日暮創庵

-当庵は長岡壱月によるごった煮創作ページ(主に小説)です-

(長編)NIGHT GUNNERS〔5〕

 記憶に刻み付いて離れないのは、焼ける鉄と咽返るような血の臭い。
 あの日を境に僕は多くのものを失った。
 両親、環境、故郷……何よりも僕の眼に映る世界は大きく変わってしまった。
 もう戻れなかった。何も知らずにいられる無知な子供のままでは、いられなかった。
 両親が死んだ後の混乱。まだ心の整理も満足にできてない僕の下にやって来たのは、親戚
縁者を名乗る見知らぬ──実際、赤の他人も混ざっていたかもしれない──人間達だった。
 島では名の知れた資産家でもあった両親の遺した財産を目当てに、彼らは様々な名目で貪
り食っては横柄に去っていく。
 僕には何もできなかった。奴らと戦うには、幼過ぎた。
 最初は絶望に近い感覚だったと思う。だがそれを決定的に憎しみへと焚き付けたのは、両
親が死ななければならなかった理由が、単なる不幸ではなく、誰かの手で引き起こされたら
しいと分かった時だった。
 ──義さん(父の事だ)さえいなきゃ、俺達はお上に睨まれずに済んだんだよ……。
 多分それが切欠だったのだと思う。
 僕の眼に映る世界は、決定的に変わっていた。
 人は、不完全な存在。
 人は、裏切る存在。
 人は、何処までも、何処までも醜くなれる存在。
 世界は……悪意で満ちている。幼かった僕の意識はそんな反発で、憎しみで燃え滾るよう
になっていた。それは居場所を失い、清浜本土へ引っ越す事になった時も変わらなかった。
いや……むしろ拍車が掛かったのかもしれない。予想はついていたとはいえ、結局僕を引き
取ると申し出て来た面識のない“親戚”も、その本音は僕という人間を手元に置いておけば
遺産相続に有利になると考えていただけだったのだ。だから里親としての振る舞いなど、殆
ど僕の記憶にはない。はっきりと覚えているのは、搾れるだけ搾り取った後で僕を施設へと
半ば捨てるように入れたのだという事だけだ。
 申し訳なかった。
 父さんも母さんも悔しかったに違いないのに、僕はただ生き残っただけで、見知らぬ連中
にその形見になるものを根こそぎ奪われる日々。
 だから僕は……自分だけが生き残った事に対して、子供心ながらに大きな疑問を持つよう
になっていた。
『……そうか』
 だからこそ。
 あの日、ビルの上から鉄骨が落ちてきた時、その足場の一角に僕を冷たく見下ろす人影を
見つけた時、一人で納得していたのだろう。
『……やっぱり僕も、邪魔なのか』
 これでやっと、僕もこんな世界とおさらばできる……。
 だけどそうはいかなかった。気が付いた時には、僕は一人の少年によって突き飛ばされて
いた。すぐ足元に鉄骨が突き刺さっている。本当なら僕がその下敷きになっていた場所に。
 彼の名は黒田一聖。
 転校先のクラスにいた、何かと近づいて来る物好きな奴だった。
『…………どうして僕を助けた?』
『どうしても何もあるかっ! お前、もうちょっとで死ぬとこだったんだぞ!?』
 彼は怒っていた。僕には理解に苦しむ反応だった。
 放っておけばいいのに。何故わざわざ自分の命を投げ出すような真似をする……?
『……あのまま、死なせてくれればよかったんだ』
『──ッ!? てめぇっ!』
 そして彼に胸倉を掴まれても、僕は実感が湧かなかった。
 ただ脳裏を駆け巡っていたのは、その瞬間まで間違いないと信じていた想い。
『…………僕は、いない方がいいんだ』
 だけど次の瞬間、僕は頬に痛みを感じていた。
 それが、彼が僕の頬を引っ叩いたのだと気付くのにそんなに時間は掛からなかった。
『ふざけるなっ!』
 どうして? 彼は怒っているように見えた。
『この世の中に、いなくていい人間なんかがいて堪るかよっ!!』
 だがそれは自分が迷惑を被ったからではないようだった。もっと別の……僕を叱るような
それ。どうして? どうして、君は僕にそこまで熱くなる……?
 僕には、もう搾られるような財産も何も残っていないのに。
 だけど彼は叫んでいた。涙を流して叫んでいた。
 言葉だけが、細切れの情報だけとなって僕の頭の中を反響する。でもそれは僕を貶める為
のものではなくて。
『ここに、いる! ここにだって、お前が死んだら泣いちまう奴がいるんだよっ!!』
 僕を……必要としてくれるという人間の言葉だった。
(……僕が死んだら、泣く?)
 それは長らく忘れていた事だったのかもしれない。
 もう僕を必要とする人間など、僕が必要とする人間など、いないものだとばかり思ってい
たのだから。
(……似ている)
 同じだった。彼は、院長先生に似ていた。
 顔形というのではなくて、その妙に赤の他人である僕にお節介な所が。
 彼女は他の施設の子供達と共に僕を“息子”と呼び、彼は僕を一方的な友と呼ぶ。 
『君は、お人よし過ぎる。何も……知らなさ過ぎる』
 正直そう思った。僕の何が分かるっていうんだ。
 だけど、何故だろう。もしかしたら──いやきっと、僕の錯覚なのかもしれない。
 あの時、彼の背後に父さんと母さんと、院長先生が微笑んで頷きながら、そっと佇んでい
るように見えたんだ……。
『でも……そういう馬鹿は、嫌いじゃない』
 僕は思わず少しだけ笑っていた。そんな自分に内心驚いていた。
 生き残っていて、いいというのか……?
 利用され搾取される以外に、僕に価値があるとでもいうのか……?
 不思議な感覚だった。そして……それはある種の安堵だったのかもしれない。
 尤も、それらを全身で受け止められるようになるには、もっと長い年月が必要となる事に
なるのだが。
 生きていてもいいという承認。存在を許されるということ。
 だけど、僕は誰かに与えられるだけではいけないとも思った。
 そしてそれがきっと、今の僕を生かしてきた力だったのかもしれない。
 僕がここにいる理由を、その意味を。自分の力と納得を以って。探し続けて。
 そして今日も、僕はこの決して美しいとは言い切れない世界を生きている──。

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  1. 2011/04/28(木) 20:30:00|
  2. NIGHT GUNNERS
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(長編)NIGHT GUNNERS〔4〕

(……こいつは、また酷いな)
 その日、師崎ら清嶺署の刑事達はその現場に赴いていた。
 惨劇の舞台となったのは、街の中心部から少し外れた住宅地の中にある橋の下だった。
 不快感と共に鼻を突く血の臭いが漂う。師崎らが到着した時には既に先遣の人員によって
処理が進められていた最中だったが、この平穏とは正反対の臭いは暫くは辺りに遺り続ける
かもしれない。そう漠然と思った。
 駆けつけた面々は現場に入り、先遣の人員らからの報告を受けながら、とりわけ背の高い
ブルーシートに四方を囲まれたスペースにいた。
 中には布に包まれた物体が集められていた。その数、ざっと十数。
 外の生活音が僅かに聞こえてくる他は、妙に不気味な沈黙が中を支配していた。
「……検めるぞ?」
 面々を見渡し頷いてくるのを確認してから。
 中年刑事の一人がそれらの前の屈み、そっとその布を捲ってみる。
 そして視界に飛び込んで来たのは──血まみれの男性の顔。
 鈍器や刃物。複数の凶器が使われたようだ。何度も殴打され、切り裂かれたその顔や身体
は酷く傷つけられ、損傷し、元の姿が判別し難いほどに痛めつけられていた。
「……全く。むごい事をしやがる……」
 静かに眉間に皺を寄せ、目を細め、先の刑事が呟く。
 それは惨殺死体と言う他なかった。
 その惨状はある意味で慣れている刑事(プロ)でも酷いものであるらしく、中には込み上
げて吐き気で思わず顔を背けた者もいた。
「……」
 師崎も、静かにそんな強烈な不快感に耐える。
 最初の一人の顔に再び布を掛け直して。
 面々は同じように、他の布に包まれた遺体を一人一人言葉少なげに検めていった。
 どの被害者も、執拗に殴られ、切り裂かれた無残で鮮烈な姿を晒してくる。最中、先遣の
人員らが随時現状での報告を加えてくれたが、正直言ってあまり頭に入って来ない。
 十数人分にも及ぶ惨殺死体を検め終わった頃には、面々は流石に顔色が悪くなっていた。
「……こいつは、予想以上の酷さだな」
「あぁ……。むごいもんだよ」
 一挙にどっと疲れたように、ブルーシートの囲いから面々が出てくる。
 皆一様に、決して気楽な表情はしていなかった。被害の酷さとこれからの捜査の大変さを
思い、少なからず気分が重くならざるを得ない。師崎も、そんな先輩刑事達の後ろを追うよ
うにして、ザリザリッと重苦しい表情を隠せないまま、土砂利の混じったコンクリートの地
面の上を歩いた。
「……」
 住宅地の中にある少し大きめの橋の下。
 僅かに残った土色の地面が護岸工事で固められたコンクリートの灰色に圧倒されている。
 視界には、方々の地面や傾斜した壁に掛けられたブルーシートが見える。先程のホトケ達
が元々倒れていた位置である。囲いの中に入る途中で捲ってみたが、まるで大量のペンキを
ぶちまけたかのような血飛沫の痕が生々しく残っていた。それだけでも、今回の被害の残忍
さが推し量れる。
 傾斜した壁の上は路地になっていた。ガードレールや錆掛けたフェンスが見える。
 見てみると、その隙間からちらほらと人が集まって来ているのが確認できた。
「おい。野次馬が集まって来てんぞ」
「まぁ住宅地のど真ん中だからな……。仕方ないっちゃ仕方ないが」
「おーい! もっとちゃんと非常線張っとけ~! くれぐれも部外者は入れるなよ!」
 それに気付いた刑事数人が、作業していた人員達に指示を飛ばしていた。
 既に幾本か張られていた非常線の黄色のテープ。それらを更に延長しながら作業員達があ
せあせと動き出していく。そうしていると、背後から遺体を担架に乗せて運んでいく者達と
擦れ違った。運び去られていく様子を見送る。今後、今回の遺体達は解剖されるのだろう。
 これだけズタボロにされた上でまだ傷つけないといけないのか……。
 師崎は、ふっとそんな思考が過ぎった頭を静かにふるふると横に振っていた。
(……ん?)
 ちょうど、そんな時だった。
 ふと視線を上げた先、集まり始めた野次馬の中に師崎は見知った顔を見つけたのだ。
 ラフな普段着でしかも帽子を目深に被っていたが、間違いない。
(なんで、こんな所に……!?)
 内心慌てながら辺りを見渡す。
 だが幸い、他の刑事達は彼の訪れには気付いていないようだった。それを確認してから、
師崎はそっと現場を抜け出す。
「──ハヤさん」
 早歩きで上の道路に出る。
 野次馬の群れから少し離れた位置にいた男性。師崎は辺りに気を配りながら、そっとそう
彼を呼んで声を掛けた。
「……おう。モロか」
 途中で気付いていたのか、その男性・雪村隼人は声を掛けられた事にさして驚きを見せは
しなかった。くいと指先で帽子の縁を持ち上げながら、そう呟くようにして振り返る。
「なんだ、じゃないですよ。こんな所に出てきちゃマズイでしょう? ……ハヤさんは今、
謹慎中なんですよ」
「何、心配は要らん。ただ散歩していただけだ。偶然、近くを通り掛かっただけだよ」
「……」
 ひそひそと、師崎は控えめながらもこの現在処分中のベテラン刑事をたしなめていた。
 だが当の本人は、あくまで真面目くさった顔でそう答えてみせる。普段、色々と教えを説
かれている立場という事もあり、師崎はそれ以上強くは諫める事もできず、ただ苦々しく唇
を噛んで押し黙るしかなかった。
「……それで? 現状はどうなってる?」
 ふっと、隼人が真剣な声色になって口を開いていた。
 視線はいつの間にかじっと眼下の現場へと向いている。ベテランの、刑事の横顔。
 その言葉に、師崎は一瞬躊躇ったが、
「……殺しです。人数は十六人。全員これでもかって程に全身血みどろに殺られてます。酷
いもんです。惨殺ですよ。第一発見者が通報してきたのは今朝なので、大まかな犯行時刻は
昨日の夜中から未明の間になるでしょうか」
 できるだけ淡々と、事前と現場での報告・検分で得た情報を話して聞かせた。
「ふむ……。にしても十六人か……。それは多いな」
「えぇ。どうやら被害者全員が、あの橋の下で暮らしていたホームレス達みたいなんです。
ただ遺体の損傷が激しいので、個別の身元確認はもう暫く掛かるでしょうけど」
「……ホームレス」
 そして追加で伝えたその情報に、隼人は静かに食いついていた。
 口元に手を当てて、鋭い目付きでじっと何かを考え込み始める。師崎は彼の横に立ち、そ
の様子に言葉少なげに目を遣った。
 暫くして、隼人はちらりと師崎を見ながら訊ねてくる。
「……お前は、この件をどう思う?」
「そうですね……。まだはっきりした情報が少ないので何とも言えませんが、何より人数が
多過ぎますし個人的な怨恨とは考え難いでしょうね。もっと曖昧な……ホームレスのような
弱者をいたぶる事などを目的にした快楽殺人、なのかもしれません」
「ふむ……」
 隼人は短く呟き、暫し黙っていた。眼下の現場では時折指示が飛ぶ声が聞こえる。
 もしかして。そろそろ戻らないとマズイだろうか……?
「……まぁ今後の捜査次第でしょうけど。ハヤさんが抜けてる分、俺、頑張りますから」
 そうしていると、師崎はふとそんな事を思い立ち、
「ですから……。無茶な事はせず、早く戻って来て下さい」
 去り際に隼人の事を気遣う言葉を掛けながら、そっとその場を立ち去ろうとする。
「…………モロ」
 だが、隼人は暫しの間を置いてから静かに彼を呼び止めていた。
 踵を返しかけた師崎が、ゆっくりと怪訝に振り返る。その視線をじっと捉えたまま、隼人
は再び重く間を置いてから口を開いた。
「……お前は、例の事件をどう思ってる? 俺が、上と揉めた奴だ」
 師崎は思わず顔をしかめていた。
 例の事件。それは隼人が謹慎処分を喰らった原因──不明だらけの、謎の連続衰弱事件の
ことに他ならなかった。
 何を、言っているんだろう。此処の事件とそれは別じゃ……。
 師崎は更に怪訝の色を濃くしたが、それでも訥々と答えていた。
「……。正直、俺もわけが分からないですよ。被害者が衰弱してたのは間違いないですけれ
ど、街中でいきなりそうなる理屈も、犯人像も。上だってそうなんじゃないんですか?」
 詳細不明の厄介な事件。署内での印象は概ねそれで一致していた。
 捜査はすれども成果はなく、被害者ばかりが増えるばかり。今はまだ事件自体公表してい
ない──といっても既に黒田のような連中は嗅ぎ付けているようだが──が、表沙汰になれ
ば警察が批判の矢面に立つ事はほぼ間違いないだろう。
 だからこそ、上層部はそんな事件に入れ込んでいたハヤさんを厄介者扱いしたのだ……。
「……」
 しかし隼人は黙っていた。
 いや、黙っているというよりは、師崎の反応に何処か安堵している節すらあった。
 だがその僅かに見せた表情も一瞬、彼は再び真剣な刑事の顔になる。
「……どうも臭うんだよな。例の衰弱事件も、この殺しも」
 その視線は少し遠く、清浜の中心部へと向けられていた。
 開発によって建ち並ぶビル群。そこから響いてくる雑多な営みの音。それらを耳に、全身
に感じるように大きく息を吸い込むと、隼人はふぅと深いため息をついた。
「……俺には、この街に何かが起きてるような気がしてならねぇんだ。とんでもなくやばい
何かが、よ……」
「……それは、ハヤさんの勘って奴ですか」
「あぁ……。そうだな」
 言って、隼人はにやりと苦笑の中に無理矢理に笑みを作ってみせる。
 だが師崎は内心でやはりと思いつつも、何処かで辟易する気持ちが拭えなかった。
 確かにハヤさんは腕のいい刑事(デカ)だ。だけど……そんなアナクロな「勘」ばかりに
頼っていちゃあ、もうこの変化し過ぎた清浜(まち)は守れないんですよ……。
 暫し二人は、横目で互いを見遣っていた。
 昔気質を体現するようなベテランと、その腕を敬愛しながらも自分には合わないと感じて
止まない若き次代。だが、
「……。お前は、俺によく似てるんだ」
 隼人はそっと路地の奥の方へと踵を返すと、そう師崎に呟いた。
 静かに眉根を上げる師崎。隼人はフッと口元に微かな笑いを浮かべながら帽子を再び深く
被り直す。去り際に彼は、そんな目を掛けた後輩を見遣りながら言った。
「お前はもっと自分の感覚を信じていい。……お前が目指しているものは、間違っちゃいな
いんだから」
 そう呟いて、隼人はその場から立ち去っていった。背を向けたまま軽く手を上げた後、路
地の角を曲がって消えていく。
「……」
 師崎は暫くその場に立ち尽くす格好となった。
 隼人に言われた言葉が、妙に頭の中で何度も反響を繰り返しているように感じた。
 その副音声のように、周りの野次馬や下の現場からの声や物音が響いてくる。
『……俺には、この街に何かが起きてるような気がしてならねぇんだ』
 隼人の言った言葉。いやそれはある種、彼なりの予感とでもいうべきものか。
 だがそれは不安のようなものなのではないのかと師崎は思う。
 得体の知れない、自分達の常識が通用しない時、人はそれを、ひいては世界を奇怪なもの
として捉えてしまう。刑事の勘と大層な事を言っても、所詮はいち人間の主観でしかない。
 主観でしか、ない筈なのに……。
(…………この街に起きてる、何か……)
 しかし師崎は、それでも何処かで引っ掛かりを覚える自分を払拭し切れないでいた。
 ハヤさんの勘とやらに影響されたのか。そんな言葉を鵜呑みにしたって……何になる?
 苦々しく空を仰いで、大きく深い息を吐く。
(……全く。今日はどうにも嫌な日だぜ……)
 振り返り、眼下の惨劇のあった現場を見下ろしながら。
 師崎は漠然と、説明のできないもどかしさを一人密かに持て余していたのだった。

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  1. 2011/04/28(木) 20:30:00|
  2. NIGHT GUNNERS
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(長編)NIGHT GUNNERS〔3〕

「──以上が、今回の報告内容となります」
 会議室の中は薄暗かった。
 窓の類は一切無く、唯一の出入り口であるドアも今は厳重に閉め切られている。
 室内の照明は上座のバッグに映るスクリーンの光と、円卓、そして各人の目の前で展開さ
れているホログラム映像の光だけだ。
 数にして出席者は十人程度だろう。或る者は一人立ち、此度の定期報告をする痩身の眼鏡
の男を見つめ、或る者は手元に映し出される、背後のスクリーンと同内容のデータを映した
ホログラムに目を遣り、また或る者は報告もそこそこに別の作業に没頭している。
「……ご苦労」
 長めの沈黙の後、上座に座る男が言った。
 テーブルの上で肘をついて両手を組み、手元のホログラムの光を反射させた眼鏡越しに、
その瞳を窺わせない視線をちらりと向ける。
「……ところで」
「はい」
「この被害ドールの件数と、破壊されたカードの枚数が違っているのはどうなっている?」
「……あら、本当。五枚少ないわねぇ」
 妖艶な女性の声がその質問に追随した。
 他にも数名、ちらと視線が痩身の男性へと飛ぶ。
「その件に関しては目下捜索中です。ただ、状況からして例の者達に持ち去られた可能性が
高いでしょう」
 その返答に、室内が静かに張り詰めた。
 だがそれは戸惑いではない。「またか」という呆れに近い反応であった。
「ナイトガンナー……ですか。厄介ですねぇ」
「え~、またぁ? ドールちゃん達、やられ過ぎじゃな~い?」
「……ったく、面倒臭ぇな。どいつもこいつもよぉ。そんなの、さっさと捜して殺っちまえ
ばいいだろうが」
 面々から声が上がった。
 室内がざわつく。痩身の男と上座の男は、じっと眼鏡に照明の光を弾いて黙している。
「……ま、所詮は微々たる反抗さ。僕達の計画に大きな支障は来たさないと思うけど?」
 そんな中で、席に着く一人の男性が携帯電話を片手に弄りながら言い放った。
 いや、男性ではない。見た目は少年といって差し支えないだろう。そもそもこの場にいる
メンバー自体にも、年齢的な統一感が欠けていた。壮年から妙齢、青年、少年少女まで様々
な層のメンバーが円卓を囲んで座している。
 そんな少年の言葉に、痩身の男が言い返した。
「……そう事を侮るのは君の悪い癖だ。どんな些末な事象でも、それらは時に大きな変化に
化けうるものだ。我々の計画の邪魔をするものならば……それは極力排除すべき筈だぞ」
「はいはい。だったらさっさと始末すればいいじゃない。何たって君は“よく見える”眼を
持っているんだからさ?」
「……。見える事と実効性とは別問題だ」
 両者が円卓を挟んでじっと睨み合った。
 生真面目な顔と、飄々と不敵な顔。だが周囲は誰も止めようとはしない。まるでこれ位の
事など日常茶飯事であるかの如く、それぞれの反応の下で傍観を決め込んでいる。
「……二人とも、その辺りにしておけ」
 代わりにたっぷりと沈黙を保った後、上座の男が重々しい威圧感と共に口を開いた。
「ナイトガンナーと名乗る者共については私も憂慮している。たとえどんな虫けらでも反抗
してくるのは鬱陶しい」
 少年が、痩身の男が静かに頷いた。
 だがその様子には目もくれずに、上座の男は少し間を置いて、
「……念の為、向ける戦力を強化するとしよう。あまり手の内を出すのは計画に障るが仕方
あるまい。二倍だ……。それで遅れている分も取り戻せ」
「はっ……」
「は~い」
 痩身の男は恭しく頭を下げていた。対照的に少年の返事は気安い。
 注意するなど者はいなかった。だが、張り詰めた空気は自然と立ち消えていた。
 それだけ、上座の男の発言は彼らにとって絶対的なものであったのである。
『…………』
 それから暫く、辺りに静かな沈黙が降りた。
 各々が手元のホログラムに立体的に映し出された膨大なデータ図表を確認するかのように
目を通している。上座の男も、手を組んだ格好のまま、まるで微動だにせず座っている。
「……あ。ねぇねぇ、チーフ」
 そして、そんな沈黙を破ったのは先の少年の声だった。
 事務椅子をくるっと回転させ、じっと佇むチーフ──上座の男に向き直る。互いに敬語と
いうものはあまり意識していないらしい。男は僅かに顔を動かして彼を見遣ると言った。
「……何かね?」
「うん。ちょっとね、今ナイスなアイデアを思いついたんだけど」
 片方の手、携帯電話を手にした腕で肩肘をついたまま、少年は再び不敵に笑っていた。
 世の中が面白くて仕方がない。そして同時に外見に似合わぬサディステックさを強く纏う
かの如く。
「……。聞かせて貰おうか」
 だが上座の男は、そんな雰囲気にも顔色一つ変えずにそう一言促す。
 興味、怪訝、静観に若干の敵意。
 同じく円卓を囲む他の面々も、それぞれに静かに反応を漏らしながらその返答を待つ。
「お祭りさ」
 そんな彼らをぐるりと見渡してから、少年は言った。
「一石二鳥……いや、三鳥のお祭りだよ」
 恐ろしいまでに不気味な、笑顔と共に。

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  1. 2011/04/28(木) 20:30:00|
  2. NIGHT GUNNERS
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(長編)NIGHT GUNNERS〔2〕

 闇の静寂。それはその夜も、変わらずにこの街に広がっていた。
 突如としてやって来た発展の報せ。それにこの地の人々は当初戸惑い、仲違いもしたが結
局は当時の権力の声明を表向きの鶴の一声にして収束をし、もたらされる恩恵を享受する道
を選んだ。
 今宵も街は、かつてもたらされた発展の余韻を引きずりながらまどろむだろう。
「……くっ、ぐ、うっ……」
 そんな喧騒の裏側で、一人の男性は危機を迎えていた。
 年格好はおそらく中年の域であろう。あまり手入れに熱心とは言えないばさついた髪と着
古したコートを靡かせ、人気の無い暗い裏路地をのろのろとしたペースで歩いていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ」
 否、のろのろという表現は適切ではなかった。彼は必死だったのである。
 薄闇の中、彼の顔には隠し切れない苦痛の色が浮かび、進める足はあたかも引きずるかの
ようだった。季節は冬だというのに、その額や頬には粘ついた脂汗が静かに滴っている。
 それでも彼は気力を振り絞るようにして、一向に歩を止めようとはしなかった。
 壁際に半身を預け一歩一歩と進むその途中、何度も後ろを振り返り、数秒耳を澄ますとい
う行動を繰り返している。
 ローテンポで微かに鳴る彼の靴音。時折僅かに差し込む月明かりに照らされるその人影。
 そこからも彼がただ、迷い込んだ酔い人の類ではない事を物語っていた。
(…………。撒いた、か?)
 暫くの間その重たい歩を進めていた後、彼はやがて少し広い空き地らしきスペースに辿り
着いた。荒くつく息が白く夜闇に消えていく。彼は再びじっと耳を澄ませ、自身に迫ってき
ている危機との距離を測った。
 そして、少しぼんやりしてきた頭でそれが遠のいているらしいと判断すると、彼は鉛のよ
うに重たくなっていた身体を引きずり、灰色の壁の一角に背を預けてゆっくりとその場に座
り込んだ。
「……ふぅ、はぁ、はぁ……」
 整えようとする呼吸。
 だが、それは叶いそうにはないようだった。
 頭から鮮明さが奪われ、鈍っていく。
 身体が内から悲鳴を上げ、重く動けなくなっていく。
「……まずい、な」
 迫る危機は何も向こうからやって来るばかりではないらしかった。
 彼はぼそりと呟くと、大きく深呼吸。それでも何とか乱れた意識と身体を落ち着かせよう
と試みた。
(……僕とした事が油断した。もう、始めから……バレていたなんて)
 肩で息をしながら、そっと片手を脇腹に添える。
 べとつく感触。生温い自身の生命の流れの証。
 路地裏の薄闇の中でも、それははっきりと確認できた。
 コートの下の服を真っ赤に染める……深い出血。
(……生かすつもりは、やはり無いらしいな)
 血で汚れた掌をぼうっと眺めながら、彼は思う。
 そうだ。奴らは決して裏切り者を赦さない。己が目的の為ならどんな事でもやってのける
連中なのだ。たとえ、それが人の道に反する事であろうとも。
 そして、ある意味奴らのその本性を知ったからこそ、自分は今ここにいるとも言える。
 彼はおもむろに夜空を見上げた。
 今夜の冬空は重く鈍い雲が掛かっている。自分の座り込むビルとビル、街を流れていく冬
の冷たさを帯びた風が傍らを通り過ぎて行く。そんな静かな時間の流れと共に、時折、ゆっ
くりと流れる雲の切れ目から月が顔を出してくる。
 そんな様をぼうっと見ていると、何だか可笑しくなってきた。
「……末期、か」
 極限に至ると人間は理性がおかしくなるのだろうか。
 彼はこんな時ですら、慎ましく顔を出しては引っ込める、そんな月の様に趣を感じていた
のだった。こんな時ですら、彼はこの街を愛していた。忘れられなかった。
 自分も……こんな事はせずこそこそとやっていれば案外無事に済んでいたかもしれない。
 だが、その考えを彼はすぐに振り払った。
(……諦めちゃ、駄目だ。まだ……『鍵』の内、二つはここにあるんだ)
 ちらと視線を足元に向ける。
 そこには二つのアタッシュケースが置かれている。
 それは何とかここまで守り抜いてきたもの。
 何よりも、手塩にかけて生み出した“我が子”なのだ──。
(……せめて、この子達だけでも守らなければ……)
 そう心に刻みつけ、彼は立ち上がろうとする。
 だが、できなかった。
 身体が鉛どころではない。鋼鉄のように重い。負った怪我が予想以上に自分の体力を奪っ
ているらしい。加えて頭もぼんやりしてきた。出血や疲労の所為だろうか。
「…………ここまで、なのか?」
 霞んできた景色に眼を細めながら、彼は静かに嘆きに似た小声を漏らしていた。
 無念、後悔、悲しみ。様々な感情だけが重く沈んでくる身体の中でのたうち回っているか
のようだ。冷静な思考力が掻き消えていきそうだった。だが、ここで手放してしまったら、
ここまでの道程が全て無駄に終わってしまう……。
 そんな心の綱引きが続いていた、そんな時だった。
(……!? 誰か、来る……)
 遠く、側方の路地の方から足音らしき物音が彼の耳に届いた。
 ぼんやりとした意識の中で、何とか把握しようとする。数はそんなに多くない。多くても
数人だろうか。奴らが追いついて来たのかもしれない。
 だが……もう、自分には奴らから逃れられるだけの余力は、残っていそうにない。
(ここまで、か……)
 彼の心は最早折れる寸前だった。
 一層近づいてくる足音。程無くして自分は遂に捉えられてしまうのだろう。
 折れかける心とリンクして遠のいていく意識と共に、彼はゆっくりと瞳を閉じた──。

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  1. 2011/04/28(木) 20:30:00|
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(長編)NIGHT GUNNERS〔1〕

『特集・夜に蠢く怪人達と救世主!?』
 都市伝説。それは誰しも耳にした事のある言葉だろう。
 巷で実しやかに囁かれる噂話。科学万能の時代と言われる今日にあって、それらは今尚消
え去る気配は無く、時往々にして好奇を求める人々に一服の刺激を与える。
 それは常に邁進する時代が故に常に、何かの刺激を求める我々の飽く無き欲望の産物か、
それとも本当に未だ我々の知らない世界を垣間見せるおぼろげな報せであるのか……。
 そんな時折々に姿形を変え、題材に事欠かない数多の都市伝説の中でも、今回、私は特に
本誌『清浜ジャーナル』の膝元、清嶺ヶ浜(せいれいがはま)で昨今囁かれているとある都
市伝説に注目する事にした。
 読者諸氏の中には既にご存知かもしれない。
 概要は、次の通りである。

 この清嶺ヶ浜には異形の「怪人」達が跋扈しているという。
 その性質は残忍にして獰猛。
 奴らは夜闇に紛れて蠢き、静かに獲物を狙う。
 その獲物とは、人間だ。奴らは闇に紛れて隙を見せた人間に狙いを定め、人気の薄い場所
に迷い込んだ所へ一気に襲い掛かるのだ。
 一度奴らから狙われれば逃げられない。ただ突如現れた異形に飛びつかれ、生気を吸い取
られてしまうのである。
 そんな“食事”で、たとえその人間が息絶えようが奴からは一向に構う事はない。
 彼らにとって、人間とは単に自分達の空腹を満たす為の餌でしかないのだから……。

 各方面で微妙な違いは散見されるが、大まかな特徴はこんなものである。
 『人間の生気を喰らう異形の怪人』──これがこの都市伝説に出てくる怪異である。
 では、一体その正体はどういうものだろう?
 一説には、清嶺ヶ浜の開発事業で誘致された研究機関が作り出した人工生命体による犯行
であり、あまりに凶暴な為に創り出した機関自体が廃棄し、野生化した為だと言われている
がこれもあくまで一つの噂に過ぎないと言わざるを得ないだろう。
 今回の取材では、確かにこの都市伝説が清嶺ヶ浜の各地で聞き及ぶ事ができた。しかしな
がらこうした巷説は散見されたものの、都市伝説を確たるものとする情報を中々得る事がで
きなかった。
 やはり、所詮は噂話か──。
 少なからずいるであろう、こうした都市伝説に懐疑的な人々の声と、私の落胆が重なって
しまおうとした、そんな時だった。
 現実と都市伝説がリンクする瞬間。
 周辺の情報を当たっていた私の下に飛び込んできたのは、まさしくそう表現するに相応し
い大きなインパクトだった。
 読者諸氏はご存知では無いかもしれない。
 当然だろう。何故なら、この情報は本誌刊行○月△△日現在、公に発表さえされていない
事件なのだ。
 ──謎の連続衰弱事件。
 ここでは便宜的にそう命名することにしよう。
 これもまた、この清嶺ヶ浜一帯で起きている奇怪な“事実”である。

 事件の概要はこうだ。
 現場は、決まって人気の無い場所だ。ビルの狭間の路地裏などで被害者が倒れているのが
発見される。しかもその彼らが皆、発見時一様に酷く衰弱した状態に陥っているのである。
 念の為に付け加えておくが、彼らは食うに困って行き倒れた訳ではなかった。皆、普段は
ごく平凡な生活を送っている一般市民であったのである。
 何故このような場所に? 何故脈絡も無く衰弱していたのか?
 共にその原因は未だに解明されていない。
 そして何よりも、私が注目したのは、被害者の彼らが一様に『化け物に襲われた』という
旨の証言をしている事にある。
 さぁ、繋がりはしないだろうか?
 人気のない場所で、化け物に襲われ、衰弱する……これはまさに今回調査している件の都
市伝説そのものではないだろうか。
 今回の取材で確認できただけでも、この謎の衰弱事件は二十件以上(しかも中には不幸に
も発見前後に亡くなられた方もいた……)。これらがまだ氷山の一角であるとすれば、数の
多さという点でも件の都市伝説との共通性は更に増すだろう。これこそ、この都市伝説の元
となった事象ではないだろうか?
 しかしそれでも、この事実に懐疑的な読者諸氏がいるかもしれない。
 そこで、今回私は幸か不幸か、実際にこの衰弱事件の被害に遭われた一人から話を聞く事
ができた。その時のやり取りを紹介する事にしよう。
(写真中央・Aさん(仮名)。プライバシーの保護のため、顔は伏せてある。尚、Aさんは
現在回復し、退院を果たしている。僭越ながらここで今回の取材協力への謝意と快気祝いの
言葉を述べたいと思う)

 Q.それでは事件当時の事を詳しく教えて頂けますか?
 Aさん:
『はい……。ちょうどあれは終電間近の事でした。あの日は同僚と飲んだ帰り道でして、普
段は普通に電車で帰っているのですが、終電に間に合わせようと近道しようとしたんです。
これでも辺りの地理には詳しいつもりでいましたから……。それで路地裏を通っていた時の
事でした。突然、誰かに背後から羽交い絞めにされたんです』
 Q.背後から襲われたわけですね。
 Aさん:
『ええ。吃驚しましたよ。同時にしまったなとも思いました。場所も場所だし、時間も時間
だし、最初は物取りの類に引っ掛かったんじゃないかと思ったんです。(この直後、思い出
したように震えながら)だけど、だけど違ったんです。あれは……人間じゃなかった』
 Q.人間、ではない? それはどうして分かったんですか?
 Aさん:
『ええと……ですね。確かに薄暗いし背後を取られていたので直接は見ていないんですが、
それでも、あの締め上げてきた腕力は尋常じゃなかったんです。首に巻きついてくる腕も、
もうそれは丸太並に太くって硬くって……。そうそう、それに妙にもさもさしていたんです
よね。体毛っていうのかな。まるで獣みたいに。でも、二本足で立って人間を締め上げる猛
獣なんて普通はいませんでしょう? それでふっと思い出したんですよ。例の……』
 Q.怪人の都市伝説、ですか。
 Aさん:
『ええ。会社の若いのが話しているのを小耳に挟んでいた程度なんですがね。でも、実際に
目の前……あ、いや後ろか。その正体を説明できるとしたら、本当、そんな御伽噺みたいな
事でもないとできませんし。ただ……結局顔も見れませんでしたからね。実は凄いマッチョ
な人間が犯人、だったのかもしれませんけど』
 Q.流石に人相までは覚えていないですか……。
 Aさん:
『ええ……すみません。何分薄暗かったですし、私自身羽交い絞めにされてろくに動けませ
んでしたから。それに、ぐるぐる思考が巡っている内に急に意識が遠くなっちゃって……。
気が付いたら警察やら救急車やらが来ていた所で、犯人も姿が無かったですし』
 Q.ちょ、ちょっと待って下さい。意識が、遠くなった? それはどういう……?
 Aさん:
『さぁ、私にも詳しい事はよく分かりません。気付いたら慌しく搬送されてここに運ばれた
ものですから……。直前で覚えている事といったら、脇腹の辺りに何かが当たったような感
触、ぐらいですね。何か硬いものです。スタンガン、だとしても痺れたような感覚は記憶に
無いですし……。う~ん……やっぱりよく分からないですね。記憶がもう曖昧になっている
みたいで……すみません』
 Q.いえいえ。どうも、貴重なお話をありがとうございます。
 Aさん:
『いいえこちらこそ。こんな話でも、他に被害に遭う方を減らせるというのであればお安い
ご用ですよ』

 Aさんからの取材を終えて、私は確信を深めた。この都市伝説の原型が確かにあると。
 そして……同時に静かな戦慄も覚えたのだ。
 仮にこの一連の衰弱事件=件の都市伝説だとしても、結局その犯人──怪人達は、今も尚
この街の何処かに潜んでいるのだから。それも少なくとも二十件、いやそれ以上の頻度で、
場合によっては人一人の生命まで失われている事態がこの街を静かに脅かしている。
 今回の取材の始まりに際して私自身、好奇心があった事は否めない。
 だが、ここに来てようやく私は事態が相当に危機的状況である事を悟った。
 本誌にこの記事を載せようと意欲を燃やしたのも、その為である。こんな事態にあるにも
拘わらず、未だ公にされないのならば、本誌からでも読者諸氏を通じて人々に注意を促す事
ができれば……そう思ったからだ。
 しかし……。我々は本当にそれだけしかできないのだろうか。
 ただ、突如現れた脅威に振るえ、ただ逃げ惑う事しかできないのだろうか。 
 ──否、そうではない。
 私はただ読者諸氏を不安にさせるだけでは終わらせたくない。
 今回の取材で得たもの。それはこれまで述べた都市伝説の真実だけではなかった。
 それは新たな都市伝説。現に起こっているこの脅威に立ち向かう者の存在を知りえた事で
あった。一縷の希望であった。
 その者は夜の街を駆け、人々を襲う異形と戦う正義の使者。
 片手には変幻自在の聖なる力を。
 もう片手には悪を撃ち抜く聖なる銃器を。
 そう、その者こそ、人呼んで『ナイトガンナー(夜の銃士)』である──。

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  1. 2011/04/28(木) 20:30:00|
  2. NIGHT GUNNERS
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自己紹介

長岡壱月

Author:長岡壱月
(ながおか いつき)

創作もとい妄想を嗜む物書きもどき。書いたり描いたり考えたりφ(・_・)
しかしながら心身共々力量不足な感は否めず。人生是日々アップデート。
今日も雑多な思考の海に漂いながらも何とか生きてます。
【小説/思索/落書き/ツクール/漫画アニメ/特撮/幻想系/小説家になろう/pixiv】
(※上記はPN。物書き以外では概ね、HN「長月」を使用しています)

【注】当庵内の文章や画像等の無断転載・再加工ないし配布を禁止
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