いだった。しかし現
実に、目の前の彼は必死で自分を助けようとしている。口論(やりとり)も上の空──対す
るキリシマ達を含め、彼らの声が妙に遠くで響いているように感じる。
(……何なの? 私は一体、何者なの?)
 彼女は不意に息苦しくなった。表情(かお)を歪めて、激しい衝動に駆られた。
 もしかして彼は、“私”のことを知っている──?

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  1. 2020/03/10(火) 18:00:00|
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(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔52〕

 時は睦月達が、八代もといキャンサーを倒した後の事。白昼堂々、勇はやや遠巻きの位置
から学園(コクガク)を覗いていた。じっと微動だにせず、物陰から半身を覗かせている。
「……」
 七波由香を巡る攻防は、同じく彼女を狙う別個体らの襲撃により、当初の思惑から大きく
外れてしまった。延びてしまった。
 下調べによると、あの女は一時行方知れずになった後、また保健室登校に戻ったらしい。
 ならば同じ場所を──グラウンドに面したあの一室を狙えば、もう一度始末するチャンス
はある筈だ。
(ただ……)
 とはいえ一方で、気になることもある。同じく下調べをしていた際、市中の“同胞”達か
ら奇妙な噂を聞いていたからだ。何でも『ここ最近、筧の姿が見えなくなった』とか、或い
は『また同胞が一人、また一人と消えていっている』らしいとか。
 少なくとも後者に関しては、今に始まった事じゃない。また守護騎士(ヴァンガード)達
が、手当たり次第に首を突っ込んで狩っているのだろうと思ったが……それにしては奴らの
動きに目立ったものが見られないのは何故か?
 筧兵悟の件も気になる。十中八九、七波由香の方が当人に報せなかったのだろうが、結局
自分が目論んだ策に奴は乗って来なかった。寧ろ後になって知り、彼女と接触して家まで送
ったとみた方が自然だろう。
 何か不穏な動き──。そんな情報もあって、勇は再びの襲撃に対して慎重を期していた。
 大体もって七波由香の転入とその後の動き自体、守護騎士(ヴァンガード)とその仲間達
による“根回し”である。となれば学園(コクガク)内部にも、工作員の類が居てもおかし
くはないだろう。警戒すべき戦力が潜んでいる可能性は否めない。七波由香一人を殺す。そ
の目的自体は、龍咆騎士(ヴァハムート)のアクセルでも使えば強行突破できなくもないだ
ろうが……リスクは大きい。こちらが変身した時点で察知はされるだろうし、今後突きうる
チャンスも減る。となると、やはり在宅時を狙った方がいい。
 ただそれも、自分が七波沙也香を“始末”したことで、一家の住処として殆ど機能しなく
なってしまった。警戒の兵、当局の人員が今も交替で張っているようだが、当の由香本人は
まともに帰って来てすらいないようなのだ。
(……どいつもこいつも)
 俺の邪魔ばかりしやがって。勇は内心ずっと、怒りや焦りが綯い交ぜになったその感情に
苛立ちを覚え続けていた。苛立っている自分自身にも、しばしば害意を向けたくて仕方ない
時があった。
 どうしてだ? お前は何故、俺という“仇”に反撃しようとさえしない? 自ら向かって
来ることすら選ばない? どのみち俺もお前も、今更「普通」の「日常」には戻れない筈だ
ろうが。自分の意思で茨の道を選んだのだろうが。何を呑気に、奴らが設えた安寧の中に閉
じ籠もっていやがる……。
(それにしても。妙に浮付いてるな。何かあったっけか?)
 少なくとも当の標的(ターゲット)、向こうから積極的に動こうという様子は無さそうだ
った。一方で先ほどから覗いている学園(コクガク)の敷地内では、あちこちでトンカンと
工作の音が聞こえる。屋台らしき木組みを運んでいる生徒達の姿が見える。
(……そうか。そう言えばそろそろ、文武祭の時期だったな)
 だからこそ勇も、ややあってその理由に気付き出して。自身も前年と前々年、いち学生と
して玄武台(ブダイ)のそれに関わっていたからだ。祭りの準備をしながら、当時まだ中等
部生だった弟・優との記憶が蘇る。

『へえ、凄いなあ……。話には聞いていたけど、そんなに大きなお祭りなんだ?』
『ああ。玄武台(うち)だけじゃなく、飛鳥崎中の学校が集まるからな。先輩に聞いても随
分盛り上がってたみたいだぜ? まぁうちは基本、スポーツ系の大会になっちまうんだろう
けど……』
 記憶の中の弟は、そうやってニコニコと笑っていた。まだ野球部に入る前、進学先の高校
すら決まっていなかった頃だ。思えばあの時もっと、あいつに合った学校を見つけてやれて
いれば、あんな死に方はしなかったのかもしれない。元々お世辞にも、バリバリの体育会系
という訳ではなかったのだから。
『それでも、だよ。いいなあ。僕も参加したいなあ……』
『はは。お前も進級すれば、クラスでやるだろうさ。それまでのお楽しみだな?』
 只々家から近かったから。選んだ理由は先ずそこからで。
 でも根っこの優しかったあいつには、スポ根という名の閉鎖的なセカイは合わなかった。
奴らの秩序と自らの良心、さぞ辛かっただろう。俺達もあんな最期になるとは考えもしなか
った。あいつの平穏な日々と笑顔を、奴らは平気で奪いやがった。悪いのはさも、そこに小
さくとも疑問を呈した弟の方だと、反省すらしなかった……。

「──」
 要らぬ感傷だな。
 されど勇はすぐに、そんな過去の記憶から意識を現在(いま)に戻すと、再び敷地内の様
子に集中し始めた。だってもう……あの頃には戻れないのだから。殺した者、殺された者。
本当の意味で“取り返しのつかない”ということを、彼は否応なしに知っている。
 かつての平穏だった頃の記憶。同時に自分達を置き去りにしてでも、こうして現在進行形
で前へと進んでゆくばかりな、歳月というものの無慈悲さ。無常さ。
 状況としては、依然として宜しくはない。文武際の準備が本格化すれば、今以上に七波由
香をピンポイントで狙い討つのは難しくなるだろう。
 それでも──勇はやるしかなかった。
 七波由香と筧兵悟、そして守護騎士(ヴァンガード)。彼女らを殺す、これまでのけじめ
をつけるしか、もう残された道は無かったのだから。

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  1. 2020/02/25(火) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔113〕

 全ての魂はその肉体的死後、冥界(アビス)へと運ばれる。彼らが汚染され、劣化し過ぎ
てしまう前に、再び生のサイクルへと乗せ直す為だ。同界の中枢、魂魄楼に属するエージェ
ント・死神及び閻魔達は、可能な限りこれらの仕組みを担保する使命を帯びている。
 私も──当初はそんな例に漏れなかった。一個の生命として死を迎えた後、こちら側に連
れて来られたことで、初めて世界の真実たるを知った。
 端的に言えば……絶望でしかなかったのだ。私達は所詮、神を自称する(なのる)者らの
“資源”に過ぎない。死した命、私達そのものであり核たる魂は、浄化と呼ばれるプロセス
を経て再び魔流(ストリーム)へと還る。
 即ち生命とは幾度となく再利用(リサイクル)されるものであり、生とは単にその一部、
一過性の現象に過ぎないということだ。加えて当時の魂魄楼上層部が、私を“強い素質”を
持つ魂として、半ば強制的に死神へと転身させた点も大きい。『拒むなら徒に浄化が長引く
ことになる』──刑が延びるぞと、暗にちらつかされて。

 死んでもまだ働かされるのか……。私は大いに辟易した。
 事実生前、私は戦って戦って戦い続けた人生であったと記憶している。尤もこちら側に来
てからの永い歳月の中で、すっかりその仔細はぼやけてしまったが。
 故にそのような押し付けられた役目など、早々に棄ててしまえば良かったのかもしれない
が……裏を返せば他に何もする事が無かったとも言える。本当に己の一切が消失することに
躊躇いがあったのか、結局生来の真面目さで手を抜く事もままならなかった。結果周囲から
は「有能」と認識され、順調に昇進を重ねてきてしまった──永く死神をやらされる羽目に
なってしまった。
 今や私はその最高位、総長の地位にまで登り詰めてしまっている。自身の《滅》の色装、
得物である大鎌も相まって、その象徴的存在と見做されてしまって久しい。

 どうしてそこまで、必死になって働かねばならない?
 あの頃抱いた徒労感は、今も殆ど解消されてはいない。寧ろ歳月を重ねれば重ねるほど、
最早自分では拭い去れないほど頑固にこびり付いてしまった、腫瘍のようでもある。
 私達は知ってしまった。生も死も、全ては魂を再利用(リサイクル)する為の一過程に過
ぎないということを。私達は死んでも生きているし、生きていても、少なからず前世で死ん
でいる。今此処に在ることの意味の、何と希薄なことか。
 何よりも……永い歳月の中、延々と肉体的死を経て送られてくる魂達を処理するという果
ての無さこそが苦痛だった。一人一人は当代、その直前までの生の記憶に縛られているにせ
よ、その事情を全て知った上で呑み込み、気取られぬよう気丈に振る舞い続けることを強い
られるならば、早々に自ら“煉獄”へと身を投げてしまった方が良かった。私が私でなくな
るのなら、徒に魂が使い潰されるのが秩序だと云うのなら、いっそそんな秩序など無くして
しまった方がまだ救いがあるではないか……?

 こと魂魄楼(こちら)へ流入する魂達の絶対量が、ある時を境にして大きく増えた。現世
の歴史ではちょうど、魔導開放と呼ばれた時期と重なる。ただでさえ魔力(マナ)──魂達
を酷使する術を、より多くの人間が行使するようになった。即ち、その代償として瘴気に中
てられる命が増えた。
 全く……余計な事を。
 冥界(アビス)、死神衆としても、以降人員の大幅増を余儀なくされた。私個人の願いと
は裏腹に、救われぬ魂は歳月を経るごとに増えてゆく一方だったのだ。
『──やあ。君がアララギだね? 歴代屈指の総長と誉れ高い』
 彼らが私の前に現れたのは、ちょうどそんな頃だった。個人としてもより強く、加えて楼
内全員のそれを思って疲弊が募る日々の中、二人は私を勧誘しに来たのだった。
 一人は淡い金髪の青年。一見してこの場に現れるのが不自然なほど、若い男だった。
 一人は黒灰の老人。後に古仰族(ドゥルイド)と呼ばれることとなる一派の術師だった。
 曰く、彼らは先の魔導開放の要“大盟約(コード)”を消滅させ、この世界を救おうとし
ていた。その為に私の力を欲し、手を組まないかと交渉しに来たのだった。
 正直な話、私は彼らの目的それ自体にあまり興味はなかった。全ての生命にとってこの世
界そのものが苦痛の苗床であるのなら、そもそも差し伸べるべき対象が違う。
 しかし私は一方で考えた。
 それでもまだ、この延々と続く地獄を、終わらせることが出来るなら──。
『……なら聞かせろ』
『お前達のこと、お前達の知っている、全てを』
 故に私は彼らに対し、逆に“答え”を求めて問うた。同時にその返答次第では、即座にこ
れを斬り捨てて、行動を起こそうとさえ考えたのだ。
『む? それは──』
『ああ、いいだろう。俺達が知っていることなら、何でも』
 一瞬警戒する老魔導師・ハザンと、臆せず寧ろニッと笑ってすらみせる青年・ルキ。
 尤も私は結果的に、彼ら共々“盟約の七人”の一人となった訳だが……。

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  1. 2020/02/11(火) 18:00:00|
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(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔51〕

 最新鋭のAR技術を駆使した育成型対戦ゲーム・テイムアタック。及びその専用ツールで
ある短銃型装置・リアナイザ。
 一時は巷のコアなゲーマー達を夢中にさせたものの、他でもない製造・販売元たるH&D
本社のリチャードCEOにより、事実上の終焉を迎えた。
 だが……そうして“禁制”の品になったからこそ、人々は考える。水面下で尚蠢く者達が
いる。
 中央署の一件を経て、件のツールが電脳生命体なる怪物達の苗床となり得る旨は、広く知
れ渡るようになった。人によってさほど信を置いてはいないにせよ、政府が公式にその存在
を認めた点も大きいのだろう。要するに関わり合いになれば、碌な事にならないと判ってい
るのだ。
 にも拘らず、一方で彼らは考える。もしそんな人外の力を借りられれば、終ぞ果たせなか
った思いも現実のものとなるのではないだろうか? と。
 何としても──たとえ法や倫理を犯してでも叶えたい願い。それは極論、少なからぬ人々
が抱えているとも言える。問題はそういった良識の枷を、一線を越えて行動してしまえるか
否かなのだから。何も彼らを衝き動かす原動力は、「悪意」故の願いとは限らない……。

「だ、誰かいないのか? 来たぞ! 約束通り、例の物を俺に寄越してくれ!」
 水面下での変化。それはアウター及び改造リアナイザの、一層のアングラ化だった。中央
署の一件以降、それでも件のツールを求める者達は、人知れず“窓口”とされる存在と接触
を図っていたのだった。
 昼間でも薄暗い、街の暗部──雑居ビル群の谷間。
 そこへ独り、おずおずと足を運んで来た一人の青年が、未だ見えぬ取引相手へと呼び掛け
て言う。
「──分かってるよ、そんなデカい声出すな。気付かれるだろうが」
 するとどうだろう。次の瞬間暗がりの一角から、何者かの声が返ってきた。青年が思わず
ハッとなって振り向くと、そこには荒くれ風の男と酷い肥満の大男が立っている。良くも悪
くも目を見張る二人分の人影が、気付けば音もなくこちらへと歩いてくる。
「ようゴゾ。あんたは正直者で……幸運だァ」
 言わずもがな、人間態のグリードとグラトニーだった。“蝕卓(ファミリー)”七席にし
て、かねてより改造リアナイザの売人を務めている二人組である。喉まで肉に塗れたグラト
ニーが決め台詞のように、舌っ足らずな口調で言う。
 ほらよ。そして青年へと十分近付くよりも前に、グリードが手にしていた改造リアナイザ
を一つ、彼へと放り投げた。それが自分の求めていた品だと知り、一瞬慌てつつも咄嗟の反
応でキャッチ。両手に包み込んで受け取る。
「こ、これが……苗床のリアイナイザ」
 何より呟くその目には、確かに動揺と一抹の興奮が滲んでいた。
「おうよ。じゃあ確かに渡したぜ? 精々上手くやるこった」
「頑張ってネー」
 禁制の闇取引。だが人々がそれらを求める際、彼らは別段金銭を要求したりはしない。既
に知る者は知っているように、彼らの目的はあくまで苗床の──アウターこと電脳生命体の
増殖にあるからだ。ヒトの欲望、負の感情に付け込み、その個体数を増やす。同胞達の進化
を促す……。
 荒くれ風の男と、肥満の大男。グリードとグラトニーは引き続き言った。
 同じくこれも、予め取り決めた台詞であるかのように。既に青年に対して半ば興味と用件
を失い、ヒラヒラと片手を振って、暗がりの中へと再び踵を返しながら。
「引き金をひけ。そうすりゃあ……お前の願いは叶う」

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  1. 2020/01/28(火) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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