日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔55〕

「皆無事でよかった。筧さん達としっかり話せなかったのは、心残りだけど」
 それは仁と宙が、ギョロ眼のアウターの群れを倒した後のこと。
 作業時間が放課後に突入した頃合いを見計らって、睦月ら残りの仲間達は一旦離脱。地下
の司令室(コンソール)に集合していた。二人から詳しい話を聞き、新たに現れた敵の臭い
を探る。筧達とは道中、既に別れた後だ。
「まぁぶっちゃけ、運が良かったってのもあるんだろうなあ」
「筧さん達も一緒だったし、その場で倒せたから良かったものの……」
 一通り把握をして、ホッと胸を撫で下ろすのも半分。一方で怪しさも半分。
 正直、消化不良な感じは否めない。特にそんな感慨は、当の本人達が一番強かった。
 睦月や海沙は苦笑(わら)い、冴島や國子は隊士からの報告を受けている。持ち帰った戦
闘記録(ログ)を見つめながら、皆人は確かめるように言った。
「……大江。こいつらは始めから、複数体居たんだな?」
「ああ。筧さん達もそれは目撃して(みて)る。徒党を組んで、居合わせた警官達を襲って
たみたいだぜ?」
「量産型(サーヴァント)……じゃないもんね。見た目から何から全然違うし……」
 海沙も中央のディスプレイ群を見上げながら、そうモヤモヤとした違和感に何とか回答を
得ようと模索していた。外見こそ鉄仮面とギョロ眼、明らかに違う他、筧達には腐食の息ま
で吐いていたという。自分達が今まで見聞きしてきた量産型とは、別個体なのだろうか?
「うん。新型の可能性もあるけれど……」
「そうね。あり得ないと言ってしまうのは早計だけど……合理性や必要性を踏まえれば、疑
問符が付くわね」
「サーヴァントは元々、特定の召喚主を持たなかった場合の姿、初期状態(デフォルト)の
個体だ。“蝕卓(ファミリー)”が雑兵として使う以外、改良を加える積極的価値があると
は思えん。お互い時期が時期だ。タイミングとしても、戦略としても。そもそも召喚主から
の願いを聞き入れた時点で、その姿形・能力は大きく変わってしまうからね」
 睦月からの問いに、母・香月や萬波以下、研究部門のメンバーが答える。敵側が何らかの
意図をもって、改良を加えることはあり得るだろうが、あくまで選択肢の一つに過ぎない。
同じ個体だからと言って即そう結び付けてしまうのは安直だろう。
「“群体”であること。或いはそれ自体が、奴らの特性だったのかもしれないな」
「なるほど……」
「複数っていうか、コンビだけど、ピッチャーとバッターの奴らもいたしね。まぁあいつら
の場合は、リアナイザもそれぞれ別に持ってたから違うかもだけど……」
「その意味では、獅子騎士(トリニティ)──筧さん達の方が近いのかも。一つのリアナイ
ザから生じた個体という意味では、今回のような例が出てもおかしくはないわ」
 ぶつぶつ。皆人は誰にという訳でもなく、そう一応の仮説を付けて言う。
 仁もそれで一旦、積極的な疑問符を引っ込めていた。睦月や香月も、これまでの例を挙げ
てみては補完する。ただどちらにせよ、特殊なケースであるには違いない。そもそも今回の
件については、召喚主の正体も目的も不明なのだ。一人であるとも限らない。
「何より……末端とはいえ、当局の警察官達に被害が出たのは対策チーム(おれたち)的に
も拙いな。ただでさえ政府との共闘話が、表向き踏み込めていない中、向こう側からの突き
上げがまた増す可能性がある」
 ディスプレイ群からサッと視線を逸らし、皆人は睦月達を見た。香月が一人密かにばつの
悪そうな表情を浮かべている。あくまで現状内々の調整作業とはいえ、少なくとも全体の情
勢が好転する材料にはなり得なさそうだ。
「でも三条君。ソラちゃんや大江君が倒したんだから、これで大丈夫なんじゃないの?」
 きょとんと、海沙が直後小首を傾げて言った。実際先刻の現場に現れた個体は爆発四散し
たのだから、当座の脅威は去った筈だ。それでも皆人や香月、萬波や冴島といった面々──
研究部門寄りは、まだ怪訝と警戒の念を拭い切れていないらしい。
「……そうだといいんだがな。念の為、こちらで追加の調査をしておく。確認だ。また同じ
ような事件があれば、今回のように押さえられるとも限らん」
 少々含んだ言い方を皆人はする。用心しようというのは解らなくもなかったが……睦月達
は正直モヤッとした。そんな仲間・親友(とも)達の心情自体は推し量っているのか、彼は
一旦話題を切り替えるように大きく息を吐き出すと、言う。
「それよりも。俺達には今、やらなくちゃならないことがあるだろう?」
「? うん?」
「それって──」
 ああ。終始生真面目だった彼の表情が、少しだけ、ほんの少しだけ“学生”のそれに変わ
った。努めて緩めたように見えた。
「文武祭が、もうすぐ始まるだろう?」

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  1. 2020/06/16(火) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔116〕

 前死神総長ショウ・アララギ及びその一派との戦いは、土壇場で形勢をひっくり返す事に
成功したジーク達クラン・ブルートバードと東西南、残る三棟の長らを中心とする共同戦線
の勝利に終わった。死者の国・冥界(アビス)全域を、永らく暗躍し続けてきた“結社”の
魔の手から解放する事に成功したのである。
 ただ……“敵”さえ倒せば万事解決、とはならないのが世の常だ。言わずもがなだった。
決戦を経た此処冥界(アビス)の中心地・魂魄楼は、そのあちこちに少なからぬ爪跡を残し
ていた。破壊され、焼け焦げ、或いはそれを悟られぬよう大きな布で覆われている。
「──」
 北棟本部兼裁定所区画。このような楼内復旧の様子を、ヒミコは自身の執務室の窓から眺
めていた。戦いの余韻冷めやらぬ内から迅速に動いてくれているのは、流石は技術者集団・
南棟死神隊と言った所か。トンカンと作業が拡がってゆく光景を、市中の人々は立ち止まり
つつ見上げつつ、通り過ぎてゆく。
『……』
 彼らの眼差しは、総じて強い不安に晒されているように見えた。安堵より不満。一般の魂
達は、先日までの死神隊の戦いなど知らない。只々、死んだ後も怯えて暮らさなければなら
ないのかと、寧ろ事の発端となったジーク・レノヴィン達に怒りすら向けているのだろう。
(やはり、そう簡単に丸く収まる……という訳にはいきませんね)
 だからこそヒミコは、一人静かに嘆息をつき、気持ち眼下の街並みから視線を逸らした。
 いち個人及び、閻魔総長としての不安。これからは物だけではなく、人の復興が重要にな
ってくる筈だ。何より死神衆の後任をどうするか? 人事は先日発令されたが、混乱の収拾
を優先する余り、少々拙速に過ぎたかもしれない──。
「失礼します!」
 ちょうど、そんな時だったのだ。一人物思いに耽る彼女の下へ、この執務室の扉を叩く者
が現れた。ハッと我に返り、出入口の方を見遣る。一度半分開けられた隙間から、数名の部
下と見張り役の死神が顔を出して伺いを立ててくる。
「クラン・ブルートバードの、クロムウェル殿をお連れしました」
「閻魔長にお目通り願いたいとのことです」
 何だろう? ヒミコが最初に思った内容は、そんな純粋な疑問だった。
 先の戦いを経て、少なくとも自分の周囲の者達は彼らに対して協力的にはなったが、未だ
楼内全体として見れば警戒感は根強い。何より彼らは今、戦いの傷を癒す為に大人しくして
貰っている筈だ。何が問題でも持ち上がったのか?
「……そうですか、ありがとう。お通しして?」
 ヒミコは努めて静かに微笑(わら)い、そうこの部下達を一旦人払いするようにして廊下
側へと返した。入れ替わるように入って来た当の客人・クロムとやや距離を置いたままじっ
と向き合い、数拍様子を窺う。
 最初に口を開いたのは、彼女の方だった。
「この度は……本当にありがとうございました。もし貴方達がいなければ、この魂魄楼は、
冥界(アビス)全土はどうなっていた事か」
「いや。元を正せば私達が引き起こしたようなもの。謝らなければならないのはこちらの方
だ。改めてお詫びする。古巣とはいえ、貴女方に多大な迷惑を掛けてしまった──」
 一方のクロムはと言えば、相変わらずいつもの気難しい表情(かお)を崩す訳でもなく。
 何となく間がもたず、先ずは改めて礼をと頭を下げかけた彼女を、彼は淡々と押し留めて
いた。逆に一連の騒動について責任を認め、謝罪する。
「そっ、そんな心算では……!」
 動揺するヒミコ。
 だが当のクロム本人は、至って真面目だった。何よりこうして恐縮される事も予め織り込
み済みだったようで、彼は次の瞬間さらりと本題へと入り、言う。
「閻魔総長ヒミコ殿」
「今日訪れたのは他でもない。貴女に是非、訊いておかねばならない事がある」

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  1. 2020/05/19(火) 18:00:00|
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(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔54〕

 主人公というのは誰でもなれる訳じゃないが、たった一人だけだなんて決まりは無い。場
所を変え、時間さえも飛び越して、それぞれの物語が在る。それぞれがそれぞれに、人知れ
ず紡ぎ続けている。
「さぁ皆、そろそろ追い込み(スパート)掛けるわよ!」
『はいっ!』
 学園(コクガク)内文化部棟、新聞部部室。
 部長・百瀬恵を始めとした所属の生徒達は、来たる文武祭に向けて特別号を作ろうとして
いた。彼女の掛け声で面々のテンションは上がっており、寄り合わされた机の上には大量の
取材資料が積み上げられている。
「やっぱり、うちの有力部のインタビューは欠かせないわよねえ」
「ああ。それに、クラスの出し物だって馬鹿にならんぞ? 設営が始まってみなきゃ確実な
ことは言えないだろうが、コンセプトが受ければ化ける。それこそ、うちの得点増に直結す
るしな」
「いやいや、話題性で言えばやっぱミスコンでしょ? 去年出た子達もそうだけど、今年入
った一年生にも、結構可愛い子ちゃんがいるぞ?」
 学内ではちょうど、各クラスや文化部系の出展準備が進んでいた。運動部系の対抗戦につ
いても、先日出場校総出の抽選会があったばかりだ。恵自身も高等部三年。今回の一大イベ
ントが終われば引退し、受験勉強の方へと集中してゆかなければならなくなる。
「……」
 特に今年は、春先から様々な不可解事件があった。巷に広く知られるようになるほど表沙
汰になった。電脳生命体こと越境種(アウター)。個人的にも伯父の仇でもある奴らを白日
の下に晒してくれたのは、他でもない守護騎士(ヴァンガード)──睦月達だ。
 加えて今回は、元玄武台(ブダイ)生の由香が転入して来て初の大型イベント。これまで
散々アウター絡みの事件が頻発し、荒れた世の中を少しでも立て直したい。彼女は勿論、今
も不安を抱いて悶々としているであろう皆の“復活”をアシストを目指して……。
 特別号の作成を前にこちらが語った志に、部員達も快く頷いてくれた。意気揚々と各々が
集めてきてくれた取材結果をどう紙面に配分するか? その話し合いが続けられている。
(メグ。解っているとは思うが……)
(大丈夫よ。こっちが怪しまれるような記事は書かない。あくまでこれは、文武祭の特集だ
しね)
 皆が活発な議論とレイアウト・推敲作業を進めている中、こっそりとアイズの“眼”が恵
の陰に出てきて言った。彼女もひそひそ声、一瞥を向けて彼に応じ、一人内心緊張した面持
ちを隠している。
 ……彼女、七波由香を文武祭で励まそう、楽しませてあげようというのは実際の所方便で
しかなかった。何せ自分達は既に、彼の“眼”でもって彼女ら──筧刑事と額賀二見の三人
が、改造リアナイザに手を出したことを知っている。どうやら特殊なハプニングによって、
一つの力を三人で使い回して戦っているようだ。
 獅子騎士(トリニティ)──確かそんな名前だったと記憶している。その目的がアウター
達の殲滅なら、守護騎士(ヴァンガード)こと対策チームの皆とも協力したっていい筈なの
に、彼女らは寧ろこれを突っ撥ねている。敵対している。まぁこれまでの経緯、それぞれが
それぞれに、彼らとの関わりを経て大切なものを失っているのだから、心情的には解らなく
もないのだが……。それで利を得るのは、結局“蝕卓(ファミリー)”の側だろうに。
 恵は正直、もどかしかった。
 個人的には守護騎士(ヴァンガード)──睦月達を陰ながら応援したいにも拘らず、彼ら
を取り巻く状況は確実にジリ貧へと向かっている。個々の事件での実害ないし不満、七波沙
也香拉致殺害事件に加え、中央署での一件以降進まぬ政府との共闘話に、人々の批判や不満
は現在進行形で募っていた。燻り、再び爆発する瞬間を望んでいる節さえあるように見えて
仕方なかった。
(三条君、睦月君。あんた達一体、何をしてんのよ……?)
 自身の机で頬杖を突いたまま、彼女は内心そう嘆くしかなく──。

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  1. 2020/05/04(月) 18:00:00|
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(長編)ユーヴァンス叙事詩録-Renovin's Chronicle-Ⅷ〔115〕

「オシヒト機動長! 聞こえますか!?」
「閻魔総長ヒミコ様は、僕達が保護しました! もう大丈夫です!」
 精霊伝令を介し、アルスとエトナ、ハロルド以下冥界(アビス)側に合流したばかりの面
々は、ヒミコら閻魔衆を“結社”の兵達から救い出していた。アララギ・オシヒトとはまた
別の高楼、その内部に籠っていたオートマタ兵や狂化霊装(ヴェルセーク)達を全滅させ、
アルスはそう掌の光球に叫んでいる。
「……ジーク達、何とか間に合ったみたいだね」
「うん。僕達も急ごう。相手は“結社”の大幹部だ。こちらの数が少し増えたぐらいで押さ
えられるとは思えない」
 どうやら兄達は、一先ず作戦通りに動けているようだ。しかし傍らの相棒が小さく哂うほ
ど、彼自身はそこまで楽観視してはいなかった。映像(ビジョン)の向こうでは、兄や味方
達が今まさにアララギとの直接対決になだれ込もうとしている。
 全ては精霊族(スピリット)の始祖・マーテルとの融合──生まれ変わったエトナの力添
えによって可能になった芸当だ。或いは自身に与えられた、想定外の管理者権限(ちから)
の賜物か。
 事実皆がこれほどタイミングよくオシヒトの下へと集結できたのも、自分達がこうして伝
令を駆使して面々を繋ぎ、共闘するよう導いたからに他ならない。だからこそその為に、予
め閻魔長(かのじょ)らを助けに来たのだ。
「ああ……。そうだな」
「これだけ事態が拗れてしまっているからね。いつ結社(やつら)の側から、援軍が来ると
も限らない」
「もしそうなれば、状況は絶望的ですわね」
「……させない。その為に此処にいるんだから」
 ハロルドやリカルド、シンシアにミア以下場の仲間達も、険しい面持ちを崩してはいなか
った。こちらへ踵を返してくる二人に小さく頷き、転移の為に再びルフグラン号へと戻ろう
とする。
「シンシアさん。ルイス君、フィデロ君」
 だが次の瞬間、アルスが呼び掛けたのは、その内の学友及び彼女の従者達だった。息の合
ったような頭の疑問符。ふいっとこちらに視線を返す彼女らに、アルスは尚も真剣な表情の
まま続ける。
「先にヒミコ様達を船へ。中で避難してて待ってて」
「えっ──」
「何言ってんだ! 俺達も戦うぜ!?」
「相手が強敵なら、尚更……」
「だからだよ。もしヒミコ様達をまた失えば、人質として狙われてしまえば、今までの頑張
が差し引きマイナスになる。無駄になる。それじゃあ駄目なんだよ」
 それに……。アルスは加えて、少々口籠る。自分でも次々と指示を飛ばしている、その自
覚はあったのだろう。細める両の目、横顔には心苦しい憂いが宿っていた。
「君達まで、失ったら」
「……アルス」
 こんな時でも、こんな時だからこそ一緒に戦ってくれるのは嬉しい。だがその厚意に甘え
てずるずると、本来“部外者”である彼女達まで巻き込むことはアルス自身、決して好いと
は思えなかった。その果てにもし犠牲にでもなれば、セドさんやご両親、親類縁者の皆さん
に何と詫びればいいのだろう?
 ポンと、そんな言葉を掛けられた当人・シンシアの肩を軽く叩く者があった。彼女の従者
の一人、キースだ。振り返った視線に小さく頷きを見せて促し、もう一人の従者・ゲドも若
干口元を結んで同調している。
「仕方……ありませんわね」
 たっぷりと数拍迷ってはいたが、結局彼女達はこの指示に従うことにした。「絶対生きて
戻って来いよ!」「必要ならば援護する!」フィデロとルイスも、数歩駆け出しながらそう
ギリギリまで心配してくれていた。彼らやシンシア、ゲドとキースが転送リングの効果に巻
き込む為、ヒミコ達の手を取ってゆく。当の彼女は尚も強く困惑したままだった。
「どうして」
『??』
「貴方は、貴方達は……一体何者なのですか? 魂魄楼への侵入、実の兄の蘇生という前代
未聞の事件を引き起こしながらも、一方では私達を助けてくれた……」
 実際の所、半分問いのようで問いにはなっていなかったのだろう。只々彼女やその部下達
は戸惑い、彼らの“矛盾”に混乱していたからだ。少なくとも、自分達魂魄楼をこれまでな
かったほどに掻き乱す革命者。裏切り者のアララギに相対する英雄──。
「……」
 しかし、そんな彼女の揺らぐ眼差しに、対するアルスは只々静かに微笑んでいた。にも拘
らず、本当の感情は見え辛い。徒に打ち明けても、余計に混乱させてしまうだけ。オシヒト
や他の死神達の情報こそ聞き出しはしたが、今はゆっくりと話し込んでいる暇は無い。全て
はアララギ一派をどうにかし終わってからだ。状況はまだまだ好転してはいない。
(僕は)
 一体何者なのか? アルスは自らに問う。
 確かに今回、天上でゼクセムから最高レベルの権限を譲られ、エトナもマーテルと融合。
更なる“力”を手に入れはしたが……。
「ただの人間、ですよ」
 フッと微笑(わら)う。密かに苦笑する。
 それはきっと、目の前の人々を、大切な誰かを救って来れなかったことへの後悔だった。

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  1. 2020/04/14(火) 18:00:00|
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(長編)サハラ・セレクタブルⅣ〔53〕

「トリニ……ティ?」
 惨劇に落ちた病院の外、手負いのマリアを一気に畳み掛けようとしていた睦月らの下に現
れたのは、思いもよらぬ乱入者達だった。司令室(コンソール)の向こうの皆人らも、思わ
ず目を見開いている。
『……どういう事だ? 何故あの二人が──額賀二見が一緒にいる?』
 変じたのは赤・青・黄、三色の獅子を象った騎士甲冑。
 筧と二見、由香。ただこの三人が現れただけだったならば、まだ分からなくもなかった。
彼らは皆、何からの形で自分達対策チームと関わりを持ってきた者達なのだから。
 しかし……三人がまるで守護騎士(ヴァンガード)のように、パワードスーツ姿に身を包
んだとなれば話は別だ。少なくともその力は、考えうる限り最も厄介な出元であると思われ
るからだ。避けねばならなかった。
 急いで解析を! 萬波や香月、研究部門の面々は、次の瞬間弾かれるようにめいめいのデ
スクへと飛びついていた。皆人らを含め、脳裏に駆け巡ったこの仮説を確認する為である。
その間にも睦月や冴島、仁に黒斗、現場の状況は刻一刻となだれ込んでゆく。
「退いてろ。後は、俺達が始末する」
 赤の獅子騎士──筧はそう短く言い放つと、両腰に下がっていた一対のパーツを手早く組
み立てた。取っ手付きの円筒と、三方十文字に分かれた円筒。両者を真っ直ぐ一本に繋いで
取っ手を手前に捻った瞬間、先端から迫り出したエネルギー塊が大きな刃──剣へと変わっ
て固着する。
 睦月達が止める暇さえなかった。直後彼はダンッと地面を蹴り、一気にこちらの合間を縫
ってマリアへと肉薄。引き離すようにして幾つもの斬撃を叩き込む。
 そのパワードスーツの色彩と同じく、刀身や甲冑から漏れるのは炎。辺りの空気を熱が少
なからず歪ませ、ぼやけたように見せる。マリアもマリアで、この突然割って入ってきた敵
に対し、何とか反撃しようと試みる。
「ガッ……!? 調子ニ……乗ルナッ!」
「本間翼ヘノ回路(パス)ガ途絶エタカラトイッテ、能力自体ハ……!」
 何度目かの斬撃。それをマリアは敢えて肩ごと受けて捉えた。肉を切らせ、骨を断とうと
したが──逆に利用されてしまった。筧ことブレイズのエネルギーをその吸収能力で奪い取
ろうとした直後、寧ろ熱と共に奪い返されてしまう。
「悪いな。てめぇの能力はもう、把握済みだ!」
「グエッ?!」
 続けざまに叩き込まれた一閃。マリアは弱った身体と隙を突かれて盛大に吹き飛び、アス
ファルトの地面の上で仰向けになって悶絶する。睦月達も一瞬、何があったのか理解出来て
いなかった。
「筧さん!」
「吸い取り返した……? あの力は、一体……?」
 熱量掌握。それが筧の、赤の獅子騎士(トリニティ・ブレイズ)の能力だ。熱を生み、或
いは奪って操る。同じく吸収系の能力を持つマリアにも、その効力は例外ではない。
 何故筧刑事達が? 睦月らは混乱していたが、少なくとも目の前で起きた変身(じたい)
は解る。彼らも改造リアナイザに手を出したのだ。このまま好きにさせる訳にはいかない。
間合いの空いた彼へと、急ぎ駆け寄ろうとするが……。
「額賀!」
 だがそれを防いだのは、もう一人の獅子騎士、二見ことブラストだった。青い騎士甲冑の
ようなパワードスーツ姿に身を包んだ彼は、筧からのそんな合図に両腰のパーツを組み立て
て棒状に。筧のそれとは逆方向に取っ手を捻ると、中心からエネルギー塊のシャフトが伸び
た杖を握り締める。
「どっ……せいっ!」
 するとどうだろう。次の瞬間、彼がこの得物を振り回しながら柄先をガンッと地面に叩き
付けると、そこを中心として青い冷気のような余波が睦月達を襲ったのだ。
 思わず駆け寄ろうとした足を止め、手で庇を作って風圧に耐える四人。
 しかしこれと同時、面々の動きはその意思に反して“ゆっくり”になっていた。驚愕する
表情さえスローモーションになる睦月達を、EXリアナイザの中からパンドラが目撃して叫
んでいる。
『こ、これは……まさか!?』
「そのまさかさ」
 物質遅滞。それが二見の、青の獅子騎士(トリニティ・ブラスト)の能力だった。対象範
囲を“ゆっくり”にし、動きを封じる。冴島隊B班を襲った異変と全く同じ効果だった。或
いはその作用の一環で空気中の水分すらも凝結させて冷気に──氷へと変えて攻防に利用す
る事ができる。
 杖の両端から冷気を纏わせつつ、二見は筧に加勢して更にマリアを追い詰めた。今度は熱
ではなく氷でその手足を凍て付かせ、回避を抑え込む。その隙に筧が高熱を込めた拳を腹に
叩き込み、再び病院側の方へと吹き飛ばした。
「……では、仕上げです」
 更に残る三人目、七波由香も準備を整えていた。両腰のパーツをL字型に組み立てて銃身
に見立て、先端三又の左右から弦を展開。まるで弩(ボウガン)のようにこれを構え、ちょ
うど階上の踊り場窓からこの一部始終を見ていた國子や海沙、宙、及び本間颯に狙いを定め
たのである。
『──ッ!?』
 直後、躊躇いなくひかれた引き金。数発の電撃の球が射出されたのを見て、國子達は咄嗟
に颯を庇いつつ避けようとしたが……同じく“ゆっくり”の範囲内に巻き込まれた彼女達は
思うように動けない。結果、最初の一発は彼女らを隔てていた窓硝子を破り、残る二発は他
でもない颯を直接襲う。
「あ……れ? 別に……痛くも……何とも……??」
 されどダメージは無い。しかし、油断したその直後から「仕上げ」は始まっていた。全身
をバチバチと、帯電の光が覆ってこそいたが、颯自身には特に変化はなかった。本人や國子
達が戸惑っている中で、由香は更にもう一発。近くのベンチを目掛け、この帯電させる電撃
球を放ったのだった。
「がっ?!」
 するとどうだろう。次の瞬間、彼の身体は瞬く間にこのベンチに向かって吸い寄せられて
ゆくではないか。「本間さん!?」海沙や宙が止める間もなく、この召喚主の男性は自分達
の手元を離れ、病院外の現場へと引き摺りだされていった。ビタンッ!! まるで磁石のよ
うに引き寄せられ、強力にくっ付く。國子や司令室(コンソール)の皆人、この一部始終を
目の当たりにした仲間達がハッと気付いて言う。
『……そうか、磁力か! あの光球は、包んだ対象(もの)を磁石に変えるのか』
 磁力付与。それが由香の、黄の獅子騎士(トリニティ・ブリッツ)の能力だった。S極か
N極、どちらかの磁場を相手に与え、吸引と反発の力でもって攪乱する。
 筧さん、額賀さん! 由香は二人の仲間に呼び掛けていた。キッと気丈に、手筈通りに。
 彼女はボウガン型に組んだ得物を片手に、これの銃底から延びるスイッチを引いた。スラ
イドしてまた元に戻りつつ、ボウガン及び騎士甲冑のパワードスーツ姿に黄色いエネルギー
の奔流が迸る。「おうよ!」二人に吹き飛ばされたマリアも、同じくベンチの方へと転がさ
れていた。筧は指先でなぞり、赤く熱を帯びる刀身を。二見は杖全体に冷気を巡らせ、回転
させてから再び地面へ。彼らはそれぞれの必殺技を発動する。
「……ッ!?」
「ひぃっ──?!」
 連続の剣閃が描く炎の獅子はマリア本体を、足元を這って進む冷気の獅子はマリアと颯、
両者の身動きを封じて襲い掛かった。ボウガンから大きくチャージして放たれる電撃の獅子
は一方で、的確にその改造リアナイザだけを狙って抉り取る。
『ぎゃあああああああーッ!!』
 故に断末魔。直後この実体化寸前まで進んだアウターは、あと一歩の所で自身の召喚を潰
されて永久に消滅した。三人の大技、風圧の余波で颯も吹き飛び、白目を剥いて遂に意識を
手放してしまった。辺りに立ち上った煙や土埃が晴れるまで、掛けられた“ゆっくり”の効
果が解けるまで、睦月達は呆然とその場に立ち尽くすしかない。
『……凄い』
『ええ。だが間違いなく、あの力は……』
 司令室(コンソール)の皆人や萬波、香月らも、同じく硬直したままでこの一部始終を見
ていた。とはいえそこに込められていたのは、単なる驚愕だけとは限らない。
 じっと筧と二見、由香が、マリアの撃破を確認してからこちらを見遣ってきた。睦月と冴
島、仁が、思わず“ゆっくり”なままで身構えようとする。
『……』
 ただ彼らが狙っていたのは、あくまで四人目──黒斗ことユートピアだったのだ。
 数拍、妙な間があってからの、明らかに害意を向けてこちらに駆け出した三人。それぞれ
の得物を引っ下げて、この睦月達の側に立っている個体(アウター)を引き続いて攻撃しよ
うとする。
「えっ……?」
「ま、まさか。彼らは」
「おい! 止め……止めろォォォーッ!!」
 尚も“ゆっくり”の効果が続いている睦月達には、どうする事も出来なかった。意識の上
でそう叫ぼうとしても、動こうとしても、言葉は酷くスローモーションで鈍い。次の標的と
された当の黒斗も、静かに目を見開いたように見える。
「……っ!?」
 鈴付きの鉤型杖を両手で握り締めたまま、同じく思うように動けない黒斗。
 筧ら三体の獅子騎士は、残るこのもう一人のアウター・ユートピアを倒すべく、彼を目掛
けて襲い掛かり──。

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  1. 2020/03/24(火) 18:00:00|
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止します。

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